東京ヘレン・ケラー協会会報『青い鳥(L'Oiseau bleu)』 第43号 2024年2月1日発行 発行人:奥村博史 編集人:塚本泉 製作:広報委員会 社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会(Established in 1950) 〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-20 本部、ヘレン・ケラー学院 電話 03(3200)0525 FAX 03(3200)0608 ヘレン・ケラー治療院 鍼灸・あん摩マッサージ指圧 電話 03 (3200) 0585 FAX 03 (3200) 0608 点字図書館 電話 03(3200)0987 FAX 03(3200)0982 点字出版所、盲人用具センター、海外盲人事業交流事務局  〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4 電話 03(3200)1310 FAX 03(3200)2582 ●会報第43号  2024年2月1日発行 │社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会│ │発行人 奥村 博史│ │編集人 塚本 泉 │ │Established in 1950│ │発行 広報委員会│ ●第73回ヘレン・ケラー記念音楽コンクール  「第73回ヘレン・ケラー記念音楽コンクール」(東京へレン・ケラー協会主催、参天製薬株式会社・名古屋宗次ホール協賛、トッパンホール会場協力、毎日新聞社など後援)が昨年11月18日、東京都文京区のトッパンホールで開催された。  全国から32名が参加。器楽7部門、声楽3部門の10部門で日ごろの練習の成果を披露した。審査は、ピアニストで国立音楽大学特任教授の花岡千春先生、桐朋学園大学特命教授の梅津時比古先生、声楽家の淡野弓子先生、ヴァイオリニストの和波たかよし先生にお願いした。 ヘレン・ケラー賞は該当者なし  最も感銘を与えた演奏に贈られるヘレン・ケラー賞は6年ぶりに該当者がいなかった。  今年の特別演奏は、桐朋学園大学ソリストディプロマコース所属で、国際ソロヴァイオリンコンクール第2位(最高位)、オーストリアのベートーヴェン国際ヴァイオリンコンクール第1位など国際コンクールで多数受賞されている栗原壱成さんにご出演いただき、バッハ「無伴奏ヴァイオリンソナタ1番より第1・4楽章」など5曲を演奏していただいた。 ●第73回ヘレン・ケラー記念音楽コンクールに入賞された方々は次の皆さん。 (敬称略、数字は学年、該当なしの順位もあります) 【ピアノ1部】 奨励賞=渡邉華音(千葉県立千葉盲・小1)、川越みのり(筑波大附視覚特別支援・小3) 【ピアノ2部】 2位=岩越愛奈(岐阜県立岐阜盲・小4)、野本彩華(筑波大附視覚特別支援・小4) 奨励賞=加藤詩温(筑波大附視覚特別支援・小4)、片山優茉(川崎市立高津小・5年) 【ピアノ3部】 2位=平河祐李菜(福岡県立柳河特別支援・中2) 奨励賞=長縄美波(筑波大附視覚特別支援・中3) 【ピアノ4部】 2位=東玲那(横浜市立盲特別支援・高2) 奨励賞=宮悠樹(横浜訓盲学院・専1) 【弦楽器の部】 2位=新倉将希(クラシックギター演奏、神奈川県立平塚盲・小6) 3位=長野礼奈(ヴァイオリン演奏、筑波大附視覚特別支援・高3) 【その他の楽器の部】 3位=和田龍真(箏演奏、岡山県立岡山盲・小6) 【創作編曲の部】 該当者なし 【独唱1部】 奨励賞=重永大武(練馬区立下石神井小・5年)、松井知花(東京都立久我山青光学園・中1) 【独唱2部】 奨励賞=石井葵(福島県立視覚支援・高3)、宇木素裕(筑波大附視覚特別支援・専1) 【重唱・合唱の部】 奨励賞=志村夏歩 牧嶋柚月(筑波大附視覚特別支援・小5) ●第31回ヘレンケラー・サリバン賞に加藤俊和さん  視覚障害者への支援に功績のあった人・団体を表彰する「第31回(2023年度)ヘレンケラー・サリバン賞」(東京ヘレン・ケラー協会主催)が社会福祉法人「日本盲人福祉委員会」評議員・災害担当の加藤俊和〈カトウ・トシカズ〉さん(78)に決まり、昨年10月4日に当協会3階ホールで贈賞式が行われた。今回の式は3年ぶりに対面式で行われ、加藤さんを会場に招いて本賞の賞状と、副賞のヘレン・ケラー女史の直筆サインを刻印したクリスタルトロフィーを贈った。  加藤さんは京都市出身で、高校時代から点訳のボランティア活動に取り組んできた。