THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2019年8月号

第50巻8号(通巻第591号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:奥村博史
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:『産経新聞』の不思議なスクープ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(特別寄稿)NHKには、聞く耳が無いのか? 
  「視覚障害ナビ・ラジオ」にeメールをしても、何の音沙汰もなし ・・・・・・・・・・
5
岩橋明子さんを偲ぶ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
フロンティアの大地十勝で日盲社協大会開催 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
新組織体制での船出 ―― 理教連総会より ―― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
(特別寄稿)全盲ジャーナリストとして、今盲界に訴えたいこと ・・・・・・・・・・・・・・・
24
(新連載)しげじいハワイに行く (2)ホノルルにて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
盲教育140年 (17)学校教育法の制定と就学の義務制その1 ・・・・・・・・・・・・・・
39
自分が変わること (122)差別する心、そうではない心 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
リレーエッセイ:馬場村塾のご紹介  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
48
アフターセブン(53)ヘラクレス・ヘラクレスのその後 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
53
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (204)史上初の親子3代関取の誕生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
時代の風:チャレンジ賞・サフラン賞受賞者決定、マウス実験で「未病」を実証、
  しゃっくりが止まるメカニズムを解明、血液検査でパーキンソン病診断 ・・・
61
伝言板:八ヶ岳サマーコンサート、バリアフリー映画上映会、
  塙保己一賞候補者募集、とっておきのアイディアコンテスト ・・・・・・・・・・・・
65
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
『産経新聞』の不思議なスクープ

 7月11日付『産経新聞』の一面を見て目を剥いた。縦3.5×横25cmの真っ黒い背景いっぱいに白黒反転したゴチック体で「韓国企業が不正輸出」の活字が踊っていたのだ。そして「親北国へ科学兵器物質」「シリア・イラン国際管理に抵触」「日本規制強化の背景」の見出しが続いていた。
 内容は、韓国で貿易管理を担当する産業通商資源省が作成した「戦略物資無許可輸出摘発現況」により、「生物・化学兵器を含む大量破壊兵器製造に転用可能な物資をシリアやイランなど北朝鮮の友好国に不正輸出したとして、韓国政府が複数の韓国企業を行政処分していたことが7月10日、日本政府関係者への取材で分かった。・・・多数の企業が不正輸出を企図し、摘発されている事実は、韓国における戦略物資の不正な国際流通に対する甘い認識を浮き彫りにした格好だ」というもの。
 この記事の内容に異存はないが、なぜ、これがおどろおどろしい大見出しで一面に取り上げなければならないのかが、大いに不審なのである。これではスクープだとでもいわんばかりではないか?
 というのは、この程度の内容は、韓国の『朝鮮日報』が今年の5月17日付で報じており、『産経新聞』の記事はその二番煎じでしかないからだ。
 韓国の新聞には、良かれ悪しかれ日本関係の記事が毎日掲載される。その中には、日本のテレビや新聞の報道を引用するだけの手軽なものも多い。一方、日本の新聞に韓国の国内ニュースが掲載されることはまれで、一般国民の関心も薄い。
 これは、昨年の日韓両国の年間往来者数が初めて1,000万人を突破したが、韓国の人口は日本の半分弱なのにも関わらず日本を訪問した韓国人は約754万人で、訪韓した日本人は約295万人であることからも見て取れる。
 この関心の偏りが背景となって、ときとしてフラストレーションが溜まり、不条理劇のような日韓対決が起こるのではないだろうか。(福山博)

(特別寄稿)全盲ジャーナリストとして、今盲界に訴えたいこと

前・視覚障害者支援総合センター理事長/高橋實

 わたくしは今も盲界マスコミといわれる『点字毎日』、『点字ジャーナル』、『視覚障害』、『点字JBニュース』はもとより大手施設が出している点字誌は読むように心がけ、特にわたくしたちに関わる記事は心して読んでいます。今回は会員の末席をけがしている日盲連大会が、それも我が故郷・北海道の札幌市で開かれたということで、大いなる関心を持って4紙誌を読みました。
 その中で指を止めたのが、『点字ジャーナル』7月号の「取材拒否」と「竹下会長の1期」と「『点字毎日』佐木記者の論説室」の3箇所で、それらについてわたくしの経験と思いを交えて書くことにしました。
 間違っていることや異論がありましたらご指摘ください。

