THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2020年3月号

第51巻3号(通巻第598号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:奥村博史
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:米国と中国どちらが安全? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
これでよいのか小学校の英語教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
国リハ・職リハ創立40周年記念式典で「共生社会を、切に願う」 
  ―― 両陛下をお迎えして ―― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
よみがえるネパール 地震から4年が過ぎて(上) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
視覚障害者が働きかける社会へ 〜JRPSセミナーより ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
27
読書人のおしゃべり:『反日種族主義』は信じるべきか? 
  〜反・反日育成ツールを読む〜 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
しげじい英国に行く(2)元・RNIBのホテルへ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
盲教育140年 (24)学習指導要領の作成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
自分が変わること (129)羨望、嫉妬と情熱と ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
リレーエッセイ:私の個人的な経験(下)  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50
アフターセブン(60)音声ペンで生活をゆたかに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (211)史上最大の下剋上優勝 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:人工タンパク質で潰瘍治療、液体のりでがん細胞消失、
  iPS細胞でラットの脳梗塞が改善、がん転移の条件発見 ・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:日点春のチャリティ映画会、全盲高校生単独ライブ、
  DVD映画体験上映会、詠進歌来年のお題は「実」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
68
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
米国と中国どちらが安全?

 新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)による中国の患者は3万4,546人で、死者は722人(2月8日現在)と中国政府は発表した。ただ武漢市で2月6日に死亡した60代の日本人男性は、「新型肺炎の疑い」なので、おそらくこの数字には入っていない。というのは、米国『ワシントンポスト』によると、新型肺炎の症状を呈して亡くなった人は中国では感染による死者数には入れられていないからだ。
 一方、米疾病対策センター(CDC)は、2019年10月1日から2020年2月1日までに米国内のインフルエンザ罹患者は2千200万〜3千100万人、そのうち医療機関受診者は1千万〜1千500万人で、入院者は21万〜37万人、死亡者は1万2,000〜3万人であると公表している。数字に幅があるのは、インフルエンザは米国のほとんどの地域で報告義務がないので、CDCは米国の人口の約8.5%(2,700万人)をカバーするネットワーク「米国インフルエンザ監視システム」を通じて収集したデータに基づいて推定しているからである。
 武漢市では検査体制がまったく追いついていないので、英国の研究グループによると現在特定されているのは実際の5.1%に過ぎないと推定している。それを元に計算すると中国の新型肺炎感染者は約67万7,000人となるが、それでも米国のインフルエンザ罹患者には遠く及ばない。
 米国が問題なのは、インフルエンザ罹患者のうち、実際に病院に行くのがその半数弱であるということだ。米国政府が中国の新型肺炎に過剰反応するわけである。
 これは骨折で手術を受け1日入院した場合1万5千ドル(165万円)、貧血で2日入院した場合2万ドル(220万円)、自然気胸の治療で6日入院した場合8万ドル(880万円)の請求がなされた例もあるほど米国の医療費は高額だからだ。日本のように診療報酬が公定価格で、保険適応率も一律と決まっているわけではないから治療費は医師や加入している健康保険のプランによってバラバラで、いいなりに料金を払うしかないからである。このため米国の自己破産の6割は医療費が原因で、その破産者の8割は医療保険に入っていたともいわれている。
 とはいえ、新型インフルエンザは、季節性インフルエンザと抗原性が大きく異なるので、一般に国民のほとんどが免疫を持たないため簡単に感染しやすく、世界的大流行につながるので恐れられている。このため2009年4月にメキシコで発生した新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)に、米国経由でカナダから帰ってきた高校生が罹患し、兵庫県と大阪府で感染が広がり大騒ぎになったことは記憶に新しい。
 だが、2009年11月6日、世界保健機関(WHO)は、新型インフルエンザによる日本の入院率・死亡率が主要国で最も低いことを明らかにし、賞賛した。そして、今では豚インフルエンザも季節性インフルエンザ同様に対処されているのである。
 新型肺炎も1年後にはおそらく豚インフルエンザ同様に落ち着くことだろう。(福山博)

