ISSN 0913-3321    LIGHT OF LOVE    Overseas Program for the Blind - Plans and Reports 春号・Spring No.16 2001. 3 愛の光通信 東京ヘレン・ケラー協会 海外盲人交流事業事務局  (写真キャプション)  当協会の創立50周年を記念する「感謝のつどい」が昨年(2000年)11月10日、東京・竹橋の「毎日ホール」で行われました。協会は、1948年のヘレン・ケラー女史の来日を契機に、厚生省、東京都、毎日新聞社が協力して1950年に発足。視覚障害者の自立支援のため、針灸マッサージ師養成施設や点字出版、点字図書館を運営するほか、ご存じのとおりネパールでも支援活動を行っています。  堀込藤一理事長は約200人の参加者に「政・財・官・民が共生し、運動を推進してきた。今後もヘレン・ケラーの精神を受け継ぎ運動を発展させたい」と挨拶。26年間にわたり点訳ボランティアを続ける白石信子さんら6個人、6団体に感謝状を贈りました。  また、毎日新聞社斎藤明社長、福島豊厚生政務次官、八代英太衆議院議員に続き、在日ネパール大使館モハン・シュレスタ参事官も挨拶に立ち、当協会のネパールにおける活動を日本語で詳しく紹介すると共に賞賛し、式典に花を添えました。 ---------------------------------------------------------------------------------------- p2 LIGHT OF LOVE     バラCBRの12年     引き継がれる小さな灯火  平成元年3月、当協会は現在のネパール社会福祉協議会(SWC)の前身であるSSNCC(会長は王妃)と協定を結び、ネパール王国ナラヤニ県バラ郡における地域を基盤としたリハビリテーション事業、いわゆるCBRを開始しました。  本協定は3年契約ですが、現地からの強い要望があり3回延長しました。そして本年3月、ついに契約終了となります。これに伴いCBR事業も本年6月末で、発展的に現地に引き継ぎます。 変わった村人の意識  標高1300mのカトマンズから、山を越えまっすぐ南下すると、インド国境に面してバラ郡があります。人口50万近いこの地は、標高約100mですから首都とは気候・風土ばかりか風俗も大いに違います。この地の母語は、ネパール国内よりむしろ北インドで話されることが多いブシュプリ語です。このため村に入るとネパール語はほとんど通じません。国境は5、6mの川に隔てられているのですが、国境を挟む両国民はパスポート無しで自由に行き来できるオープンボーダーです。つまりバラ郡は、インドと一衣帯水の地なのです。  この地の村人はカトマンズのことを「ネパール」と呼び、遙か彼方の「外国」という印象を持っています。現在はともかく、少なくとも12年前の農村部はそのような有様で、「障害は前世の報い」という考え方が一般的でした。  障害者にとって家族や隣人の理解が得られないほど、悲しいことはありません。また障害者自身が「自分をけがれた存在」と信じていては、リハビリテーションになりません。  バラCBRは、地元出身の青年を選抜し、フィールドワーカーとして訓練することから始めました。その上でフィールドワーカーが、失明者の自宅を訪問し、本人や家族を粘り強く説得し、実施されたのです。  12年後の今日、この地で「前世の報い」というようなことをいう人はいません。そのようなことを披瀝しようものなら「無知蒙昧」のそしりを村人から受けるでしょう。バラCBR12年間の最大の成果は、因習に縛られ「何もできないとみられていた障害者が、実は有能な働き手になれる」ことを、様々な村々で、次々と実証したことです。  この地には、またムスリム(イスラム教徒)の村も数多くあります。一昔前はずいぶん気を遣い「ナマステ」という言葉もヒンズー的だからと自主規制してきました。しかし、私たちの活動が知られるようになるにつれて、ムスリムの村人からも「ナマステ」と挨拶され、握手を求められるようになりました。昨年の12月に現地を訪問した折りには、「断食明け」のお祭りに遭遇し、晴れ着を着た村人からプディングを振る舞われました。  また、父兄を説得して視覚障害児を学校に通わせるのも一昔前は大変な仕事でした。ほとんど人買を見るような猜疑の目で見られたのです。しかし、盲児がすくすくと育ち、進級するようになると、その疑いは徐々に晴れました。  そして現在は、入学希望者が多すぎて、すべての児童を受け入れられないのが、悩みの種になっています。 引き継がれるバラCBR  バラCBRは当初の目的を果たしたとして、当協会はこの6月末で完全に手を引きます。しかし、これで本事業が氷解するわけではありません。「地域に根ざしたすばらしい事業を、このまま無くすのはもったいない」と、地元の篤志家が支援を約束してくれたのです。もちろん事業は大幅に縮小されますが、フォローアップもかなり念入りに行ったので、小さな視覚障害者のための灯火を地元の手で残すことは、障害者福祉を後戻りさせないためにも重要だと期待されています。 ---------------------------------------------------------------------------------------- p3 LIGHT OF LOVE  本誌前号で「英文タイプライター(以下、英文タイプ)をお譲りください」とお願いしたところ、早速3台の英文タイプをお寄せいただきました。どれも極めて状態は良く、当方で分解掃除をして、そのうちの2台を2000年末の現地調査のおりに手荷物としてネパールに持ち込みました。そして、ナラヤニ県バラ郡のドゥマルワナ高校(Nepal Higher Secondary School, Dumarwana)とルパンディヒ郡マニグラムのシャンティ高校(Shanti Model Secondary School)に寄贈しました。 英文タイプの利点  今やワープロやパソコンに取って代わられ、我が国では無用の長物扱いされることも多い英文タイプ。たしかに、寄贈者の3人の方も異口同音に「もう十年以上使っていないが、愛着があり、捨てるに捨てられない」といわれました。しかし、ネパールそれも農村僻地では極めて貴重な筆記具となります。特にポータブルタイプは、持ち運びができ、電気の通じていないところでも、また質の良くない紙にもきれいに印字することができ、大変便利です。