点字ジャーナル 2023年3月号

2023.02.27

目次

  • 巻頭コラム:相互主義
  • あはき国家試験会場統合をどう考えるか
      ―― 合理的配慮の視点から
  • あなたもピアサポーターに ―― 東京都の研修に参加して
  • お宝は世界を救う―― ヒカリカナタ基金と「なんでも鑑定団
  • ポストコロナのネパールを行く 荒れた街の不条理(3)
  • 読書人のおしゃべり 『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』
  • ネパールの盲教育と私の半生(21)英語点字ハンドブック
  • スモールトーク 高値のおもちゃポケトーク
  • 西洋医学採用のあゆみ(24)連載を終えるにあたって
  • 自分が変わること(164)偶然みつけた、死についての言
  • リレーエッセイ:走る魅力が継続中
  • アフターセブン(96)有名漫画家がくれたプレゼント
  • 大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
      (247)大関貴景勝の綱取り
  • 時代の風:企業の障害者雇用率3年後に2.7%に、
      大腸がんの再発リスク 血液で判別、
      腸内フローラが持久運動に貢献、
      ユーチューが白内障患者の開眼手術を後援
  • 伝言板:詠進歌 来年のお題は「和」、第32回アメディアフェア2023、
      劇団銅鑼公演、大人が楽しむバリアフリーコンサート、
      藤原章生最新刊発売
  • 編集ログ

巻頭コラム:相互主義

 日本のマスコミは異口同音に「中国政府が1月10日、日本人、韓国人へのビザ(査証)の発給を停止した。中国外務省の報道官は中国に対象を絞って、差別的な入国制限措置をとっているとして、対等な措置をとると明言した」と報じた。しかも中国による日本人向けビザ発給の一時停止の範囲は幅広く、韓国への措置よりも厳しい。
 だが、この件に関して韓国はその前に中国人に対してすでに短期ビザの発給を停止していたので、相互主義の原則から、中国が韓国人に対してビザを停止したのは常識的な対抗措置ということができる。一方、日本は中国人へのビザ発給を停止していないので、まったく不当な措置である。したがって、この件については日本と韓国を一緒くたにすべきではない。そういう意味においては中国政府も日本のマスコミも同罪である。
 さらに韓国は8000円ほどのPCR検査を自費で払わせており、陽性だった場合は7日間隔離するがその費用は宿泊費はホテルによって1泊8万~15万ウォン(約8,500~1万6,000円)。一方、日本は中国本土からの入国者と、7日以内に中国への渡航歴がある人を対象に、日本への入国時に検査を実施。陽性が判明した場合は、原則7日間、隔離する。これは日本人を含むすべての人が対象だ。PCR検査も7日間の隔離措置も日本政府が費用を負担するなど、わが国は極めて穏当な措置をとっている。
 その後、中国政府は日本人へビザ発給を公務や一部のビジネスを対象に、限定的に認めはじめ、1月29日には日本人向けの渡航ビザ発給手続きを再開した。
 政治的な要因で政策がころころ変わるのは中国政府の十八番で、特に習近平政権下では、なにより政治的メンツが経済合理性に優先するようになった。
 それに対して日本のマスコミは、断片的な情報を垂れ流すだけで、総合的で均衡のとれた本質に迫った報道はできていない。(福山博)

あはき国家試験会場統合をどう考えるか
  ――合理的配慮の視点から――

日本理療科教員連盟会長 工藤滋

1.経緯

 1992年度に始まったあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師国家試験(以下、国試と記す)は、2004年度の第13回までは、一部を除いて、盲学校のみを国試会場としてきた。しかし、相次ぐ晴眼者のあはき師養成学校の新増設に伴う受験生の急増を受けて、2005年度の第14回からは、視覚障害者と晴眼者の会場を分けて実施するようになった。その後、視覚障害受験者数の減少がみられはじめたため、2007年度の第16回からは、原則「新卒受験者が3年連続で5名未満となった学校があれば統廃合を行う」ということとなり、この状況が7年間続いた。
 しかし、2014年度の第23回に新たに統廃合の対象校となった鳥取盲学校が自校での受験を強く要望し、全国盲学校長会(以下、校長会と記す)会長と当時の東洋療法研修試験財団(以下、財団と記す)理事長とで協議が行われ、「視覚障害受験者の激減等の状況変化がない限り受験者が1名でも統廃合は行わない」との決定がなされた。以降、この方針に基づいて国試が実施されてきた。
 ところが昨年6月、財団より日本理療科教員連盟(以下、理教連と記す)会長に対して、視覚障害者の国試会場統合についての検討が始められている旨の説明があった。主な理由は、受験者数減少に伴う試験事業収益の悪化という財政的な問題であった。

