点字ジャーナル 2023年7月号
2023.06.23
目次
- 巻頭コラム:状況追従主義というリスク
- (匿名座談会)学校選択に悩む保護者たち
―― 視覚障害児童・生徒の教育を考える - (寄稿)安心して横断歩道を渡るために
―― 実証実験に参加して - ネパールの盲教育と私の半生(25)ネパール内戦
- 長崎盲125年と盲教育(3)創立にかける当事者の思いと理解者の支援
- 自分が変わること(168)台湾のやわらかさ
- リレーエッセイ:甲斐商店物語(下)
- アフターセブン(100)読書で人間らしい生き方を再発見しよう!
- 大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
(251)空前絶後のトリプル大関取り - 時代の風:タンデム自転車都内で2人乗り解禁、
アジア初ケン・ロード賞受賞、
非アルコール性脂肪肝炎の原因解明、
睡眠中の歯ぎしりと食物繊維摂取量 - 伝言板:第41回日本ライトハウスチャリティコンサート、
パラカヌー体験、劇団民藝遠藤周作作品公演、
藤原章生『差別の教室』発売 - 編集ログ
巻頭コラム:状況追従主義というリスク
御厨貴(みくりや たかし)東大名誉教授が「宏池(こうち)会(岸田派)は平和を重んじていたのに、最近は変わったのではないか」と岸田文雄氏に聞くと、「平和主義は変わらないが、状況が変わったからしょうがない」と答えたという。過去にここまでノンシャラン(無頓着)な首相はいなかった。首相は新型コロナでもウクライナでも、利用できるものは利用して、「状況追従主義」で対応していると批判している。
「ある定見に基づいて行動するのではなく、形勢を見て有利な方に追従する」のは日和見主義ともいうが、余りに毒があるので御厨氏は状況追従主義と言い換えたようだ。
だが状況追従主義、日和見主義、事大主義は結局同じことである。これらの考え方は一見賢く見えるが、判断したその瞬間に思考停止に陥り他力本願に至る。
勢力の強い者に追随して自己保身を図る態度・傾向は、朝鮮史における朝鮮王朝のとった対中国従属政策が好例である。どちらの国が強そうかは、ほとんど考えなくてもわかる。日清戦争の前、圧倒的な国力と軍事力を誇ったのは清国だったし、日露戦争の前、圧倒的な国力と軍事力を誇っていたのはロシアだった。だが、私たちはその両戦争の結果と、その後の朝鮮王朝の行く末を知っている。
わが国でもナチスドイツによるポーランド、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランス占領に幻惑された陸軍を中心に「バスに乗り遅れるな」を合い言葉に日独伊三国同盟が締結されたが、この事大主義が間違いの元であったことは歴史が教えている。
岸田首相は「異次元の少子化対策」で、少子化対策を含むこども関連予算を防衛費同様倍増する考えを示している。防衛費を2027年度にGDP比2%に増額するのはNATOが防衛費をGDP比2%にするからのようだが、わが国はNATO加盟国でもなければ、ヨーロッパにも位置していない。財源の議論を後回しにして規模だけを明らかにするのは、状況追従主義による思考停止ではないのか。(福山博)
(匿名座談会)
学校選択に悩む保護者たち
―― 視覚障害児童・生徒の教育を考える ――
【5月26日、当協会に4人の視覚障害者にお越しいただき、極めて問題の多い盲学校教育とインクルーシブ教育の現状を明らかにするとともに、それぞれの課題について語っていただいた。『点字ジャーナル』では実名報道を心がけていますが、今回は例外で、参加者が仮名による匿名座談会とさせていただきます。そうしないと当たり障りのない議論に終始して本音が聞こえないからです。司会・構成は本誌 戸塚辰永】
