点字ジャーナル 2026年11月号

2026.10.26

目次

  • 巻頭コラム:AIで外国語を学ぶ
  • (インタビュー)韓国では視覚障害者もタッチパネルを使用できる!
      ――日視連・三宅隆常務理事に聞く――
  • (特別寄稿) ヒマラヤン・ツナミと「動けない救援」
  • 視覚優位の社会を問い直す――「瞽女文化」から考えるユニバーサルツーリズム――
  • 高めよう、視力を超えたネクストパワー!(9)
      魅力 障害だってハーモニー
  • 弱さを隠すことが“強さ”だった私へ(11)
      挑戦する権利を私たちへ
  • ネパールに愛の灯を ―― わが国際協力の軌跡 (27)
      本名は複数ある
  • 長崎盲125年と盲教育(43)創立100周年記念事業 その1
  • 自分が変わること(208)大掃除とAIの影響
  • リレーエッセイ:4歳を迎えた娘との日々
  • アフターセブン(140)晩秋の熊本に思いを寄せて
  • 大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?(291)
      苦難を乗り越えてつかんだ1年ぶりの賜盃
  • 時代の風プラス:ヘレン・ケラー記念音楽コンクール、
      写真教室、
      テクノロジーでパラスポーツ観戦、
      日本点字図書館チャリティコンサート
  • 編集後記

巻頭コラム:AIで外国語を学ぶ

 私は、もう40年近く前になるが旧西ドイツ・ブレーメンで語学留学をした。語学学校では大学進学コースで学んでおり、当時はそれなりにドイツ語を話すことができた。しかし、日本へ帰国し、ドイツ語を話す機会がめっきり少なくなると、ドイツ語がおぼつかなくなってきた。
 そこで一念発起。もう10年以上前になるが、私は仕事を終えた後、代々木にあるドイツ語学校に毎週通い、ドイツ語を習っていた。それが副都心線が開通し、通勤ルートが変わったこともあってか、ドイツ語学校から足が遠ざかってしまった。
 そこで、当時盛んに使われていたSkypeを使ってドイツに住む友人と時々話をすることにした。友人は、私のたどたどしいドイツ語につきあうのに、さぞ忍耐がいったことだろう。
 先日視覚障害者の集まりがあり、大学時代に英語学を専攻した方と知り合いになった。その方は、AIのchatGPTを用いて毎日英会話を楽しんでいるとのこと。
 その方に触発された私は、chatGPTをスマホにインストール。早速ドイツ語会話を「チャッピー」とはじめた。
 まず最初に私は、文法的に間違ったことを話したら、正しいドイツ語で話すようチャッピーにドイツ語で指示した。すると、「君の言葉は、ほぼ正しいけど、こう言うんだよ」と文法の誤りを指摘し、正しい言葉や言い回しで話してくれた。私がそれを聴き取って正しく話すと、チャッピーは褒めてくれる。これで、学習意欲は、断然アップ。
 AIを用いた語学学習の利点は、間違ったことを話しても恥ずかしいと思わないこと、人間に話すと相手にストレスがかかるが、AIにはそれがないことだ。語学学習には、AIが有効だと思う。ただ、注意しなければならないことがある。それは、うっかり気を許して個人情報を話さないことだ。AIは、個人情報を収集しているからだ。
 秋の夜長、AIをうまく使って、外国語を学んでみてはいかがだろうか。(戸塚辰永)

(インタビュー)
韓国では視覚障害者もタッチパネルを使用できる!
――日視連・三宅隆常務理事に聞く――

【8月18日(火)~21日(金)の日程でJDF(日本障害フォーラム)の障害者放送協議会における韓国調査ワーキングチームのメンバー10人が韓国の情報アクセシビリティ状況を調査・視察した。視覚障害者として日本視覚障害者団体連合(日視連)から三宅隆常務理事と大胡田誠評議員が参加。そこで、三宅常務理事から韓国の先進的な取り組みについて伺った。聞き手・構成は本誌編集長・戸塚辰永。以下、敬称略】

