THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2021年11月号

第52巻11号(通巻第618号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:奥村博史
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:世界のワクチン接種率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
3
コロナ禍のマッサージセミナー ―― 初のオンラインで大成功! ・・・・・・・・・・
5
スモールトーク:ワールドワイドに発展した柔道 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
音楽科を探れ(2)〜闇に響く音 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
(寄稿)育てよう、見えないものを見る力 ― 耳なし芳一から琵琶なし芳一へ ・・
23
ネパールの盲教育と私の半生(5)農作業と愛の鞭 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
(寄稿)温泉で親切な人との出会い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
西洋医学採用のあゆみ(8)医師開業試験の実施 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
自分が変わること(148)60歳、岩壁に復帰する  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
リレーエッセイ:住めば都(1)― ワクチン接種  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50
アフターセブン(80)正月にナスを収穫するために ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (231)圧倒的な存在感を醸し続けた横綱がついに引退 ・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:パラアスリートの栄養知識や食行動上の課題明らかに、
  人工知能であらゆる疾患の治療薬を見つける方法開発、
  エネルギー代謝の柔軟性 睡眠時に現れる ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:点図カレンダー、劇団民藝公演、アイシー!ワーキングアワード、
  視覚障がい者のための手でみる博物館に本間一夫文化賞 ・・・・・・・・・・ 
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
世界のワクチン接種率

 10月6日付『時事ドットコム』によると、世界各地のワクチン接種状況の上位20カ国(ワクチンを1回以上接種した人の人口に占める割合)は次の通りで、以下、国名(接種率・単位%)の順。
 1. スペイン(80.7)、2. 韓国(77.5)、3. 中国(76.2)、4. イタリア(75.3)、5. フランス(74.6)、6. 日本(72.1)、7. 英国(71.8)、8. ブラジル(71.2)、9. ドイツ(67.6)、10. アルゼンチン(65.5)、11. 米国(64.1)、12. トルコ(63.7)、13. メキシコ(49.4)、14. インド(47.5)、15. イラン(42.7)、16. ベトナム(35.3)、17. インドネシア(34.1)、18. ロシア(33.4)、19. パキスタン(27.3)、20. バングラデシュ(20.5)
 日本より接種開始が遅れた韓国が2位というのには驚いたが、そういう日本も先行接種していた英国やドイツ、米国を追い抜いている。もっともワクチン接種が完了した数では日本は韓国より上で、上記順位もがらっと変わる。だが、どちらの順位でもスペインが1位なのは変わりない。
 おっとりした国民性のスペインのワクチン接種率が高い理由は、まず、コロナでの死亡者や感染者が多かったことにある。日本の感染者は人口比1.35%だが、スペインは10.55%で、感染者の死亡率は日本が1.04%なのに対して、スペインは1.74%だ。スペインのカフェやバルを見ていると多くの世代が日常的にハグを行い、楽しそうにおしゃべりを楽しんでいる。そんな身近な人々が、10人に1人の割合でCOVID-19に罹患したので多くの国民は危機感を持ったはずだ。観光客数世界2位のスペインは観光立国でもあるのでなおさらだ。さらに医療機関に対する信頼感が高く、SMSで公立病院から各自の携帯にワクチン接種のお知らせを送ったシステムもうまく機能した。ただし、感染力の強いデルタ型の拡大で感染を抑えるための「集団免疫」獲得へのハードルは上がり、最終目標は90%だという。わが国もそれを目標になお一層奮起したいものである。(福山博)

