本年(2005年)7月21日〜8月1日の日程で、ネパールに出張してきました。わたしが今回ネパールを訪問した最大の目的は、今年度から5年間にわたりネパール盲人福祉協会(NAWB)と共同で実施する、毎日新聞東京社会事業団の寄託による「ネパール視覚障害児奨学金事業」(以下、毎日奨学金)の立ち上げを確認して、遺漏なきを期すためでした。
毎日新聞東京社会事業団より向こう5年間にわたり寄託される年間100万円の資金のうち、90万円に相当する資金が、ネパール全土7校にまたがる視覚障害児47人の1年間の教材費・生活費(食費、被服費等)を賄うための奨学金です。そして残りの10万円が、本奨学金事業を実施するためのNAWBの事務経費となります。
毎日奨学金の対象校となった7校のうち、6校は完全な地方の公立校ですが、1校だけは、カトマンズ盆地内にあります。そこは首都の中心部から東に向かって車で30分ほど行ったところにあるティミという焼き物の町です。国道からこの町に入る道は狭く、ジープでなければ登り切れないような急勾配なのは、この町が中世の城郭都市の姿を今に伝えているからです。建物は民家を含めて、ほぼレンガ造りの三階建てで統一されており、その中を道路が迷路のように張り巡らされています。そんな一画にアダーシャ校はあるのですが、レンガ造りの町に、テニスコートほどの校庭も含め、すべてがレンガで固められています。
同校は幼稚部から第10学年までの一貫教育校で、登録学生は1226人で、実際に毎日通学して来る学生は1150人位とのことでした。それに占める視覚障害児数は10人で、その内の4名は通学生で、6人が寄宿生で、さらにその中の4人が毎日奨学生でした。同校の教員は39人で職員は6人。幼稚部と小学1年は各1クラスですが、他の学年は2クラス(2〜10学年)、1クラスの生徒数は、50〜86人です。日本とほぼ同じサイズの教室に、左右に男女別で、5人がけの長机が8列ずつ、都合16列ありました。したがって、86人のクラスでは、5人がけの長椅子に6人が座っていたのですが、これはネパールの子供達が小柄で、痩せているから収まるのでしょう。しかしながら、どの教室にも天井扇(シーリングファン) が回っており、熱気をかき回していたのは、さすが首都圏の学校です。
毎日奨学金の対象校に早くからノミネートされていながら、実は最後まで決まらなかったこのアダーシャ校の問題の1つはこの狭苦しさです。何しろ、男子のベッドルームとは名ばかりで、レッドクロス・ルーム(赤十字室)と呼ぶ昼間は保健室として使われている部屋に仮住まいしている有り様です。ネパールの公立校における問題は、校長の資質に帰す場合が多いのですが、同校ではむしろリソースティチャー(視覚障害児担当教員)の指導力が疑問視されていました。しかし、これに関しては現地の公機関が監督・指導するということで、NAWBとの間で決着したようです。このため、我々が同校を視察したときも、バクタプール郡教育事務所の課長が終始同席していました。
左端からNAWBホーム・ナット・アルヤール事務局長、バクタプール郡教育事務所課長、ジャニジョティ・シュレスタ副校長、カマル・ラミチャネ筑波大院生(全盲の同校出身者)、右端が筆者