 戸塚:日本では障害者差別解消法が2016年に施行されました。その後、2024年に改正障害者差別解消法が施行され、合理的配慮の提供が民間事業者にも義務化されました。また、2025年には障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が施行されています。しかし、これらの法律には厳しい罰則がないため、効果が乏しいと思います。日視連は毎年国などに要望を伝えていますが手ごたえはどうでしょうか?
 三宅:日視連では毎年全国大会を開き、要望項目を集めています。その中に情報アクセシビリティの項目が多数含まれています。それらについても国や関係機関に要望を伝えてきました。特に視覚障害者はデジタル化の恩恵を享受できていません。国は誰一人取り残さないと言っているものの、視覚障害者は取り残されています。たとえば、セルフレジやタッチパネル機器に関しての要望が数多くあります。そうしたこともふまえ、マイナ保険証に関して、厚労省・総務省・デジタル庁に意見を述べてきました。ようやく今年3月に厚労省が、マイナ保険証を視覚障害者が単独で使用できるよう指針に盛り込み、カードリーダーの性能改善が図られることになりました。あとは機械を導入するだけという段階まで来ており、メーカーも開発を進め、発売を待つばかりです。放送に関しては、一昨年総務省は放送分野での情報アクセシビリティ指針を公表しています。そこでは、大規模災害時に視覚障害者に情報が伝わらなければならないと記されています。総務省と意見交換をする中で、大規模災害時も確かに大事ですが、身近で凶悪な犯罪が起きたときや、日常生活を脅かす事態が発生したときもきっちり報道されるよう盛り込んでくださいと日視連から要望しました。すると、大規模災害時とともに日常の事件や事故に関する文言が指針に追加されました。生放送の番組では少しタイムラグがありますが、アナウンサーが速報と同じ内容を伝えるようになってきています。ただそうはいっても、ニュース速報ではチャイムが鳴るだけ、外国人の発言ではテロップだけが映し出されるという問題があります。JDFは、放送事業者にこれらの問題を毎年改善するよう伝えています。
 戸塚:韓国で調査した内容を聞かせてください。
 三宅:韓国の障害者差別禁止法は、アメリカのADA法(障害を持つアメリカ人法)やリハビリテーション法508条に匹敵するほど厳しいものです。たとえば、第20条では、情報への接近における差別の禁止、第21条では情報通信・意志疎通における正当な便宜提供の義務が定められています。差別禁止法案作成において韓国盲人協会が尽力されたと聞いています。今回の調査で最も驚いたことは、タッチパネルを使ったデジタル機器です。これに関しては日本よりもはるかに進んでいると感じました。点字ディスプレイを作っているドット社が中心となって開発している機器で、スマートキオスクという端末があります。それ自体は一般的なタッチパネル端末ですが、オプションとして、たとえば画面上に手話で表現したり、点字ディスプレイに表示したり、音声ガイドが流れてきたりする機能を追加できます。テンキーや矢印キーもついています。それにより自分で操作ができますが、困ったときに店員を呼ぶボタンもあります。そうしたキオスクを設置していこうという流れがあります。私たちはドット社を訪ねて、スーパーで使うスマートキオスクを見せてもらいました。タッチパネルを操作する代わりに物理キーを操作し、点字ディスプレイや音声ガイドを通じて商品を探した後、自分で取って来てもいいし、店員にとって来てもらうこともできます。このスマートキオスクはレストランの注文や鉄道での切符予約・購入、経路検索などでも使えます。こうした端末の開発についても、障害者差別禁止法でしっかりと言及されていて、達成しないと罰則を受けます。それに基づいた指針があり、スマートキオスクの場合アクセシブルな機能を実装しなければなりません。ただここまでこぎつけるために盲人協会は相当苦労したのだと思います。
 戸塚:日本では韓国と同じようなことが実現すると思いますか?
 三宅:実現できればいいでしょうが、現状日本の法律は強制力がないので韓国と同じようにはできないでしょうね。ただこの調査を通じて、日本という文化の中でどうやって交渉していけばいいのか糸口が見えました。韓国で実現できているのだから、技術は確立しているし、放送では手話や解説放送のオンオフといった仕組みが国際規格としてあります。すでに技術や規格があるのだから、日本でも取り入れませんかと提案できます。できないという返事だったとしても、どこに原因があるのか、費用面なのか、何が課題かが明らかになってきます。そこから国や放送事業者、企業も課題を解決する方向へと進んでいくようになるでしょう。今まで私たちが要望してきたことが実現に近づくのではないかと考えています。
