WHOがついにパンデミック(感染症の世界的な大流行)と表明したが、その一般的な定義は、「国から国への感染の広がりが、制御できない状態」だという。
日本政府は習近平国家主席の面子を重んじて、中国からの入国制限を先延ばしにしてきたが、来日が延期されやっと3月9日から中国と韓国国民に対する発行済み査証(ビザ)を無効とし、入国者には自宅やホテルで2週間の待機を求めることになった。感染者拡大が落ち着いてきた中韓両国から、今更の入国制限を行ってどれだけの意味があるのかは不透明だ。しかし、感染者の絶対数が大きい両国を不問に付して、今後懸念される欧米からの入国制限を行うことはさらに難しいので、遅かりし恨みはあるがやむを得ない措置といえるだろう。
感染者を日ごとの折れ線グラフにしてみると、欧米での感染者の爆発的増加に驚くが、それにもまして注目すべきはその死者数だ。欧米のマスコミは日本政府の感染症対策をコテンパンに叩いてきたが、それでも日本の死者数は3月12日現在22人である。それに対してイタリア631人、スペイン47人、フランス33人、米国31人で、今後これらの国に対する注意と警戒は必須だ。中国発世界不況が取り沙汰されている中、欧米で広範囲に移動制限等が行われるとさらに拍車がかかることが懸念される。いずれにしろ、「ひとの不幸は蜜の味」とか、新黄禍論のごとき興味本位の論評は、天に唾する行為だといわざるを得ない。
一方、早くから感染者が出たにも関わらず封じ込めに成功している香港、台湾、シンガポール、タイなどは例外なく熱帯から亜熱帯に属する国・地域である。もちろん専門家はデータ不足を理由に、新型コロナウイルスがどうなるか予測するのは時期尚早と断じている。しかし、一般にインフルエンザや軽い風邪症状を引き起こすコロナウイルスの流行であれば、春になり気温の上昇とともに終息するので、新型コロナウイルスもその例外でないことを願いたいものである。(福山博)
「ヘレンケラー・サリバン賞」は、視覚障害者の福祉・教育・文化・スポーツなど各分野において、視覚障害者を支援している「晴眼者」にお贈りする賞です。これは、「視覚障害者は、何らかの形で晴眼者のサポートを受けて生活している。その支援に視覚障害者の立場から感謝の意を表したい」との趣旨で、当協会が1993年に創設、今年で28回目となります。なお、同賞の名称は、ヘレン・ケラー女史と同女史を生涯支え続けたアン・サリバン女史の名に由来します。選考は、視覚障害者によって推薦された候補者の中から、当協会が委嘱する視覚障害者の選考委員によって行われます。受付は6月末日(必着)まで。発表は本誌10月号で行い、受賞者には本賞(賞状)と副賞(ヘレン・ケラー女史のサインを刻印したクリスタルトロフィー)をお贈りします。推薦書をご希望の方は、当協会(03-3200-1310)までご請求ください。多くの方からのご推薦をお待ちしております。
2月16日(日)、キャンパス・イノベーションセンター東京において、市民報告会: 「あなたの触りたいものを届けます」――【共創的支援を促進する視覚障害者のための3D造形物配信・出力エコシステムの構築】スタートアップシンポジウム――が開催された。本プロジェクトでは研究の一環として、3Dモデル(模型)の提供サービスを試験運用しており、今回はプロジェクトの趣旨と利用方法に関する説明が行われた。
はじめに、プロジェクトを立ち上げた経緯について、代表の南谷和範氏(大学入試センター研究開発部准教授)より説明があった。
南谷氏は、センター試験において障害のある受験者の試験方法が一般の受験者と比較して不当な点がないかのレビューや、出題方法の研究を行っている。その研究の中で、日常の学習で扱われる図について、視覚障害者は一般の児童・生徒と同じように理解することができているのかという疑問を抱いた。近年の教科書は、カラーのイラストなどを多用することで児童・生徒がわかりやすいように工夫されているが、点図で表現できるものにはどうしても限界がある。そこで、3Dモデルが視覚障害者の教育に役立てられないかと考えるようになった。
もちろん、3Dモデルの可能性は教育分野だけには留まらない。自身も全盲の南谷氏は、2019年のノートルダム大聖堂の火災を例として次のように語った。
最初に火災のニュースを耳にしたときは、観光名所の損失だとは思ったが、それほど重くはとらえていなかった。しかし、3Dプリンタでノートルダム大聖堂を出力して触ってみたところ、その壮大さを感じ、損失の大きさを認識できた。こうした自身の経験を踏まえ、視覚障害者が実世界をより豊かに知るために、3Dモデルを活用できないかと考えた。
