点字ジャーナル 2024年4月号
2024.03.25
目次
- 巻頭コラム:失言の揚げ足とりと情報操作
- 「ヘレンケラー・サリバン賞」候補者推薦のお願い
- (インタビュー)コロナ禍からの脱却に向けて
―― アキレス・ジャパンの取り組み - 専攻科音楽科の学びを次世代へ
- タイ王国上院議員モンティアン・ブンタン氏急逝
―― 視覚障害者の権利保障に尽力した30年来の友人の死を悼む - ネパール・ハイウェイを行く(3)古着の寄贈式
- ネパールの盲教育と私の半生(34)アジア太平洋CBR会議
- 長崎盲125年と盲教育(12)県営移管後における教育環境の整備
- 自分が変わること(177)ズールー語と和歌
- リレーエッセイ:私の柔道人生(下)
- アフターセブン(109)さよならコンサートでよみがえった学び舎の思い出
- 大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
(260)37歳で関取復帰を決めた、伸びしろ十分なベテラン - 時代の風:ユニバーサルデザインの自動ドア、
出生率過去最少、
筋強直性ジストロフィーの根本的治療薬開発、
神経膠腫判断にAI技術、
近視進行と白目の変形に関わる遺伝子発見 - 伝言板:チャレンジ賞・サフラン賞募集、
第33回アメディアフェア2024、
第19回レインボー音楽会2024、
川島昭恵語りライブ、
詠進歌 令和7年のお題は「夢」 - 編集ログ
巻頭コラム:失言の揚げ足とりと情報操作
麻生太郎元首相が今年1月の講演で、上川陽子(かみかわ ようこ)外務大臣の名前を「カミムラ」と間違えた上、「このおばさんやるねえ」「そんなに美しい方とは言わんけれども、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」などと述べ問題になった。文脈から侮辱の意図はなく、むしろ外交手腕を評価するつもりで、スパイスを効かせ過ぎて滑ったようだ。このため麻生氏はすぐに文書で謝罪して発言を撤回した。立憲民主党はこのような些事を、なぜ国会で取り上げるのだろうか。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡って国会では、2021年衆院選で教団系の団体から支援を受けた疑いがあるとして、野党が盛山正仁(もりやま まさひと)文部科学大臣を追及した。たしかに盛山氏は、団体主催の国政報告会に出席して推薦状を受け取り、政策協定にあたる推薦確認書も交わしたようだ。この推薦確認書について盛山氏は、「覚えていない」「サインしたかもしれない」「記憶にない」と発言を二転三転させたため、嘘をついているような不誠実な印象が残った。
ただ、盛山氏は旧統一教会への解散命令を請求した本人で、政府は近く教団に対し、被害者救済の原資となる資産を、海外などに移しにくくするため不動産を処分する場合の事前届出を義務づける方針だ。教団との接点の有無は別として、盛山氏が不当に政策を曲げているようにはみえない。
このため解散命令請求に対する意趣返しで教団側がメディアに情報を流しているとの見方がある。盛山氏と教団幹部の写真や、関係者とハグしたといった証言など、教団からとみられる情報が相次いで報道され、昨年は、岸田首相が元米下院議長と面会した際、教団関係者が同席していたことを示す写真が流出した。このような情報操作に振り回されるとすれば情報提供者の思うツボなので、あえて盛山氏は辞任せず旧統一教会と戦うべきである。(福山博)
(インタビュー)
コロナ禍からの脱却に向けて――アキレス・ジャパンの取り組み――
【東京マラソン2024が開催された翌日の3月4日午後、アキレス・インターナショナル・ジャパン(以下、アキレス・ジャパン)重田雅敏理事長、同田畑美智子理事から、コロナ禍が活動に及ぼした影響、現在の取り組みなどについて聞いた。取材・構成は本誌戸塚辰永】
