THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2019年11月号

第50巻11号(通巻第594号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:奥村博史
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:NHK式謝罪の罪 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(匿名寄稿)盲学校の生徒水増し疑惑? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(特別寄稿)幸せの国ブータンはほんとうか?(上) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
(特別寄稿)モンゴル大草原を走る ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
あっ!その時どうする…第4回避難体験オペラコンサート ・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
一枝のゆめあん摩マッサージ指圧コンテスト
  有資格のさらなる高みを目指して
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24
読書人のおしゃべり 歴史の遺産から何を学ぶべきか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
スモールトーク 韓国の「大本営発表」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
しげじいハワイに行く (5・最終回)サンセット・ディナー・クルーズ ・・・・・・・・・・
35
盲教育140年 (20)あはき新法律の制定と盲学校への影響その2 ・・・・・・・・・
40
自分が変わること (125)8,000mで何か起きるのだろう ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
リレーエッセイ:大規模高齢者施設浴風会で研修を受けて  ・・・・・・・・・・・・・・・
50
アフターセブン(56)正しく理解する力と判断力を磨き続けるために ・・・・・・・・・
55
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (207)“万年三役”返上なるか―御嶽海の大関取り ・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:血液型を問わない人工血液の開発に成功、iPS細胞から
  ミニ多臓器作製、ストレスで老化物質濃度上昇、飲んで測る
  錠剤タイプ体温計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:アイシー!ワーキングアワード、ヘレン・ケラー記念音楽コンクール、
  日点チャリティコンサート、白い杖の留学生国際大会 ・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
NHK式謝罪の罪

 日本郵政によるNHKへの圧力問題を『毎日新聞』は9月26日付朝刊で、「NHK報道巡り異例『注意』 経営委、郵政抗議受け かんぽ不正、続編延期」とスクープを打った。だが、高市早苗総務大臣は「個別の放送番組や番組編集について述べたものではない」と記者会見で述べ、問題ないとの認識を示したが、これは木を見て森を見ぬ、近視眼的発言である。
 『毎日新聞』が報じたのは、かんぽ生命保険の不正販売問題を追及した昨年4月のNHKの「クローズアップ現代+(プラス)」第1弾の放送が気にくわなかった日本郵政が、続編の放送に向けて昨年7月に番組公式ツイッターに投稿した動画を巡り、「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」として削除を要求。上田良一会長にも抗議したが、返答を拒まれた。そこで矛先を変えNHK経営委員会に抗議すると、同委員長が会長を厳重注意した。このため放送総局長が日本郵政に出向き、番組幹部の発言について事実上謝罪する上田会長名の文書を渡した。そして、NHKから2回目の報道をやめるとの連絡があり、鈴木康雄日本郵政上級副社長はNHKに「果断な措置を執っていただいた」との礼状を送ったというのが全貌だ。
 これは報道の自由を揺るがす、日本郵政とNHK経営委員長による番組介入である。
 なにより問題なのは、昨年4月の番組のどの部分に瑕疵があったのか明かにせず、NHKが同番組2回目の報道をやめるという判断に至ったことである。
 その後かんぽ生命保険の不正販売問題は底なしの様相となり、日本郵政の長門正貢社長自ら9月30日の記者会見で、「今となっては全くその通り」と番組内容が事実だったと認めて、実態調査をせずに抗議や申し入れをしたことを「深く反省している」と陳謝したほど、番組内容には問題なかったにも関わらずである。(福山博)

