愛の光通信    2025年夏号通巻64号    LIGHT OF LOVE    Overseas Program for the Blind - Plans and Reports    ISSN 0913-3321    東京ヘレン・ケラー協会 海外盲人交流事業事務局  (巻頭写真のキャプション)  2024年12月17日(火)、ネパール東部スンサリ郡ダーランにあるネパール唯一のプルワンチャル盲学校 (Purwanchal Gyanchakshu School) へ転校が決まったカリシュマ・カトリ(9歳)は、鼻をぐずぐずいわせていた。それを気遣って同校校長は、学校に在庫していたセーターを持ってこさせて、自ら彼女に着せていた。 ●『愛の光通信』をペーパーレス化に― ホームページでお伝えします ―  社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会  40年前の1985年12月8日、第1次ネパール盲人福祉調査団がカトマンズを訪問し、これが当協会の国際協力の原点となりました。このときの報告と提言に基づき翌1986年、視覚障害児・生徒各自に各教科1冊ずつ点字教科書を無償提供することを目的に、「点字印刷技術移転事業」を開始しました。     NAWB点字印刷所の建設  1986年、ネパール盲人福祉協会(NAWB)の職員を当協会に招き技術研修を行い、同氏の帰国に合わせて、点字製版機と印刷機、亜鉛版等点字教科書作成に必要な資機材一式を横浜港から送りました。  その後、ヒンドゥー寺院の1室で点字教科書を発行するには限界があるので、当協会はNAWB点字印刷所を1992年1月、カトマンズに建設しました。     バラCBR事業  ネパール南部バラ郡における「地域を基盤としたリハビリテーション事業(CBR)」を実施するためにNAWBを実施機関に、当協会はネパール政府と1989年に協定を締結。このバラCBRは2002年6月末をもって12年間の事業を完了しました。  この間の1992年、眼科診療所を附属するバラCBRセンターをバラ郡カレイヤ町に建設しました。さらに視覚障害児・生徒用の統合教育を実施するために寄宿舎を、1995年にバラ郡のドゥマルワナ高校に、1998にロータート郡のジュダ高校に、1999年にルパンディヒ郡のシャンティ高校に建設しました。     フォローアップ事業と特別支援事業  当協会は2000年度よりネパール支援事業を段階的に縮小し、2003年度より今までの事業が無に帰さないようフォローアップを行うことにしました。しかし、その後バラCBRセンターの眼科助手が突然死し、残された遺児の教育支援のため当協会職員有志は「クリシュナ基金」を組織したので、当協会は経費を支出しない範囲で側面的支援を行いました。また、2015年のネパール地震に際しては緊急募金を行い、155万3,000円の救援金をNAWBに送金しました。  さらに英米をはじめ英語圏8か国で英語の点字表記が変更されたので、統一英語点字(UEB)をネパールに導入することになり、そのためのナショナルセミナーを実施するための資金提供を行いました。  2017年、日本のODA(政府開発援助)「草の根・人間の安全保障無償資金協力」応募のため当協会はNAWBを在ネパール日本大使館に推薦しました。  現在は、寄付者とNAWB、当協会が覚書を交換して設立した三つの育英基金事業(安達禮雄育英基金、正雄育英基金、順子女子育英基金)の執行状況をモニターし、当協会の支援を基に進めてきたNAWBの点字教科書発行を中心とした事業に対し、フォローアップのための側面的支援を実施しています。     THKA Japan 基金を創設  このようにフォローアップ事業を継続してきましたが、当協会は来年度から直接支援を打ち切り、ネパールに「THKA Japan基金」(仮称)を創設し、NAWBに運営・管理を委託することにしました。支援事業の計画と報告を発表するニュースレター『愛の光通信』の点字版・墨字版の発行と送付も今号をもって最後とし、次号からPDF版とTXT版をEメールで届けます。多くの新聞・雑誌がデジタル化に力を入れている昨今、小誌もペーパーレス化に舵を切ります。長い間、点字および墨字の冊子をご愛読いただきありがとうございました。  