●視覚障害者が働きかける社会へ
〜JRPSセミナーより

 1月25日(土)、大井町・きゅりあんにおいて、日本網膜色素変性症協会(JRPS)は「働く世代のセミナー 〜仕事を続けるために」を開催した。参加者は70人余であった。
 基調講演は、熊懐敬氏(NPO法人タートル理事・JRPS東京幹事)(73歳)により行われた。熊懐氏は、網膜色素変性症を発症した後も企業で65歳まで勤め上げたという経歴をもっている。その経験からタートルを訪れた相談者に伝えてきたことは、「仕事を辞めてからではなく、辞める前に相談すること」。障害者であることを受容するには時間がかかる。障害者手帳を取得するまでにはさらに時間がかかるだろう。しかし、障害者雇用率に頭を悩ます企業にとって、「手帳」所持者は決して負荷とはならない。企業に貢献できることは必ずある。メリットを説明し、企業に残ることを選択するのが賢明であることを繰り返し唱えた。
 特別講演は、初瀬勇輔氏(39歳)により行われた。初瀬氏は現在、障害者の就職・転職サポートを支援する株式会社ユニバーサルスタイル代表取締役を務めるかたわら、日本パラリンピアンズ協会の理事なども務めている。
 2008年の北京パラリンピック柔道への出場経験をもつ初瀬氏だが、その華麗な経歴とは真逆の過去がある。19歳の時、緑内障により右目の視力をほぼ失い、23歳で左目も同じ症状に見舞われ、中心視野が欠損。目の前で話す人間の顔が見えない。共に過ごした友人の顔が見えない。育ててくれた母親の顔が見えない。若さがあっても、将来が見えぬまま、就職活動が始まる。そして、社会は光を奪われた若者をさらに闇へと突き落とした。100社以上の企業を受けても、面接まで辿り着いたのはたったの2社。「視覚障害者」というだけで、話さえ聞いてくれなかった。しかし、今ならその敗因を導き出せる。自分の障害への理解・配慮、そして企業への貢献、その三つの説明ができていなかったのだ。視覚障害者は、「情報取得の障害」と「移動の障害」がある。それは雇用する側の懸念要因ともなる。不安要素を払拭し将来の展望を語るという戦略は、若き日にはもてなかった。現在、コンサルタントとして講演・アドバイスをする際は、障害者側・企業側の両方に立ち、橋渡し役を担えるよう努めているという。
 初瀬氏が企業を訪問した際に挙がるテーマとして、障害者雇用促進法がある。障害者雇用率は2.2%であるが、これは従業員45.5人以上であれば最低1人の障害者を雇わなければならないということを意味しており、全体的に障害者の就業のハードルが下がったように思われる。しかし、その障害者の枠の中に視覚障害者は入っているのか。企業側はいまだに「通勤は大丈夫なのだろうか?」「どうやって資料を読むのだろう?」と、視覚障害者に対して感じているのではなかろうか。視覚障害者は理解されにくい面がある。たとえば、車椅子に乗る身体障害者は、段差の移動は難しいが、デスクワークは健常者と同じレベルでできる。内部障害を抱える身体障害者は、移動もデスクワークも健常者の水準と変わらない。しかし、視覚障害者は拡大鏡を使えば資料は読めるし、白杖があれば段差も差し支えはないが、健常者と同程度を求められると難しい。視覚障害者が就業する場合、健常者との能力差について企業側にも理解できるよう説明することが求められる。
 理解を求め、孤独に社会と格闘するのは試練の連続であろう。しかし、仕事も人生も一人で完結できるものではない。一人で変えられる世界には限界がある。障害者の自立とは、一人で立つことではない。依存先を増やすことなのだ。就職する際は、自分の努力は必要であるが、友人・知人の伝を使ってもいいし、人材紹介会社に探してもらってもいい。就業中は、ソフトの機能を予め知っておき、同僚に仕事をお願いしてもいいのだ。障害者がはたらきかけ、周囲がそれに応えることでインクルーシブな社会は形成される。アスリートとして、起業家として、線引きのない世界が広がることを願い、講演は盛況のうちに終了した。(阿部美佳)

編集ログ

 新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)の発生で、改めて「言論・表現の自由」がいかに大事であるかが、思い知らされました。中国政府が、12月8日に原因不明の肺炎患者が最初に報告された時点で公表し、局地的流行の中心地とされた海鮮卸売市場をすぐに閉鎖し、感染者を隔離し、国を挙げて対策を講じていれば、感染はたちまち押さえ込まれたと思われるからです。
 ところが中国政府は、武漢市内で信頼性の高いデータも検査体制も確保できなかったにもかかわらず、ウイルスが確認されてから数日間、「広範囲に感染するものではない」と発表し、市民を安心させようとしました。そしてネット上での感染状況に関する悲観的なコメントを検閲し、1月3日に武漢市警察当局はSNSで肺炎に関する「風説の流布」容疑で、医師ら8人に対して訓戒処分を下しました。実際には、8人の医師の懸念こそ正鵠を射るものであり、中国政府の気休めのアナウンスこそ、危険なデマであったにも関わらずです。
 この初動の誤りが、武漢市を含む湖北省での感染者をアウトブレイク(爆発的大流行)させたのでした。一党独裁国家による報道規制・検閲がいかに悲惨な結果を導くのか、この事例はよく示しています。
 新型肺炎の感染拡大をめぐって中国当局は、米国は真っ先に武漢の総領事館員を待避させ、中国人の入国を全面的に制限する措置を取ったことを「過剰反応だ」と批判し、中国をライバル視する米国が新型肺炎を利用して新たな中国脅威論を作り出し、国際的に「中国を隔離」しようとしているとの疑念があると一部報道されました。しかしそれはうがち過ぎで、「米国は市民に対し『医療へのアクセスを保障しない』世界でも稀な先進国である」(米国医学アカデミー)との自覚が当局にあるので、米国への感染を恐れる余り狼狽した結果がそれだと思われます。(福山博)

投稿をお待ちしています

 日頃お感じになっていること、記事に関するご意見などを点字800字以内にまとめ、本誌編集部(tj@thka.jp)宛お送りください。

Copyright 2004 Tokyo Helen Keller Association. All Rights Reserved.

THKA