点字ジャーナル 2025年1月号

2024.12.25

目次

  • 巻頭コラム:風聞を信じやすい人々
  • 柔道で国際交流 ジャマイカとバルバドスにて ―― 初瀬勇輔氏に聞く
  • 全国盲人福祉施設大会 ―― 5年ぶりに「完全日程」で開催
  • スモールトーク 何度目かの「そんな馬鹿な」
  • 音楽コンクール開催
  • 鳥の目、虫の目 薪ストーブで火傷をしないために
  • セントルシアで視覚障害指圧師を育てる(3)指圧講座
  • ネパールに愛の灯を ―― わが国際協力の軌跡(5)芋づる式事業展開
  • 長崎盲125年と盲教育(21)戦時下の教育 その4
  • 自分が変わること(185)クレド・ムトワをなぜ忘れたのか
  • リレーエッセイ:その一歩の先にあるのは希望
  • アフターセブン(118) 携帯に紙幣を挟んで祈るわけ
  • 大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
      (269)琴櫻、悲願の初優勝 ―― 両大関がダブル綱取りへ
  • 時代の風:銀行点字ブロック敷設4割、
      オンライン資格確認義務化で例外措置、
      アプリで視覚障害者らの外出支援、
      iPS細胞で網膜治療
  • 伝言板:川畠成道ニューイヤーコンサート、
      第7回ロービジョン・ブラインド川柳コンクール、
      浅野温子よみ語り、
      第15回「ふれる博物館」企画展
  • 編集ログ

巻頭コラム:風聞を信じやすい人々

 兵庫県知事選挙の日程が決まって間もない10月初旬、神戸出身の同僚が「もし斉藤元彦知事が再選されたら恥の上塗りだ」と不安そうな顔をした。そこで「立候補者が乱立するので、そうなるかもね。再選されたら横山ノックを知事に選んだ大阪府民を馬鹿にできなくなるかも」。でも「今後は独裁者のように振る舞うことは難しいので、意外に謙虚で善良な知事に化けるかも知れないよ」と述べた。
 結果はご存じの通り、次点に13万票以上の差をつけて返り咲いた。その理由を新聞は「組織的な支援がなかった斎藤氏を押し上げたのは、最近の国政・地方選挙と同様、SNSでの発信だった」と報じた。斎藤氏本人も勝因を「SNSが一番大事なツールだった」と振り返った。
 私は弟妹や友人知人が「ラインを使え」「フェイスブックを使え」と強く要求しても、頑なに拒否しているが、それは真偽不明の情報に惑わされたくないからだ。
 ネットで広がったのは、フェイクニュースや悪質なプロパガンダに近い内容だという。「既得権益を持つ議会や県庁、マスコミに対して改革者・斎藤氏が立ち向かう」という構図で、支持拡大の大きなうねりが生まれたのだ。県議会は全会一致で不信任を決議したので、共産党も既得権益を持っていると斉藤支持派は本当に信じたのだろうか。
 斉藤氏は少なくとも公益通報者保護法に違反した可能性が非常に高い人物だ。県職員が「公益通報者保護法に違反する」と注意したのにもかかわらず、彼はそれを無視し、罰則規定がないことを逆手に、公益通報者保護法をなし崩しにしたのである。
 そんな人物をSNSは悲劇のヒーローにしたのだが、マスコミの報道より、なぜファクトチェックのない真偽不明の情報を熱烈に信じるのか?SNSによる思い込みは恐ろしい限りである。
 しかもSNSを含む広報戦略全般を担当したというPR会社代表が現れて、斎藤知事とともに刑事告発される騒ぎになるという第2幕まで開幕した。斎藤氏が謙虚で善良な知事になる道は遠そうである。(福山博)