「取材拒否」について

 今回の日盲連大会で、評議員会の取材をいわゆる盲界マスコミに認めなかったということは、理由が書かれていませんので何とも言えません。しかし、『北海道新聞』が取材しているのですから、わたくしたちがよく使う「不透明」とか、「秘密主義」には繋がらないと思いますが、わたくしにも合点がいきません。「評議員会」は例えはオーバーかも知れませんが、国の国会に当たる場ですから、我らの代表がどんな発言をしているのかを「知る」権利があると思います。
 「取材拒否」で思い出しますのは、わたくしが『点字毎日』(以下、点毎)記者に内定していた1959年11月7日、都内で「理療師法制定促進同盟」の会議に編集長と同席したときのことです。冒頭、鳥居篤治郎(第2代)日盲連会長が「点毎の同席は認めない。点毎は時折、我々の意図していることを間違って報じている。結果は改めて説明する」と語気を強めて宣言されました。
 もちろん点毎編集長は抗議しましたが、結局わたくしたちは退席せざるを得ませんでした。その日は、鳥居会長の他に全鍼連(今の全鍼師会)と理教連のトップが集まり「理療師法(今のあはき等法)促進同盟を結成するための会」でした。
 当時は、今違憲訴訟で争っているあはき等法19条問題や養成施設増設、盲人あん摩師の身分と業の安定策などについてしょっちゅう独自案や合意案などがめまぐるしく出されて、その裏付けを取りながらの取材は大変だったことを覚えています。鳥居先生は、点毎の東京移転を土壇場でストップさせたほど「点毎大好き人間」で、よく「盲界マスコミがもう1紙あれば読者も点毎も得をするのになあ」とぼやいておられました。
 わたくしの駆け出し時代は日盲連担当で、その頃日盲連本部は日本ライトハウス内に置かれ窓口は、後に日盲連第5代会長になられる村谷昌弘さんでした。また点毎の第2代編集長だった大野加久二さんが日盲連の副会長をされておられましたので、わたくしには大変なプレッシャーがかかり、編集会議でスタッフから取材姿勢について注意されたりもしました。   