一枝のゆめあん摩マッサージ指圧コンテスト
有資格のさらなる高みを目指して

 9月21日(土)、一枝のゆめ財団主催の全国あん摩マッサージ指圧コンテストが、東京有明医療大学で開催された。本大会は、日本のあん摩・マッサージ・指圧療法の啓発、さらにあん摩マッサージ指圧師の資質向上と技術の研鑽を図ることを目的としており、今回が2回目。参加選手は、晴眼者が16名、視覚障害者が8名で、全国から集まった計24名がその腕を競った。
 コンテストはプロ審査と一般審査の2部門からなり、総合的に判断される。プロ審査の部は、その名の通り理療科教員や財団関係者などあはき業の専門家が審査にあたる。審査会場にはマッサージ施術室が再現されており、各スペースに診察台・枕・胸当てクッション・荷物カゴが8セット配置され、8人同時に審査された。審査方法は、選手が施術台で実際に15分のマッサージを行い、それを点数化するというもの。点数シートは、2種類用意され、技術評価者用と客観的評価者用があった。技術評価は、施術をされている審査員が行い、客観的評価は診察台の横に立つ審査員が行った。技術評価は、@自己紹介、A患者氏名の確認、B主訴の聞き取り、Cインフォームドコンセント、Dコミュニケーション、E軽擦、F揉捏、G指圧(圧迫法)、H叩打法(曲手)の9項目より構成。客観的評価は、@身だしなみ、Aコミュニケーション、B医療面接、C施術姿勢、D患者への心配りの5項目により構成。施術の点数化は審査員個人の好みも反映されるおそれがあるので、それを考慮して選手は審査員を変え、施術機会が3度与えられた。
 15分という時間は短いように思われるが、審査が開始すると、時間をもてあまし、会話が続かない選手も目立った。緊張もあったのかもしれないが、評価基準のコミュニケーションの内容もどこまでがコミュニケーションなのか、手探りのところもあったようだ。症状を聞き取ることがコミュニケーションなのか、プライベートに踏み込むことがコミュニケーションなのか、それが明確にされないまま進められる状況下で、刻一刻と終了時間は近づいてくる。無言で施術を進める選手の横で審査員の趣味をたずねている選手がおり、対照的であった。
 3回の施術が終了すると、選手は隣の部屋に移動し、一般審査の部が開始された。そこにはネットで事前募集された老若男女が集まっており、椅子に座った24名の審査員を24名の選手が一斉に施術した。こちらも審査員による主観をなくすため、3度審査員を変えて施術が行われ10分間の施術を受け、@マナー・接遇、A手技の満足度、Bリピート希望について点数化した。
 一般審査は、場に慣れたからか終始賑やかで、選手は最初から打ち解けた様子で審査員と話していた。リラックスした選手は審査員に対して「お客様」という態度で接しており、審査員の口からも「リピーターになりたい」という言葉が漏れていた。
 審査が無事終了すると、受賞者の発表となった。最優秀賞は東京都健康堂鍼灸整骨院の鈴木健造氏(40歳)であった。同氏は17歳の頃よりマッサージの受付をはじめ、それから23年間マッサージ一筋で生きてきたという熱い魂の持ち主であった。マッサージの腕は言うまでもないが、コミュニケーションに秀でており、審査員の症状を丁寧に聞き取り、ふと審査員の口から出た「野球」というワードを聞き逃さず、「僕もしますよ」と一気に話を広げていったのが印象的だった。賞状を掲げ、「取りました!」と笑顔を見せ、普段の明るさが伝わってきた。優秀賞は視覚障害者で熊本県内田マッサージ鍼灸院院長の藤川舞氏(39歳)と埼玉県朝霞治療院院長の戸田賢氏(46歳)であった。藤川氏は2回目の挑戦であり、ご主人に背中を押されて参加した。女性らしさが溢れる温かさとともに、「マッサージが好きなんだね」という言葉を審査員から引き出す確かな施術を披露した。戸田氏は開業後も講師として活躍するスペシャリスト。受賞時に「目の前の患者さんを楽にしたいという思いで施術しています」と語っていた。
 あん摩マッサージ指圧コンテストの開催はこれが2回目だが、まだ改善すべき点はある。審査結果を見てわかる通り、「視覚障害者だから」ということで優遇された点はなく、やや不利な状況であったように感じた。部屋で複数の選手が一度に施術を行うため、当然、他の選手の声は聞こえ、周囲の様子は察知できただろう。だが、施術に神経を尖らせながらも、どこまで周囲の声を拾うことができるのか。視覚障害者は晴眼者に比べ、自分のペースで進めることが多かった。それについて、普段と変わらぬパフォーマンスを行えると捉えれば、強みになるのかもしれない。しかし、今回は会話をしながらも施術を行っている晴眼者が多いなか、視覚障害者がそれに気づけず、問診のみの時間が長引き、結果的に施術時間が少なくなるという事態を引き起こした。これについては次回のコンテストでの課題となるであろう。現場では今日も有資格者は晴眼者・視覚障害者に関係なく能力が強く求められており、それを評価する場はこれからも必要である。本大会が回を重ね、それが実現することを願うばかりである。(阿部美佳)

編集ログ

 9月27日付共同通信のスクープ、関西電力の幹部が億単位の金品を受領していた問題は、贈収賄に該当しかねない悪質さが一目瞭然で、このまま捨て置いたら原子力政策にまで影響がおよぶので、菅義偉官房長官も記者会見で強く批判した。だが問題の本質は見えにくいが、日本郵政によるNHKへの圧力問題はそれ以上に深刻だ。
 NHKの番組幹部が日本郵政に「番組制作と経営は分離されており、会長は番組制作に関与しない」と説明した。これはNHKの番組編集権は放送法に基づき会長が持つが、「実際の業務運営は放送総局長に分掌し、個々の番組の内容は現場に任せる」という意味だが説明不足だった。このため日本郵政は揚げ足をとり、「放送法で番組制作・編集の最終責任者は会長であり、NHKはガバナンスが全く利いていない」と主張し批判した。
 メディアに誤報はつきもので、間違えたら自らの媒体で「訂正してお詫び」するしかないが、それは隠し立てするような性格のものではない。一方、NHK経営委員会は、日本郵政の抗議を受けて上田会長に厳重注意した件では反対意見があったにも関わらず決をとらないで、記録にも残さなかった。
 NHKの最高意思決定機関である委員会の議事録は、経営の透明性を確保するため、放送法41条で委員長に作成と公表を義務づけている。しかし、会長への厳重注意という重い処分をなぜ議事録に載せなかったのか、「毎日新聞は議事録の公表基準を尋ねたが、NHK経営委員会事務局は『回答できない』とコメントした」という。
 このようなNHK経営委員会の不誠実な隠蔽体質が変わらない限り、同様の問題はまた起こり得るだろう。賄賂で国は滅びないが、マスコミの不誠実は国を滅ぼすと歴史は教えている。(福山博)

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