THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2006年6月号

第37巻6号(通巻第433号)
編集人:福山 博、発行人:藤元 節
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:tj@thka.jp
―この紙はリサイクルできません―

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「ア式蹴球」と「ソッカー」

 いよいよFIFAワールドカップドイツ大会がはじまる。世界中のほとんどの国で、フットボールと呼ばれているにもかかわらず、米国やわが国でサッカーと呼ばれているこの競技、正式にはラグビーと区別するために「アソシエーション・フットボール」という。これを明治時代に「ア式蹴球」と翻訳したため、東京大学や早稲田大学のサッカー部はいまでも正式名は「ア式蹴球部」である。
  ところで、サッカーとはアソシエーションがなまったものなので、これも立派な英語ではあるけどやや肩身が狭いネーミングである。慶応義塾は日本ラグビーの始祖で明治32年(1899)以来、同校のラグビー部が「蹴球部」を名乗っており、紛らわしいからと「ア式蹴球部」の名称は使わせてもらえず、苦肉の策として、「ソッカー(サッカー)部」を名乗り現在に至っている。

目次

どうなる今後の視覚障害者福祉(下) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
日本の伝統、盲人按摩と国際共生(1)(笹田三郎) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
読書人:「視覚障害教育ブックレット」の発刊に際して(皆川春雄) ・・・・・・・・・・・・・
16
ふれてみよう!日常サポートから最先端テクノロジーまで
 サイトワールドへのお誘い(望月優)
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20
研究室から:試合のための準備(星加良司) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
26
感染症研究:大流行の兆しがあるプール熱 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
水原紫苑の短歌教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
34
知られざる偉人(エキストラ):
 WBU元事務局長ペドロ・スリータ氏の半生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
コラム・三点セット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
大相撲:日本人力士期待の星、豊真将  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
サッカーワールドカッププレビュー:ジーコは長嶋茂雄だ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
ブレーメン:ホラー作家との小旅行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
中国にはじめての盲導犬を! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
54
カフェパウゼ:「シュペツィ」とファンタの謎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
サリバン賞候補者募集締切迫る ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
ロシアからの留学生に博士号 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
58
時代の風:都の障害者年金が破綻のおそれ、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
伝言板:チャレンジ賞とサフラン賞の候補者募集、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64

ふれてみよう!日常サポートから最先端テクノロジーまで
―― サイトワールドへのお誘い

日盲社協盲人用具部会長/望月優

 今年(2006)の11月2日から4日にかけて、JR総武線「錦糸町駅」に程近いすみだ産業会館で、「サイトワールド」と呼ばれる視覚障害者向けの意欲的な福祉機器展が開催されます。現在、その準備のまっただ中ですが、ここでは、この展示会を行うことになった経緯や今後の展望などについてお話しします。

1.サイトワールド構想の起こり

 2年前のある日、日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)盲人用具部会の会合が日本点字図書館で行われていました。よくあることですが、テーマは盲人用具部会が主催する展示会についてでした。盲人用具部会では、1年に2、3回のペースで、各地の視覚障害者協会などと連携して、展示会を主催しているのです。各地で行われる小さな展示会の価値は了解しつつ、もう少し規模の大きな展示会へと参加者の意識が向いていきました。そこで、点字ディスプレイで知られるKGSの榑松(クレマツ)社長から、「国際福祉機器展は会場が広すぎて視覚障害者には見学しにくい。なんとかして、これに匹敵する視覚障害者に特化した展示会が企画できないものか」という主旨の提案がありました。同社長は、各国の展示会にもたびたび出かけており、国際的にも福祉機器の総合展から視覚障害者向けの展示会が独立していくのがトレンドで、イギリスのサイトビレッジ、ドイツのサイトシティーなどの例をあげられました。
 榑松案は、イギリスやドイツですでにスタートしているものを、さらに幅広く全世界から出展してもらうことをめざして、「サイトワールド」という名称をイメージしているという、非常に積極的なものでした。これが、現在進行中の「サイトワールド」企画の始まりでした。