司会:本日はお忙しい中お集まりくださりありがとうございます。今日のテーマは、「視覚障害児童・生徒の教育について考える」です。教育は、社会生活を送る上での基盤となるので、誰にとっても重要ですが、視覚障害者にとってなおさら重要であることは論を俟たないと思います。2022年9月、国連障害者権利委員会は日本政府に対し分離された特別支援教育を中止し、インクルーシブ教育に舵を切るよう勧告しました。これに対して永岡桂子<ナガオカ・ケイコ>文部科学大臣は、多様な学びの場で行われている特別支援教育の中止は考えていないとし、現行の教育システムを維持しつつ、勧告の趣旨を踏まえてインクルーシブ教育の推進に努めたいと述べました。藤井亮輔<フジイ・リョウスケ>筑波技術大学名誉教授は、本誌2022年3月号で、日本学生支援機構の調査をもとに2019年度に大学で学ぶ視覚障害学生の総数を887人と述べています。私の推測では、盲学校を卒業して大学へ進学した人はそのうちの2割程度で、そのほかの人はインクルーシブ教育を受けていたのではないかと思います。日本でも実態は、いわゆる盲教育よりはるかにインクルーシブ教育の方が多いのです。本日は、どうしたら視覚障害児童・生徒がきちんとした教育を受けられるようになるのかを考えたいと思います。それではまず簡単な自己紹介からお願いします。
佐藤:私は生まれつきの強度の弱視です。幼稚部から高等部まで盲学校で学び、一般大学に進学しました。現在民間企業に勤務しています。
鈴木:大学在学中に緑内障により視覚障害になり、現在は中心視野がありません。職業は会社役員をしています。
高橋:網膜色素変性症で、17歳で左目を失明しましたが、小学校から普通校で学び、一般大学へ進学して卒業しました。就職は中学校の教員を希望したのですが、当時は視力が0.7以下は採用されませんでした。しかし全国に先駆けて東京都で障害児全員就学が始まり、教員が足りないということで養護学校に採用されました。以来、知的障害、肢体不自由、盲学校教諭を経験して50歳くらいで全盲になりました。その後は盲学校に勤務して、退職まで働きました。
田中:障害が分かったのは一般校の中学校で3年に上がったときでした。何気なく森田健作(後の千葉県知事)主演の「おれは男だ!」という1971年から1年間放映されていたテレビ番組を見ていて、なんとなく片眼をつぶって見たら見出しがまったく見えなかったのです。それでこれは遺伝性のレーベル病だと思いました。というのは、先に弟が発症して大学病院で診断されていたからです。なんとか読み書きはできたので中学校を卒業して、高校から盲学校に行き普通科、専攻科、理療科教員養成施設へと進学し、かれこれ40年以上理療科の教員をしています。
司会:佐藤さんはずっと盲学校で教育を受けて、大学へ進学しましたが、ギャップはありませんでしたか?
佐藤:盲学校にいる間は、それほど違和感は感じませんでした。ただ、幼稚部に入る前近所の子供と遊んでいましたが、盲学校に行ってから近所の友達はいなくなりました。でも大学に行ったとたんに、友達のつくり方がわからなくて困りました。職場には統合教育を受けた人が何人もいるんですが、盲学校へ行ったメリットは自分で何とかしたいともがく、自立心が旺盛になったことだと思います。
司会:鈴木さんは大学在籍中の失明で、困ったことはありませんでしたか?
鈴木:点字もできないし、音声パソコンも使ったこともなかったので、そもそも生活がままならなくなりました。大学に相談したら配慮してくれてなんとか卒業はできましたが、苦労の連続でした。
高橋:私は幼いころから球技が苦手でいつも鉄棒で遊んでいました。それが高じて大学まで器械体操を続けたのですが、見えづらいために跳馬に激突することがよくありました。
司会:田中さんは中途で失明して、高等部から盲学校へ行き、点字を覚えたり、白杖歩行で苦労しませんでしたか?