柔道で国際交流 ジャマイカとバルバドスにて
――初瀬勇輔氏に聞く――

 【国際交流基金は、11月11~18日の旅程で、2004年アテネオリンピック100kg超級金メダリストで、柔道全日本男子監督鈴木桂治氏と、日本視覚障害者柔道連盟会長初瀬勇輔氏を、カリブ海の島嶼国ジャマイカとバルバドスに派遣した。以下は、本誌編集長福山博が初瀬氏へインタビューして、構成したものである。】
 11月11日の早朝、鈴木・初瀬両氏と国際交流基金の担当者2人の4人で羽田発、ニューヨークを経由してジャマイカの首都キングストン空港に到着。30時間の長旅だったが、時差の関係で同日の夜9時頃にホテルに入った。ジャマイカは岐阜県とほぼ同じ面積で、人口282万人。
 翌12日早朝、地元高校に行き体育館で健常者の柔道部員7人に鈴木氏が技を指導し、初瀬氏がブラインド柔道を紹介した。気温は30℃越えでとても暑かった。
 昼食は100m、200m、400mリレーの世界記録保持者ウサイン・ボルト氏経営のレストランに行った。
 午後はジャマイカ知的障害者協会が運営する「希望の学校」で柔道の紹介と交流を行った。そこでは「柔道って何? ボクシングとどう違うの?」と質問され、図らずも柔道の認知度の低さが身にしみた。
 次はカリブ海の島嶼国が共同で運営している西インド諸島大学のモナキャンパスで、日本語を専攻する学生に講演。鈴木氏は末っ子がダウン症で生まれた。身体の弱い子のために何ができるか考えた末、障害を持つ子が伸び伸びと自由に暴れまわれる場所が欲しいと療育施設としての柔道場を東京都町田市に開設。子供のための柔道教室「ケイジ・ジュウドウ・アカデミー(KJA)」を開いた。道場は40.5畳の畳敷きで、壁の一面は子供用のボルダー壁になっている。
 初瀬氏は「柔道」を切り口に障害者やその家族の支援、雇用・社会参加やスポーツへのアクセシビリティ、パラスポーツの普及について話した。
 ジャマイカは危険度2「不要不急の渡航中止」で、大使館員からも「絶対外出しないでください」と言われていたが、フェンスに囲まれ安全対策を施したショッピングモールでだけ、ひとときの買い物を楽しんだ。
 その後、渥美恭弘(あつみ・やすひろ)大使の公邸で歓迎夕食会があり、日本人シェフによるスパイシーで香ばしいジャマイカ料理「ジャークチキン」などが振る舞われた。
 翌13日は移動日で、キングストン(人口66万6,000人)から、バルバドスの首都ブリッジタウン(人口8万9,200人)に飛行機で5時間の旅だった。バルバドスは国自体が横浜市とほぼ同じ面積で、人口は30万4000人である。
 同国はジャマイカの首都の半分弱の人口だが、政治が安定しており、教育水準も高いのでカリブ海では最も裕福な国の一つである。観光業が盛んで治安がいいので、緊張感から解放された。やはり戸外に出なければ、その国の空気や文化を感じることはできないと強く感じた。
 14日、ダウン症、学習障害、身体障害を持つ10人がジュースやジャムなどを作って販売している作業所「バルバドス雇用支援協会」を訪問し視察した。
 その後、広大な敷地に障害者のための学校と卒業後の職業訓練と作業所を運営している「チャレナー・クリエイティブ・アーツ・アンド・トレーニングセンター」を視察した。
 そして柔道6段が経営しているマリン・ガーデンズ道場で夕方の午後5時半~6時、柔道とパラ柔道のデモンストレーションを行った。
 ジャマイカでは黒帯の人には一人も会わなかったが、ここでは国際大会に出場するような柔道家が何人も来ており、金メダリストの鈴木氏の前には握手をするための行列ができた。
 その後、午後6時~7時半はパネルディスカッション「柔道とソーシャルインクルージョン」。療育施設としての柔道場づくりに取り組む鈴木氏と、パラスポーツ普及や起業家として障害者雇用の促進に取り組む初瀬氏が、現地のオリンピック・パラリンピック協会、障害者団体、関係省庁代表者らと、障害者の社会参加やスポーツへのアクセシビリティ、地域活性化、パラスポーツの普及について活発に議論した。
 15日は、国民エンパワメント・高齢者問題担当カーク・ハンフリー大臣を表敬訪問。だが同国では障害者雇用に関する法律制定が間近で大臣ほか20人ほどが待ち受けており、パラスポーツをどうしたら普及できるか? 雇用率は2%なのだが、罰則がないので実効性はない等の話題に対して、熱心な議論が行われた。
 その後、福嶌香代子大使主催の夕食会がサンドラ・オズボーン国内オリンピック委員会(NOC)会長と、グライン・クラークNOC事務局長を交えて、イタリアンレストランでおこなわれた。
 オズボーン氏は女性で、同国の大統領、首相、副首相も女性だ。同国出身で16歳で米国に行き、全世界で2億5000万枚以上のアルバムとシングルを販売した女性歌手のアリーナと共に、女性活躍の印象が強く残った。
 翌日の帰国便もニューヨーク経由で、30時間かけて、時差の都合で18日の午前5時に羽田に到着した。

編集ログ

斎藤元彦氏のSNSなどのデジタルツールの戦略的な活用を含む広報全般を担当したのは株式会社メルチュだと、ネット上のコンテンツ配信用のプラットフォーム「note」に代表取締役の折田楓氏が掲載しました。折田氏のnoteは、当初のものから公選法に触れるような内容が一部変更されたり削除されたりして、問題発覚当時の内容とは幾らか違うようですが、現在のものでも私は充分興味深く読みました。
 メルチュ社屋で斉藤氏にハッシュタグ「#さいとう元知事がんばれ」を説明中とか、カメラマンとヘアメイクさんを依頼して、スタジオで斉藤氏を写し全員で「念入りにチェックしている」写真なども掲載されており、非常に具体的で説得力があります。さらに「本人と応援アカウントの相乗効果を期待するSNS運用方針の概念図」なども貼り付けてあり、折田氏のnoteは思いつきで構築できるようなものでないことは確かです。
 これを見て、私はメルチュが斎藤元彦氏の兵庫県知事選に関する広報全般を担当したのは間違いないと確信しました。
 明らかなデマを勝手連がSNSで発信することさえ折り込み済みで、広報戦略を構築したとしたら、ナチスドイツの啓蒙・宣伝大臣に比肩するプロパガンダ上手というべきでしょう。ゲッベルスの有名な言葉に「嘘も百回言えば真実になる」というものがありますが、結果的に扇動政治家の応援とともに、彼女はそれらさえ上手に利用したように見えます。報道は真実を追求する建前ですが、政治宣伝は大衆を誘導することがすべてで、ファクトチェックなどやるはずもありません。斎藤元彦知事の「公約着手・達成率98.8%」は、朝日新聞の調査によれば、「達成済」は27.7%に留まるということです。
 いずれにしろ、折田氏は類い希な広報戦略家で、それが当たって斉藤氏が当選したと確信して彼女はnoteに書き込んだのでしょう。しかし、「人間(じんかん)万事塞翁が馬」を地で行くような逆転劇でした。(福山博)

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