2.準備会から実行委員会へ

 昨年3月、いいだしっぺのKGS榑松社長を中心に、名古屋ライトハウスの近藤、JTRの岡村、ラビットの荒川、そしてアメディアの私の盲人用具部会メンバー5名が集まり、サイトワールドを実現するための今後のプロセスについて話し合いました。
 国際福祉機器展にとって代わることのできるだけの大規模な展示会を行うためには、盲界が一致団結することはもちろんのこと、さらにはその外側からも協力者を募って進めていく必要があるということで一致しました。そこで、それ以後、日本点字図書館の田中理事長や共用品推進機構の星川事務局長にも加わっていただいて、「サイトワールド準備会」を結成し、数度の会合を繰り返して企画のコンセプトを絞っていきました。
 そこで共通理解となったコンセプトは、
 (a) メーカー、ユーザー、研究者が一体となった展示会。
 (b) 視覚障害者が実際に製品に触れて感じられる体験型展示会。
 (c) 盲界の外に対しても視覚障害者の文化やライフスタイルをアピールする展示会。
 そして、なによりも特記すべきは、開催地は日本でありながら、海外の視覚障害者用機器メーカーにも呼びかけて、世界のメーカーが集う展示会にしていこうということで合意したことでした。
 次に課題となったのは、どこが主催者になるかということでした。盲人用具部会の会議の中から始まった企画とは言え、この部会の主催ではあまりにも小規模にならざるを得ません。親団体の日盲社協が主催になったとしても、まだまだ盲界全体を巻き込むのには力不足の感が否めません。NPOを設立する案なども俎上にのせられた結果、最終的には日盲連、日盲社協そして盲学校長会を統括している日本盲人福祉委員会に主催者の任を担っていただくことになり、笹川日本盲人福祉委員会委員長の承諾を得て、昨年の暮から実行委員会を結成して、具体的なプランに入りました。

3.体制作りと協力者集め

 結局、主催者としての日本盲人福祉委員会のもと、日本盲人会連合、日盲社協、全国盲学校長会、日本点字図書館、日本ライトハウス、視覚障害者支援総合センターの6団体が共催する形となりました。
 さて、実行委員会の最初の仕事は、協賛とか後援という形で応援していただける会社や団体を集めることでした。この活動は現在でも続けていますが、おおよそ固まってきました。社会に大きくアピールする企画とするのには、より幅広い層からのご支援をいただく必要があります。少し変わったところでは、中小企業家同友会全国協議会やライフサポート学会、TORNイネーブルウェア研究会などの後援がいただけたことです。中小企業家同友会は視覚障害者の雇用を促進する上で、ライフサポート学会は視覚障害者の日常生活を豊かにするという視点から、そしてTORNイネーブルウェア研究会は小型化が進む技術進歩の流れの中で視覚障害者の利便性を常に考えていくという側面から、これからも関係を大切にしていきたい団体です。

4.企画の概要

 さて、それでは、現在までに決まっている企画の概要を紹介しましょう。

(1)展示会

 なんと言っても一番中心となるのは展示会です。会場全体で約60のブースを用意して、5月末を期限として出展企業を募集しています。本稿を書いている5月5日の時点で、国内から30社、海外から10社程度の参加が見込める見通しです。海外からの参加企業は、日本の視覚障害者にはほとんどなじみのない名前の企業ばかりですが、日本国内では滅多に触れることのできない特徴のある機器を持ち込んでくれますので、私自身も大変楽しみです。また、国内組も、展示方法などを工夫することにより、最終的には30社にとどまらないさらに多くの出展社を確保すべく、鋭意活動中です。さらに一つ楽しみなのは、TORNイネーブルウェア研究会がICタグを埋め込んだ最新の誘導システムを提供してくれることになりましたので、展示会場の中を全盲でも一人で音声誘導を聞きながら歩けるようになる見通しです。

