点字ジャーナル 2023年12月号

2023.11.24

目次

  • 巻頭コラム:目には目を、歯には歯を
  • 第71回全国盲人福祉施設大会 ―― 日盲社協創立70周年記念
  • 3D模型の元木研究室訪問記 わが家にピラミッドがやってきた!
  • 待望のサイトワールド2023開催
  • 一人ひとりの心によりそって70年 ―― ロゴス点字図書館が記念祝賀会
  • 鳥の目、虫の目 中学生が発明した薪割り道具「キンクラ」
  • ネパールの盲教育と私の半生(30)NAWBを退職するまで
  • 長崎盲125年と盲教育(8)九州各県の盲唖学校の創立
  • 自分が変わること(173)無目的な旅は人を寂しくさせるか
  • リレーエッセイ:風と絆を感じるブラインドスキー
  • アフターセブン(105)パソコンにコーヒーをぶっかけちゃった話
  • 大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
      (256)幕尻優賞の徳勝龍、ついに引退
  • 時代の風:視覚再生遺伝子の治療効果確認、
      膵がん進行の仕組みを発見、
      糖尿病網膜症の発見と評価に簡便なアプローチ、
      第18回近藤正秋・片岡好亀賞受賞者決定
  • 伝言板:IBSA柔道グランプリ東京大会、
      都電落語会、
      劇団民藝公演、
      ナイトタイム・パイプオルガンコンサートVol.48
  • 編集ログ

巻頭コラム:目には目を、歯には歯を

 今から55年前、中学2年生の私は、歴史の授業でハムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」を習った。教師は「他人の目を害した者は自らの目をもって償い、歯を害した者は歯をもって償わなければならないとはなんと残酷なことだろうと、皆さんは思うでしょう。しかし当時は大けがさせられたので命を狙うというような報復が一般的だったので、受けた害以上の仕返しをしてはいけないという戒めなのです」と述べ、私たちは目からうろこが落ちた。
 10月7日、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは、イスラエル人1,400人を虐殺し、幼児や外国人を含む250人近い市民をガザに連行した。言語道断の蛮行である。
 これに対してイスラエルはハマスを根絶しようとガザを攻撃し、その死者は1万人ともいわれている。ガザは福岡市程度の広さに200万人が住んでいる大都会で、ここを激しく空爆した結果である。イスラエルのネタニヤフ政権は今から3,800年前、現代のイラク南部にあったバビロニアを統治したハムラビ王の戒めを知らないようである。
 先進7カ国(G7)から日本を除く6カ国首脳は10月22日、ハマスのテロに対し、イスラエルの自衛権を支持する共同声明を発表した。
 松野博一官房長官は10月23日の記者会見で、「6カ国は誘拐や行方不明者などの犠牲者が発生しているとされる国」だとして立場の違いを指摘した。
 日本政府が欧米諸国とともにイスラエル支持を表明しなかったのは賛同できるが、その理由が、犠牲者が発生していないからだというのには首を傾げざるを得ない。国連事務総長はガザの状況は「国際人道法違反」と述べているが、そこまで踏み込まなくても、「ガザの人道危機はいっそう深刻化しているため」ぐらいは言えなかったのだろうか。
 パレスチナ自治政府の足をこれまで散々引っ張ることで、イスラエルのネタニヤフ極右政権は、結果的にハマスの増強に手を貸してきた。イスラエルの自衛権を支持すれば、そんな政権の誤ったパレスチナ政策を支持することになるに違いない。(福山博)