 戸塚:テレビ放送での合理的配慮はどうでしょうか?
 三宅:韓国の解説放送は法律で縛られているという点で日本とは異なりますが、解説放送の付与率は日本とあまり変わりません。韓国では解説放送の付与率を10%以上と言っていますが、日本ではNHK総合と民放キー局がもはや15%以上、Eテレに至っては20%以上です。手話については日本では1週間に15分以上ですが、韓国では1日当たり5%から7%以上で、日本より多いです。日本ではアステム社による目で聴くテレビがありますが、韓国では手話や解説放送に特化して24時間放送するテレビ局があります。また、国際基準に準拠したバリアフリー放送が採用されています。ただし、テレビ受像機がそれに対応しないと意味がありません。逆に、テレビ受像機が対応しているのに、放送が対応していなければ意味がありません。そういうちぐはぐな点も見えました。しかしサムスン電機のテレビ受像機には、字幕で流れてきた情報を搭載されたOCRが解析し、読み上げる機能を備えているものがあります。今回の調査を通じて日本ではメーカーへの取り組みが弱かったと、気づきました。放送事業者に要望することも大事ですが、家電製品協会に働きかけることも必要だと感じました。
 戸塚:韓国ではほかにどんなところを見学しましたか?
 三宅:国立障害者図書館と国立中央博物館に行きました。日本では広瀬浩二郎さんがユニバーサルミュージアムを展開していますが、韓国では仏像でしたけど、触ったり、匂いで表わしたりして視覚を使わずに鑑賞できる視覚障害者に向けた展示が行われています。晴眼者もアイマスクをつけて鑑賞ができ、これがとても好評だと聞きました。視覚障害者向けとうたっていた展示を、いろんな人が体験できるように変えていこうと話していました。
 戸塚:韓国での調査は、今後どのように役立てていきますか?
 三宅:スマートキオスクの取り組みについてはすでに関係機関に意見を伝えています。あとは日本でどんなふうに取り入れられるのか、私たちも一緒に実現に向けて取り組んでいきます。やってくださいだけでは実現できないので、具体的にこうしてください、こういう形になれば私たちも使えるのですと提案していきます。そうしないと相手もどうしたらいいのかわからないと答えますから。考えてもらえるようにヒントとなるものを添えて、要望し続けていきます。韓国のような差別禁止法を作ってほしいものですが、日本にも障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法があります。これでは不十分だという方もいますが、今ある法律・制度の範囲内で意見を言えるところもあります。そうした中で全体的なアクセシビリティの向上へとつながればと思っています。
 戸塚:本日はお忙しい中、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。今後の日視連の取り組みに期待しています。

編集後記

 福山博氏の「ヒマラヤン・ツナミ」についての寄稿を読み、ネパールでの土石流のすさまじい破壊力を知ることができました。晴眼者は一目瞭然でわかりますが、視覚障害者は文字や言葉での具体的な説明がないと実感がわきません。私は東日本大震災時東京の職場で地震に遭い、「ここで死んでしまうのではないか」という恐怖を感じました。しかし、津波には遭遇しませんでした。それから数年後、宮城県亘理郡亘理町を訪れた際に、大津波が襲った海岸付近の街を歩きました。歩いても、歩いてもがれきだけが広がる平坦な地面が続いていました。実際に現地に行き、津波の恐ろしさを実感することができました。
 AIは、使い方によっては便利です。例えば、調べ物をする際には、物事を整理してわかりやすく説明してくれます。AIによるニュース放送も行われています。しかし、どこか冷徹で実感が伝わってきません。やはり、人間が体験した言葉には力があります。本誌も、生きた言葉を伝えていくよう日頃から努力してまいります。(戸塚辰永)

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