今後もご愛読いただける方は、「愛の光通信送付希望」とだけ書いて、下記メールアドレスにお送りください。次号の発行時からPDF版とTXT版をEメールでお届けします。また、当協会のホームページhttps://thka.jp/kaigai/にも『愛の光通信』コーナーを開設し、読むことができるように致します。  なお今後も皆さまからのご寄付につきましては、これまで通り当協会でお預かりし、随時NAWBに送金しますので、引き続きご支援をお願い致します。  東京ヘレン・ケラー協会 海外盲人交流事業事務局  Eメール:kaigai@thka.jp ●盲学校から逃げた弱視児を連れ戻すまで― ネパール報告2024 ―  海外盲人交流事業事務局長 福山博  昨年(2024年)12月14日〜24日の旅程で、ネパールに出張した。一昨年から持ち越した課題に、ネパール東部スンサリ郡マデシャ村にあるジャナタ高校に通う2人の弱視姉妹に対する支援があった。     これまでの経緯  一昨年(2023年)12月27日にネパール盲人福祉協会(NAWB)のホーム・ナット・アルヤール理事とジャナタ高校を訪れた。ネパールではカトマンズ盆地と、第2の都市ポカラ以外ではほとんどタクシーが走っていない。そこでホテルハイヤーをこの日は半日貸し切り、ドライバーに同校で1時間待ってもらって空港に行き、カトマンズへ帰る計画だった。  ジャナタ高校は、図書室や理科実験室もある地方の中堅高校で、統合教育のためのリソースルームを備えたホステル(寄宿舎)もあると聞いていた。ただ、そう説明するNAWB教育課長も同校を訪れたことがないという頼りなさだった。  実際に訪れると統合教育というのは聴覚障害児と知的障害児のもので、視覚障害児に対してはなんのサポートもなかった。同校には晴眼者の長女も学んでおり、2人の妹の面倒を見ていたが、この学校で弱視児が無事に卒業できるとはとても思えなかった。  学校から徒歩20分ほどの距離にある実家から母親(晴眼者)も駆けつけて、話し合いがもたれたが、私たちの帰りの時間が刻一刻と迫った。そこで後日電話するために携帯電話の番号を聞くと、誰も持っていなかった。  ネパールでは携帯電話は3,000ルピー(約3,000円)で購入できる。また、弱視姉妹が無料眼科検診を受けるための交通費・雑費として2,000ルピーの計5,000ルピーを学校長を保証人に母親に渡した。  その後、アルヤール氏が電話で問い合わせると、三女は少しの間、ダーランの盲学校で勉強したが、夏休みに実家に帰ったあと退学したという。     盲学校での調査  盲学校で聞き取りを行うと、三女は5ヶ月間同校のホステルに滞在して勉強した。その間の教育内容は、歩行訓練と点字の初歩だったという。  思った通りだ。私は「三女はそれまで墨字で教育を受けてきたのに、盲学校でいきなり点字を教えられ、それがショックで実家に逃げ帰った」と推定していたのだ。  校長は「点字教育は早ければ早いほど身につく」と弁解したが、逃げられてしまったら元も子もない。「まず、盲学校の生活に慣れて、この学校を好きになることが先決だ」と私は主張した。  この件に関して、実はアルヤール氏も三女を盲学校に入れて点字教育を受けさせようと、スンサリ郡教育事務所まで動かしていた。そして、盲学校からはまず担任が、2回目は2人の全盲教師を帯同して、3回目は校長と一緒に出向いたが、三女の家族は盲学校への転校をかたくなに拒否したという。  この経緯から私は同校では弱視児にも一律に点字しか教えていないのかと疑ったが、同校でも専門教師による弱視教育を行っていた。  私は盲学校の校長と副校長に三女が転校してきたら、点字を教えないで、弱視教育を行うように強く依頼して了承された。     家族との交渉  2023年は時間切れで帰ることになったので、その轍を踏まないために、今回は丸一日交渉する時間を用意した。そしてジャナタ高校の聴覚障害者のためのリソースルームを借りて、3姉妹と母親に対してアルヤール氏の通訳で説得した。  3姉妹のファミリーネームは「カトリ」なので、以下姓と敬称は略。  長女は晴眼者でカビタ(17歳、11年生)、次女はカルナ(15歳、8年生、弱視)、三女はカリシュマ(9歳、5年生、弱視)だ。母親は晴眼者で48歳。父親は50歳だが全盲なので働いておらず、家から出ることもなく、この日も留守番をしていた。  