11月11日(水)、当協会ホールで開催した藤原章生さんのトークショーで、現在の若者「ジェネレーションZ(Z世代)」の存在を知り、ハッとした。
テニスの大坂なおみ選手(23)が、全米オープンで過去の犠牲者の名前を記したマスクで出場したのは、彼女が黒人の血を引いているからだと、それまで私は浅はかに考えていた。しかし、彼女はジェネレーションZだから、あのような行動に出たのに違いないと今は確信している。全米オープンに出場した黒人女性は彼女だけではなく、2018年に大坂に負けて、ゲーム・ペナルティーを科され「性差別」だと批判した、あのセリーナ・ウィリアムズ(39)もいたが、彼女は人種差別については言及しなかった。
5月25日に米国で白人警官がジョージ・フロイドという黒人の首根っこを膝で押さえ死に至らしめた。そして抗議行動や暴動が起きたが、その後が1992年のロス暴動などとは決定的に違った。警官の暴力を何とかしたいというだけでなく、南北戦争時代にまで問題が広がって、南軍の英雄たちの銅像の撤去が相次いだ。そして英国にも飛び火しブリストルという町で、奴隷貿易で儲けて教会や救貧院、学校などに寄付をした商人の像が引き倒され海に投げ込まれた。同時にオックスフォード大学は、構内に設置されていた南アフリカの鉱物採掘で巨富を得た植民地政治家セシル・ローズの銅像を撤去する決定を下した。
なぜ、このように抗議スタイルが変わったのかというと、運動の主体がジェネレーションZだったからだと藤原さんは言う。インターネットがおもちゃだったジェネレーションZは、ソーシャルメディアで、瞬時に情報交換し、時間も国境も軽やかに超えてつながり合う世代なのである。
藤原さんはジェネレーションZの台頭とともに、今後、白人至上主義500年の歴史が時とともに崩れるが、現在はそれがはじまったばかりだと考えているようである。(福山博)
「日本点字図書館2020年度みんなの集い」が、11月14日に同館多目的ホールで開催された。冒頭あいさつに立った田中徹二理事長は、創立80周年記念式典を計画していたが、コロナにより中止されたので、予定していた式典などを兼ねて行う、と述べた。その「本間一夫文化賞」には、京都府立盲学校元教諭で、日本盲教育史研究会事務局長の岸博実(71)先生が受賞された。受賞理由は、1878年創設の現存する日本初の特別支援学校の「京都盲唖院」(現・京都府立盲学校)に残る教材・教具類の研究整理に加えて、古い教務日誌を電子化するなど、先生が20年以上かけて膨大な資料を系統立てて整理し続けた結果、2018年に3000点が重要文化財に指定されるという、盲教育界にとっての大きな成果をもたらした実績によるものだ。表彰式に続いて行なわれた記念講演では、多くの盲人の先達たちに対する深い敬意と尊敬の念をにじませながら、約1時間ほど熱く語られた。印象に残るお話を、いくつか紹介してみたい。
先生は、1974年に京盲に赴任されてから転任することなく、43年もの長きにわたり、同校で教壇に立ち続けられた。教員として生前にぜひお会いしたかった先人は3人ほどいると述べられ、おひとりは京都ライトハウスの創立者鳥居篤治郎、お一人は日点創設者の本間一夫、そしてもうひとりは社会運動家の齋藤百合であると、敬慕の念を吐露された。百合については、『婦人之友』に掲載された、フランスにおける盲教育の事始めを描いた「荒れ野の花」が岡山県の盲人青年覚醒会が発行した点字雑誌『覚醒』に紹介されていた事実を踏まえて、彼女の後輩たちへの影響力の強さを指摘された。