重田氏は71歳(全盲)。ランナー歴は約20年、その間フルマラソンを約50回、ウルトラマラソンを20回走ったベテランだ。田畑氏(弱視)はランナー歴は20年以上で、フルマラソンを約10回走っている。アキレス・インターナショナルの本部は米国ニューヨークにあり、国際交流が盛んなところが他団体と異なるユニークな特徴である。
東京マラソンに先立つ3月1日、アキレス・ジャパン主催のウェルカムパーティーが東京・新宿の中華料理店で開かれた。アキレス・インターナショナル各国支部(米国は州支部)からの参加者(括弧内は障害者アスリート)は、カナダ2(1)、英国3(1)、モンゴル7(3)、ニューヨーク州5、テキサス州5(1)、アリゾナ州2(1)、ワシントンDC2(1)、カリフォルニア州3(1)の会員で東京マラソン出場者と伴走者ら計29人を招待した。日本からも同数のアキレス・ジャパン会員29人が参加した。なお、東京マラソンのために、別途パナマから2名、ニュージャージー州から3名のアキレス会員が来日した。
重田理事長の挨拶に引き続き、同氏の音頭による3・3・7拍子の応援エールで会場は大いに盛り上がった。次いでアキレス・ジャパン作成Tシャツの配布、各国(州)支部からの参加者紹介などが賑やかに行われた。最後に参加者全員のグループ写真を撮ってお開きとなった。
アキレス・ジャパンにはコロナ前まで400人以上の会員がいたが、現在は300人弱。新たな入会者もおり、会員も徐々に増えつつあるが株価のようなV字回復は望めない。練習は、第2・第4・第5日曜日の東京・代々木公園で、集合場所はJR原宿駅表参道改札口だ。練習参加者は午前9時に集合し、代々木公園に移動して、9時30分から田畑氏の司会でミーティングを開き、12時頃まで伴走者とともにウオーキングやランニングを楽しむ。アキレス・ジャパンの伴走者は、モンゴル、東南アジア、欧米など国際色豊かだ。アキレス・ジャパンの会員も高齢化しており今は50~60歳代が中心で、中には70歳代や80歳代のランナーもおり、最長老は90歳くらいだ。
2020年初頭、新型コロナウイルス感染症が日本でも流行し始めると、「3密」を避けるよう政府が呼びかけたためアキレス・ジャパンは2月末から練習会を休止した。2021年にアキレス・インターナショナル本部が世界各地の支部に呼びかけて、「アキレスカップ」を開催。このイベントは、一人当たりのランニングの平均距離を各支部別に競うもので、アキレス・ジャパンが優勝した。その後、新型コロナウイルス感染症の流行状況をみながら練習会を開催し、昨年(2023年)5月からコロナ禍前同様の通常練習会を開催している。
再開後、会員に練習会参加を呼びかけると、「練習不足で肥ってしまったから参加できない」という話が多く寄せられた。そのほかにも、「万が一うつしたら、伴走者に迷惑をかけるのではないか」という障害者の躊躇もあった。というのは、「伴走者はボランティア意識がとても高い人が多いので、障害者がリクエストするとほぼ断ることがない」。そこで障害者はボランティアの気持ちを忖度して、「やりたいけど迷惑をかけるのではないか」と思い悩むのである。
ランニングをしない期間が長くなればなるほど、参加の敷居は高くなる。たとえ再開したとしても3年間のブランクで体がきつく、元に戻すのはかなり厳しい。こうして練習会参加者はがくっと減ったのだ。これは、他の視覚障害ランナークラブも同様で、同じことが一般ランナーについても言えた。各地で行われるマラソン大会の参加者がピーク時の3分の2や半分まで減少したのである。
アキレス・ジャパンでは伴走者が不足している。なんとか障害者が参加しても伴走者が足りないのだ。そこで、早稲田大学の学生などに助っ人として伴走ボランティアを依頼する。30人くらいボランティアが来ると、何もしないで帰らせることもできないので一人のランナーに数人のボランティアがかわるがわる伴走するということもあった。例えば電車で1時間以上かけて練習会に参加する古参の伴走者は、そういう光景を見ると足が遠のいてしまうのだ。そうすると常に助っ人に依頼せざるを得なくなるイタチごっこに陥り、伴走ボランティアの質が低下する。古参の伴走者は気心も通じており、練習後いっしょに食事に行くこともしばしばだ。障害者の中には、一過性のボランティアに頼ることに不満を抱いている人もおり、その点が目下の悩みの種である。