母親が賃労働で一家を支えているが、教育を受けていないので、最低賃金が保証されている職に就くことはできない。まともな職に就くには10年課程終了時に行われるSEE(中等教育(前期)修了全国統一試験、旧SLC)に合格する必要があるのだ。  ネパールの学校はピンキリで、日本と変わらない教育環境を提供している都市部の学校では、普通に登校していればSEEに合格するのは当たり前だが、地方の学校では合格率は30%台と極端に低くなる。  10年課程の教科には、「コンピュータ・サイエンス(CS)」がある。この授業をパソコンなしで行うことは可能だが、そのためには優秀な教師が不可欠だ。しかしパソコンのない学校に、優秀なCSの教師がいるわけがない。そして1人1台のパソコンを用意できる設備の整った学校にだけ、優秀なCS教師はいるのである。  長女は家計を助けるために近所に住む叔母の家で家事手伝いをしている。昨年、会ったときは終始悲しげだったが、今年は人生の大きなハードルであるSEEに合格したこともあって明るかった。  まったく教育を受けたことのない人と教育の話をしても噛み合わない。そこで、私は長女にSEEがどんなに重要か知っているか聞くと、「もちろんです」と言って輝くばかりの笑顔で答えた。  次いで、「妹たちもSEEに合格しなければ、彼女たちの未来は暗いと思わないか?」と聞くとその通りだという。「ダーランの盲学校は、設備が整った素晴らしい学校なので、誰もがパソコンを使えるようになり、無理なく勉強に集中できる。カリシュマに点字を教えたのは教師のミスだ。校長も墨字教科書を使った教育を行うと約束しているので、転校しないか?」と1時間ほど説得した。長女は乗り気のようだったが、他の3人は無反応だった。そこで、家族だけで話し合ってもらうため私たちは退出した。  20分ほどの話し合いの後、家族4人がリソースルームから出てきた。結論は、三女だけが転校するというものだった。次女は私たちが手渡したルーペやお菓子と飲み物も突き返すほど強い拒否反応を示した。8年生を留年して投げやりになっており、勉学意欲が全くないように思われた。  「留年したのはあなたのせいではない。適切なサポートと指導がなかったからだ」と言ったが、まったくわかってもらえなかった。長女によると、次女は父親似で意地っ張りで偏屈なのだという。  次女は教室に帰って、三女と母親、それに長女も見学した方がいいだろうとの判断で、私とアルヤール氏はこれらの三人を連れてダーランの盲学校に向かった。車で1時間弱の距離だ。  盲学校では校長をはじめ大歓迎で、校長自ら案内してくれた。途中、弱視児が授業でパソコンを操作しているのをみて、三女は目を輝かせ、長女は「ジャナタ高校にはパソコンはありません」と言った。  三女と母親は風邪を引いて寒そうにしていたので、校長の指示で、三女と母親に備蓄していたセーターがプレゼントされ、二人はその場で着た。  帰りの車の中で、昨年買った携帯電話は壊れたというので確認のためカトリ家に向かった。家の近くに車を止め、三女が走って携帯電話を持ってきた。ドライバーが車のシガーソケットに繋いで、「バッテリーがいかれているので使えない」と言った。  そして車でジャナタ高校に行き、校長に三女がダーランの盲学校に転校することになったことを報告。近々、盲学校に登録に行く必要があるので、その交通費2,000ルピーと、カトリ家の携帯電話が壊れたので、あらたな購入費として3,000ルピーの計5,000ルピーを渡したい。ついては、昨年同様、そのお金を校長に渡すので、母親に渡すことで保証人になってくださいとお願いして快諾された。  その後、三女がお腹を壊して、盲学校への登録は一度延期されたが、無事に入学できたという報告が年末にあって、私たちは胸を撫で下ろした。 ●2025年度奨学生一覧   安達禮雄育英基金:2,511,900.00ルピー(2025年5月30日現在)  以下、 奨学生の氏名、障害、性別、年齢、学年、学校名、成績/備考の順。  1 アジャヤ・クマール・ラム、全盲、男、15、8、パシュパティ高校(シラハ郡)、「優」。  2 プラクリティ・B.K、全盲、女、8、2、プルワンチャル盲学校(スンサリ郡)、「良」。  2 サンディプ・カティワダ、全盲、男、13、5、ラボラトリー高校(カトマンズ郡)、「優」。  