会長の「1期」について

 「昨日の理事会で、わたしがもう1期(2年間)会長をやらせていただくことになりました。わたしのわがままを聞いていただき、副会長3名を選出しました。70周年の節目が次の10年にどうつなげるのかが、名称変更と共に重要であると考えています」と述べたとあります。
 わたくしは竹下さんとは半世紀前後のつきあいですが、いつもの格調の高いコメントとは違い、控えめな挨拶に感じました。「1期」というのは言葉のあやなのかも知れませんが、少なくとも2、3期は「俺がやらなければ」という気概を発信し続けて、横たわる難問と取り組んで貰わなければならないと思います。ただいつも感じるのは、会長が叫ぶスローガンと会員とのギャップです。会員個々の目標が見えてきません。違憲訴訟ひとつをとっても経過だけで対応しているだけで、結果を想定した行動が見えてこないのです。
 今視覚障害者は、社会からだけでなく障害者の中でも埋没しかねない状況にあると思います。戦後間もなく盲人の諸先輩が、身体障害者福祉法を作らせたようなエネルギーを竹下会長を先頭に期待しています。それこそ「当分の間」竹下さんは視覚障害者の代表としてなくてはならない人であることを、我々と共に竹下さんも肝に銘ずるべきです。
 わたくしが期待しているその竹下さんが、日盲連の下部組織である一般社団法人大阪市視覚障害者福祉協会(以下、大視協と略)の「顧問(弁護士)」をしているのですが、それを辞退して欲しいとわたくしは訴えております。
 わたくしが生活の場を東京から大阪に移して間もなく2015年頃、大視協の総会に出ました。この頃から出席者のヤジと怒号は変わりませんが、質問を執行部にしてもまともに答えられず、とどのつまり顧問の竹下さんが登場して場を納めました。
 そのときの総会の帰り際、竹下さんに「わたくしはあなたの答弁を聞きたくて参加したのではありません」と失礼な言葉をかけたほどです。これほど執行部の無自覚さと無責任さはひどいものです。そんな状況ですから竹下さんの舞台となるのかも知れません。しかし顧問に竹下さんを迎えているから、大視協はスムーズな運営とか、会員同士の結びつきも強固なのだとなればまだしもですが、実態は逆です。しかも状況は、そんな悠長なことを言っている場合ではなくなってきています。その際たるものが去る6月21日の大視協総会です。
 総会通知が6月3日付で送られてきた文書には、「すでにお知らせしましたとおり、今回の総会には裁判所の選任した検査役が立ち会うことになっており、裁判所や検査役の助言に従って、役員選任の手続きや委任状の書式等これまでと扱いを変更しているところがあります」とありました。
 大視協会員は400人足らずで、その10分の1程度の会員で「大視協を正常化する会」を作り、交流会や執行部に対する要望などを地道に行い、今回の役員改選についても具体的な提案を行い、執行部に話し合いを申し入れていましたが、聞き入れられませんでした。
 選挙では「過半数を取りやめ、投票数の多い順に理事定数16人まで当選者とする」「選挙権重視で期日前投票を実施する」「会員の立会を認める」などを申し入れ、話し合いをしたいと要望しましたが、それは実現しませんでした。しかし、「選挙規定の過半数は取りやめ、期日前投票は行う」という通知が4月吉日付で送られて来ました。
 ところが5月13日付で「先の2点は取り消し」という文書に続けて、「4月17日、会員21名から大阪地裁に『総会検査役の選任を求める申し立て』が出されました。総会検査役とは裁判所が選任する検査役が、総会の手続きが法律や定款に違反していないかを検査する制度で、その費用は本会の負担になります」と予想だにしなかったことが書かれていたのです。
 聞くところによりますと、当日はカメラ3台と録音機、検査役や補佐人ら13人と訴えた側、訴えられた側双方の弁護人が2人ずつ来ていたというのです。経費もさることながら、前代未聞の総会を歴史に残す、恥ずべきことをしたと執行部は猛省すべきだと思います。
 今も執行部を相手取った訴訟が複数あり、一つは去る6月10日大阪地裁で執行部側の敗訴が決まり、控訴の手続きに入るそうです。
 たしかに会員の中にも訴訟で決着をつけるという人がいます。その人の話ももっともだと思えることも多いのですが、執行部との話し合いが持てず、裁判にかけているのだと思います。よく国会などで聞く言葉ですが会員の質問に、執行部は「訴訟になっているので・・・」と裁判を口実に拒否してきました。大視協の会員の中には竹下さんに大きい声で言いくるめられるため憎しみさえ感じている人がいます。しかし、これはお互いにとって不幸です。竹下さんが大視協の顧問を辞め、日盲連会長として中立的立場で、大視協執行部と会員間のわだかまりを納めるような、尊敬される環境が整うことをわたくしは願ってやみません。

「点毎記者論説室兼務」について

 佐木理人記者の論説室兼務は、特に若い視覚障害者に希望と夢を贈ったようなもので「一日の長」として本当に嬉しく思っております。最近は色々な分野で「専門家」という人々のコメントを聞くことが多くなりました。佐木記者には「盲人問題専門家」と言われるように頑張っていただきたいものです。そのためにはもっともっと盲界の現状を認識して、過去を振り返りながら、未来を展望できる記事を書いて輿論を喚起してください。
 以前は点毎の記事は、会議や飲み会などで話題になり、内心ひやひやしたことが多々ありました。ところが昨今は、「点毎は何で書かないのか」、「点毎は見て見ぬ振りをしているのか、アンテナの使い方が違うのか」という声を聞きます。
 わたくしは『視覚障害』の「編集後記」を通巻346号まで書いてきました。賛同者もおられましたが、盲界幹部から集団で抗議を受けたこともありますが、それはそれで誌面化しました。
 晴盲業者が共通で恐れている「柔整科を盲学校がもうけたこと」でも大視協の「特定処遇事業所加算」にしても、記録が保存されていなかったことで問題が爆発したわけです。
 特に地裁で結審が近くなった違憲訴訟などは、何回でも書ける評論です。週刊誌ではなく新聞であることをスタッフは忘れないようにして、読者が待ち望む『点字毎日』を切望しています。