大学卒業後は電気機器メーカーに就職したが、22年後の1980年、一大決心をして福祉の世界に転身。日本ライトハウスなどの社会福祉施設に所属して点字出版を中心に活躍した。また、その活動は外部にも広がり、点字楽譜の音楽教科書のレイアウト統一化▽駅ホームの転落や踏切内事故の現場調査、事故防止策の提言▽東日本大震災での被災者生活支援――など、多岐にわたる分野で視覚障害者に寄り添い、支援活動に取り組み続けている。当協会点字出版所でも、2015年7月〜21年3月に技術顧問として点字教科書製作の技術指導などに当たってもらった。  贈賞式では当協会の奥村博史理事長、来賓の指田忠司・日本盲人福祉委員会常務理事、長岡英司・日本点字図書館理事長、大胡田誠弁護士が祝辞を述べ、視覚障害者支援総合センターの高橋実元理事長からの祝電も披露された。  加藤さんは受賞スピーチで、高校時代に点字を学ぶ中で京都ライトハウス創設者の鳥居篤治郎氏(故人)と出会いさまざまな影響を受けたエピソードや、特に点字での理科・数学の記号、触図作製に力を入れてきた経験などを披露。「いろんなことをしてきましたが、多くの方の支えがあってできたことばかり。その皆さんの代わりにこの賞をいただくと思い、感謝します」と述べた。  なお、加藤さんの授賞理由の詳細は協会HPの「ヘレンケラー・サリバン賞」(https://thka.jp/801/)に掲載されている。 ●4年ぶりに「感謝DAY」開催 ヘレン・ケラー治療院、ヘレン・ケラー学院の初共催で  新型コロナウイルス禍により開催を見合わせていた夏の恒例行事「感謝DAY あんまマッサージ指圧30分無料体験会」を昨年8月26日、4年ぶりに開催し、治療室のベッド7台を使用して合計49名の体験者を施術した。  今年は、ヘレン・ケラー治療院とヘレン・ケラー学院の初共催。学院から学生6名と講師1名、治療院から5名の利用者さんと指導員2名がそれぞれ参加し、さらに職員3名と奥村博史学院長・施設長が加わり合計18名でイベントを盛り上げた。  それぞれ緊張もあったようだったが、体験者の大半が初利用ということもあり、参加者らは会話を楽しみながら施術に励んでいた。体験後、さっそく治療院や学院臨床実習を予約している姿も見られた。   ●ネパール出張報告2023 海外盲人交流事業事務局長・福山博  昨年11月15日〜12月3日の旅程でネパールを訪問した。この出張で視覚障害児・生徒が学ぶ統合教育校7校を視察したが、最初に訪問したバイラブ高校へは、片道3日間、往復6日間かかった。ネパール盲人福祉協会(NAWB)で同校を訪問したことがあるのは10年前に教育課長が1度行ったきりだったので、ぜひとも行く必要があった。  11月17日、私とNAWBアルヤール理事は、空路ネパールガンジ市に向かい、現地の悪路に慣れた運転手付4WDをチャーターして、翌日、バイラブ高校のあるシンジャ町を目指した。ネパールガンジ市からシンジャ町まで322kmだが、悪路のため途中1泊した。  シンジャ町のあるジュムラ郡を結ぶカルナリ国道は、政府とマオイスト(毛沢東主義派)による内戦が勃発し、ジュムラ郡がマオイストの拠点の1つとなったので政府が計画し、陸軍が建設した道路である。NAWBのパワン・ギミレ常務理事は現役の陸軍中佐だが、2003年、25歳の中尉のとき道路建設の巡察途中、軍用車ごと地雷に吹き飛ばされて全盲となった。  11月20日、私とアルヤール理事は宿舎から徒歩で学校に向かった。20分で着くと聞いていたが、結局40分かかった。極貧の山間へき地なので教育環境もひどいだろうと想像していたが、施設も人材も意外なほど充実していた。  午前10時に校庭で朝礼が始まり、生徒の前で自己紹介を兼ねたあいさつをさせられた。アルヤール理事は33kgの古着を持ち込んでおり、寄宿舎の食堂のテーブルに古着を並べて、視覚障害児と低学年の児童を対象に1人ずつ呼び込んで、同氏がその子に似合いそうな服を選んで渡した。中には汚れて穴の開いたシャツを着た子もおり、その子には2着渡した。  工業製品等はすべて悪路を通って運ばれるので、その輸送費がプラスされ都市部より割高で、衣類もその例外ではない。このため寒い地域であり、この日の最低気温は1℃であったにもかかわらず子供たちは薄着で、多くの子供はサンダル履きだった。  ネパールは不公平な社会なので、同じ公立高校でもピンキリだ。11月24日に訪れたカトマンズから車で4時間、標高2,000mのチャリコットにあるカリンコック高校には教職員の出勤時間、退勤時間を指紋や顔認証で記録する装置があり、豪華な革張りソファーのある校長室には31台の監視カメラをモニターするディスプレイも備えられていた。  