第71回全国盲人福祉施設大会
―― 日盲社協創立70周年記念

 第71回全国盲人福祉施設大会が11月9日、東京都新宿区のホテルグランドヒル市ヶ谷で開かれた。主催する社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)は今回、創立70周年記念行事の一環と位置づけた。新型コロナウイルス禍の影響もあり、4年ぶりに視覚障害者福祉に関わる全国の施設関係者が一堂に会する大会となった。
 メインイベントといえる2つの講演会が開かれ、午前の部では、弁護士で名古屋市視覚障害者協会会長の田中伸明氏が「障害者権利条約の国連勧告と視覚障害者運動」と題して講演した。田中氏は子供の頃から視力が弱く、大学入学後に症状が悪化して進路に悩んだ。全盲の弁護士、竹下義樹氏(現社会福祉法人日本視覚障害者団体連合会長)に出会い、「弁護士は視覚障害者でも続けられる仕事」とアドバイスを受けて法曹界に関心を持ち、工学部から法学部へ移った。25歳から司法試験にチャレンジし、苦節15年の末に合格して弁護士となり、「障害のある人とない人が平等に生きていく社会にしたい」と障害者支援の活動に取り組んでいる。
 田中氏は、国連で「障害者の権利に関する条約」が2006年に採択された後、日本では国内法の整備に時間がかかり2014年に批准した経緯を説明。このうち障害者基本法の改正(2011年)に伴い、障害者の定義について、身体や精神などの障害により日常生活が制限されるという「医学モデル」から、障害者が社会制度の不備により制限を受けているとの「社会モデル」という考え方に変わった。さらに最近は表現、居住、職業選択の自由など基本的人権の行使をより重視する「人権モデル」に移りつつあるとした。
 これらを踏まえた上で、国連障害者権利委員会が2022年9月、日本政府の条約への取り組みを審査して不十分な点を指摘した総括所見・改善勧告を解説。この中で、①障害者がグループホームなど特定施設で生活する義務を負わず、居住・移転の自由を確保して地域の人々との交流を広げる②表現の自由を行使するため、点字、音声解説、手話などの意思疎通手段を充実し多くの情報を利用しやすくすることなどを可能とする法整備、予算確保を政府に求めたことを強調し、「所見を生かすため、憲法のいう人権、自由の保障をもとに人権モデルの考え方をしっかり受け止めることが大事」と結んだ。
 午後の部では、一橋大学名誉教授で法政大学大学院教授、クリエイティブ・レスポンス-ソーシャル・イノベーション・スクール学長の米倉誠一郎氏が「視覚障害者活動をイノベーションする:楽観主義・多様性・ソーシャルで」と題して講演した。米倉氏は、技術革新や斬新な発想で社会経済に変革と新しい価値をもたらすイノベーションの研究で知られる。講演では「イノベーションは目的ではなく手段。持続可能な経済発展と地球環境の維持の両立は難しいが、それを達成するのがイノベーション」と切り出した。「この大変な時代の今こそ楽観主義に立とう」と提唱し、楽観主義は「何とかなる」ではなく「何とかする」という意志だと説明。まずは現実を直視することが大事だとし、主要国の1998年と2020年のGDPを比較して日本が韓国、イタリアに抜かれ経済成長が低迷している原因として、労働時間が長い割に生産量が伸びず生産性も賃金も低いことを挙げた。生産性を上げるためにAIやロボットを活用して労働時間を減らし、付加価値の高い製品で生産量を増やすことが肝心だと述べた。
 さらに、日本の長所として、製品の信頼性が高く、共通の目標を持った時や危機を迎えた時に強みを発揮するとして、明治維新、第二次大戦後、オイルショックなどの危機を乗り越えて成長してきたケースを例に取り上げた。危機対応の基本原則として「弱いところを嘆かず、強いところをより強くする」必要性を挙げ、地球環境の危機の中、共通目標としてSDGsに資源を集中するべきだ、と指摘した。障害者についても障害(バリア)を価値(バリュー)に変える視点の重要性を提案し、「視覚障害者だからこそできる仕事がある」などの楽観主義的な考え方がイノベーションにつながり、「多様性の高い組織が生産性も高い」「今の日本には新しい視点・異なる視点が必要」と説いた。
 講演会の後に記念式典が開かれ、長年にわたり日盲社協や各施設の運営を支えてきた援護功労者・団体、ボランティア、永年勤続職員らの功績をたたえ、表彰状や感謝状が贈られた。続いて今大会のアピール文を発表。60周年大会からの10年を振り返り「コロナ禍が一定の収まりを見せてきた現在でも、私たちは前に踏み出すことに多くの障害を抱えている。各種機器の保守、製作の滞り、施設利用者の減少、職員の人手不足は今の時代、各施設の努力だけでは解決できない構造的な状況となっている。障害者総合支援法、障害者虐待防止法、障害者差別解消法、障害者雇用促進法の施行、社会福祉法人制度の改正、視覚障害の認定基準の変更、読書バリアフリー法、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の施行と続き、非常に重要な10年だったといえる」と総括。さらに「急速に普及し始めたAI技術は、我々の今後の方向性を変えるかもしれない。何ごとにもマイナスもプラスもあるが、問題は私たちが技術に使われないよう努力すること」と一例を挙げた上で「多くの課題に対して、日盲社協は部会や他の法人、団体との垣根を取り払い、多くの英知を集めて問題解決に立ち向かう必要があり、厚生労働省、関係団体と腹蔵なく話し合うこと」を強く訴えた(アピール文は抜粋)。
 今回は、「未来に向けた前向きな大会にしたい」という長岡雄一理事長の方針の下、記念講演の講師の選定をはじめ、プログラムの決定、記念誌発行の編集など、入念な準備作業を積み重ねてきた。
 4年ぶりの対面開催とあって、式典に続いて開かれた祝賀会は旧交を温める場となった。祝賀会では、乾杯の音頭をとった本間昭雄名誉会長が「94歳になる。70周年の歴史を知る者は私だけになった」と歴代理事長の名前を挙げながら日盲社協発足当初からの足取りを振り返った。また、創立50周年の式典に出席された天皇皇后両陛下(当時)と皇居で会見した思い出などを披露した。
 ホームページなどによると、日盲社協は、岩橋武夫・日本盲人会連合会長(故人)の呼びかけに応え、視覚障害関係32施設の代表者が集まり1953年9月29日に発足。社会福祉関係機関・団体と緊密な連携をとりつつ、盲人福祉施設事業を育成強化し、福祉サービスを必要とする人々が社会・経済・文化などの活動に参加できるよう援助し、視覚障害者の福祉の増進に寄与することを目的としている。
 現在、198の施設が加盟する法人として多彩な活動を続ける日盲社協だが、この全国盲人福祉施設大会の開催も活動の柱といえる。(塚本泉)

