ISSN 0913-3321    LIGHT OF LOVE    Overseas Program for the Blind - Plans and Reports    春号・Spring    No.22 2004.5    愛の光通信    東京ヘレン・ケラー協会 海外盲人交流事業事務局  写真:NAWBトゥルシ主任による面接調査(ジュダ統合教育校)  写真:タルー族の教師と視覚障害児(ドゥマルワナ統合教育校)  写真:文化祭(アマル・ジョティ・ジャンタ統合教育校)  写真:点字を打つ少女(シャンティ統合教育校)     統合教育事業を終えるにあたって  当協会がネパール盲人福祉協会(NAWB)と共同で本格的に統合教育を開始したのは、平成5年(1993)1月16日であった。当時、我々はナラヤニ県バラ郡においてCBRを精力的に展開しており、その一環として、同郡にある公立ドゥマルワナ校で実施することにしたのである。  以来、国際ボランティア貯金の配分金等で実施してきた統合教育事業であったが、残念ながら平成16年6月末で終了せざるをえなくなった。直接の原因は、長引くわが国の超低金利政策の影響で、同貯金の配分を平成15年から受けられなくなったためだ。しかし、実はそれ以上に深刻なのが、ネパールにおける治安の悪化であった。結局のところ、我々は身の危険を承知で職員を現地に派遣することはできないし、現地の調査や事業管理なしに大きい事業を継続することはできない。可能なのは、点字教科書の発行が精々である。  各統合教育校に関しては、これまでもたびたび紹介してきたが、最後にちょっと特徴のある各学校の所在地の風景をスケッチしよう。そして、これまでのボランティア貯金をはじめとする皆様方のご支援に御礼を述べると共に、各学校に別れを告げたいと思う。  ■ドゥマルワナ校  雨季になると陸の孤島となるのでバラ郡ドゥマルワナ村は、タライ平野にあるにもかかわらずかなりディープな農村僻地である。秋になると、隣接するパルサ野生動物保護区から野生の象が5、6頭の群になって、稲穂が頭を垂れる水田を荒らしにくる。そこで村人は不寝番をするのだが、運が悪ければ象に踏みつぶされ落命するのである。  このワイルドな村にはタライ平原の先住民で、歴史的に迫害を受けてきたタルー族が多く住んでいる。同校教員の多くもタルー族で、彼らはそれをとても誇りにしている。  ■ジュダ校  タライ平野のコミュニティは、カトマンズ等の丘陵地帯より隣国インドとの結び付きが強い。タライ平野と丘陵・山岳地帯との間を連結する道路は、決して十分に整備されているとはいえないのに対して、インドとは平野でつながりオープン・ボーダーだからだ。なかでも、ジュダ校のあるロータート郡ゴール町は、なかでもとりわけインドの影響が強く、同校の教員はほとんどがヒンズー語で教育を受けている。しかも、我々が支援する他の統合教育校の男性教員がズボンにシャツという洋装であるのに対し、同校の職員は夏になると白いドーティ(腰巻)と裾の長いガーゼのような生地のインドシャツをゆったりと着こなす。  ■アマル・ジョティ・ジャンタ校  同校のある山岳丘陵地のゴルカ郡は、ネパール王室の故郷である。この地からプリトュヴィ・ナラヤン・シャハ大王がネパール統一の戦いを始め、1769年にゴルカ王朝を建てたのである。同王朝の旧王宮はゴルカのバザールより更に300メートル登った丘の上にあり、周辺の地域を見下ろしているので、どこからでも見る事が出来る。  同郡ルインテル村のジャンタ校も、また別の山にあるのだが、麓から歩くと2時間はかかる急峻な山頂に位置し、王宮同様まわりを睥睨している。  ■シャンティ校  同校のあるルパンディヒ郡マニグラム村は、国道に面しているため、当協会が支援する統合教育校があるどこよりもひらけている。この村に隣接して、釈迦の名前を冠したシッダルタナガール(旧バイラワ)という大きな地方都市があり、その延長線上で発展しているのだ。そのシッダルタナガールの先には、釈迦生誕の地が公園となっており、わが国をはじめとする仏教国の寺院が、悠々と立ち並ぶ。しかし、その周りは歴史の皮肉で、イスラム教徒の村落に囲まれている。  ■アンチット校  我々が支援する他の学校が寄宿制であるのに対して、この学校だけは通学制の統合教育校だ。同校のあるバラ郡バタラ村は、インド国境に接しており、10分も歩けば、知らない間にインド側へ抜けてしまうような農村僻地である。     寮母と鳩(写真)  カメラを構え、シャッターを押すと同時に、それまで足下で餌をついばんでいた数羽の鳩が一斉に飛び立った。  これらの鳩は、ドゥマルワナ校の視覚障害児が他の統合教育校と交流するための交通費を賄うために飼っている食用鳩だ。わが国同様、カトマンズでは一般に鳩を食べる習慣はないが、タライ平野では冬の馳走である。  白いサリーを着て、井戸で洗った食器を運んでいるのは寄宿舎の寮母であるデビおばさん(Mrs. Devi Khan Tharuni)。彼女は、1993年1月のオープン以来この学校に勤務している。  その昔は、夫が死ぬと妻も一緒に火葬される寡婦殉死の風習(サティー)があったが、さすがにそれは近代になり禁止された。しかし、その残滓は今でもあり、男性は問題なく再婚できるが、女性の再婚は世間の目が厳しく、カトマンズでもほぼ不可能である。  今にして思えば、デビおばさんと我々最初に出会った当時、彼女は30半ばであった。しかし、その当時でさえ、我々は彼女を老婆だと信じて、疑わなかった。しかし、だからといってこの地では失礼にはあたらない。老人は尊敬され、大切にされるので、とくに女性は少女期からの過酷な労働から早く逃れるためにも年寄りに見られたいのだ。  夫に先立たれたヒンズー教徒の婦人は、この地では真っ白なサリーを着て、一切のアクセサリーを身に付けず、喪に服す。このため、笑顔を見せることはなく、年齢より遥かに老けて見える。