さらに電子機器とは違って、目に見えない砂埃で故障する心配もいりません。なにより、保守・点検費用等のランニングコストがほとんどかからないのも魅力です。 英文タイプは盲人用?  タイプライターは最初の開発から実用化まで150年余もかかったため「多くの精神の産物」といわれています。そして、特筆すべきはその黎明期において多くの開発者が視覚障害者用筆記具として研究した事実です。  米国の有名な科学誌「サイエンティフィック・アメリカ」を創刊したアルフレッド・ビーチもそんな一人で、キーボードの原型を作りました。  こんな先人の努力もあり、英文タイプは視覚障害者が単独で十分文字を書くことができる道具に育ったのです。しかし、ポータブルワープロは、画面を見ながら操作しなければならず、このような訳にはいきませんでした。ただ、パソコンは視覚障害者用の画面読み上げソフトを組み込むことにより、視覚障害者でも使用できます。 再びご寄贈のお願い  もし、ご家庭や職場で使わなくなった英文タイプやノート型パソコン(Windows 3.1以上)がありましたら、ネパールで活用しますのでお譲りください。まことに勝手ですが、事前に当事務局(03-3200-1310)まで電話連絡のうえ、できれば送料ご負担でお送りいただければ幸いです。 テープレコーダーも緊急募集!  古い話ですが本誌1991年7月号で、「余っているテープレコーダーをお譲りください」とお願いしたところ、たくさんご寄贈いただきました。それをネパール盲人福祉協会(NAWB)では、大事に貸し出していたのですが、なにぶん10年近く前のことで、ついにストックが無くなってしまいました。  ネパールには贈られたテープレコーダーのお陰で繰り返し復習が出来て、高校卒業の国家試験(SLC)に合格することができた視覚障害者が大勢います。もし、使わなくなったポータブルタイプのテープレコーダーやラジカセがありましたら、ご寄付いただければ幸いです。こちらもまことに勝手ですが、事前に当事務局(03-3200-1310)まで電話連絡のうえ、できれば送料ご負担でお送りいただければ幸いです。  なおネパールの家庭用電圧は220Vですが、100Vへの電圧変換器が入手可能なので、定格電圧100Vでも問題ありません。ただし、単3電池以外の特殊な電池のみで作動するテープレコーダーは、残念ながら使うことはできません。 ---------------------------------------------------------------------------------------- p4 LIGHT OF LOVE      障害者スポーツ大会で優勝  私たちが支援するドゥマルワナ校で学ぶ3名の視覚障害者が、昨年カトマンズで開かれた障害者スポーツ大会で、優秀な成績を収めました。ドゥマルワナ村はバラ郡の中では、それほどの僻地でもないのですが、たまに野生の象が大暴れして死者が出るちょっとワイルドな地域です。 ----------------------------------------------------------------------------------------     21世紀の幕開けはゼネラルストライキ  2000年12月29日フィールドワークから帰った私は「元旦と二日にゼネストがあるので、仕事を早めに切り上げるように」とのメッセージを受けた。  大晦日の夕刻に、あわててカトマンズに帰ると、とたんに季節はずれの大雨が降った。  翌元旦は、豪雨が猛烈なスモッグをきれいに流し、目の覚めるような青空が広がっていた。ネパールは、ビクラム暦という特殊な太陰太陽暦を使っているので西暦の元旦は平日である。従ってネパール盲人福祉協会(NAWB)も通常の業務を行っている。小一時間歩くつもりでホテルを出るとリキシャがたむろしており、100ルピー(約170円)でNAWBへ。いつも交通渋滞に悩まされる大通りを、快走するのは実に気持ちいい。  帰りは歩いたが、路上には屋台も出てちょっとしたお祭り気分だ。しかし街のどこかでは、デモ隊と警官隊の激しいバトルが繰り広げられており、年末のゼネストと合わせると5名の市民が犠牲になった。(福山博) ----------------------------------------------------------------------------------------      募金のお願い  ネパールにおける失明防止と視覚障害者援護の充実をはかるために、募金をお願い致します。  寄付金のご送金は下記口座をご利用ください。 郵便振替:00150−5−91688 銀行口座:三井住友銀行新宿通支店(普)5101190 寄付金に対する減免税措置  東京ヘレン・ケラー協会は、所得税法施行令第217条第1項第5号にかかげる社会福祉法人でありますので、当協会に対するご寄付は、所得税法第78条第2項第3号、法人税法第37条第3項第3号の規定が適用され、税法上の特典が受けられます。----------------------------------------------------------------------------------------     編集後記  きめ細かにご報告するため、本誌はページ数を減らし年2回発行することになりましたが、本号は事実上その第1弾です。▼このためいつも掲載している「寄付者ご芳名」や「収支報告書」、「2000年度事業報告」等が本号にはありません。これについては、次号で詳しくご案内する予定です。▼また、ご寄贈いただいたにもかかわらず、現地に届けていない英文タイプがまだ1台あります。これは、4月末に予定している現地調査のおりに、手荷物として持参します。▼バラCBRが発展的に完了するのが、6月末であるため、次号は9〜10月頃の発行を予定しています。(H・F) ---------------------------------------------------------------------------------------- TOKYO HELEN KELLER ASSOCIATION (Established in 1950) 14-4, Ohkubo 3 chome, Shinjuku-ku, Tokyo 169-0072, Japan