11月27日に訪問したマデーシャ村のジャンタ高校は農村へき地にあり、道路を挟んで広大な田んぼが広がっており、稲刈りが行われていた。同校は精神障害児と聴覚障害児用寄宿舎はあったが、視覚障害生徒のためのリソースティーチャーはいなかった。  質素な校長室で4年生と8年生の弱視姉妹に会った。同校では10年生の長女も学んでおり、晴眼者の彼女が2人を連れて現れた。そして次女が涙ながらに「文字が見えない」とさかんに訴えた。  その2日後、アルヤール理事が以前会長を務めていたCBRネットワークで無償眼科検診のプログラムを探し出し、弱視姉妹は無償で眼科病院で眼科検診を受け、眼鏡をもらうことができ、教科書を読めるようになった。 ●点字図書館ボランティア懇親会 4年ぶり開催  第49回点字図書館ボランティア懇親会を昨年11月29日、協会3階ホールで開催した。新型コロナウイルス禍を経て4年ぶりの開催で、対面とZoomの併用で行われた。会場では30名、Zoomでは7名のボランティアの方々が参加した。ボランティア活動を5年継続してくれた方に感謝状を贈呈しているが、今回は該当者がいなかった。  メインイベントは第31回ヘレンケラー・サリバン賞を受賞した加藤俊和さんの講演「日本は点訳・音訳ボランティアが支える貴重なガラパゴス島! これからの図の処理と自動点訳・音訳との付き合い方」で、京都市の自宅からZoomで行ってもらった。約60年にわたり視覚障害者支援に携わってきた加藤さんによると、日本のように点訳・音訳がボランティアの支えで成り立っていることは大変貴重という。言語がシンプルな欧米では、文字情報のテキストデータによる提供が進んでおり、データを受け取った側が自動点訳や音声を利用している。そのため文字情報にならない図や楽譜などはいっさい無く、文字のみの情報提供が行われているという。一方日本は、もともと言語が複雑で、文字情報だけの提供では不十分なため、点訳・音訳ボランティアの手がいまだに必要不可欠。おかげで日本の視覚障害者は、単に文字の部分だけを読むのではなく、図や写真の説明を聞きながら想像することができたり、図そのものを触ることさえできたりする恩恵にあずかっている、とのことだった。 ●防災の日 4施設合同「消防避難訓練」  「防災の日」の昨年9月1日、ヘレン・ケラー学院、点字出版所、点字図書館、ヘレン・ケラー治療院の4施設合同で消防避難訓練を行った。コロナ禍で中止していた消火訓練も4年ぶりに行い、新宿消防署戸塚出張所の署員4人が立ち会い指導、講評に当たった。  新館3階の点字出版所内の給湯室から出火を確認――の想定で訓練を開始し、学院職員が直ちに他施設や消防署に出火を連絡。各施設とも視覚障害者の職員、学生、利用者さんらを誘導しながら避難した。  点字出版所では、初期消火隊2人が初期消火(模擬)する一方、誘導係が声を出して避難経路の非常階段を示し、防災頭巾姿の職員がヘルメットを着用した視覚障害のある職員を個別誘導しながら避難。災害時に備え、とっさの声出しや新たな避難経路を確認した。学院では、職員の人数不足と導線の関係で、学生の避難誘導を教員の方々にお願いした。治療院は職員の指示に従い避難した。  避難後、消火器を使った消火訓練(放水)を行い、職員、学生、利用者さんらが交代で消火器の操作を体験した。消防署員は講評で、火災を認知後に「火事だ!」と大騒ぎして周辺に知らせること、煙を吸い込まないようにマスクやハンカチを使い、姿勢を低くして避難する大切さを強調した。 ●同行援護従業者養成研修 第100回を迎える 同行援護従業者養成研修は、2004年に研修事業(当初は「視覚障害者移動介護従業者養成研修」)を開始してから19年目の昨年9月の実施回で、第100回を迎えた。  現在、同行援護従業者養成研修は、一般課程(20時間)と応用課程(12時間)の2課程があり、それらを一連の流れとして組み込んだ合計32時間の研修を4日間(土曜・日曜のみ)に振り分けて行っている。  同研修は従来、定員32名で実施していたが、新型コロナウイルス流行期から20名に減らして行っている。これまで、2,332名に修了証明書を交付した。今後も受講生が同行援護の目的を理解しながら学べるよう質の高い研修の場を提供したいと考えている。 ●日盲社協点字出版部会の職員研修会 名古屋で開催 昨年12月7、8日に日盲社協点字出版部会の職員研修会が、名古屋市の名古屋国際センターで開催された。新型コロナウイルス禍を経て4年ぶりの対面開催となった。当協会点字出版所からも製版課、印刷課の職員計4人が参加した。  