(2)セミナー・講演会

 展示会が行われている大きなホールに併設されている会議室で、講演会やシンポジウムを行います。現在までに予定がほぼ確定しているのは、以下の3つの企画です。
 11月2日(木)午後2時、サイトワールド・アクセシビリティ・フォーラム(コーディネータ榑松武男KGS株式会社代表取締役社長)。11月3日(金)午後2時、講演会「福祉工学の挑戦」(講師 伊福部達(イフクベ・トオル)東京大学教授)。11月4日(土)午後2時、シンポジウム「IT機器の活用と就労」(コーディネータ 石川准静岡県立大学教授)。

(3)映画上映会とその他の企画

 3日間とも、上記フォーラムとはまた別の部屋にて、音声ガイド付映画の上映会を行います。その他、まだ借りられる部屋がありますので、今後もセミナーなどのサブ企画を検討していきます。

(4)今後の展望

 実行委員会のメンバーは、このイベントを毎年行うつもりでがんばっており、今回がその第1回目です。回数を重ねることによって、海外からの参加企業も増やしていき、できれば韓国や中国あたりから見学者が見に来たくなるような展示会に成長させたいと願っています。
 これまで、視覚障害者向けの機器や用具の分野では、日本は海外との交流が今一歩少なかったと感じています。海外に素晴らしいもの、とても便利なものがあると聞いても、実際には噂としてしか耳にすることができなかったのが、これまでの実状でした。その「噂見聞」を、「実体験」にしていこうというのが、この展示会企画が抱く大きな目標です。また、日本の製品は、優れているにも関わらず、海外の視覚障害者にあまり知られていないというのも事実です。この展示会が世界的にも有名になって、「日本には面白いものがあるから行ってみようよ」という感じで、海外から多くの視覚障害者が連れ立って訪れてくるという、数年後にはそんな状況も作り出せたらと想像しています。
 とはいうものの、まだ一度も行っていないのに第2回目以後を思いめぐらしては鬼が笑います。ということで、現在は、今年11月2日(木)〜4日(土)に行われる「第1回サイトワールド」をめざして全力投入しています。開催時刻は10時〜16時30分(最終日16時)で、入場料は無料です。ぜひこの会期中に、東京駅地下ホームから総武線快速で3つ目の錦糸町駅からすぐのすみだ産業会館に足をお運びください。
 サイトワールドに関するお問い合わせは、KGS株式会社(0493-72-7311、Eメール: sw2006@kgs-jpn.co.jp)へお願いします。

■ カフェパウゼ ■
「シュペツィ」とファンタの謎

 いよいよ6月9日に、「FIFAワールドカップ2006」がドイツのミュンヘンで開幕する。ミュンヘンといえばビールの祭典「オクトーバー・フェスト」に象徴されるビールの本場であるから、当然サッカー観戦にもビールは欠かせない。しかし、カンやボトル飲料は凶器となるため持ち込みは厳禁なので、会場で一手販売するビット(Bit)ブルガーのビールを紙コップで飲むしかない。ただ、ドイツにも下戸はいるし、子どもだって観戦するので、そんな人々は、「シュペツィ(Spezi)」という南ドイツとオーストリアローカルの清涼飲料水を愛飲することになる。
 といっても、実はシュペツィというのはコーラと「ファンタ・オレンジ」を半分ずつ混ぜた飲み物なのである。ドイツ語学校の教師からこの奇妙な飲み物を初めて聞いた時、僕はたわいない冗談だと思ったが、南ドイツには、なぜかこの奇天烈な飲物の根強いファンがいて、カフェやサッカー場でもシュペツィとして売られている。
 これはコカコーラのホーム・ページにも掲載されている歴史的事実だが、「ファンタが1941年のナチスドイツ政権下のドイツで誕生した」ことは意外に知られていない。当時、ドイツは米国と交戦中だったため、コカコーラの原液を輸入できず、苦肉の策としてドイツコカコーラが代用コーラとしてファンタを開発したのである。そして戦後、コカコーラの輸入が再開されたものの、戦災で疲弊したドイツでは貴重品だったため、代用コーラであるファンタとコカコーラを半々に混ぜて飲まれたものが、シュペツィの起源だといわれている?
 このように書くと、さっそくコーラとファンタ・オレンジを買ってきて半々で試してみたいと思われる方がいるかも知れない。しかし、それでは本場のシュペツィの味にはならないのである。実はヨーロッパのファンタには果汁が入っており、それ以外の国々のファンタと味がはっきり違うのだ。したがって、日本ではコーラでファンタを割るよりも、オレンジジュースを割った方が、よりシュペツィらしくなる。というより、ドイツでも地方により、オレンジジュース割コーラ、あるいはレモネード割コーラのこともシュペツィというようなのだ。
 米国のファンタにも果汁が入っていないので、英語でシュペツィを紹介したホームページに「正しい作り方」が書いてあった。それによると、オレンジソーダとコーラを同量混ぜて、それに4分の1のレモンジュースを加えてできあがりといたって簡単。
 シュペツィのついでに、こちらは北ドイツでもつまりドイツ中で痛飲されているラードラー(Radler)という飲物も紹介しよう。基本的な作り方はビール6に対してコーラ4の割合で混ぜるだけだが、その比率はもちろん好みで、コーラの代わりにレモネードを混ぜてもOKで、これが実にサッパリしていて美味い。
 オレンジソーダやビールにコーラの混じった微妙で複雑な味が、ドイツ人にはたまらないらしいのだが、これから日に日に暑くなる季節を迎え、ワールドカップ・サッカーのテレビ観戦のお供に、シュペツィやラードラーはいかがであろうか?(戸塚辰永)

