新型コロナウイルス感染者にPCR検査をして、正しく陽性という結果が得ら れる割合を「感度」というが、これが70%だと感染者100人に検査して陽性が70 人、陰性が30人（偽陰性）になる。PCR 検査の感度は 30〜70%なので偽陰性な のに感染していないと誤解して出歩くと、他の人に感染させるリスクは高い。一方、「特異度」は、感染していない人に検査して、正しく陰性という結果が得られる割合だが、この検査の特異度は99%なので、偽陽性（誤って陽性になること）は少ない。
　こんな話をしていたら、「私は小学校で毎年ツベルクリン反応が疑陽性だったので、必ずBCG接種を受けていた」と同僚が言った。そこで、「小学生の頃受けたBCGワクチン注射はとても痛かったが、中学校のときに受けたのは（1967年以降）『はんこ注射』と呼ばれる細い9本の針を刺すBCGワクチン接種だったのでちっとも痛くなかった」などと言って話が盛り上がった。
　このときは早とちりしてこの二つのギ陽性を混同していたが、これらはまったく別もので、新型コロナの場合は「ニセの陽性」で、ツベルクリンの場合は「擬態陽性」、つまり「陽性ではないが、陽性によく似ている反応」である。
　ところで世の中にはさらに上の粗忽者がおり、新型コロナウイルスにも有効だとする説が浮上したことを真に受けて、「はんこ注射」で接種すべき0歳児用BCGワクチンを皮下注射したため、発熱やじんましん、血尿などが出て救急外来を受診している。
　BCGワクチンは結核以外にも膀胱がん、喘息、寄生虫などに有効で、これをオフターゲット効果という。コロナウイルス感染者が多いスペインでは1981年にBCGワクチンの接種を廃止したが、今でもBCGを実施している陸続きのポルトガルは、同感染による死者が人口あたり一桁少ない。しかもこれに限らず、BCGワクチンの実施国ではコロナウイルス感染症の影響が少ないことから、BCGワクチンがコロナウイルス感染に予防的に働くのではないかといわれ、今、調べられている最中である。（福山博）

　雪が降っている。はさ木の下を大きな荷を背負った3人の瞽女がいく。田圃の畔に沿って並んで立つ背の高いはさ木は、収穫の秋を迎えるとお互いに手を結ぶように横に長い棒が何段にも渡され刈入れた稲束の乾燥場になる。黄金色の稲の壁の下では一家総出で脱穀が続けられる。
　腰までつかる雪が降ると道も畑も雪で覆われる。はさ木は長い旅から帰ってきた瞽女を迎える道しるべになる。
　背負った大きな荷まで包むように頭からすっぽりと油紙のカッパをかぶって歩く瞽女の一行。風が積もった雪を舞いあげ、右手の杖で雪の深さを確かめながら前の姉弟子の荷の端を左手でつかんで懸命についていく幼い瞽女。はさ木の枝に積もった雪が音を立てて落ち、背負った荷の上にも雪がたまる。
　脇から撮影するカメラにかけられたビニールシートにも雪が乗っている。映画「瞽女GOZE」の撮影が吹雪の舞う夏井地区で行われた。弥彦山が雲の切れ間からふと顔を出す。
　映画「瞽女GOZE」は新潟県内各地を始め山形県、福島県などで、昭和初期瞽女たちが歩いた足跡を追って2ヶ年かけて撮影が進められた。昨年の秋、色鮮やかに紅葉した山道を行くシーンを最後にクランクアップした。
　瞽女は三味線芸を身に付けて、農山村に憩いと情報を届けてきた。雪国越後には、豊かな田園とともに生きた人々の知恵と文化が残されている。越後のもつ民俗性は、今では瞽女への追憶となっている。瞽女は雪国を代表する文化の担い手でもあった。美しい田園を行く瞽女の姿は障害者が担ってきた日本の伝統文化の美しさであり、郷愁を感じさせる。
　昭和中期ラジオが普及すると農山村でも都会と同時に娯楽や情報を得ることが出来るようになった。車社会の発達は瞽女の歩く道を奪った。大戦後の農村の疲弊は地主の没落を生み、瞽女を迎え入れることが出来なくなり、瞽女は衰退した。
　映画は最後の瞽女と言われた小林ハル（1900〜2005）の生涯を修行時代を中心に描く。少女ハルは、三味線芸と瞽女唄を身に付けるために極限まで追い詰められる修行を続け、努力と訓練によって瞽女となる。農山村の人びとにその芸を披露し憩いと情報を届け、村人たちと心温まるひとときを作り上げていく。瞽女として生きるために厳しい母の躾けに耐える。母親の慈愛に支えられて自立を成し遂げるハルの姿を、出生地新潟県三条市を中心にカメラが追った。障害者の自立と社会の共生の理念を縦糸に、時には鬼になって盲目の我が子を愛育した母の慈愛を横糸に、母と子の絆を描き出す。
