THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2020年1月号

第51巻1号(通巻第596号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:奥村博史
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:尊称は「ムラドのおじさん」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
大きなお祭りを楽しみたい〜木村敬一さんにインタビュー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
パラアスリートを支える施設誕生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
(特別寄稿)私の台風19号避難体験(上) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
(特別寄稿)第17回本間一夫記念日本点字図書館チャリティコンサート
  小林沙羅ソプラノリサイタル〜ピアノ、琴、尺八と紡ぐ歌の調べ ・・・・・・・・・
20
特別寄稿)「すべての命を守るため」教皇メッセージ
  ―バチカンからフランシスコ教皇来日
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24
(特別寄稿)あはき師国家試験の見直しは慎重に ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
白い杖の留学生国際大会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
盲教育140年 (22)就学奨励法の制定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
自分が変わること (127)イラつく相手は自分の子 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
リレーエッセイ:ロービジョン・ブラインド川柳コンクール
  ――見えてくる視覚障害川柳で  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
川島昭恵の新作CD発売 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
53
アフターセブン(58)新しい杖 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?(209)物議を醸した白鵬のかち上げ
  ―対戦相手に求められる工夫と気概 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:入れ歯清潔にして肺炎予防、MRIで精神疾患の特徴発見、
  超長寿者がもつ細胞を発見、腎細胞がんに現れるタンパク質を発見 ・・・・
65
伝言板:点図カレンダー、バリアフリー上映会、
  手回しオルゴール体験会、バリアフリーコンサート ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
68
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
尊称は「ムラドのおじさん」

 ペシャワール会(福岡市)の中村哲医師(73歳)が12月4日朝、アフガニスタン東部の都市ジャララバードにある宿舎から、北東方向に25kmほど離れた灌漑用水の改修工事現場に向かう途中で銃撃され命を落とした。中村医師一行7人は2台の4WDに分乗し、自動小銃で武装していたが、なすすべがなかったようだ。
 この事件は日本やアフガニスタンばかりでなく英BBC放送や米『ニューヨークタイムズ』(NYT)など欧米のマスコミも、偉大な中村医師の死として大きく報じた。
 私はこの報道に接してある疑問と違和感を感じた。その1は、日本ではもっぱら「ペシャワール会」と紹介されるが、この名称でアフガニスタンでも活動していたのか?である。というのもペシャワールとは、人口122万人のパキスタンの都市の名である。アフガニスタンで活動する日本のNGOの名称が、隣国の大都市名を冠して、どうして軋轢を生まなかったのかと考えたのだ。
 当初はパキスタンでペシャワール会メディカル・サービス(PMS)と名乗って活動して、その後活動地域をアフガニスタンに移したので、略称はそのままに、その後はピース・ジャパン・メディカル・サービス(平和医療団・日本)と称しているとのことである。
 10年前から中村医師と親交のある人々が「アフガン市民、政府は中村先生を神様のような存在として警護していた」、「偉ぶるところもなく、慕われていた。現地で神様のような人なんだと感じた」と新聞紙上で振り返っている。しかし、アフガニスタンの人々はほぼイスラム教徒で、中村医師自身キリスト教徒なので、一神教の人に対してこのような表現はいかがなものだろうか?
 ちなみに、2019年12月4日付NYTによれば、アフガニスタンで中村医師は「アンクル・ムラド(ムラドのおじさん)」と呼ばれていたそうである。
 ムラド(Murad)とはオスマン帝国の皇帝の名で、灌漑事業で65万人を救った中村医師にたいする村人からの尊称なのであろう。これが「神様のような」の誤解の元になったのではないだろうか。(福山博)

(特別寄稿)「すべての命を守るため」教皇メッセージ
――バチカンからフランシスコ教皇来日

日本カトリック障害者連絡協議会/山口和彦

 11月25日、3時半すぎ、東京ドームは詰めかけた5万人の歓声と拍手に包まれた。
 4時からのミサの前に教皇専用車「パパモビル」(白いオープンカー)に乗ったフランシスコ教皇は会衆の間をゆっくりと通り抜けた。赤ちゃんを抱えた母親を見つけると、車から降り赤ちゃんを抱き祝福し、小さな子供がいると抱擁して接吻した。教皇が手を振ると、会衆は歓喜の声をあげ拍手が鳴りやまない。イタリアでは、見物人のなかに障害者を見つけると車に乗せて、広場を一周することもあるという。子供や障害者など弱い立場の者を教会の中心に置きたいという教皇の姿勢の現れだ。
 24日に長崎、広島で核兵器廃絶のメッセージを発信したフランシスコ教皇は、外国人、信徒、司祭、司教と共にミサを挙げた。このミサのメッセージは、「すべての命を守るため(Protect all life)」だった。