ところでアキレス・インターナショナルは海外支部との交流に積極的だ。だが海外の大会に参加できるアキレス・ジャパンの会員はお金と暇がある一部の人に限られてしまう。そうした限られた人だけではなくより多くの会員にチャンスをもっと広げていきたい。NPO法人になり寄付金もそれなりに集まるようになったので、なるべく会員に還元したいと重田理事長は考えている。
最近アキレス・インターナショナル本部は、世界中の会員に対して審査を行ったうえで、1500ドル(22万5000円)のスカラーシップを給付することにした。審査に通れば、スカラーシップを渡航費や宿泊費の一部に充てることができるのだ。今年は、まずこのスカラーシップ制度を会員に伝え、初めて応募受付をした。具体的には、オーストラリアのアキレス会員が多く参加する同国シドニーで開催される「シティー2サーフ」というランニングイベントに参加する計画だ。このイベントは世界最大規模で8万人もが集う。14kmという距離も、中高年が多いアキレス・ジャパン会員にはちょうどいい。また、別の会員グループがスカラーシップに応募して、トルコ・イスタンブールの大会にも参加しようとしている。
このようにアキレス・ジャパンはコロナ禍からの脱却に向けて少しずつ活動を再開している。そして今年6月2日(日)には、埼玉県の所沢航空公園でふれあいマラソンを開催する。詳しくはアキレスふれあいマラソン実行委員会重田さん(090-2203-3346)へ。
編集ログ
麻生太郎元首相の失言について、ネット上で「綺麗な顔で、かわいい」と評判の田島麻衣子参議院議員(立憲民主党)が代表質問で、いわば被害者である上川陽子外務大臣に対して「おばさん」と「美しい方とは言わん」などを改めて取り上げて「なぜ大臣は抗議をしないのか」と責め立てたが、これは少し奇妙で、責めるべき相手を間違えていませんか。もっとも麻生氏を相手にしたら「表現に不適切な点があったことは否めず、指摘を真摯に受け止め、発言を撤回したい」(実際の麻生氏のコメント)と謝罪することが目に見えており、それではつまらなかったのでしょうね。
旧統一教会をめぐる高額な献金やいわゆる「霊感商法」の問題を受け、文部科学省は、宗教法人法に基づく質問権の行使や、被害を訴える元信者らへの聞き取りなどを通じ、献金集めの手法や組織運営の実態などの調査を進めてきて、教団の行為は宗教法人法の解散命令の事由にあたるとして2023年10月13日午前、教団に対する解散命令を東京地方裁判所に請求しました。
解散命令を請求する具体的な理由について盛山正仁文科大臣は、「教団は遅くとも昭和55年頃から、長期間にわたって多数の方々に対し、自由に制限を加え正常な判断が妨げられる状況で多額の損害を被らせ、生活の平穏を妨げた」さらに「多くの人に多額の損害を被らせ、その親族を含む生活の平穏を害する行為をし、教団の財産的利得を目的として、献金の獲得や物品販売にあたり、多くの人を不安または困惑に陥れ、その親族を含め財産的、精神的犠牲を余儀なくさせ、生活の平穏を害する行為をした」。そして「宗教法人法81条1項1号及び2号前段の解散命令事由に該当するものと判断した」と述べ、解散命令の事由の「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」や「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」に該当すると説明しました。まったく同感なので当該団体の解散までがんばって欲しいものです。(福山博)