編集ログ

ロシアによるウクライナ侵略は正邪の別が明白です。このため、わが国の親露派はロシアのよこしまな行為を正当化できないので、人道を名目に即時停戦を主張しています。しかし、ロシアが侵略した領土を固定化するような停戦を行えば、軍事力による現状変更にお墨付きを与えることになります。すると軍事力による一方的な現状変更が認められるという誤解を与えかねないので、国際社会はこれを決して許すべきではありません。
 一方、イスラエルの極右政権とテロ組織ハマスの戦いは正邪の別が曖昧です。1993年にイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間で合意された一連の協定「オスロ合意」は、イスラエル軍が占領地のヨルダン川西岸やガザ地区から撤退し、パレスチナ側が暫定的な自治を始めることで合意したもので、2国家共存を目指した中東和平交渉に道を開いた歴史的なものです。
 しかしその後、パレスチナではハマスが台頭し、自爆テロを繰り返したのに対し、イスラエルも空爆や軍事侵攻などをたびたび行って対立が深まり、交渉は2014年を最後に途絶えています。和平交渉が停滞する中、双方による暴力の応酬が続いて、今回の大規模な衝突が起こったわけです。
 イスラエルの自衛権を支持するG7の共同声明に日本が加わらなかったのは、イスラエルとパレスチナ双方と友誼を結んでいるからです。イスラエルを1952年に承認し、その後経済分野を中心に協力を拡大してきました。一方、パレスチナに関しては70年にわたって難民救援を続け、パレスチナ独立を前提とした「2国家解決」のためのインフラ整備、人材育成の支援にも積極的に取り組んできました。
 そのような長年の努力は国際社会でよく知られており、率直な立場の表明で、イスラエルの自衛権を支持しなくても欧米諸国からの理解は得られたに違いありません。また、6カ国は誘拐や行方不明などの犠牲者がいるので、イスラエルを支持しているのでしょうか? その言い草は6カ国のプライドをいちじるしく毀損しているように私には思えます。(福山博)

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