教皇とはどんな人

 2013年3月13日、アルゼンチンのホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿が「第266代ローマ教皇」に選出され、「庶民派教皇」として世界13億を超える信徒から父を意味する「パパ(Papa)」と呼ばれ親しまれている。
 教皇は、正式には、「ローマの司教、イエス・キリストの代理者、使徒たちのかしらの後継者、普遍教会の最高司教、イタリア首座司教、ローマ管区首都大司教、バチカン市国元首、神のしもべたちのしもべ」と呼ばれる。
 1981年にローマ法王故ヨハネ・パウロ2世が日本を訪問された。カトリック中央協議会は、その時以来、法王という名称ではなく「教皇」を使うよう政府に申し入れてきたが、今回、来日直前にそれが実現した。
 1942年のバチカン市国との外交関係の樹立以来、日本政府は、一貫して「ローマ法王」と呼んできた。これは、日本政府に登録した国名は、実際に政変が起きて国名が変わるなどしない限り、変更しないという理由だった。

カ障連の発足

 故ヨハネ・パウロ2世が訪日されたのをきっかけに、1982年7月に日本カトリック障害者連絡協議会(略称、カ障連)が、カトリック教会の障害者諸団体の連絡機関として発足した。現在も3年に一回、全国大会を開き、各障害者団体から提出される諸問題について解決に努力している。今回のミサにおいても、ロゴス点字図書館の西田友和館長が点字で祈りを読み上げたり、視覚障害者の参加者には音声ガイドをつけ、教皇をはじめ、ミサの状況をイヤホーンで解説した。これは、カ障連が1982年以来、「障害者のミサへの完全参加と平等」の運動を進めてきたことの成果といえる。

型破りな改革者

 「庶民派のフランシスコ教皇」というだけでなく、「型破りな改革の旗振り役」としてフランシスコ教皇はエネルギッシュに世界を飛び回っている。
 今回のミサでも死刑廃止を訴える教皇は、ミサに元死刑囚の袴田巌さんの関係者を招いたり、現在冷え込んでいる日韓関係を危惧し、多くの韓国人信徒もミサに招いた。ミサで使われる祈りの言葉は、ポルトガル語、スペイン語、韓国語、タガログ語、ベトナム語、日本語と実に多彩で、多くの外国人がミサに参加していた。
 フランシスコ教皇は、滞在の最終日となる26日午前、出身母体である修道会の「イエズス会」が設立した上智大学を訪れ、日本での最後のメッセージを学生に送った。
 「どんなに複雑な状況であっても自分たちの行動が公正かつ人間的であり、正直で責任を持つことを心がけ、弱者を擁護するような人になってください。ことばと行動が偽りや欺まんであることが少なくない今の時代において、特に必要とされる誠実な人になってください」と諭した。
 バチカン市国は世界で最小の国で、軍隊も持たずエネルギー資源もない。にもかかわらず、道徳上の権威として教皇のメッセージは世界各国に対しての影響力は絶大だ。人間の思いは、言葉と行動により、その人間性が現われる。
 フランシスコ教皇は、核兵器は無論、核保有も人類の倫理に反するとし各国に核廃絶に向けて具体的な行動を迫った。これに対して、安倍晋三首相は、「世界で唯一の被爆国である日本として、核の持つ国と持たざる国との間に立ち、対話による調整を行いたい」と回答した。
 現在、米国の核の傘の下で核禁止条約にも署名せずに、各国の動向を見守っている姿は、まったく説得力がなく情けない話である。
 82歳のフランシスコ教皇は、天皇陛下や安倍首相、韓国人被爆者、若者との集いなど、正に分刻みで行動した。このエネルギーはどこからくるのか、教皇のメッセージが何者にも拘らず直球で投げ込んでくる。美辞麗句でないからこそ、人々の心に迫ってくるのだ。
 最近の安倍政権の政治家や官僚の言動を聞くたびに、フランシスコ教皇が若い学生たちに残したメッセージとの違いに愕然とするばかりである。