　昭和初期の越後平野を再現した映像は、四季折々に変化を見せる雪国の美しい自然を見事にスクリーンに映しだす。
　平成17年4月27日105歳で亡くなったハルの葬儀に駆け付けた瀧澤正治監督は、霊前にハルの生涯を映画化することを誓った。そして15年の時が流れた。パラリンピックで障害者のもつ才能と秘めた力に注目が集まる今年こそ、世界に発信する絶好のチャンスだと信じて、自宅を手放すなどして資金を捻出し、各視覚障害者団体からの推薦を受けて完成させた。
　オーディションで選ばれて幼いハルを演じた川北のんが、吹雪のなか素足で膝まで雪に埋もれながら瞽女唄の発声訓練をする寒稽古のシーンなど芯の強い演技を見せる。母親トメ役の中島ひろ子も手放さなければならないわが子が一人前の瞽女になるように厳しくしつける演技に熱がこもる。ハルをやさしく支える爺様婆様の綿引勝彦、左時枝の二人がぬくもりを与えてくれる。成長したハルを演じる吉本美憂は見事に三味線を弾き瞽女唄をうたって女優の貫録を見せている。
　さらに小林幸子がハルの将来を予告する占い師役で賛助出演しているほか、渡辺美佐子、小林綾子、寺田農、国広富之など豪華な俳優陣が深みのある演技で作品を支えている。奈良岡朋子も語り部として物語を進めてくれる。
　障害を持った者が生きる厳しさは観客の胸を打ち、障害を克服する努力は感動をもたらす分厚い作品になっており、事前のパイロット版モニター試写会では、「とても悲しく温かい作品」、「もう一度見たい」、「わが子を虐待する事件が起きるなか母の愛の強さに感動した」、「季節ごとの風景が美しい田園に、全く未知の文化が存在していたことを知らされた」など絶賛された。
　3月23日東京・有楽町朝日ホールで、視覚障害者のために副音声のシステムを導入した完成披露試写会が準備されていた。推薦した視覚障害者団体関係者など大勢の観客が集まる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大のために延期され、6月3日13時半と18時半に同ホールで開催する。
　今後不足の資金回収のために10万人の観客動員をはからなければならない。6月20日から新潟県内で一般上映され逐次各地で上映会を開催していくが、新型コロナウイルスの感染拡大がそれを阻んでいる。

　「福山さん大変ですよ！　危ない国を経由してアメリカから荷物が届きます。大丈夫でしょうか？」と、ある職員が素っ頓狂な声をあげた。
　誤解である。そこで「何を言っているんですか。新型コロナウイルス対策が世界でもっとも徹底した国（地域）から来るんじゃないですか？　チャイナ・エアーライン（中華航空）は台湾の会社ですよ」と言った。
　「あらそうなんですか。中国（レッドチャイナ）の会社だとばかり思っていました。それなら安心ですね」といいおかしそうに笑った。
　もっとも、中国共産党に言わせたら「台湾は中国の不可分の一部なので、中華航空も間違いなく中国の会社である」ということになる。しかし、世界中の人々の中で、この虚構を信じている人々がどれだけいるだろうか？
　新年度が始まった4月1日に、満を持してサーモフォーム・デュプリケーター（真空成型機）の代金を米カリフォルニア州にあるアメリカン・サーモフォーム・コーポレーション（ATC）に送った。すると4月8日に注文の品を送ったという「コマーシャル インボイス（商用送状）」が添付された電子メールが当方に届いたのだが、それには航空会社、航空便名、到着日時、貨物番号なども記載されていた。
　ATCに「商用送状」を受け取ったことを連絡する際、「新型コロナウイルスに関して世界で最も安心できる航空会社をお選びいただき、ありがとうございます」と送信したら、すかさず「どういたしまして！」という上機嫌の返事がきたが、それには伏線があった。
　最近はほとんどサーモフォームを使わないので、点字出版所の職員でもその存在自体を知らない者が多い。パソコンと点字プリンタで点字文書が簡単に作成できるようになるまでは、点字製版をしなければ、点字文書を複数部作成することはできなかった。そういう中で片面だけだが、プラスチックシートに点字の複写ができるので、30年ほど前まではサーモフォームは重宝された。