7日は点字出版所が扱う機械類の情報交換が行われ、日本ライトハウスの金子研一所長が自動製版機「ZPメーカー」の修理について、京都ライトハウスの山本たろ理事が同「ブレールシャトル」の現状について報告した。当出版所も日本ライトハウスと共同でZPメーカーの電子回路リニューアルを研究し、同施設に修理を依頼しており、進捗状況の説明を受けた。  また、紙折機作業の実情などの説明があり、当出版所職員がドイツ製紙折機「multipli382」の作業風景を収録した動画を映しながら、教科書用紙の独自の紙折り手法について説明した。  8日は、今年度新たに取り組んだ理療教科用図書の電子化も話題となり、点字データの暗号化技術の今後の応用などについて取り上げられた。 ●助成事業報告  下記の通りご助成を受けて事業を実施しました。ご支援、誠にありがとうございました。 (公財)洲崎福祉財団の継続助成事業(2021〜2023年)3年目 一、事業名 あん摩マッサージ指圧鍼灸に特化した就労継続支援B型事業所の開業 一、総事業費 33,419,000円 一、助成額 10,000,000円 一、完了年月日 令和6年5月31日 申請項目 ・人件費 3,000,000円 ・ICTルームの備品・環境整備  2,330,000円 照明器具の交換、電源の増設、電話機の設置及びLANの配線工事、PC及び関連用品の購入等 ・広告宣伝費 2,770,000円 チラシ・パンフレット製作とポスティング・郵送、広報誌掲載、就職支援サイト掲載 ・利用者様の環境整備 650,000円 オーニングテント設置等 ・利用者様のご利用にかかわる経費 1,250,000円 施設外施術に係る費用、健康診断、支援システム等 (公財)タチバナ財団助成金 一、事業名 障害者就労継続支援B型事業所相談室のエアコンの新設 一、総事業費 231,000円 一、助成額 230,000円 一、完了年月日 令和5年5月20日 ●編集後記 元日の夕刻、能登半島を襲った最大震度7の巨大地震から1カ月が過ぎました。石川県を中心に家屋倒壊、土砂崩れ、津波、道路陥没など被害は甚大で、約240人が亡くなり、1万4,000人を超える人々が今も避難を続けるなど不便な生活を強いられています。被災された方々に、心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。 連日の報道の中、「まだ先が見えない……」と絶句する被災者の姿に、本当に心が痛みます。それだけに、再開された銭湯で「久しぶりのお風呂で生き返ったようだ」、2次避難先で「足を伸ばしてゆっくり眠れた」と話しながら浮かべる安堵の表情に、少し救われる気持ちです。  停電が概ね復旧したといい、ボランティアの受け入れも始まって、少しずつでも支援の手が届いて復旧・復興が進み、希望の光を見いだしてほしい、一日も早く普通の生活に戻れるようになってほしい、と切に願い、できる協力や支援をしなくては、と改めて思います。 現地では視覚障害者の方も被災しており、社会福祉法人日本盲人福祉委員会(日盲委)は支援対策本部(竹下義樹本部長)を設置し、構成団体などを通じて現地視察や状況調査、被災者への支援や義援金の受け付けなどの活動に取り組んでいます。 当協会発行の点字ジャーナル(点字版)でも、3月号(2月25日発行)で「ドキュメント能登半島地震」と題し、視覚障害者や関係者のインタビュー記事、寄稿文などを様々な角度で取り上げ、掲載する予定です。(塚本泉) <参考>日盲委の義援金の要項は下記の通り。 @募金期間 令和6年6月30日まで A受付口座 郵便振替口座 00100-8-729004 口座名 被災視覚障害者義援金 ヒサイシカクショウガイシャギエンキン 他の金融機関から振り込む場合の口座番号 銀行名 ゆうちょ銀行 店名(店番) 〇一九(ゼロイチキュウ)店(019) 預金種目 当座 口座番号 0729004 ※払込手数料は送金者がご負担ください。 (詳細は日盲委HP https://ncwbj.or.jp) ●人事          【点字出版所】〔採用・配属〕 <昨年8月1日> 本木宏太郎、中村亮翔(印刷課)、加納尚子、齋藤博志(録音課) <同9月11日>東田律子(録音課) <同12月1日>副田篤子(総務課) --------- “視覚障害者と共に” 社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会 ホームページもご覧ください。 https://www.thka.jp ---------- ++