(特別寄稿)あはき師国家試験の見直しは慎重に

金沢市/松井繁

 あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師(あはき師)国家試験は、令和3年(2021年)の第29回から出題数を増やすなどの見直しが予定されています。
 あん摩マッサージ指圧師試験は150問から160問に増え、はり師ときゅう師の試験は160問から180問に増やされるようです。その理由は、「認定規則であはき師としての臨床能力向上等を重視した教育内容に改められたのを受けて」のことだと聞きます。
 まず、認定規則が改められたからといって、必ずしも国家試験を見直して問題数を増やす必然性はないのではないでしょうか。次に、国家試験を見直さねばならないほどあはき師の臨床能力が低いのでしょうか? 客観的に全体を評価するのは難しいでしょうが、万一そうだとしても、このような改革によってその問題が解決されると本当にいえるのでしょうか? 国家試験の問題レベルは現状でも十分だと個人的には思っておりますが、どのレベルまでアップさせたらよいというのでしょうか。
 それとも、これはうがった見方ですが、三療師の数が多すぎるので、それに歯止めをかけようという意図でもあるのでしょうか。
 視覚障害者の立場からすると、はり師、きゅう師の国家試験合格率は大雑把にいえば半数ほどです。あん摩マッサージ指圧師国家試験にしてもそれより少しばかり多い程度であって、あはき師数、晴眼者との比率ともに年々減少し続けています。
 国家試験の問題数を増やすことは一件小さなことのように感じられますが、多少時間延長されたとしても読み速度の遅い中途失明点字使用者などにとっては一層厳しくなることは目に見えています。そうなれば視覚障害者の国家試験合格率はさらに低くなることが懸念されるでしょう。
 昭和22年(1947年)に日本国憲法が施行されました。その第22条1項に職業選択の自由が定められ、それ以来視覚障害者にも「職業選択の自由を」と叫ばれ続けて70年経ちます。たしかに一部大学教授や弁護士、公務員などが生まれましたが、視覚障害者総数からみるならば極めて少数で、例外といえるほど遅々として進んでいないというのが実情ではないでしょうか。
 視覚障害者の職業的自立の根幹を成すのは、やはり今日も「三療」であることは間違いありません。
 盲学校生徒数も年々激減していますが、それは理療科が難しいと敬遠されること、三療による展望・希望を示せないこと等が大きな要因です。
 ともあれ、三療は視覚障害者には命綱のようなものであることは論を待ちません。視覚障害者にとって事実上職業的自立の門を狭めることに大きな問題があるといわねばなりません。国家試験は近く「出題基準検討委員会」「試験委員会」等で検討されるでしょう。
 上述のような理由により私は元理療科教師として、今回の国家試験見直しは慎重であるべきだと考えます。取り返しのつかない禍根を残さないよう、理教連等関係者に切にお願いする次第です。

編集ログ

 「巻頭コラム」の「ムラド」は、オスマン帝国の皇帝の名であれば「ムラト」にすべきです。しかし、この原文は『ニューヨークタイムズ』なので英文です。なんと翻訳するか悩んでいるときに、外務省のホームページ上に「モロ・イスラム解放戦線和平交渉団の来日」という平成25年3月11日付の「ニュースリリース」を見つけました。それには英文と和文が併記されており、ムラド中央委員会議長のスペルが同一であったので、安易ですが、それにならいました。
 12月10日付新聞各紙に、神戸市立神戸アイセンター病院は12月9日、大阪大学の有識者委員会に、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から目の網膜のもとになる細胞を作り、網膜色素変性症(色変)の患者に移植する臨床研究に関する計画の審査を申請したと発表しました。妥当と認められれば厚生労働省の承認を経て、来年にも移植を行う見通しです。
 色変は視野が狭くなり、視力の低下や失明につながる進行性の病気で、中途失明者にとても多く、国内患者数は約4万人で増加傾向にあるといいます。
 計画によると、対象は20歳以上の重い患者2人で、京都大学iPS細胞研究所が健康な人から作って備蓄しているiPS細胞を使い、視細胞のもとになる細胞を作製し、これを培養してシート状に加工します。それを患部に1〜3枚移植して正常な視細胞に成長させ、症状の改善を目指すというものです。
 計画を主導するのはアイセンター病院の高橋政代研究センター長で、同氏は「加齢黄斑変性」という網膜の別の病気の患者を対象に、iPS細胞を使った世界初の移植を平成26年、理化学研究所のプロジェクトリーダーとして行っています。(福山博)

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