編集ログ

盲大学生奨学金貸与式

 視覚障害大学生のための「盲大学生奨学金」の第51期貸与式が7月6日(土)、東京都新宿区のホテルグランドヒル市ヶ谷で行われ、下記2名の奨学生が選ばれ、この4月から在学する大学の修業年限の最終月まで月額4万円が貸与されることになった。
 式典で、聖明福祉協会本間昭雄会長は「尊敬する盲界の大先輩でご指導をいただいた中村京太郎先生(点字毎日初代編集長)が、育英資金の制度が必要であると述べられており、私はちょうど20歳の時、学業半ばで医療事故により失明して、充分勉学をすることができなかったそんな思いもございまして、昭和44年(1969)に聖明福祉協会の創立15周年記念事業としてこの制度を設けました。歴代貸与者には、ここにおられる大学教授や弁護士、東京都の公務員など各界の第一線で活躍している方々がおられます。ぜひ夢と希望に向かって努力してください」と祝辞を贈った。
 続いて、朝日新聞厚生文化事業団の是永一好事務局長が奨学生2名を、「藤原彩香(フジワラ・アヤカ)さんは、この春から京都文教大学臨床心理学部臨床心理学科に在籍しておられ、将来は障害者や子供達に寄り添える仕事をしたいということです。斎藤希璃さんは、福島県の出身で東日本大震災の被災者として仮設住宅で厳しい生活を強いられ、ご苦労されました。この春に筑波技術大学保健科学部保健学科に進まれ、将来は理学療法士になって、被災地である故郷で働きたいということです」と紹介して、共に「選考委員の全会一致で選ばれました」と報告した。
 なお、齊藤さんからは、「授業があるため貸与式には参加できないので、奨学金は辞退しなければいけませんか?」と事務局に連絡があったが、本間清郷理事長の判断で、「その必要はありません。奨学金を受けて勉強に励んでください」と回答した旨の報告があった。
 祝辞に立った日盲連竹下会長は、「私もこの奨学金を受けた一人として、50年を越えて継続していることは、視覚障害者の高等教育に非常に大きな力になっており、主催者の聖明福祉協会と朝日新聞厚生文化事業団に感謝申し上げます。私たちが学んでいた頃より、間違いなく学習環境はよくなってきたとはいえ、お金の問題、情報保障の問題など、まだ、様々な課題があると思います。それを一人で抱え込まないで誰かにぶつけることで、次の時代をひらくことに繋がります」と述べて激励した。(福山博)

訂正します

 先月号の小誌、「日盲連は古いモデルから脱皮できるか? ―― 灼熱の札幌大会より」の記事中、選任された理事中「やまの・かずみ」さんを「さんや・かずみ」さんと誤って記載しましたので、ここにお詫びして訂正します。(編集部)

投稿をお待ちしています

  今号は長文のそれも興味深い投稿があり、急遽大幅に割付を変更して掲載しました。また、「巻頭コラム」も『産経新聞』一面のどぎついレイアウトに目がくらんで、急遽、変更していらぬお節介を焼いてしまいました。韓国に関する記事を書くのならば、韓国の三大紙(日本語版)くらいはチェックしておくべきではないでしょうか。  前『視覚障害』編集長で、元『点字毎日』記者でもある高橋実先生が、「全盲ジャーナリストとして、今盲界に訴えたいこと」で、「間違っていることや異論がありましたらご指摘ください」と呼びかけておられます。『点字ジャーナル』としても、記事に関するご意見、反論・異論などございましたら、点字もしくは墨字にて、本誌編集部(tj@thka.jp)宛お送りくださることを切望しております。その際、原則としては点字800字以内にまとめていただきたいのですが、阿久津啓司先生や高橋実先生のように、それではとても書き切れないという方は、本誌編集部まで別途ご相談ください。ただし、投稿されたものが、必ず『点字ジャーナル』に掲載されるとは限りません。また、匿名の原稿は、基本的に採用しませんので、ご注意ください。(福山博)

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