4 サハナ・ジミ、全盲、女、10、2、プルワンチャル盲学校(スンサリ郡)、「優」。 5 アニシャ・ポクレル、全盲、女、17、9、シッダールタ記念高校(カピルバストゥ郡)、転校生。  6 アーユシュ・チョーダリ、全盲、男、12、3、アダーシャ・サウラ・ユバック高校(ラリトプル郡)、転校生。  7 ミナ・ブージェル、全盲、女、28、大2、TU(トリブバン大学)プリティビ・ナラヤン校(カスキ郡)、文学部。  8 ディリサラ・ダマラ、弱視、女、21、大2、TUシャヒード・アダーシャ校(カトマンズ郡)、文学部。  9 シータ・クマリ・チョーダリ、全盲、女、29、大2 TUラグナート多目的校(カイラリ郡)、文学部。  10 ハスタ・バハドゥル・カドカ、全盲、男、23、大2、TUサノティミ校(バクタプル郡)、教育学部。   正雄育英基金:2,427,900.00ルピー(2025年5月30日現在)  以下、 奨学生の氏名、障害、性別、年齢、学年、学校名、成績/備考の順。  1 ロヒット・ボムジャン、全盲、男、16、4、サンジワニ高校(カブレ郡)、「優」。  2 ガガン・シン・グルン、全盲、男、16、5、アマル・シン高校(カスキ郡)、「良」。  3 アクリティ・ダハル、全盲、女、12、3、アマル・シン高校(カスキ郡)、「優」。  4 シャーム・タクール、全盲、男、15、8、パシュパティ高校(シラハ郡)、「優」。  5 アビナム・タミ、全盲、男、14、6、カリンチョク高校(ドルカ郡)、「良」。  6 スリシュティ・タマン、全盲、女、14、5、カリンチョク高校(ドルカ郡)、「優」。  7 サパナ・ウパディヤ、全盲、女、11、3、バイラブ高校(ジュムラ郡)、「優」。   順子女子育英基金:2,562,900.00ルピー(2025年5月30日現在)  以下、 奨学生の氏名、障害、性別、年齢、学年、学校名、成績/備考の順。  1 パルワティ・チョーダリ、弱視、女、15、7、ジャンタ高校(バラ郡)、転校生。  2 サムジャナ・チョーダリ、全盲、女、13、3、ドゥマルワナ高校(バラ郡)、「不可」。  3 カリシュマ・カトリ、弱視、女、10、6、プルワンチャル盲学校(スンサリ郡)、「良」。  4 カルナ・カトリ、弱視、女、17、8、ジャナタ高校(スンサリ郡)、「不可」。  5 クリシュナ・ライ、全盲、女、12、2、サンジワニ高校(カブレ郡)、「不可」。  6 ウシャ・ライ、全盲、女、19、11、サンジワニ高校(カブレ郡)、「良」。  7 サンジタ・ムグラティ、全盲、女、15、1、アダーシャ高校(バクタプル郡)、「良」。  8 シャルミラ・バム、全盲、女、17、10、バルマンディール高校(フムラ郡)、「良」。  9 ギータ・カミ、全盲、女、13、6、カラシルタ小学校(フムラ郡)、「良」。  10 サルミラ・スナル、全盲、女、13、5、バルマンディール高校(フムラ郡)、「良」。  ※進級試験に合格できない理由は、教育環境の不備と生徒の母語がネパール語でないことが多い。 ●ネパールのブラインド柔道事情  2010年第1回アジアパラ競技大会が中国の広州で開催された。ネパール柔道協会の一員として参加したダルマ・クマール・シュレスタ氏は、そこでブラインド柔道があることを知り、帰国後、その普及に尽力。その後、聴覚障害者にも柔道を普及すべきだと考え、2012〜2013年頃、ネパールデフ&ブラインドパラ柔道協会(NDBPJA)を立ち上げた。  ネパールにおけるブラインド柔道は、現在、唯一、ラボラトリー高校の柔道場において、日・火・木の週3日間、午後4時から武装警察官のキラン・ガデル氏(柔道初段、26歳)が指導している。  ブラインド柔道人口は同校生徒19人(うち女性4人)と卒業生2人の計21人である。卒業生は、2018年インドネシアのジャカルタで開催された第3回と 2023年中国の杭州で開催された第4回アジアパラ競技大会に参加している。ネパールからパラ柔道でパラリンピックに参加した実績はまだない。  受講生には「どうぞきて下さい」とお願いする立場なので、もちろん受講料は無料で、柔道着はカトマンズ在住の写真家・古屋祐輔氏が調達してくれたものだという。  柔道場は、既存の建物に19枚のタタミマットを敷いたもので、東西南北に余白があり、そこが通路になっている。だが、タタミマットは固定されていないので激しい練習をするとすくずれるため、その都度敷き直す必要がある。  