田中:苦労といえば、苦労せざるを得なかったですね。当時は教科として自立支援活動が必修ではなかったんです。たまたま同級生に優秀な人たちがいたのですが、彼らも点字が十分ではなく放課後練習しました。特に苦労したのは英語の略字でした。歩行については、クラスには点字使用で独り歩きができる人が何人もいて厳しく接してくれたので、何度となく迷いましたが独り歩きができるようになりました。さっき佐藤さんがおっしゃったように一定の人数がいれば競争は成立しますが、現状の盲学校では学級当たりの人数が極めて少ないので、その中での競争は起きにくいですね。
司会:盲学校の児童・生徒数について全国盲学校長会が最新のデータを出しています。1960年代には1万人以上盲学校に在籍していましたが、2023年度の児童・生徒数は2288人まで減少しています。理療科の生徒数は割愛します。幼稚部166人。小学部530人、内単一障害が248人、重複障害が282人。中学部が419人、単一障害が221人、重複障害が198人。高等部本科普通科が552人、単一障害が364人、重複障害が188人でした。全国にいわゆる盲学校が67校ありますが、1校当たりにすると34人です。このデータを見て現在盲学校がいかに活力がないかが見て取れます。
高橋:今の数字ですが、私の経験とは違います。単一障害が半分くらいいますよね。自分の教えてきた盲学校ではそんな割合ではないです。軽度の重複障害児まで単一障害に含めていると思います。普通の授業についていく能力があって、点字を使用して勉強している児童・生徒は5%くらいでしたね。来年小学校に入学する視覚障害児を持つお母さんが、授業を見学に来るのですが、ちらっと見てもまともにしゃべることができる子がいない。クラスに3人しかいなくて3人とも重複だったりすると、うちの子はこの学校には通わせられないと思って地域の学校に行くしかないと腹をくくる人が多いのです。例えば幼稚部の卒業式はりっぱにできるんですが、小学部の卒業式はしゃべれる子がほとんどいないので型どおりにできないのです。この幼稚部と小学部の逆転ぶりは今の実態です。校長会のデータからはわかりませんが、重度重複がとても増えているということです。
田中:そうだと思います。校長会の出した人数は学級認可との関係があって重複認定している人数だけだと思います。
高橋:軽度の知的障害のあるお子さんは重複に入っていないということですね。でも軽度の知的障害のある子は点字が読めないんです。
鈴木:小学部にはそういう人しか入ってこないということですか?
高橋:そうです。幼稚部に通っていてもできそうな子は普通学校に行くのです。盲学校は少人数という足枷もあるし、重度重複化していますからね。なぜそうなっているかというと、二つ理由があって、盲学校は児童数をある程度揃えないと、教員が揃わない。教員が揃わなければ満足な指導もできない。もう一つは、親御さんがうちの子は盲学校に行っているんですよと言う方が、養護学校よりも聞こえがいいからです。ただ、盲学校のいい点としては、点字を習えるとか、歩行訓練が受けられるとか、特に場所の認知とかできて、独立した生活力が身につくとかがあります。一方、中学まで普通校で揉まれて成績もビリでトラウマを抱えて盲学校高等部に戻ってくると、突然生徒会長になって英語でスピーチしろって言われて自信をつける生徒もいます。
田中:たしかに地域の小学校を卒業したが、中学校は厳しそうだから、盲学校の中学部へ来て伸び伸びというケースもずいぶん見てきています。
高橋:お母さんがいつもお子さんと接しているので、一番の理解者になりますが、そこに水を差すのがお父さんです。また家族でよく話す家庭だと両親は障害についてよく理解しますが、その家族の足を引っ張るのは親戚や祖父母です。お母さんは板挟みになり、子供を養護学校に入れると責められちゃうんです。そんな子供を産んであの嫁はみたいな話が平気であり、お母さん一人で奮闘しているご家庭をいっぱい見てきました。
鈴木:ちなみに、1960年代に1万人以上だった児童・生徒が、2288人まで減っているのは医療の発展とか地域の学校に流れているからですか?
田中:厚生労働省の調査では、視覚障害児童・生徒が全国で5000人いると言われています。
高橋:地域の学校へ流れている子が多いんですよ。
佐藤:私のころは未熟児網膜症の同級生がいました。おたふく風邪やはしかで高熱を出して失明した人もいましたね。
鈴木:昔は結膜炎などで医者に行けば治るのに、放置して視覚障害になった人も多かったんじゃないでしょうか。
田中:そもそも、子供の数が減っていますからね。
高橋:普通学校で支えられるものがあれば、インクルーシブ教育も道が拓けると思いますが、全ての教員に盲・聾・養護の免許を取れるだけの教育を受けてもらってから小学校、中学校に配置することは現実的ではありません。
鈴木:これまで聞いていて思ったことは、中途失明者にとって盲学校ってすごく学びやすい環境が整っているところだと思いました。普通校に行ったら点字も本格的に習えないし、3年間席に座ったままになっちゃうと思いました。インクルーシブ教育を受けていて途中で視覚障害が悪化した人への対応がどうなるのかが心配ですね。
高橋:アメリカなんかはごく少ない盲学校で、通級指導で点字や白杖歩行の指導などをやっていますが、不十分極まりないと思います。
佐藤:アメリカは広いですからね。
司会:私が注目するのは、高等部本科普通科の生徒数なんですが、552人中単一障害が364人、重複障害が188人と、一気に単一障害が重複障害の2倍に増加していることなんですが、これをどう考えますか?