2.国試会場統合をどう考えるか

 財団からは、校長会会長と理教連会長に、6月には統合案作成に向けての概要が、9月末には統合に向けた原案が示された。また理教連からは、メールや文書で質問し、それらに対する回答も送付されてきた。これらの資料には、財団の財政状況が悪化しており、改善策が必要になっていること、近年理療科生徒数が激減し、2014年度の統廃合を行わない決定がなされた際の文書にあった「視覚障害受験者の激減等の状況変化がない限り」という状況になっていることが書かれていた。
 ここで考えるべきは、国試会場統合が、視覚障害者にどのような影響を及ぼすかである。視覚障害者が単独で初めての場所に行くのには、多くの時間が必要で、また常に強い心理的不安を伴う。国試会場の環境を事前に確認するためには前泊が必須であるが、不慣れな場所での宿泊にはさらに大きな負担を抱える。単独歩行が困難な者は同伴者を探さなければならないが、宿泊を伴う都道府県をまたいだ移動の介助者の確保は容易ではない。学習に必要な拡大読書器や点字タイプライターを数日前に国試会場に発送しておかなければならないため、運搬中の故障や国試直前の最も大切な時期に、機器を活用した学習ができないというストレスも加わる。これらはいずれも視覚障害に起因するものであり、また国試受験という最も重要な場面において、余分な負担と不安を与えることになるため、受験者にとっては大きな不利益であると言える。
 また、2014年に日本が「障害者権利条約」を批准し、2016年に「障害者差別解消法」が制定され、社会情勢は大きく変化している。現在は、行政機関等においては、障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならないことが定められており、民間企業においても一昨年の法改正により、法的義務となることが確定している。現代社会においては、障害者の権利を守り、差別を解消することが当然の義務となっていることから、2014年に取り交わした文書をもって統合再開を正当化することはできないと考えられる。
 このように考えると、焦点となるのは視覚障害者の国試会場統合が合理的配慮保障の観点から適切なのかという点となる。具体的には、国試会場を統合しないことが財団にとって過度の負担となること、かつ統合以外の手段では過度の負担を解消できないことが示されない限り、統合はすべきでないと言える。

3.理教連としての取り組み

 国試会場統合については、合理的配慮の視点から考える必要があることから、財団に対しては繰り返し過度の負担となっていることを示す情報の提供を求めている。しかし、1月末時点でも、それらの情報が開示されない状況が続いている。一方、合理的配慮は配慮を求める当事者が訴えるのが原則であるため、国試を受験する生徒自身が自分の在籍校で受験したいと要望していることを確認する必要があった。そこで昨年12月に生徒対象アンケートを実施した。その結果、回答者の92.5%の生徒が統合に反対しており、視覚障害に起因する心理的・経済的負担と不安がその主な理由として示された。国試受験を目指している当事者の意思は、合理的配慮の申し出に当たることから、生徒の立場に立った内容で意見書をとりまとめ、昨年末に財団に提出した。
 理教連は、これからも生徒が不安なく国試を受験し、普段の実力を発揮できるよう支援していきたいと考えている。
  

編集ログ

 中国は共産党による一党独裁国家なので、政権トップは常に自らの権威失墜を憂慮しなければなりません。このため「ゼロコロナ政策は失敗だった」などとはおくびにも出せないのは失脚へと繋がるからです。習近平国家主席は、「反腐敗運動」などで約25万人にも及ぶ党内敵対派閥の政敵を「粛清」してきたのでなおさらです。
 中国政府は昨年12月7日、コロナの感染拡大を封じ込める「ゼロコロナ」政策を大幅に緩和し、1月8日には入国者に対する隔離措置を完全に撤廃し、海外との往来の回復にかじを切りました。すると日本政府は同日、中国の感染状況の不透明さなどを理由に、中国本土からの入国者に対する水際対策を強化し、陰性証明書の提示を義務づけ、入国時検査も求めました。
 この措置に中国政府はメンツを潰されたと感じて、1月10日、日本人へのビザ発給を停止しました。ところが厳格な「ゼロコロナ」政策で落ち込んだ中国経済の回復にとって、日本企業の投資は欠かせません。そこで苦し紛れに中国政府は日本人へのビザ発給停止を発表した後も、一部の日本人への商用ビザの手続きは継続しました。そして春節(旧正月)の大型連休が終わり、新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策で減速した国内経済を早期にテコ入れするため、1月29日には日本人向けの渡航ビザ発給手続きを再開しました。
 コロナ禍前までは、中国は2028年までにアメリカを追い抜き世界最大の経済大国になると豪語していました。しかし中国経済は外国資本に支えられているので、外資が中国から離れ出すと、中国は経済危機に陥るという弱点がコロナ禍で露わになりました。したがって19日間のビザ発給停止は、メンツのための通過儀礼だったのです。
 なお、韓国については、中国からの入国者への短期ビザ発給制限の期間を延長したことを批判して、いまだにビザ発給停止を継続しています。(福山博)

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