点字ジャーナル 2024年10月号

2024.09.25

目次

  • 巻頭コラム:ハリス旋風を期待する
  • 視覚障害者の就労を支援して半世紀 井上英子氏にサリバン賞
  • ウイズ30年の歩み(中)―― さらに広がる活動の輪
  • (追悼)込山さんは、まだ私の中で生きている
  • ネパールに愛の灯を
      ―― わが国際協力の軌跡 (2)田中団長の提言
  • パリパラリンピック結果
  • ネパール・ハイウェイを行く(9・最終回)出張を終えて
  • 長崎盲125年と盲教育(18)戦時下の教育 その1
  • 自分が変わること(183)予感とは、体の叫び
  • リレーエッセイ:熱く響け!太鼓の音(下)
  • アフターセブン(115)受け継ぎべき文化
  • 大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
      (266)“いつもどおり”を貫く相撲巧者、美ノ海
  • 時代の風:B型と一般就労を併用 新たな雇用モデル模索、
      大阪の老舗ゴムメーカーがゴム製誘導マットを敷設、
      膝の痛みにmRNAで軟骨摩耗防ぐ、
      甘味カフェイン飲料による体内時計と活動リズムの変化
  • 伝言板:ライトセンターオープンデー、
      れきおんクラブ、
      本間一夫記念日本点字図書館チャリティコンサート、
      障害者クライミング紹介動画公開
  • 編集ログ

巻頭コラム:ハリス旋風を期待する

 米大統領選のいかんによっては、無茶な要求によりわれわれも大いにお陰を被ることになりかねない。
 トランプ大統領在任中は、政府職員の抵抗で自分が思うとおり執行できなかったため、再選されれば、法律や伝統に基づいてホワイトハウスの政治的干渉を受けずに運営されている行政機関の独立性を奪い、大統領権限を大幅に拡大し、約5万人の政府職員の雇用保証をなくして、トランプ忠誠派に入れ替えて独裁的に振る舞おうと計画している。
 7月13日の暗殺未遂事件でドナルド・トランプ氏(78歳)が次期大統領になることはほぼ確実に思われたが、7月21日にバイデン大統領が大統領選からの撤退とカマラ・ハリス副大統領(59歳)を後継候補に推すことを発表すると風向きは変わった。最近の世論調査の支持率では、わずかとはいえハリス氏がトランプ氏を上回るようになった。
 だが、サンフランシスコ地方検事やカリフォルニア州司法長官を歴任したハリス氏と有罪判決を受けたいわば犯罪者でもあるトランプ氏の対決は、大統領選の制度が複雑であるために予断を許さない。
 ところで、私はカマラ・ハリスという名前に特別な親しみを感じる。小学生のときに読んだインドでオオカミに育てられた2人の少女の物語の年長者の名前は「カマラ」だった。また、同じく小学生のときに見たテレビアニメは「ハリスの旋風(かぜ)」だった。原作は『週刊少年マガジン』に連載されたもので、漢字で「旋風」と書いて「かぜ」とルビが振ってあったので、当時の小学生は「旋風(せんぷう)」という漢字を誰もが覚えた。
 喧嘩っ早いが運動能力抜群の主人公が野球、剣道、ボクシングで大活躍。そしてサッカーの全国大会で優勝し、ハリス学園の本校がある米国に留学するために盛大な見送りを受けて羽田空港から出発するシーンで大団円を迎えるストーリーだった。
 米大統領選もハリス旋風による大団円を期待したいものである。(福山博)