高橋:普通高校に進学できず盲学校に来る人が多いのです。
佐藤:附属盲でもそうですね。
田中:附属盲は全国区なので、全国から集まるから生徒が減ることを心配しなくてもいいから左うちわなんです。公立の盲学校から附属盲に合格するということは、学級数が減るということで、1学級なくなれば教員が2人削減されます。
高橋:これは教員のエゴじゃなくて、教員が2人いなくなることで個人差が激しい盲学校では教育の質が落ちてしまうのです。もう一つ、重複の人が高等部になると減っているという原因には、中学部までは義務教育だから相当努力して抱え込んでいるんです。そこから先になると、特別支援学校の知的障害部門に行く子もけっこういます。さすがに卒業後を考えると、知的校の方が進路に繋がりやすいのです。
鈴木:昨日私はスポーツ庁の障害者スポーツ室長の講演を聞きました。スポーツ庁は、国民みんながスポーツをして健康になりましょうということで動いていますが、障害者のスポーツ実施率がとても低く健常者が50%くらいなのに障害者は30%くらいです。しかも、障害者のスポーツには散歩も含まれているのです。その中で一般校で体育の授業を受けられているのかという調査があって、30%が受けられていないと答え、70%が受けられている、たまに受けられているという回答でした。
佐藤:でも見学が多いですね。体育の教師から聞いたのですが、途中から盲学校へ入ってくる子供は体育の授業を受けたことがない子がほとんどだと言っていました。
鈴木:体育の授業は、見ているだけで出席点になるんです。これは障害児が普通校へ行ったときに満足に受けられているかという尺度になります。
佐藤:一般の人は障害者がスポーツなんてやらないと思っているから、就職1年目の職場の運動会でムカデ競争にも出してもらえなかったんです(笑)。盲学校では水泳もトランポリンも、スキーもやっていたんですよ。
田中:たまたま、小・中・高と一般校で学んだ生徒が専攻科に入学して、フロアバレーボールやSTT(サウンドテーブルテニス)があることを知ってとても喜んでいました。
佐藤:インクルーシブ教育をやっている学校へ行って、障害者もできるスポーツを広めるための出前授業が増えてもいいんじゃないかな。本人だけでなく、周りの子供たちや教師にも良い刺激になりますよ。
田中:この間の日視連大会でスポーツ部会が、地域の学校で学んでいる視覚障害児に視覚障害者でもできるスポーツを紹介してはという意見があがっていたのはとてもいいことです。
鈴木:中・高時代に盲学校に行っていなければ、そもそも大人になって視覚障害スポーツに出会わないでしょうね。
司会:水泳だったら全盲でも泳げるわけじゃないですか。でも、一般校へ行っている子は水泳をやらせてもらえるかというとそうではないようですね。
高橋:私もけっこう相談を受けました。スイミング・スクールに通っていたが、もう来ないでくれって言われた人がいたので、河合純一さん(日本パラリンピック委員会委員長)に対応してもらったことがありました。
鈴木:さっきの教員免許の話に戻りますが、普通校の教員免許に特別支援教育について何十時間はやらなければいけないという風にすれば、変わってくると思います。
高橋:でもそうすると教育学部は8年やらないといけなくなります。
鈴木:ただ、普通校に行く教師も多少はやっておかないといけないでしょう。
高橋:今教職課程に2単位介護体験があります。盲学校に介護実習で来るんだけど、2日間くらい大学生に教えていました。
鈴木:実際体育の教員になって障害のある生徒を受け持つわけだから、必ず大学で専攻するとか必要ですよね。
佐藤:今、タジキスタンでインクルーシブ教育についてやっているんですが、大学のプログラムに入れようと動いています。
鈴木:大学のプログラムに入るとだいぶ違ってくるんじゃないですか。
佐藤:ちょっとでも入れば、少なくとも障害者はできないというイメージが払拭できます。
高橋:どの大学も先ず指導教授を養成し、指導課程を作り、採用試験を整え、各地の教育委員会は支援教育に対応するための助言者や施設や教材など受け入れ態勢を整えていくという、相当なステップを日本では踏まなくてはなりません。
鈴木:日体大では相当な奨学金を出してパラスポーツの学生を集めています。日体大は体育の教員を養成する大学でもあるから、パラスポーツ関係の教育はかなりされています。
高橋:そういったきっかけがあって、パラリンピックで頑張ってもらうとグーンと理解が広がるんじゃないかな。
佐藤:筑波大もせっかく附属盲があるんだから、もっとやればいいのに。
鈴木:筑波大にはわりとパラリンピックの選手がいるんですよ。教育が変わっていくと、30年後には社会も変わっていくんじゃないですかね。
司会:点字使用者は、昔は母親が、今ではボランティアが点字教材を作成してそれなりに勉強できていると思いますが、弱視の児童・生徒は学年が進むにつれて勉強に追いついていけないのではないでしょうか?
