THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2022年7月号

第53巻7号(通巻第626号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:奥村博史
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:二つの特ダネと82年目の感謝状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
3
(特別寄稿)搾取?詐欺?援護?贈与?
  高齢になって財産を失う悲劇 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(寄稿)通り慣れた踏切のこわさ ― 近鉄踏切事故を検証する ・・・・・・・・・・
19
青年協と女性協によるシンポジウム開催 ― 日視連大会より ・・・・・・・・・・・
28
ネパールの盲教育と私の半生(13)黒猫の呪いで遅れる ・・・・・・・・・・・・・・
32
スモールトーク  喪主である母の逝去 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
西洋医学採用のあゆみ(16)漢洋脚気相撲その4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
自分が変わること(156)近未来への鍵、リベルタ―ド  ・・・・・・・・・・・・・・・・
46
リレーエッセイ:私にとっての教職の醍醐味  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
アフターセブン(88)子供札のリアルかるたから始まるドラマ ・・・・・・・・・・・・
56
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (239)ベテラン佐田の海復活 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
時代の風:人工網膜 進む臨床研究と課題、障害者の情報格差解消へ
  新法成立、呼気センシングによる個人認証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64
伝言板:れきおんクラブ、視覚障害者教養講座、
  第10回企画展「手でみる彫刻」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
68
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
二つの特ダネと82年目の感謝状

 5月20日付『日経』朝刊1面トップに新疆ウイグル自治区の砂漠に、航空自衛隊が浜松基地で4機運用している早期警戒管制機の実物大模型があることが判明した。中国人民解放軍がミサイルで攻撃する訓練の仮想標的だと見られている。台湾有事の際は真っ先にここが攻撃されるのだろうか。
 5月25日付『毎日』朝刊1面トップは、数万件のウイグル族弾圧関係公安資料が流出したという記事。しかもNHK、BBC、『毎日』、『USAトゥデー』、『ルモンド』など日米とヨーロッパの14のメディアが情報提供を受け、裏付け取材をして共同検証して同日一斉に発表したもので、中国は認めないだろうが、これは決定的な証拠である。いずれも新疆ウイグルがらみの陰鬱なニュースだが、その間の5月23日付『毎日』朝刊6面には、明るい話題が掲載されていた。
 イスラエル日本友好議員連盟会長と駐日イスラエル大使は5月22日、東京都内の介護施設を訪問し、第2次世界大戦時に危険を顧みず多くのユダヤ人難民の命を救ったヘブライ文化研究者・小辻節三(こつじ せつぞう)氏(1899〜1973)の行動をたたえ、次女の暎子(てるこ)氏(91歳)に感謝状を贈呈した。
 駐リトアニア日本国領事代理だった杉原千畝氏が1940年にナチスドイツから逃れてきた多くのユダヤ人に発給した「命のビザ」は広く知られている。ただそれは短期ビザであったため強制送還の恐れがあった。そこで来日した彼らのために奮闘し、スパイ容疑で拷問されながらも当時外務大臣であった松岡洋右氏の手も借りて、命がけでユダヤ人を助けたのが小辻氏である。
 2013年にNHK出版から刊行された『命のビザを繋いだ男 小辻節三とユダヤ難民』の著者で俳優の山田純大(やまだ じゅんだい)氏がゆかりのある人々を訪ね歩いた結果、今回の感謝状贈呈となった。なお、山田氏の父親は歌手で俳優の杉良太郎氏である。(福山博)

(寄稿)
通り慣れた踏切のこわさ
―― 近鉄踏切事故を検証する ――

視覚障害者の歩行の自由と安全を考えるブルックの会代表/加藤俊和

 4月25日(月)奈良県で痛ましい踏切事故がありました。全盲の高垣陽子(たかがき ようこ)さん(50歳)が近鉄(近畿日本鉄道)の特急に接触して亡くなられました。ご冥福を心よりお祈りいたします。
 この事故については、いろいろと報道もされ、近隣住宅の防犯カメラの映像も明らかになっています。私も4月28日(木)と5月25日(水)に現場の検証を行うとともに、情報の収集に努めてまいりました。
 今回の事故について明らかになったこと、および視覚障害者の踏切事故を防ぐためには何が必要かについて報告いたします。

1 踏切と事故の状況

(1) どのような踏切か

 この踏切は、奈良県を南北に走っている近鉄橿原<カシハラ>線の「近鉄郡山駅」の南約200mにある警報機・遮断機付きの小さい踏切です。東西に直角に交わる東行き一方通行の道路は歩車道の区別どころか車1台がやっと通れる狭さなのに、10分間に50台以上と車の通行量はかなり多く、車が来ると人は道路端に避けて車の通過を待たなければなりません。人の通行は車の5分の1以下で10分間以上誰も通らないこともよくあり、「声かけ」は期待ができない踏切です。
 踏切の幅は 4.7mで遮断機のバーからバーまでは8.2mです。なお、遮断機のバーの装置は、高垣さんが踏切に入った西側は南の隅、向こう側の東側は北の隅にあり、警報音が鳴って赤色点滅する装置は、どちらも南側についています。