　真空成型機は、ヒーターと真空ポンプが合体した機械で、点字を打った用紙を原版に、その上にプラスチック製のサーモフォームシートを重ねて外枠（フレーム）で原版とシートを一緒に固定して、ヒーターでシートを柔らかくして、下から真空ポンプで吸引させる。するとシートが原版に密着するので、加熱をやめると原版の点字の形にシートが変形するのである。同様に原版を触図にしても複写できるので、点字業界では一時代を画したシステムであった。
　だが、現在当方では、1年に1回使うだけなので目に触れる機会は少なく長持ちもする。そのため、このたび34年ぶりに真空成型機を新調することになったのだが、機械の本体価格は約33万3,000円だが、送料が約19万8,000円もするのは、梱包も含めて重量が77kgもあるためだ。
　小池百合子東京都知事は3月23日に、コロナウイルス感染症のオーバーシュート（爆発的患者急増）を警告し、首都封鎖の可能性を示唆した。そこで我々はATCに成田空港は東京空港を名乗っているが、実際は東京都内にはないので到着空港を羽田空港に変更できないかと打診した。それに対する返事は、「利用する航空会社は、すでに羽田空港行の全便を欠航した」であった。中華航空はさすがに台湾の会社だけあって、新型コロナウイルス対策には機敏で、徹底していたのである。
　ところで4月10日付『産経新聞』によると、台湾のパスポートにはCHINA（チャイナ）と書いてあるため、台湾人が欧米で中国人と勘違いされて、実際は世界で最も安全な台湾から来たのに、最も危ない「レッドチャイナ」から来たやつだと誤解される。そこでパスポートから「チャイナ」を削除すべきだとの声が高まっており、ある世論調査では74％の人々が、パスポートから「チャイナ」を削除すべきだと答えたという。中華民国という国名を変更するには憲法を改正しなければならないが、その英訳である「リパブリック・オブ・チャイナ」をパスポートから消すことは、台湾政府の意志で簡単にできる。しかし、そうなれば中国共産党が「台湾独立に向けた具体的な動き」として、強烈に反発することは目に見えているので、現実には「チャイナ」削除はそう簡単にはいかないようである。（福山博）

　「巻頭コラム」でPCR検査の感度は低いと述べましたが、以下に若干補足します。新型コロナウイルス感染症（COVID-19）のことを韓国や台湾では「武漢肺炎」と呼んでいますが、その名のとおり感染者の臨床所見は肺炎なので、ウイルスが増殖するのは肺です。実際に武漢肺炎患者をコンピューター断層撮影（CT）すると、肺に「スリガラス様陰影」が認められます。このようにCTを撮れば、コロナウイルスの感染の早期発見やスクリーニングができる可能性があります。しかし、この陰影は他のウイルス性肺炎でも見られるので、これだけで新型コロナウイルス感染と断定はできません。他の臨床所見と照らし合わせて、「武漢肺炎」に間違いないだろうと考えられても、確定診断をするためにはPCR検査が必須です。その場合、綿棒を肺に差し込んで検体を採取できれば確かなのですが、そんなことはできないので、鼻やのどを綿棒で拭って検体を採取します。こうしてウイルスが肺で激しく増殖していても上気道にウイルスが少ないとPCR検査では陰性（偽陰性）になるのです。
　4月5日付『日経新聞』（朝刊）「『デマ退治』が不安増幅　買い占め騒動ツイッター分析」という調査報道には驚きました。2月末から全国に広がったトイレットペーパーの買い占め騒動に関し、ツイッター上の投稿と商品の販売状況を分析すると、意外なメカニズムが浮かんだといいます。当初は「主犯」とされたデマ投稿は実は拡散しておらず、無視すればどうということはなかったのです。そのデマを打ち消そうと、むきになった投稿が急速に拡散したので、意図せぬ形でトイレットペーパーの買い占めが起きたのです。無視すればなんでもなかったのに、義憤に駆られて、余計なお世話を焼いたために、トイレットペーパーが市中からなくなったというのは示唆的です。悪事の告発は容易ですが、正義のそれはきわめてやっかいです。（福山博）

　日頃お感じになっていること、記事に関するご意見などを点字800字以内にまとめ、本誌編集部（tj@thka.jp）宛お送りください。