田中:それは点字の教科書があっても、ちゃんと教えられる教師やボランティアがいないといけません。例えば、小学校までできていても中学校に入って略字のある2級英語がわからないで、大学受験をべた書きの1級英語で受けさせてもらいたいというケースも出てくるから、優秀な子供で優秀なサポートが受けられればいいが、点字使用者だからと言ってそう簡単ではありません。
鈴木:今は弱視の子供たちにはタブレットに、文部科学省が認可した教科書を全部入れられ、文字サイズも変えられるし、読み上げもできます。でも、数学はそうはいかないので、盲学校では必ずそろばんをやっていると聞いて意外に思いました。
佐藤:小学部の時、そろばんをやっていましたよ。
高橋:私は普通校で勉強しましたが、一番苦労したのは漢字でした。教師がここではねるとかはらうとか言って黒板に書くのですが見えないから、隣の女の子に聞くのですが、いつもバツでした。
佐藤:それって女の子に嫌われていたんじゃない(笑)。
高橋:数学だと図形だとか、社会だと地図だとか、理科だと実験だとか、弱視ゆえにできないことがありました。でもその原因が弱視であることを教師に理解されないことがありました。
田中:弱視ゆえにできないということを教員がちゃんと理解してフォローしているかが問題ですね。
司会:私は大学卒業後に理療科に進学したのですが、学齢で入ってきた人が基礎学力がついていなくて、理療という医学教育についていけるか心配しました。
田中:それは、一概に学齢だからというわけではありません。
佐藤:これは、経済学部の学生が分数ができないという話に似ているかもしれませんね。
高橋:ただ、盲学校の出身者でいうと、経験の幅が狭いということはあるのかなと思います。どうしても眼が見えないと受け身になりますからね。
佐藤:私とか田中さんの時代だと、門戸を閉ざしている大学がすごく多かったですからこちらから働きかけないといけませんでした。それが、今はAO入試で行けるからがつがつする人がいなくなっています。
司会:小・中は盲学校でしっかり教育を受けて、高校からインクルーシブ教育を受けるということはどうでしょうか? もちろん、盲学校には点字や専門的な教育を教えられる教員がいるということが前提ですが。
高橋:そうは言っても、東京だったら附属盲があるから選択の余地もあるかもしれないけど、地方はそうはいかないでしょう。
鈴木:そうなってくると、インクルーシブ教育が地域で根づいていないと、選択肢がゼロということになりますよね。
田中:盲学校ではなまじっか同級生がいない方がましってこともあります。
鈴木:例えば盲学校が車で2時間以上かかるような所にあったら、寮生活になるんじゃないですか。それで、思うような教育が受けられないんだったら、徒歩で行ける地域の学校を選ぶんじゃないかな。
田中:地域の学校というのもあるとは思いますが、わりと近くに特別支援学校があるんです。そっちの選択肢も出てきますよ。まさに、特別支援学校は障害種別に拘らず個別のニーズに応じて対応しろというのが基本ですからね。
高橋:でも、その学校で点字を教えられる教師がいるかは問題ですね。
田中:それは、保証の限りではありません。
佐藤:地域の学校に行くのもやむなしだから、もっと障害独自の情報をどのくらい届けられるかが重要になりますね。
田中:それは極めて大きいです。
高橋:インクルーシブがいいとか盲学校がいいとかいうよりも、やっぱり障害児教育が難しいということですね。それは結論にならないかもしれないが、インクルーシブ教育をまともにやるのも難しい。いろんな条件整備が必要でしょうし、盲学校に大勢の生徒を集めることも難しい。そのへんのところをわかったうえで議論をしないと、へんな方向に行っちゃいますね。
田中:東京都は弱視学級に点字使用者を受け入れませんが、他の県では弱視学級に時々点字使用者がくるのです。そのうち、1校か2校に点字使用者がいるんですが、ちょっとした教材やプリントを作るのにとうとう弱視学級の教師が音を上げてしまい、教育委員会に人を手配してほしいとSOSを出しました。たまたま視覚障害教育の経験がある教師がいたので派遣しました。地域の学校へ行ったときに障害種別に対応したニーズに応えられるようにするのはなかなか厳しいですね。インクルーシブ教育は将来的なゴールとしてはありえますが、学校現場はいろんな課題を抱えていて、最近はブラック職場の代表みたいに言われていますからね。