(2) 事故の状況

 事故が起こったのは、4月25日(月)の午後6時13分でした。この日の日没はその数分後ですが、奈良盆地は少し早く暗くなり、雨の直前でどんよりと曇っていましたので、事故時の踏切は徐々に暗くなっていく途中でした。
 近鉄の線路は踏切の南約370mの所で少し曲がっています。この踏切では、警報が鳴ってから約10秒でバーが動き始め6秒後にバーが閉まります。
 京都行き特急電車の運転手は、バーが閉じてから10数秒後に、この曲がり角を過ぎたと思われます。そして、踏切内の高垣さんを発見し、警笛を鳴らして急ブレーキをかけ、その約10秒後に現場を過ぎてから止まったと推測されます。(踏切内の人を見つけてブレーキを踏むまでに2,3秒はかかり、時速約100kmの電車が止まるには400〜600mの距離が必要です)。

(3) 事故直前の映像から推測する事故の原因

 今回の事故では、高垣さんの様子が映る映像がありNHKでも放映されましたので、事故直前までの様子がある程度分かりました。ただ、防犯カメラの映像で解像度は低く、設置場所の関係で踏切内での見える範囲は斜めに遮られていました。
 映像では、高垣さんは西から東へ、道路の左端(北側)の白線の車道よりを、白杖の2点歩行によってまっすぐに歩いています。踏切の手前8mほどのところで、白杖を左手に持ち替えて突かずに下げて持ち、右手は後ろポケットから何かを取り出して右手に持ったまま踏切の中央部を過ぎるところまで進まれています。この間は白杖を突いていないのですが、ほぼまっすぐ一定の速さで歩かれています。
 複線の4本のレールを超えたあたりで警報機が点滅して高垣さんは立ち止まり、いったん左端(踏切内の北側)に行って何かを確認するような動作のあと、少し戻って立ち止まられたところまでがNHKの映像でした。その後、10秒ほど立ち止まられてから体の向きを西方向に変え戻ろうとされたらしいことが明らかになっています。
 映像だけで断定することはできませんが、踏切の警報機が点滅し始めてから、踏切内に10秒以上立ち止まっておられたのは確かです。
 踏切の手前にいると勘違いされていて、電車の警笛が鳴ってから勘違いに気付かれ、戻ろうとして事故に遭われた可能性が高いと思われます。

2 事故は防げなかったか

(1) 「踏切内」の手がかりは三つあったが……

 この踏切の「踏切内」かどうかの手がかりとしては次の三つがあったはずでした。なお、イ.とウ.については、地元の視覚障害者団体の粘り強い運動によって、2005年に実現したものでした。
 ア.この踏切の部分は20cmほど盛り上がっています。しかし、今回の高垣さんのように西から進むと、道路から徐々に上がっているため感じとりにくい方向でした。
 イ.踏切に入る道路の両側両隅の4か所に 30cm角の点字ブロックが各4枚正方形に貼られていましたが、その後のメンテナンスがされておらず、歩行に必要な部分は剥がれたり激しく摩耗したりしていました。
 なお、事故後の視覚障害者団体の強い要望によって、5月24日に、この4か所の点字ブロックは6枚に広げて敷き直され、足で明確に分かるようになりました。
 ウ.踏切内の路面には高さ1.5mm程度の凹凸のある硬質ラバーが貼られていました。でも、タイヤによる摩耗などで、歩行速度が早いと気付きにくくなっていたと思われます。

(2) なぜ踏切内と気付かなかった?

 高垣さんは、現場から約2kmの奈良県立盲学校の出身で、実家はこの踏切の西側にあって治療院は東側にあり、かなり通り慣れておられたようです。事故のときも、途中で白杖を浮かして歩く部分があったのに、すたすたとけっこう速く歩いて進まれていることからも、よく通り慣れていた道路であり、あまり意識せずに歩いていたために踏切内に入ったとも思っていなかった可能性があります。なお、スライド歩行なら踏切内と分かったのではないか、という意見もありますが、この周辺道路は凹凸が多く、スライド式がよいとは一概に言えないと思われます。

3 今後の踏切事故対策は?