しかし、現在のところ、一般の視覚障害者が3Dモデルにアクセスすることはかなり難しい。そこで、科学技術振興機構の「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」の一部として本プロジェクトの運用を開始した。プロジェクトでは、3Dモデルのリクエスト・作成・配信ネットワークの構築と、それを支える人材を創出することで、「視覚障害者が知りたいものをいつでもどこでも自由に手に入れ触れられる社会」を2030年までに実現することを目指して研究を進めている。
シンポジウム会場には、タージマハルやケルン大聖堂など複数の3Dモデルが展示され、自由に触ってみることができた。3Dモデルは、紐状のプラスチックを溶かしながら積み上げていくことで形を作るため、表面に縞のような凹凸ができてしまう難点があるものの、建物の窓や階段など細かい部分まで触って把握することができた。また、手のひらサイズの模型は、一つ一つの作品に愛敬が感じられた。
残念ながら、今のところプロジェクトには3Dモデルデータを制作する体制が整っていないため、既存の3Dモデルデータが入手できなかったり、プリンタの関係で出力できないものもある。しかし、ゆくゆくは理療科の教材や美術作品のレプリカなど、幅広いジャンルのものを3Dプリンタで出力できるようにしたいという話だった。
シンポジウムの後半は、プロジェクトメンバーの関連研究が紹介された。
まず、渡辺哲也氏(新潟大学工学部准教授)が触地図に関する研究について発表した。渡辺氏はこの10年間、リクエストのあった触地図を作成し、個人向けに提供してきた。地図の内容は、駅構内図であったり自宅近所の地図であったりと様々で、引っ越しや旅行の際に依頼されることが多いと語った。
続いて岩村雅一氏(大阪府立大学大学院工学研究科准教授)が「視覚障害者のための写真撮影支援システムVisPhoto」について紹介した。2011年の調査によると、視覚障害があっても普段から写真を撮る人は全体の7割ほど。しかし、視覚障害者にとって、フレームに被写体をきちんと収めることは困難である。そこで、360度全方位を一度に撮影できるカメラで写真を撮り、その後ウェブ上で必要な部分だけを切り取って1枚の写真を仕上げる手法を研究している。
シンポジウム全体を通して感じたことは、これまで視覚が大きな比重を占めていたあらゆるものが、視覚障害者にとっても親しみやすいものになる日はそう遠くないかもしれないということだ。
さて、この記事を読んで3Dモデルをリクエストしたいと思われた方は、メール(氏名、触りたいものの名称、確認用メールアドレスまたは電話番号、送り先住所を記入)かウェブフォームにてお申し込みを。
メールアドレス: 3d4sdgs+request@gmail.com
ウェブフォーム: https://forms.gle/ZXqhZ994NWok1SiY7
なお、送付には1カ月ほどの期間を要する。また、出力する3Dデータが決まっている場合はデータをメールに添付するか、データをダウンロードできるURLを伝えるとスムーズだ。3Dデータは、シンギバース(Thingiverse)(英語)などのウェブサイトで探すことができる。(宮内亜依)
わが国の現存する視覚障害関係施設で100周年を迎えたのは、東京光の家が初めてではないでしょうか? しかもコロナウイルス騒動の直前に記念式典・祝賀会を開催できたのは神のご加護というべきかも知れません。おめでとうございました。
新型コロナウイルス感染症への政府の対応をめぐり、参院予算委員会は3月10日、専門家から意見を聴く公聴会を開きました。安倍首相が専門家の意見を聴かずに政治決断した一斉休校の要請を念頭に、立憲民主党の塩村文夏氏が「一斉休校に根拠はあるのか」と質問すると、野党推薦の医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は「医学的には根拠はない。ただ根拠がないことを判断するのが政治の仕事。一定の合理性はあった」と述べ、与党推薦の地域医療機能推進機構理事長の尾身茂医師は「シンガポールなどでやっていることを考えると効果がないとは言えない」と述べ、ともに理解を示しました。
たしかに感染症の流行に際して学校閉鎖、国境閉鎖、集会の禁止、輸送機関の停止等を行っても感染を封じ込めたというエビデンス(科学的根拠)は得られていません。人は移動を制限してもどこかで交わるからです。しかし、人の移動を制限することで流行のピークを遅らせ、ピークを抑える効果は示唆されています。上記専門家2名の発言はそれを踏まえたものです。
これまで野党や識者の一部は、「首相の答弁はエビデンスが全く示されていない。支離滅裂だ」と、エビデンスを金科玉条に政府を批判してきたが、これらの人々は専門家2名の意見をどう聞いたのでしょうか。
日本政府の瑕疵はそこにあるのではなく、中国からの入境を1月25日に事実上禁止し、2月2日に小中高校の2週間休校を決めた台湾のような防疫措置を、なぜ早く打ち出せなかったのかを問うべきでしょう。(福山博)
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