点字ジャーナル 2024年11月号
2024.10.25
目次
- 巻頭コラム:鉄面皮宰相に一杯食わされる
- (座談会)パリパラ柔道金メダリストに聞く(上)
- ウイズ30年の歩み(下)―― 笑顔があれば夢はかなう
- ウイズ斯波前代表退任記念講演会 ―― 国内外から浜松へ
- (新連載)セントルシアで視覚障害指圧師を育てる(1)はるばるカリブ海へ
- ネパールに愛の灯を ―― わが国際協力の軌跡(3)突然のネパール出張
- 長崎盲125年と盲教育(19)戦時下の教育 その2
- 自分が変わること(184)予感はエゴイスティック
- リレーエッセイ:ヨーロッパ夏から秋へ(上)チャンネル諸島編
- アフターセブン(116)コミュニケーション省略社会がもたらすもの
- 大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
(267)史上最速!前代未聞のちゃん髷大関の誕生 - 時代の風:全盲の母きっかけに白杖の石突き改良、
日本盲導犬協会とレイクウッズガーデンが協定を締結、
障害者雇用特化 スカウト型求人サイトリリース、
ホームドアの設置加速へ 東京都が官民協議会立ち上げ - 伝言板:サイトワールド2024、
ヘレン・ケラー記念音楽コンクール、
江戸博移動博物館in深川江戸資料館、
観劇サポート公演 - 編集ログ
巻頭コラム:鉄面皮宰相に一杯食わされる
この記事は父の介護のために帰省している熊本の山の中で書いている。
東京と熊本の2拠点生活を送る私にとって、衆院選がいつ行われるかは死活問題だ。さすがに点字選挙公報作成はテレワークではできないからだ。
ところで斎藤元彦兵庫県知事の鉄面皮ぶりはつとに有名だが、第102代内閣総理大臣もその点では人後に落ちない。
自由民主党総裁選が9月27日に決することを受けて、それまで最有力とされた「10月27日衆院選投開票」は新聞紙上で一端消えた。そのスケジュールで進めると首相指名が10月1日になり、その日に首相が解散を明言しても投開票は26日後となり、選挙準備が整わない恐れがあるからだ。
ところが総裁選序盤でトップを疾走していた小泉進次郎氏が、「できるだけ早く」と述べ、臨時国会冒頭解散断行を狙っているとされ、10月27日衆院選投開票が再浮上した。一方、石破茂氏は総裁選を通じて、「衆院解散前に衆参予算委審議や党首討論の実施」に言及し、「石破首相なら最速でも11月10日投開票」とみられていた。
このため小泉氏失速の報道に接し、私は10月27日の衆院選投開票は無いと判断して、9月9日に、東京への便を10月6日から10月20日に変更した。
ところが9月30日の早朝、『讀賣新聞』一面に「衆院選10月27日投開票」の文字が躍っており驚いた。半信半疑のまますぐにネットで検索すると各紙ともに同様に報じているのでガツンと殴られたようなショックを受けた。
アジア版NATOなどと大言壮語はするが、筋論にこだわるはずの石破氏が豹変し、国民は一杯食わされたのだ。
すぐに東京への便を10月9日に変更し、差額は取られなかったのが唯一の慰めだが、「鉄面皮政治家のいうことを真に受けて一喜一憂する愚をおかすことなかれ」が、教訓として残った。(福山博)
(座談会)パリパラ柔道金メダリストに聞く(上)
【8月28日に開幕したパリパラリンピックでは、男子ゴールボールが初の金メダル、水泳では木村敬一選手が2種目で金メダルをとるなど多くの選手が活躍した。今回は、視覚障害者柔道で金メダルをとったJ2・57キロ級の廣瀬順子選手、J2・73キロ級の瀬戸勇次郎選手のお二方とNHKで解説に当たった日本視覚障害者柔道連盟初瀬勇輔会長にも加わっていただいてパリ大会の様子について聞いた。司会・構成は本誌岩屋芳夫】
司会:このたびは金メダル獲得おめでとうございます。柔道を始めたきっかけ、視覚障害者柔道との出会いなど自己紹介をお願いします。