もっともこの地では40歳を過ぎると、疑いもなく老人なのであるが。   ネパールの拉致被害者?     ― 行方不明の8割は官憲による連行か ―  本誌前号(No.21)でご案内したとおり、当協会は平成15年度より、ネパールにおける事業を見直し、プロジェクト単位の支援は行わないことにした。そして、ネパール盲人福祉協会(NAWB)が行う事業の側面的な支援に切り替えた。その最大の理由は、平成15年より国際ボランティア貯金の配分金を受けられなくなったためだ。しかし、それに勝るとも劣らない理由として、ネパールの不安定な治安、いわゆるマオイスト問題がある。  海外でプロジェクトを実施するためには、少なくとも年に数回は、現地を訪問しなければならない。我々も事業を立ち上げるときは、職員が現地に数ヶ月間張り付き、事業が軌道に乗るまでは、頻繁に調査や事業管理のためネパールを訪問した。しかし、近年はマオイスト問題があり、配分金を受けるにあたっての義務であった年2回の現地調査さえままならない状況となった。  ネパールにおける治安問題の複雑さは、武装ゲリラであるマオイストだけでなく、政府軍に対しても注意を払わなければならない点だ。  昨年(2003)10月16日に国際的な人権団体であるアムネスティ・インターナショナルのネパール支部が発表した報告によると、マオイスト制圧作戦のなかで、政府側治安部隊が拘束した人たちが行方不明になるケースが増えてきたという。  行方不明者は確認されたものだけでも、この5年間に250人以上である。また、本年1月12日付英字週刊紙『ネパリ・タイムズ』によると、全国人権委員会(NHRC)の調査では、2000年以降に連行された行方不明者は808人にものぼっている。そのうち政府に連行されたのが確実なのは663人で、カトマンズから112人、パタンから25人、バクタプールから14人と、安全なはずの首都圏からの不明者も多い。誰に連行されたか不明もあり、外国人だからといって安心とはいえない状況だ。  NHRCによると、マオイストによる連行もあるが、不明者の80%以上は官憲による連行だという。マオイストが違法行為をするから政府も法を無視してよいということにならないのはいうまでもない。やりきれないのは、軍や警察によるなりふり構わぬ連行と行方不明が後を絶たず、官憲のこのような不当な権力行使が、反政府活動の火に油を注いでいる現実である。 全盲のカマル氏が来日  写真:当協会点字出版所編集課にて  学生時代にNAWBで触読校正のアルバイトをしていたカマル・ラミチャネさん(21歳)が、ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業により、昨年の8月から日本で研修を受けている。  彼の日本語を教えたのはNAWBのアルヤール事務局長だが、彼の日本語の能力はすでに師を越え、電話では日本人と間違えるほど流暢である。     インド大使館を波状攻撃する鳩  本年(2004)1月13日付の英字日刊紙『カトマンズ・ポスト』によると、在ネパールインド大使館は、4カ月ほど前から12匹の猿による日常的な攻撃にさらされている。これらの猿は、朝から夕刻にかけて、つまり大使館員の勤務時間に会わせて、大使館内に侵入し、事務机の上の書類や文房具をめちゃくちゃに荒らし回っている。  同大使館は、ネパール中央動物園の協力を得て、これまでに25000ルピーを費やし、「麻酔投げ矢」等により、何度も捕獲作戦を敢行。そして、ついに1匹を捕獲することに成功したが、いぜん猿による攻撃は収束していないという。 ■お断り■  本誌前号(No.21)「申年にちなんで」(8頁)において、ネパールの猿を「テナガザル」と書きましたがこれは「オナガザル」の間違いでした。お詫びして訂正します。     募金のお願い  ネパールにおける視覚障害者支援、とくに教育の充実をはかるために募金をお願い致します。  寄付金のご送金は下記口座をご利用ください。 郵便振替:00150−5−91688 銀行口座:三井住友銀行新宿通支店(普)5101190     寄付金に対する減免税措置  東京ヘレン・ケラー協会は、所得税法施行令第217条第1項第5号にかかげる社会福祉法人でありますので、当協会に対するご寄付は、所得税法第78条第2項第3号、法人税法第37条第3項第3号の規定が適用され、税法上の特典が受けられます。     編集後記  本号では、盛んに平成15年度より支援方式を変更したと強調しています。しかし、前号の平成15年度事業計画でも触れているとおり、急に統合教育事業をやめると現地が大混乱に陥るので、実際の平成15年度事業は、従来に準じて実施しました。  平成15年度の決算報告と事業報告は、次号で行います。  国際ボランティア貯金の事業年度は、7月1日から翌年の6月30日。ネパールの会計年度は7月中旬から、翌年の7月中旬であるため、それ以降でなければ実は事業の全体像は把握できません。  しかもネパールのヴィクラム暦と西暦の間には、必ずずれが生じるので、毎年泣かされます。(H・F) 発行:社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会 海外盲人交流事業事務局 〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4 TEL : 03-3200-1310  FAX : 03-3200-2582 E-mail : XLY06755@nifty.ne.jp  TOKYO HELEN KELLER ASSOCIATION(Established in 1950)  14-4, Ohkubo 3 chome, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0072, Japan