高橋:振り出しのところの話ですが、国連障害者権利委員会から日本がインクルーシブ教育をやっていないからやれって言われました。大多数の国がインクルーシブ教育に賛成していると言うけど、その実情はどうなのか事情通に尋ねました。すると、発展途上国では盲教育もろくすっぽやれていない。だからこそ国が障害児教育にお金をかけられないからお金がかからないインクルーシブ教育に賛成して、国連全体の意見になっています。いま日本では、山でいうと中腹を歩いていて、こっちの道がいいかな、あっちの道がいいかなといろいろ試行錯誤しながらやっているからこそ、悩みがあると思うんですよ。そこを教育の機会も与えられない国がまだ沢山ある中で、麓にもたどり着いていない国の理想論に振り回されて、インクルーシブ教育が一般的だと考えてしまうと、へんな方向に行っちゃうと思いますね。アメリカでもしっかりしたインクルーシブ教育ができているとは思えません。それができているのは、北欧とドイツくらいで、それも完ぺきではないでしょう。世界の趨勢という感じで、日本だけが遅れているという言われ方は違うと思います。インクルーシブの理念を大事にすることは大切だけど、形だけインクルーシブにすることには疑問に思いますし危険です。形が整わないから日本は遅れているとかNHKなんかは平気でそういった番組を流しますが、もう少し教育界のことを勉強して欲しいものですね。
鈴木:ああいう番組って最初に結論ありきで作りますからね。日本では、インクルーシブ教育を受けたいと言ったら、今、学校側は断ることができないでしょう。
司会:地域の学校は受け入れるしかないでしょうが、その学校に点字のわかる教師がいるかどうかは別問題ですね。
高橋:インクルーシブ教育がいいって言っている人は、差別しないでくれって言っているようなものです。それは理想ですが、だからといって学業が身につくかどうかは別問題なのです。教育を受ける形だけを先行させて議論するのではなく、まずは我が子にとってどのような教育内容や人間関係が必要で、国や社会、普通校や盲学校は、今何ができて、何を目指していくべきか、子ども自身の視点や立場に立って考える必要があると思います。
司会:本日は本質に迫る話をうかがうことができました。長時間にわたるご議論ありがとうございました。
編集ログ
岸田翔太郎内閣総理大臣秘書官が6月1日に辞職しました。
岸田首相は4人きょうだいの長男で、弟が1人と妹が2人います。2022年12月30日首相公邸の居住スペースで、このきょうだいとその子供達(いとこ同士12人)が一堂に会した忘年会が行われました。そこには岸田首相も顔を出しています。この会の主催者は、上座にすわって睥睨して写真に写る首相の長男・翔太郎氏のようです。
問題は首相公邸には公的スペースと居住スペースがあるのですが、公的スペースで悪乗りした写真を撮影し、それが『週刊文春』に流れたことにあります。
首相公邸の赤絨毯の階段で、いとこたち12人が組閣時の新閣僚をマネた記念撮影をしています。むろん総理の位置に立つのは翔太郎氏です。さらには、首相官邸のロゴが入った演説台でポーズを決めたり、アイスのカップを持って階段に寝そべるいとこ達の写真もあり大はしゃぎです。
それらの写真が『週刊文春』6月1日号(5月25日発売)に掲載されると、広島サミットの影響で急上昇していた内閣支持率が5ポイントも急落しました。このため翔太郎氏は更迭されたのだと報じられました。
さらに問題なのはこれらの写真がどこから『週刊文春』に流出したかです。いとこ12人のうちの誰かが友人・知人にメール等で送ったものが、『週刊文春』に転送されたのでしょうか。
会員制情報誌の月刊『ザ・ファクタ』は昨年の12月、翔太郎氏の秘書官就任直後から、官邸内の極秘情報が外部に漏れていると報じました。疑われている流出先はフジテレビの総理番の女性記者で、それがフジテレビのスクープに繋がっているというのです。
岸田首相には「検討使」なる不名誉なあだ名がつけられていますが、その理由はなかなか決断しないからだそうです。そういう意味では深く考える必要がない状況追従主義は便利なのでしょう。子息もあるいはその伝で、ノンシャラン(能天気)なのかも知れません。(福山博)