視覚障害者の就労を支援して半世紀 井上英子氏にサリバン賞

 【本年度の「ヘレンケラー・サリバン賞」は、視覚障害者就労生涯学習支援センター代表で、長年にわたり視覚障害者の就労を支援してきた井上英子氏(73歳)に決定した。
 第32回を迎えた本賞は、「視覚障害者は何らかの形でサポートを受けて生活している。それに対して視覚障害者の立場から感謝の意を表したい」との趣旨で、当協会が委嘱した視覚障害委員によって選考される。
 贈賞式は10月8日の開催を予定している。本賞(賞状)と副賞として、ヘレン・ケラーのサインを刻印したクリスタルトロフィーが贈られる。以下、敬称略。取材・構成は本誌岩屋芳夫】
 井上英子は、1951年東京都世田谷区生まれ。地域の小学校を卒業後、渋谷にある中高一貫校の実践女子学園で学び、実践女子大学文学部へと進んだ。
 大学4年の時、杉並区の成人学級で点字教室があることを知り受講。同教室では、故・松井新二郎(全盲)が講師を務めていた。この時の出会いが、その後、井上が50年にわたって視覚障害者を支援する原点となった。
 大学を卒業すると、松井が運営していた日本盲人カナタイプ協会(以下、カナタイプ協会)に就職。そこでは、会議などを録音したものを聞きながら視覚障害者がカナタイプで文字におこし、晴眼者が漢字かなまじりに仕上げる業務を行っていた。
 ちょうどその頃、米・テレセンサリー・システムズの小型カメラで印刷された文字を読み取り、その映像を縦6列、横24行の振動するピンで指に伝え触読できるようにした携帯文字読み取り器「オプタコン」が日本に紹介され、カナタイプ協会内に日本オプタコン委員会事務局(事務局長松井新二郎)が置かれた。そして、1976年9月カナタイプ協会は社会福祉法人の認可を得て日本盲人職能開発センター(現・日本視覚障害者職能開発センター)に改称する。
 1975~1999年に開催された日本オプタコン委員会によるオプタコン講習会で、井上は東京都心身障害者福祉センターや国立特殊教育総合研究所(当時)の職員とともに講師を務めた。その間、1978年にはオプタコンの指導や指導員養成のマニュアルを作成し、さらに、1986年に台湾で、1990年と1991年に韓国で、1994年に中国で開催されたオプタコン講習会でも講師を務めた。
 井上は1985年に、米国研修の機会を得て1ケ月オプタコンやコンピュータ関連機器について研修を受けた。「スクリーン・リーダーを勉強するならその前にパソコンを勉強しなさいと言われ、生まれて初めて触ったパソコンが英語仕様でした」と井上は苦笑する。
 米国では、すでにスクリーン・リーダーやペーパレス・ブレーラーが活用されており、研修では、視覚障害者がスクリーン・リーダーの訓練を受けた後、一般企業で就労している現場も見学した。
 その後、日本でもスクリーン・リーダーが開発され、視覚障害者の一般就労への関心が高まった。1994年に日本障害者雇用促進協会(当時)、東京障害者職業能力開発校から委託を受け、視覚障害者職業能力開発訓練コースOA実務科の企画に取り組み、彼女は、視覚障害者がスクリーン・リーダーを学ぶカリキュラムを作成。同年10月、職能開発センターに事務処理科が開設されると、視覚障害者がパソコンを学んで一般就労する道を切り開いた。
 視覚障害者の就労を支援するかたわら、1989年3月に富士通電算機専門学院システムエンジニア科を修了。さらに、1998年3月には日本大学大学院博士課程前期を修了した。
 1996~2004年に実施されたJICA委託の視覚障害者用支援技術コースでも講師を務めた。東アジア太平洋諸国からの研修生にスクリーン・リーダーJAWS(英語版)の操作法や指導法、器材の入手法などをレクチャー。井上は指導に当たるとともに、事務局として研修の企画・運営にもたずさわった。
 彼女は、海外の動向にも関心を持ち、1984年にサウジアラビアで開催された第1回WBU(世界盲人連合)の総会にも出席。1991年に東京で開催されたWBU東アジア太平洋地域会議では事務局を手伝った。
 2003年に高齢・障害者雇用支援機構(現:高齢・障害・求職者雇用支援機構)に障害者雇用管理サポート専門家として登録し、現在も活動を続けている。昨年度の実績は14回で、中にはオンラインによる沖縄での支援もあった。
 井上はもっと自由に活動したいとの思いから、2006年3月に職能開発センターを定年退職すると、すぐに視覚障害者就労生涯学習支援センターを東京都世田谷区松原に設立した。同センターは、社会福祉法人でもNPOでもなく株式会社である。業務の受託、役員の数など多方面から検討した結果、設立手続きや運営が簡単な会社法人が都合がよかった。ただしそのために補助金や税制の優遇は受けられないので、家族の支援と協力を得て経営上は持ち出しも多い。
 現在、事業として東京しごと財団から受託して求職者・在職者を対象にパソコンの講習を行っている。求職者には「知識・技能習得訓練コース」(3ケ月244時間)のプログラムがあり、在職者には「在職者訓練コース」(最長3ケ月160時間)で個別に対応している。
 2010年には高齢・障害者雇用支援機構で訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)の資格を取得。前述の講習とともに、ジョブコーチの業務も同センターの事業の柱となっている。昨年度の実績は、21事業所28名に対して訪問・オンラインで計301回の援助を行った。ニーズは多いが、視覚障害者を支援するジョブコーチは少なく、都内だけではなく、神奈川や埼玉などの事業所に出向くこともある。
 同センターでは、この他にも視覚障害大学生を対象とした講習や雇用する企業に向けた啓発活動なども収益を度外視して行っている。

編集ログ

 込山光廣先生とは「教点連」の理事会で、その形骸に接しました。「視労協」のスローガンは「子宮から墓場までノーマライゼーション!」だったので、その代表を務めていた方に強面のイメージを持っていました。しかし、実際は柔和な語り口のごく常識的な判断をされる方でした。その常識が通じない社会と果敢に戦って、常識が通じる社会に変革されたのですね。込山光廣先生のご冥福をお祈り致します。
 米国で11月に大統領選挙が行われ、独裁者が誕生するかどうかが気がかりです。しかしそれ以上に、わが国の国政選挙は、点字出版業界が一丸となって「点字選挙公報」を発行するために我々にとってはより切実で深刻です。
 なにより問題なのは、解散・総選挙がいつになるか分からないため事前の準備ができないことです。解散を決めるのは首相ですが、その首相が少なくとも9月27日投開票の自民党総裁選が終わるまで、誰になるか神のみぞ知るです。
 新しい自民党総裁が誕生して数日後、衆議院と参議院の本会議で内閣総理大臣(首相)指名選挙が行われ、おそらく新自民党総裁が首相に選出されます。その後、組閣が行われ、新首相が所信表明演説を行い、与野党が代表質問を行って10月中旬に新首相が衆院解散を行うとすると自ずと総選挙の日程が見えてきます。
 自民党総裁選の日程決定を受けて8月20日付『毎日新聞』は、「10月22日公示、11月3日投票」あるいは「10月29日公示、11月10日投票」と総選挙を予想しました。
 熊本の実家で父の介護をするために月の半分は実家に帰る2拠点生活を行っている私は、投票日を11月3日・10日・17日のいずれかと想定して、航空便を2便変更しました。それに要した費用は2,800円と3,100円でした。しかし、日程が押し詰まってからの変更では、15,200円も支払ったこともあるので今後も要注意です。(福山博)

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