 今回のような踏切事故から命を守るためにはどうしたらよいのでしょうか。ハード面とソフト面の両方から考えてみたいと思います。

(1) 踏切前や踏切内の点字ブロックなど

 踏切に入る手前の警告用点状ブロックが必要なことが今回の事故によってより明らかになりました。少なくとも視覚障害者がよく利用する踏切については敷設し、しっかりとメンテナンスするように要望していくことが必要と考えられます。
 「踏切内の歩行部分にエスコートゾーン」については、視覚障害者の強い要望によって、2010年に大阪府豊中市の阪急(阪急電鉄)の踏切で実現し、大阪府内では計5か所の踏切に敷設されています。「エスコートゾーン」については、その形状のJIS化すらされていませんので、早期に規格化することも必要です。
 なお、この踏切には、車の一旦停止を示す白線がありませんでした。弱視者には踏切を示すことにも役立つので、白線を引くべきだと思います。

(2) 踏切の警報音を鳴き交わし式に

 踏切に入ってから、踏切両側の警報音が95db以上もの大きな音でカンカンと前と後ろで同時に鳴ったとき、音の位置や方向性の判断が困難になります。踏切の内か外かすら分からなくなってしまった経験を何人もの視覚障害者が語られています。
 横断歩道の音響信号機については、横断の途中で方向が分からなくる危険が指摘されていました。そのため岡山県立大学名誉教授の田内雅規(たうち まさのり)氏の研究と尽力で、2003年10月に警察庁の通達が出され、「異種鳴き交わし式音響信号機」に統一されてきています。
 踏切は、横断歩道よりもさらに危険性が高いので、効果的な鳴き交わし式等を早急に検討して導入する必要があると思われます。前と後ろの二つの警報音が区別できていたら、高垣さんも踏切内にいることが察知できた可能性があります。

(3) 踏切利用に関して視覚障害者が注意すること

 踏切は非常に危険な場所ですので、踏切を利用する視覚障害者が歩行訓練を受けられる体制が必要です。視覚障害者自身も、危険な踏切はできる限り避けること、そしてどうしても通らないといけないときには注意力を高めることが重要になります。
 ところで、今回は映像がニュースに流れ、「高垣さんはスマホを見ていたのではないか」と批判する意見も出されています。でも、映像の解像度は低く、スマホかどうかも明確ではありません。さらに、全盲の高垣さんにわずかな視力があったとしても、スマホなら眼にかなり近づけるか耳に近づけるかの姿勢になっているのでは、とも思われ、「スマホを見ているような姿勢」と断定されてしまう映像公開の怖さも浮き彫りになりました。
 なお、遮断機が下りたとき、「踏切の中にいるかもしれない」とすこしでも思ったら、とっさにバーにしがみつき、電車が通りすぎるまでじっとすることです。バーにしがみついた状態も危険ですが、バーと電車の間は80cm以上あり、命だけは何とか守ることができます。

最後に

 駅のホームでも道路でも、かなり慣れているところで多くの事故が起こっています。できる限り注意したとしても、視覚障害者は「位置や方向の誤認」を完全になくせないことを踏まえる必要があります。今回のような悲惨な事故をなくすためには、踏切は非常に危険な場所であることを再認識するとともに、命を守るための対策を着実に実現していくことの重要性を私たちは改めて考えないといけないと思います。

編集ログ

 「巻頭コラム」で紹介した「ウイグル公安文書流出」発表に関して、世界14のメディアに日本からは放送局として唯一NHKが選ばれたのは順当だとして、紙媒体で『毎日新聞』だけがなぜ選ばれたのかひとしきり首をひねった。そして『朝日新聞』は『人民日報』に近いからとか……消去法で散々邪推した。その回答が『毎日新聞』5月30日付の山田孝男特別編集委員による名コラム「風知草」に掲載された。同氏も首を捻ったようで社内を取材して「米国が拠点の取材チームに、かつて中国でこの問題を追いかけた記者が参加していたことが有利に働いたようだ」と述べており得心した。
 この問題については、NHKと『毎日新聞』はその後も熱心に報道しているが、他のメディアは、当たり障りがない程度にお茶を濁している。ただし、『ニューズウィーク』だけは例外で、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によってホームページ上に公表されている大量の顔写真や公文書、演説原稿、収容者名簿等一連の文書を元に、6月7日号で「強引に泊まり込んで性的虐待──中国『ゼロ・ウイグル政策』は習近平の指示だった」という二番煎じではない秀逸な記事を載せていた。
 「ウイグル弾圧も習近平がこだわるゼロ・コロナ政策と多くの共通点がある」それは「新型コロナも、ウイグル人のアイデンティティーや文化も、中国共産党から見れば有害なウイルスが引き起こす病気にほかならない」からだ。このためゼロ・コロナ政策同様、習近平は新疆ウイグル自治区でのゼロ・ウイグル政策にも深く関与していると告発している。
 これはロシアがウクライナの一般市民の虐殺と共に教会を含む文化的遺産を破壊していることと同じことだ。プーチンはウクライナの文化を破壊して、ウクライナ人をロシアに完全同化させようとしている。そして中国もウイグル文化を破壊して、ウイグル人を漢族に強制同化させようとしているのだ。これらは共にジェノサイドと非難すべきおぞましい政策である。(福山博)

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