ロシアからの留学生に博士号

 本誌平成12年(2000)1月号(通巻356号)掲載の「ニキータはエロシェンコの再来か?―― 名古屋大学にロシアからの盲留学生」で、同年4月に名古屋大学大学院(国際開発研究科)博士課程に入学予定のニキータ・セルゲーヴィッチ・ヴァルラモフ(Nikita Sergeevich VARLAMOV)氏を紹介した。
 同氏は1970年12月14日モスクワ生まれで、1989年にモスクワ盲学校を卒業して、モスクワ大学歴史学部に入学。その後、大学院にあたるロシア科学アカデミー東洋科学研究所に進み国際関係論を修めた後、モスクワで試験を受けてわが国の文部省(当時)奨学生として来日したのであった。
 記事は、ロシアからの視覚障害留学生は85年ぶりで、初代の詩人ワシリイ・エロシェンコ氏と当時の時代背景をも併せて紹介したものであった。
 その後、苦節6年、学位論文「アフリカにおける国連平和維持活動(PKO)の人道的活動」が評価され、平成18年(2006)3月27日付で、ヴァルラモフ氏に名古屋大学から博士号(学術)が授与された。
 ちなみに彼に触発された形で、ネパールからの視覚障害留学生カマル・ラミチャネ氏(筑波大院生)も猛勉強の末難関を突破し、平成18年度より文部科学省奨学生となった。(福山博)

■ 編集ログブック ■

 今月号から4回シリーズで笹田三郎先生による「日本の伝統、盲人按摩と国際共生」を連載します。これは9月22日から25日の4日間、つくば国際会議場を中心に開催される「WBUAP盲人マッサージセミナー」への関心を深めるために特に企画したものです。一読すると、わが国と諸外国の手技療法の違いが、著者の体験に裏打ちされてくっきりと浮かび上がる趣向になっています。
 この秋のもう一つのビッグイベント「サイトワールド」については、望月優氏にこれまでのいきさつから、実際の企画内容まで詳しく書いてもらいました。11月2日から4日の1日、東京・錦糸町のすみだ産業会館にぜひお出かけください。両イベントとも日盲委を中心としたオールジャパンの取り組みです。
 「時代の風」でお知らせした地球の裏側アルゼンチンに26時間かけて出かけようという、我らがブラインドサッカー日本代表チームの遠征費のために個人1万円、法人5万円のカンパをしたい方は、郵便振替口座00990-9-244840の日本視覚障害者サッカー協会へ。ご協力をお願いいたします。(福山博)

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