廣瀬:山口県山口市出身で、柔道は小学校5年の時に始めました。『合わせて1本』という少女慢画の中で、主人公の女の子が男の子を投げるのを見て、かっこいいなと思って始めました。高校までは一般の柔道をしていましたが、大学生の時に目が悪くなり、それから視覚障害者柔道をしています。
初瀬:廣瀬さんは、高校時代にインターハイに出場して、大学生の時に生死をさまよう病気をしているんです。
廣瀬:熱が出て体調が悪い日が続いたことから入院し、10日間ICUに入ったんですけど、その間の記憶は全くありません。
司会:瀬戸さんは、小学校入学前に柔道を始めたんですよね。
瀬戸:福岡県糸島市出身の先天性弱視です。二つ上の兄が柔道をしていたことから4才で柔道を始めました。小学校の時は地元のスポーツ少年団で、中学、高校の時は部活動で柔道をしていました。高校3年の時に視覚障害者柔道と出会いました。
司会:お二人とも一般の柔道を経験した後に視覚障害者柔道に移ったということですね。
瀬戸:はい、そうです。今は機会がありませんが、今でも一般の柔道の大会に出たいという思いもあります。
初瀬:視覚障害者柔道は、組んだ状態から始めます。このルールであれば視覚障害者も晴眼者も同等にできることから、日本視覚障害者柔道連盟では、「KUNDE柔道」の普及活動に取り組んでいます。瀬戸さんは、その普及活動にも取り組んでくれています。
司会:組んで始める柔道と出会った時に、とまどいはありませんでしたか?
廣瀬:一般の柔道は最初に組み手争いがありますが、組み手争いでは力をいれません。視覚障害者柔道では組んでいるので、力をぬいていると投げられてしまいます。見ためやルールは一般の柔道とかわらないんですが、力のいれ方やわざをかけるタイミングは全く別だと思って工夫しました。
瀬戸:目のせいかわかりませんが、組み手争いは苦手でした。その点では、組んだ状態から始めるのは自分にとってはやりやすかったです。しかし、実際にやってみると、4分の試合時間で腕はパンパンになってしまい、こんなにしんどいものなんだと痛感しました。
司会:お二人の東京大会での成績を教えて下さい。
瀬戸:銅メダルでした。
初瀬:廣瀬さんは、3位決定戦で負けて5位だったね。
司会:2021年の東京大会の後、視覚障害者柔道は階級が変更されました。パリを目指した3年間のご苦労をお聞かせ下さい。
瀬戸:東京大会では66キロ級に出場しましたが、階級の再変でなくなったため、60キロにするか、73キロにするかを選ばなければならなくなり、73キロ級にしたんですが、パワーが違います。国際大会で優勝できないことが2年弱続いて、世界ランキングもあがらず、世界選手権に1回戦で負けたこともあり、ここで何か変えなければいけないと思ったことが転期となりました。ウエイトトレーニングを本格的に取り入れたことで体もできてきました。この1年から半年は、それなりの成績をあげることができました。
司会:体重を増やすのは大変ですか?
瀬戸:ただふとればいいというものではありません。食べものにも気をつけて、食べたものを筋肉にしなければいけませんし、意図して動かせる筋肉をつくらなければいけません。
司会:具体的にはどう鍛えるのですか?
瀬戸:瞬発力を強化するのと筋肉を大きくするのを組み合わせます。
司会:廣瀬さんは階級変更はなかったんですね。
廣瀬:私の階級は残りましたが、出場枠を獲得するために世界ランキングを上げなければなりませんでした。たくさんの試合に出られるのはうれしいのですが、反面、毎会優勝できるわけではありません。短期間で負けてしまった相手の対策をしなければならず、5キロぐらい減量するので、半年ぐらいずっと減量したまま、試合に向けて体をつくり直すのがしんどかったです。
司会:減量はどのようにするのですか?