ネパールブラインド柔道の問題点は、練習会場が1箇所しかないため、初心者と中級者が混じって練習しており、対戦相手がいないことだ。また、柔道場も狭く、タタミマットも良くない。指導方法も手探りで行っている状況だった。  ダルマ・クマール・シュレスタ氏は、来日して国際柔道連盟と国際視覚障害者スポーツ連盟の審判の資格を取得しており、NDBPJAの副会長である。もう一人の副会長はNAWB元会長のクマール・タパ氏(トリブバン大学講師)だと聞いて私たちは驚いた。古くからの付き合いだが、彼から柔道の話など聞いたことはなかったのだ。  ブラインド柔道は、デフ柔道に先行して開始されたが、現在はデフ柔道の方がはるかに活況を呈している。その理由は、聴覚障害者は助けを呼べないのでレイプなど性暴力の標的になりやすく、実際に被害者も多いという悲しい現実があり、護身術として柔道を練習しているのだという。 ●最高額紙幣が使えない  蔵前仁一著、産業編集センター刊(2024年10月)『ホーボー・インド』を読んでいたので、知ってはいたが「そんな無体な?」と半信半疑だったので、実際に受け取りを拒否されて初めて実感が湧いた。  餞別として私は3,960インドルピーを日本でもらったので、インド国境に近いホテルで両替したら2,000ルピー札だけ受け取りを拒否された。  2023年5月19日にインド準備銀行は2,000ルピー紙幣(同日レートで3,300円)の流通停止を発表し、9月30日以降は法定通貨としての地位を失うので、その間に自分の銀行口座に預金せよという施策を打ち出した。  突然の最高額紙幣無効を宣告したのは、脱税目的で銀行口座に預金せず、現金のまま自宅の金庫(タンス預金)で保有している富裕層の隠し資産を炙り出すためだった。  インドは自国通貨をネパールとブータン以外の海外に持ち出すことを禁止しているので、「国外で持っている人はいないはず」という前提で、この施策は行われ、私のような者が憂き目を見たのである。(福山博) ●2024(令和6)年度 資金収支計算書 (自)2024年4月1日 (至)2025年3月31日  以下、勘定科目:予算(A)、決算(B)、差異[(A)−(B)]│、備考の順。単位は円。     (収入)  経常経費寄附金収入:560,000、566,000、△ 6,000  寄附金収入;560,000、566,000、△ 6,000  その他の事業収入:100,000、100,000、0  補助金事業収入(毎日新聞東京社会事業団からの助成金);100,000、100,000、0  受取利息配当金収入:0、0、0  受取利息配当金収入;0、0、0  その他の収入:0、0、0  雑収入;0、0、0   事業活動収入計(1):660,000、666,000、△ 6,000     (支出)  人件費支出:120,000、120,000、0  職員給料支出;120,000、120,000、0  事業費支出:659,042、659,042、0  海外援護費支出(点字教科書フォローアップ事業);300,000、300,000、0  海外出張費支出;359,042、359,042、0  事務費支出:244,000、223,685、20,315  旅費交通費支出;2,000、1,486、514  事務消耗品費支出;1,000、625、375  印刷製本費支出;91,000、90,750、250  通信運搬費支出;80,000、60,539 19,461       手数料支出;35,000、35,285、△ 285  渉外費支出;0、0、0  諸会費支出;35,000、35,000、0  雑支出;0、0、0   事業活動支出計(2):1,023,042、1,002,727、20,315   事業活動資金収支差額(3=1−2):△ 363,042、△ 336,727、△ 26,315   当期資金収支差額合計(4=3):△ 363,042、△ 336,727、△ 26,315   前期末支払資金残高(5):5,469,715、5,469,715、0   当期末支払資金残高(4+5):5,106,673、5,132,988、△ 26,315 ●2024年度事業報告(令和6年4月1日〜令和7年3月31日)  ネパール盲人福祉協会(NAWB)への支援として、当協会が寄附者と創設に協力した安達禮雄育英基金、正雄育英基金、順子女子育英基金の3基金による奨学金給付を続けるとともに、点字教科書発行の資金支援などのフォローアップ事業を実施した。