THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2020年12月号

第51巻12号(通巻第607号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:奥村博史
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:自由の国の大統領選 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(インタビュー)コロナ禍で苦境にあえぐ福祉事業所
  ― 日盲社協自立支援施設部会山下文明部会長に聞く ・・・・・・・・・・・・・・・
5
(寄稿)コロナ禍から学ぶ地球環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
点字の昨日を知り、点字の明日を想う
  〜日本の点字130周年記念講演会より ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
23
異国に学び日本へ活かせ 〜ダスキン愛の輪基金成果発表会より ・・・・・・・・・
27
鳥の目、虫の目:コロナ禍のNAWBで問われるウコンの効能と遺伝子問題 ・・・
31
しげじいNZに行く(4)ロトルア・アキレスとの交流 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
盲教育140年 (33)重複障害教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
自分が変わること (138)黒沼先生よ永遠なれ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
リレーエッセイ:わたしのDIYとアートづくり(上)  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
アフターセブン(69)いつかはヴァイオリンの先生に!! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (220)引退力士の現役復帰を協会が後押し!? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
時代の風:メタボ健診・特定保健指導制度の課題を提言、
  粉ミルクで牛乳アレルギー予防、ほか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64
伝言板:劇団民藝公演、視覚障害者教養講座、ほか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
自由の国の大統領選

 アメリカ大統領選挙は前評判のような独走ではなかったので、投票日から4日もたってから民主党のジョー・バイデン候補が、「勝利宣言」を行った。しかし、新型コロナウイルス新規感染者数が1日10万人に達し、死者が1日1000人を超えるというのに、なぜ、異形の大統領トランプ氏は接戦に持ち込めたのだろうか?
 一つには、トランプ大統領が記者会見して、投票や集計に不正があったと抗議し、自分が勝っていると主張し、連邦最高裁まで戦うと訴えることが曲がりなりにもできるような、日本では考えられないような時代遅れで未整備な選挙制度があるからだろう。
 これはアメリカ合衆国憲法が制定された1787年当時は、識字率が低く、領土の広大さに対して交通も通信も未発達で、全土で同時に直接選挙を行うことは物理的に不可能だったからである。それが未だに修正されないのは、憲法に規定されているため手続きが面倒なことと、共和党と民主党のどちらも二大政党制維持のため選挙人制度による間接選挙を変更したがらないからだという。
 アメリカの憲法は、各州の利害を調整しながら生まれた妥協の産物ではあるが、英国から自由を求めて独立した各州は、米国に独裁者が現れて人々の暮らしを支配することがないよう権力を分散させることに意を注いだ。行政、司法、立法府の緊張関係、連邦政府と州政府の役割分担により、時には混乱しながらも、お互いをけん制し合うことで誰かが暴走することを防いできた。これはトランプ大統領が独裁者のように振る舞おうとして、できなかったことにも端的に表れている。
 日本であれば泡沫候補扱いされるであろうトランプ氏が、4年前に当選し、今回7,100万票も獲得したことは、逆説的ではあるが、独裁を嫌う米国民主主義の健全性を表しているのかも知れない。なにより、国民の多くが、旗幟を鮮明にして自由で激しい議論を行うことは、我が国ではまだできていないことである。(福山博)