音楽科を探れ(2)
〜闇に響く音〜

 筑波大学附属視覚特別支援学校の音楽科の活動と、視覚障害音楽家の現状についてお伝えする本連載。第2回は、東京藝術大学との連携事業である「ミュージック・イン・ザ・ダーク」について取り上げる。
 藝大では2011年から、芸術を通してすべての人が交流するイベント「藝大アーツ・スペシャル 障がいとアーツ」を開催してきた。このイベントでは障害のある人や海外のアーティスト、藝大の学生がジャンルを超えて繋がり、コンサートやワークショップなど多彩なプログラムを行ってきた。
 ミュージック・イン・ザ・ダークもこのイベントの中で誕生した企画の一つで、視覚障害音楽家と晴眼の音楽家がともに真っ暗闇を舞台に演奏を届けてきた。これまでにクラシック音楽の公演を5回行ってきたが、今回初めて邦楽アンサンブルに挑戦する。
 このコンサートに特別ゲストとして附属盲高等部音楽科の生徒が2人参加する。本番に先駆けて、当日出演予定の生徒と藝大の学生とで意見交換を行う特別講座が開かれた。公演の趣旨の理解を深め、多様な来場者が楽しめるコンサートを作るために何が必要か考えることが本講座の狙いだ。
 まず議題に上がったのは、視覚障害者にどのようにしてこのコンサートを知ってもらうかだった。視覚障害当事者からは、読み上げ機能を使っても閲覧しやすいようホームページのレイアウトを工夫することや、行政の広報にお知らせを掲載することなどが提案された。また、サークル活動などで実際にイベントを企画することの多い大学生側からは、口コミの有効性が紹介された。
 続いて、来場した視覚障害者に今回会場となる横浜能楽堂の特色をどのように伝えるかというテーマが取り上げられた。これについては、開演前に建物内を案内することや、舞台の端と端から音を出してその広がりを感じてもらうことなどが意見として上げられた。
 その一方で、「何のために建物の構造を知ってもらう必要があるのか」という問いかけもあった。コンサートホールとは違う日本の伝統的舞台である能楽堂という場所が、今回のプログラムにどのように影響するかを踏まえて「何を伝えたいのか」を考える必要があると考えさせられる問いだった。
 ここまで視覚障害者にフォーカスして話が進められてきたが、障害者だけのためのイベントになってしまっては意味がない。障害者も楽しめるということを手掛かりに、誰もが楽しめるようなイベントを作っていくことが重要だと語るのは、音楽科主任で藝大との窓口として尽力する熊沢彩子<クマザワ・サヤコ>氏だ。
 「障がいとアーツ」というテーマで開催するイベントである以上、障害をないものとして扱うことは出来ない。けれども、障害を強調し過ぎれば、障害のある人とない人とが明確に分けられてしまうことにも繋がる。ちょうど良いバランスを探るのは難しいことだが、多くの対話を重ねる中でこのイベントは確実に良くなってきていると熊沢氏は言う。
 さて、気になる本番の詳細は次の通り。どのような舞台になるのか今から楽しみだ。
 日時:12月5日(日)13時15分開場、14時開演
 会場:横浜能楽堂(横浜市西区紅葉ケ丘27-2)
 出演:藤原道山<フジワラ・ドウザン>(尺八)、風雅竹韻<フウガチクイン>(尺八アンサンブル)、澤村祐司<サワムラ・ユウジ>(箏)
 特別ゲスト:附属盲高等部音楽科2年小汐唯菜<コシオ・ユイナ>・町田天音<マチダ・テン>(声楽)
 プログラム:「アメイジング・グレイス」、「鶴の巣籠」、「春の海」、ほか
 料金:全席指定一般 4,000円、学生・65歳以上の方・障害者手帳等をお持ちの方 3,500円、ペア券(障害者手帳等をお持ちの方と介助者1名の並び席) 7,000円
 問い合わせ・申し込み:横浜みなとみらいホール仮事務所チケットセンター(045-682-2000、月〜木曜11〜16時。祝日・休業日を除く)へ
 なお、視覚障害者向けの取り組みとして開演前に鑑賞ガイドを実施予定。希望者は、チケット予約の際に要申し込み(参加人数制限あり)。また、開演前の音声ガイドと点字プログラム・能舞台触図も用意されている。(宮内亜依)

編集ログ

 10月4日の正午前に、「自民党の岸田総裁は、今の臨時国会の会期末に衆議院を解散し、19日公示、31日投票の日程で選挙を行う意向を固めました」というNHKのニュースが流れると、総選挙の「点字公報」を作製する点字出版業界は騒然となりました。
 こうして衆院解散は首相指名から10日後、1カ月足らずで総選挙に臨むという短期決戦となります。
 岸田文雄首相は「可及的速やかに衆院選を実施し、国民から信任をいただいて国政を担っていく」と述べました。しかし、本来は臨時国会で首相が所信表明演説を行い、衆参両院での代表質問が行われた後、首相も出席する予算委員会で、新型コロナ対策や首相持論の新しい資本主義の実現をめざし、「成長と分配の好循環を実現して、国民が豊かに生活できる経済をつくる」という経済政策などについて、党首同士が一問一答で議論を交わし、はじめて国民が信任するかどうかの判断材料ができるのではないでしょうか。それを省略して、政権発足時にはご祝儀で高い支持率が期待できるのでそれが落ちる前に、また、減少基調にあるCOVID-19の新規感染者が再び増える前に、あわてて解散して勝利をめざすというのは、余りに情けない弱気な戦術というほかありません。
 10月14日の衆院解散から31日の投開票までは17日間で、戦後最短となります。このため各地の選挙管理委員会は開票所確保や投票所の入場券の刷り直し、立会人の予定を抑え直す作業に大わらわになっていると報道されています。
 党利党略で解散を行ったとの悪評紛々たる安倍政権下でも、選挙に関する業務を行う人々への配慮を欠いたこれほど短期の選挙日程はありませんでした。
 毎日新聞社が4日と5日に行った緊急世論調査で岸田内閣の支持率は49%、朝日新聞社のそれは45%でした。政権の狙った「ご祝儀相場」は、国民に見透かされてすっかり当てが外れたといえそうです。(福山博)

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