協会職員を現地に派遣し、現地視察やスタッフとの交流、状況報告を受けるなどした。事業報告集『愛の光通信』を2回(62号と63号)発行した。  また、上記育英基金事業と同様に、NAWBに「THKA Japan基金」(仮称)を新設し、フォローアップ事業を半永久的に継続できないか研究を行った。 ●2025年度事業計画(令和7年4月1日〜令和8年3月31日)     1.「THKA Japan基金」(仮称)を創設  当協会は1986年、ネパールの視覚障害児・生徒に点字教科書を無償提供することを目的に「点字印刷技術移転事業」を始めた。ネパール盲人福祉協会(NAWB)の職員を招いて技術研修を行い、1992年1月にNAWB点字印刷所を首都カトマンズに建設した。その後も、支援を段階的に縮小しつつ、これまでの事業が無に帰すことがないよう、NAWBの点字教科書発行を中心とした事業をフォローアップするための側面支援を行ってきた。  開始から40年の節目となる2026年度に、直接支援を打ち切ることにし、その代わりに2025年度中に「THKA Japan基金」(仮称)を創設し、フォローアップを半永久的に継続するためにNAWBに運営・管理を委託する。  また、寄付者とNAWB、当協会が覚書を交換して設立した三つの奨学金事業(安達禮雄育英基金、正雄育英基金、順子女子育英基金)については、その執行状況を引き続きモニターする。     2.国内事業  広報・募金活動は、NAWBから事業報告等が提出されることを条件に続ける。ただし、『愛の光通信』点字版・墨字版の発行と送付は2025年7月号で最後とし、次の号からは年1〜2回をめどに、協会ホームページに掲載するとともに、希望者にPDF版とTXT版をEメールで届ける。  また事業縮小にともない、障害分野NGO連絡会 (JANNET)と、日本ネパール協会へ2025年度中に退会手続きを行う。 ●海外交流事業記録(2024/4〜2025/3)  4月10日:1991年にNAWBの点字製版用原版を亜鉛版からプラスチック板に切り替えた際の見本(在庫)200枚をNAWBは必要としているかメール送信。必要だとの返事を受信。  4月27日:NAWBより『愛の光通信』(62号)用写真(極西部フムラ郡の統合教育寄宿舎)受領。  5月9日:NAWBより『点字カレンダー』受領。  6月:『愛の光通信』(62号)を発行した。  8月13日:NAWB宛EMS(国際スピード郵便)で『愛の光通信』(62号)を送付した。  9月1日:NAWBより『愛の光通信』(63号)用記事と写真(ネパールガンジのマンガル・プラサド・モデル高校の2名の全盲教師の自己紹介)受領。  10月23日:日本ネパール協会創立60周年にあたり、40年以上にわたり同協会を支えてきたことから、「感謝状」と記念品を頂いた。  11月14日:NAWBに30万円を送金した。  12月:『愛の光通信』(63号)を発行した。  12月14日〜12月24日:ネパール出張。  12月15日:プラスチック板200枚をNAWBに届けた。  12月21日:クリシュナ基金のOGアルチャナ・ムキーヤ(長女)が男児(ジャヤス)を出産。 ●寄附者ご芳名(五十音順・敬称略)2024年4月1日〜2025年3月31日  温かいご支援ありがとうございました!  (個人) 青木貞子、安藤生、飯田光江、石田隆雄、岩屋芳夫、上野伊律子、遠藤利三、及川幸男、大垣内勇、大西正広、大橋東洋彦、大森純子、岡本好司、貝元利江、勝山良三、加藤万利子、川田孝子、北風政子、楠本睦子、小泉周二、小島亮、小林良子、小森愛子、近藤光枝、斎藤惇生、酒井久江、坂入操、坂本留美、指田忠司、白井雅人、杉沢宏、須原ひとみ、橋キヨ子、高橋恵子、橋秀治、田中正和、当津順子、鳥山由子、新阜義弘、林紘子、原田美男、樋渡敏也、藤元節、本間昭雄、増野幸子、松井繁、三宅正太郎、茂木幹央、森栄司、渡辺勇喜三  (団体等) ◆NPO法人点訳・音声訳集団一歩の会、◆学校法人聖明学園古和釜幼稚園、◆株式会社高垣商店、◆宗教法人花園神社、◆有限会社ヤマオー事務機 ●デーヴァナーガリー数字とアラビア数字  ネパールの車のナンバープレートは、従来、デーヴァナーガリー文字と数字で表記されていた。