廣瀬:普段の1食分を1日3回に分けて食べます。
司会:お腹がすいてしまいますね。
廣瀬:最初の半月ぐらいはすごくすくんですけど、後半になると慣れてきます。
初瀬:瀬戸さんも減量してるんですよ。普段は76キロぐらいあるんだっけ?
瀬戸:76から77キロぐらいです。73キロ級で戦おうと思ったら、ある程度増やしてから減量してのぞまないと筋肉量が足りないんです。
初瀬:二人の階級は激戦区で、減量しながら、ケガをしないように、心つくって、体つくって、試合にのぞんで、慣れない海外の地で、というのが1年くらい続いて大変だったと思います。
司会:パリの出場枠を得るまでにはどのような経過があったのでしょうか?
瀬戸:大会結果がポイントとなって世界ランキングが決まります。昨年8月から今年5月までの1年弱に7つの国際大会がありました。
司会:パリ大会の出場枠は何人だったのですか?
瀬戸:世界ランキングの上位7名と開催国枠1名と階級によって1人から4人のバイパルタイト(推薦枠)があります。73キロ級は12名だったんですが、直前に1名の辞退があり、最終的には11名でした。
廣瀬:私の階級は、フランスの選手がいなくて、ランキング7位までとバイパルタイト3人の10人でした。
初瀬:瀬戸さんは国内だとだいたい勝てるんです。廣瀬さんは、国内に工藤博子選手というライバルがいます。彼女は、東京大会では1つ上の階級だったんですが、階級再変で同じ階級に入ったんです。廣瀬さんは、工藤選手との直接対決で負けたこともあって、国内でも緊張しなければならなかったんです。去年の12月に東京で行われた国際大会では、二人とも3位だったんです。二人とも普段は仲がいいんですが、ライバルです。東京大会までは、瀬戸さんにも藤本聰(さとし)選手というライバルがいて、天狗になることなく練習に励めて良かったのではないでしょうか。
司会:瀬戸さんは世界ランキング1位、廣瀬さんは2位でパリに行ったわけですが、8月28日の開会式から参加したんですか?
瀬戸:開会式には参加していません。30日の出発でしたから。
初瀬:予算の関係もあって、前半と後半に分けて移動しています。いつも柔道は前半だったんですが、今回は日程が後半に組まれていました。
司会:試合はトーナメントですか、それとも総当たりですか?
廣瀬:トーナメントです。
司会:何試合、闘ったんですか?
瀬戸:自分も廣瀬さんもシードされていたので3試合です。
初瀬:ランキングで4位までにシードが与えられて、トップ同士がつぶし合わないようにしています。
司会:初戦、準決勝、決勝と試合の印象はいかがですか?
初瀬:NHKのスタジオで見てたけど、初戦て緊張するの?
廣瀬:すごい緊張しました。
初瀬:負ける感じはなかったけど、けっこう時間つかってたね。
廣瀬:相手の組み方がやりにくくて、うまくいくまで時間がかかりました。東京大会の3位決定戦では、最後の26秒でポイントを取り返されて負けてしまいました。冷静に考えて守ってたら勝てたかなといろいろな反省がありました。パリ大会では試合中も冷静に考えて試合しようと思ってました。
初瀬:後でも出るかもしれませんが、(夫の)悠さんが3年間ずっと支えてたのは大きいですよね。瀬戸さんは、1回戦早かったね。
瀬戸:初戦はバイパルタイトの選手で、それほどパワーはありませんでした。台湾の選手で66キロ級からあがってきた選手ですが、体作りが完全ではなかったようですね。自分の場合はどの試合も同じような感じでしたが、準決勝が少し手こずりました。あまり警戒している相手ではなかったんですが、しっかり研究されていてなかなか攻めきれませんでした。投げられる気はしなかったんですが、内心あせっていました。
初瀬:決勝できれいに尻もちついてたけど…?