また、本間一夫の著作から引用しながら、今回の受賞を期に、手元の日点関係の資料をもう1度読み直して来たと前置きしたうえで、同じタイトルの点字と墨字の資料の差異も指摘するなど、厳密に1次資料にあたるという、先生の研究姿勢に触れて改めて感服した。日点を含めた点字図書館の発展過程については先行研究に譲るが、本間の点訳者養成に関しては、後藤静香の点訳奉仕運動との関係性について、点字雑誌の『輝き』の調査を通して明らかにする必要がある、と指摘。広く盲人史の研究者の中で、丹念に点字の1次資料を読み込んで、歴史的新事実を明らかにしてきた先生の実績は大きい。さらに、本間一夫の業績の一つは、1964年に欧米の盲人用具をわが国に紹介した上に、その開発と研究に乗り出したことだという。
日点の奥村文庫については、盲人史の研究にとって大いに参考にしており、その存在を高く評価されていた。中村点字器の歴史をまとめた、『日本点字器事始め』の原本と思われる手書きの原稿も現存しており、墨字も点字も1次資料には事欠かない。中央盲人福祉協会の『会誌』が第1号から第19号まで奥村文庫にしかないと思われていたが、旧大阪市立盲の資料室で第20号を発見して、来年復刻版が出るとも報告された。そして、手書きの原稿「続本朝盲人伝稿本」が保管されており、未発掘の先人たちの名も多いので、何とかプロジェクトを組織するなどして幻の図書を公にしたいとも抱負を語られた。これは、『本朝盲人伝』をまとめた政治家柴四朗のペンネーム、東海散士(とうかい さんし)の関係者の筆によると思われるもので、盲人史に新たなページを加えるものになるだろう。その中にも記されている、同志社英学校1期生の盲人島田秀鱗(しゅうりん)についても、現在調査中とのこと。研究意欲は衰えることを知らないようだ。
最後に先生は触覚の世界に生きる視覚障害者が点字を習得する意義について述べられ、「点字良心(ブレイル コンシェンス)」という言葉に象徴されるとして、尊敬する3人のそれぞれの文書を紹介しながら、奇しくも同じように記しているとし、その先には大先達の好本督の影がみえると結ばれた。私たちも触覚に生きるものとして、心にとめておきたい言葉である。
500年前にスペイン人の征服者が、メキシコ中央部や南米ペルー等で大虐殺を行いました。その後、産業革命に伴って砂糖を作るとか、メキシコで銀山が発見され、産業が拡大していったときに極度の人手不足に陥ったので、アフリカから新大陸に大量に奴隷が連れてこられました。そして究極の差別である奴隷制がアメリカに起こりました。
藤原さんはアフリカと北米・ラテンアメリカを取材した体験から、奴隷はアフリカからアメリカに連れてこられたが、文化は必ずしも一方通行ではなかったと指摘します。ラテンアメリカに類した、いわば「ラテンアフリカ」というような文化もあると、建築、人名、料理や音楽などで実証しました。また、アフリカでは自分も差別されて殺されそうになったり、逆に自分自身が誰かを差別しているかもしれないと常に思ったり、差別にすごく敏感になったともいいます。
歴史が変わるといっても、もちろんそれは一筋縄ではいきません。普段はすごくいい人でもコロナとか得体の知れない恐怖、自分の地位が危ぶまれるということになれば差別したり、凶暴になります。トランプ大統領の人気が急上昇したのも、白人至上主義が脅かされそうになったからです。一方、Z世代は民主党の大統領予備選挙で、民主社会主義者を自認するバーニー・サンダース上院議員を熱烈に支持し、緩やかに白人至上主義500年の歴史が崩れようとしています。その変革は、我々日本人には関係ないでは済まされません。コロナ禍の現在を考えるよすがになればと、藤原さんは『絵はがきにされた少年』の新版発行を考えました。そこでこのトークショーを、講演では曖昧だった数字等を明確にして、本誌今月号と来月号に掲載します。
なお、同トークショーを収録したデイジー形式のCDを30人の「購読者の方」にプレゼントします。
お申し込みは、当協会点字出版所総務課(担当:金子絵美、03-3200-1310)宛に電話でお願いします。締切は1月15日で、先着順とさせていただきます。(福山博)
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