鳥の目、虫の目
コロナ禍のNAWBで問われるウコンの効能と遺伝子問題

 当協会が35年間も支援するカトマンズのネパール盲人福祉協会(NAWB)が10月3日から閉鎖された。2名の職員が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹ったためである。PCR検査で陽性となった2人は点訳者だが、彼女らと濃厚接触していた触読校正者らNAWB点字出版所の職員はPCR検査を拒否したので、実際はクラスターだったのかも知れない。
 ネパールにおけるPCR検査は、1回2,500ルピー(約2,200円)だが、彼らの給料から換算すると日本人の金銭感覚では4万円以上の負担になる。しかし、それだけの支出をしてもメリットがあれば受けるのだろうが、デメリットばかりなので、彼らは断固拒否したようだ。
 陽性者の一人は、当協会職員有志により2005年に組織された「クリシュナ育英基金」の支援で小・中・高校を卒業し、NAWBで働きながら大学3年に在籍しているアルチャナ・ムキーヤ(24)である。彼女は自宅アパートの1室に隔離され、1日中マスクをして、ウコンを混ぜたお湯を1日5回飲むように医師に処方されたというが、それが治療のすべてである。
 ウコン茶は沖縄では「うっちん茶」と呼ばれ、免疫力を高め万病に効くといわれている。ハウス食品の子会社からは「ウコンの力」という機能性飲料も出ているので、あながちバカにはできない。しかし、COVID-19の特効薬であるはずもなく、即効性という点ではしょせん気休め程度の効能しか期待できない。ただ、ネパールではCOVID-19が爆発的に増えているので、長期的にみれば免疫力を高めるためウコン湯を飲むことは理にかなっているのかも知れない。
 だがCOVID-19陽性になってもウコン湯を飲む以外に手がないのであれば、確かにPCR検査を受ける意味はない。仮に陽性にでもなろうものなら、陰性になるまでPCR検査を受け続けなければならず、その費用負担は確かに重い。ちなみにアルチャナは日本の我々の負担で10月20日に検査を受け陰性になった。
 日本は国民の平均年齢が48.4歳で、世界に冠たる高齢化社会である。COVID-19は高齢者ほど重症化しやすいのだが、ロックダウンしたわけでも、罰金を徴収しているわけでもないのに日本のCOVID-19による死者や重篤患者は驚くほど少なく、世界を驚かせている。
 ネパールでCOVID-19による最初の死者が出たのは5月16日で、5月末に8人に増えたが、日本ではその時点で852人の死者が出ていた。このように5月の時点ではCOVID-19の感染者はネパールより日本の方が圧倒的に多かったにも関わらず、ネパールに一時帰国していた日本に住むネパール人は、次々とチャーター便を仕立てて日本に向かった。この便は一方通行で、日本からネパールへは人を乗せなかったので、通常の倍以上の航空運賃であったにも関わらずである。彼らは数ヶ月後のネパールにおけるコロナ禍の悲劇を予想して行動したのだと思われる。
 10月26日現在の日本のCOVID-19の死者数は1,728人で、ネパールのそれは862人である。日本の人口は1億2,602万人なのに対して、ネパールはその約4分の1の3,032万7877人なので、人口比でみると死者は日本の倍である。重篤症例数でみるともっと顕著で、日本の162人に対してネパールは4万3,293人である。これでは治療どころか隔離もままならない極めて深刻な事態で、今後死者が急増することは間違いないだろう。
 ネパールの平均年齢は20.7歳で若者の国であるにも関わらず、重篤患者が多いのは、至る所濃密で不衛生な環境があり、医療体制が脆弱なこと、それに加え遺伝子の問題が関係しているのかも知れない。
 新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを高める可能性がある遺伝子が、約6万年前にネアンデルタール人から現代人(ホモ・サピエンス)に受け継がれたとみられると、沖縄科学技術大学院大学のスバンテ・ペーボ教授(ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所進化遺伝学部長)らが発表した。人類の進化の歴史が垣間見られる成果で、9月30日の英科学誌『ネイチャー』電子版に掲載された。
 研究チームは、人工呼吸器が必要となる可能性が3倍高くなる重症化リスクを高めるとされた遺伝子の配列を、約4万〜3万年前に絶滅したネアンデルタール人の遺伝子と比較した。その結果、クロアチアのビンディヤ洞窟で発掘された約5万年前のネアンデルタール人の遺伝子とほぼ一致したのだ。解析によると、約6万年前に交配によって、現代人に受け渡されたとみられるという。
 この遺伝子は、ヨーロッパでは約8%、南アジアで約30%の人が持っており、特にバングラデシュでは約63%の人が持っていた。一方、日本を含む東アジアやアフリカではほとんど見つかっていない。
 インドやネパールは他民族国家だが、バングラデシュはベンガル人の国で、彼らはインド・アーリア系の民族である。ということは、ネパールでもアーリア系の人々はリスクが高いのだろうか。
 仮にそうであれば、高齢で、基礎疾患があり、男性で、喫煙者(元喫煙者を含む)で、血液型がA型で、アーリア系の人は要注意ということがいえそうだ。(福山博)

編集ログ

 本欄を書き終わると、頭の中は次号とその次の号のことで一杯になり、本号のことは突然遠いおぼろげな記憶と化します。そして本誌が発行されて読者のお手元に届く頃は、すっかり忘却の彼方に消え去っており、読者からの問い合わせに意味不明なことを口走って狼狽することさえあります。何しろ記憶容量が鶏なみに小さいので、過去の事象にいつまでも拘っていると前に進めないのです。ただ、書いたそばから何もかも忘れてしまうと、思わぬ失態を演じ、臍をかむこととなります。
 先月号の本欄で、NAWB(ネパール盲人福祉協会)で働くアルチャナという若い女性がCOVID-19陽性となり「彼女も大部屋ですが病院に入院しており・・・」と書きました。ところが、ネパールから届いたメールの原文にあった「ベッドは大部屋の一角で管理されています」の「大部屋(ビッグ・ルーム)」というのは、実は病院ではなく、彼女が妹二人と住んでいるアパートの一部屋だったのです。ベッドが3つ並んでいるので、ビッグルームと形容したようです。そしてこの事実を私は11月号の原稿を出稿する前に知っていたのですが、そのことを「編集ログ」に書いたことをすっかり忘れており、大変失礼致しました。なお、彼女はその後回復し、陰性となりました。
 バイデン米次期大統領は11月9日のテレビ演説で、新型コロナウイルスのパンデミック対策にマスク着用を国民に訴えました。人口比で感染者が日本の35倍、死者が50倍もあるのに何とものんきな国です。もちろん彼のせいではありませんが。
 一方日本では、2019年の自殺者数は2万169人(前年比671人減)で10年連続の減少となり、統計を取り始めた1978年以降、最低を記録しました。
 ところが、今年の8月から自殺者が急増しており、「コロナ鬱」が原因ではないかとささやかれています。
 コロナ対策は引きこもりではなく、体温測定、マスク、手指消毒という対策を徹底してリスク管理を行い、いかに社会活動を行うかが重要になってきています。コロナによる死者より自殺者の増加の方が大きかったら悲劇ですからね。(福山博)

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