瀬戸:あれはよくあることで得意なんです。
初瀬:足払いをお尻でしのぐってあまり聞いたことないけど、ひやっとしたよ。
瀬戸:ギリギリ背中つかないのです。
司会:お尻がつくのはセーフで、背中がつくとだめなんですか?
瀬戸:押し込まれて背中がつくと技ありになりますが、お尻がつくだけではなりません。
廣瀬:帰ってから見ましたけど、これはあぶないだろうと思いました。
瀬戸:あの時は、「はじめ」と同時に背負投にいこうと思ってたんですが、「はじめ」っていう前に相手がちょこっと動いちゃって、どうしよう、どうしようって思ってたら思うように動けなかったんです。
初瀬:3試合通して唯一ひやっとしたのがしりもちをついたところだけで、チャンピオンらしい戦いをしてるなと思いました。
瀬戸:さっきも言いましたが、自分の中では、準決勝が苦しかったです。
初瀬:そんな風には感じなかったけど。
瀬戸:そう言われるんですけど、なるべく冷静さは保っていました。
司会:お二人から冷静ということばが出ました。冷静に試合にのぞむというのは、容易なことではないと思いますが、何か工夫をしているんですか?
廣瀬:試合の前に体や顔をたくさんたたいて自分の中で試合モードをつくります。集中できている時は、冷静に試合ができるので、まず、そのモードになるようにします。試合中に「まて」がかかると、コーチボックスから時間経過などを言ってもらいます。集中している時は、その声がしっかり届きます。「まて」がかかっている間にそれを聞いて、自分の中で、今どういう状況で、次に何を、次にこうしなければいけないと考えます。
瀬戸:今回の対戦相手は、これまでに何度か対戦していましたので、相手がどういう動きをするのか、どういう技をかけるのか、ある程度想定できました。これまでの経験が冷静さにつながっていると思います。想定外のことがおこるとあせって、冷静さを失ったりします。ある程度のことが想定できて、気をつけることを頭に入れて試合にのぞんだのが冷静さを保てたんだと思います。
編集ログ
石破茂自民党総裁が、首相指名を待たずに9月30日に「衆議院を解散し、10月27日に投開票」を表明したことに対して、「なぜ1日、待てなかったのか」と政治評論家や識者がテレビで首をかしげていました。10月1日午後の表明から公示までは14日間ですが、リークされて、各紙朝刊1面を飾ったのは9月30日だったので、それなら16日間の猶予があります。過労死寸前の激務に追い込まれる選挙管理委員会事務局員にとって、この2日間はとても貴重です。ただ、公務員にこそ働き方改革が必要なのに、岸田政権以来、少なくとも衆院選に関しては逆行しています。公務員は過労死容認なのでしょうか?
カトマンズ盆地では9月28~29日の間に240~322mmの降雨があり、首都カトマンズと古都ラリトプルとを南北に隔てるガンジス川の支流バグマティ川が氾濫しました。このため国道が川と化し、多くの家屋が流されたり浸水するとともに、水道、電力やインターネットへのアクセスなどのインフラが損壊し、市外に出る7本の国道は封鎖されました。
当協会は1992年にヒンドゥー教のゴパル寺院内にNAWB(ネパール盲人福祉協会)点字出版所を建設しました。今回の水害で、NAWB本部が床上浸水したため、点字図書室と点字教科書の資材を保管している倉庫が大きな被害を受けました。
ヒンドゥー教では、ガンジス川(ガンガー)をはじめとする川はとても神聖な存在で、川は生命の源であり、浄化と再生の象徴とされ、昔から川沿いの地域は交通や農業の中心地でもあり、人々が集う場所でした。そのため、川沿いに多くの寺院が建てられました。そしてNAWBのように多くの団体が、ヒンドゥー寺院の伽藍に入居しています。それらの事務所も今回の洪水で被災しました。
この9月、能登半島をはじめアジア各地で、南北アメリカ、西・中央アフリカで、例年は洪水被害がないヨーロッパや中東でも洪水被害が起きました。被災者すべてにお見舞いを申し上げます。(福山博)