ネパール国内で「アルファベットとアラビア数字」で記載した車に出くわしたら、それはインドの車に決まっていた。ところがカトマンズ市内で警察車両に「アルファベットとアラビア数字」が記され、左隅にネパールの国旗が描かれたものに遭遇したので首をひねった。  実は新しいナンバープレートが2017年から開始されたのだが、現在は移行期間中で両方の形式が混在しており、新しいナンバープレートに付け替えるには費用が発生するので、いまだに従来型が圧倒的に多いため、これまで目立たなかったのだ。  ところで、インドやネパールで使われるこのデーヴァナーガリー数字を「インド数字」と呼称してはいけない。「インド数字」はデーヴァナーガリー数字に由来するアラビア語圏で、アラビア文字とともに使われる数字だからだ。  「アラビア数字」もデーヴァナーガリー数字由来だが、アラビアを通じてヨーロッパに伝わったのでこう呼ばれる。日本には西洋を通じて伝わったため「洋数字」と呼ばれることがあるのと同じことだ。  アラビア数字とデーヴァナーガリー数字でまったく同じ形をしているのは「0」だけで、改めてインドで発明された「0」の偉大さを思い知った。 ●ダーラン時計塔  ダーラン(人口16万6,500人)は開発の進んでいるネパール東部マハーバーラト山脈の麓に位置し、トレッキングの玄関口ともなる風光明媚な観光都市である。しかもネパール唯一の盲学校と共に大学・短大が18校もある緑豊かな文教都市である。  そのランドマークが、5階建て23.3mのダーラン時計塔(Dharan Clock Tower)、当地出身で香港・マカオで成功した移住者らの寄附で1991年に建てられた。塔の周囲には、1988年のネパール地震の犠牲者を追悼するための記念碑も建てられている。 ●出国ゲートが決まらない  出発案内ボードの下から2つ目TG320の搭乗時間は13時25分だが、そのときの時刻はボードの右上にあるとおり13時10分である。つまり15分前だというのに出発ゲート番号が出ないのだ。出稼ぎのために中東への便が大増発されたが、ゲートが7つなので、そのやりくりに四苦八苦した結果、14分前にゲート番号は[3]と出て、その直後に搭乗となった。 ●寄附のお願い  ネパールにおける視覚障害者支援、とくに教育の充実をはかるために寄附をお願い致します。  寄附金のご送金は下記口座をご利用ください。 郵便振替:00150−5−91688  寄附金に対する減免税措置  東京ヘレン・ケラー協会は、所得税法施行令第217条第1項第5号に掲げる社会福祉法人です。当協会に対するご寄附は、所得税法第78条第2項第3号及び租税特別措置法第41条の18の3、法人税法第37条第1項及び第4項の規定が適用され、税法上の特典が受けられます。 ●編集後記  昨年(2024年)の本誌1月号(No.61)では、「ジャンタ高校」としていましたが、それを今号は「ジャナタ高校」に改めました。  それは同校で「Janata Secondary School」と書いてある文書を見たからです。  NAWBは一貫して「Janta Secondary School」と表記し、報告してきていましたので、「スペルが違うじゃないか」とNAWBホーム・ナット・アルヤール理事にクレームを付けました。  すると「Janta」も「Janata」も同じ発音じゃないですか!」と反論されました。  日本語的には違和感があるのですが、ネパール語的には同じなのだそうです。  日本でも大谷を「Otani」とも「Ohtani」ともローマ字表記できるので、それと同じことだと考えることにしました。(H・F)  発行:社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会海外盲人交流事業事務局 〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4 TEL : 03-3200-1310   FAX : 03-3200-2582 https://www.thka.jp/     E-mail: kaigai@thka.jp  ※迷惑メールが増えています。当協会宛のメールには、適切な「件名」をお書き添えください。