THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2019年3月号

第50巻3号(通巻第586号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:馬塲敬二
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:児童虐待対策という画餅 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(特別寄稿)我が思い、平成と共に去りぬ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
再建の槌音響く! ネパール地震からのより良い復興とは? ・・・・・・・・・・・・・・・
14
平成医療学園の主張に反論 〜藤井教授調査の根拠示す〜 ・・・・・・・・・・・・・・
28
しげじいの利尻・礼文ツアー (5)利尻島マラソン その2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
盲教育140年 (12)盲唖教育令の制定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
自分が変わること (117)日本人の根に先祖信仰はあるのか ・・・・・・・・・・・・・・
43
リレーエッセイ:「ヒカリカナタ基金」とネパールの旅  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
48
アフターセブン(48)ゆたかな文化はどのようにして育つ? ・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (199)相撲ファンのみならず、国民から愛された横綱稀勢の里 ・・・・・・・・・
59
時代の風:体重維持で緊急入院時の死亡リスク低下、ダウン症と脳の
  銅蓄積が関係か、腸内細菌が免疫を高める仕組み解明、
  マウスの腎臓をラットの体内で作製 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:れきおんクラブ、日点春のチャリティ映画会、Dominant演奏会、
  調布シネマフェスティバル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
児童虐待対策という画餅

 「政府は児童虐待への取り組みを強化するため関係閣僚会議を開き、緊急対策を実施する」。
 これは千葉県野田市の小学4年、栗原心愛さん(10歳)が1月24日に自宅で死亡しているのが見つかり、翌25日に父親が傷害容疑で逮捕された事件を受けてのものではない。昨年3月東京都目黒区で虐待を受けた船戸結愛ちゃん(5歳)が死亡した事件を受けてのことである。
 かくして昨年、政府は再発防止のための緊急対策をまとめ、厚生労働省のワーキンググループは、児童相談所(児相)に常勤弁護士の配置を促し、警察との情報共有、連携強化も求めていたが1年も経たないうちに同様の事件が起きてしまった。
 柏児相は一時保護しながら、むざむざと両親の元に帰した不作為が問われているが、それよりたちが悪いのは、学校と野田市教育委員会だ。心愛さんは2017年11月、当時通っていた野田市立小学校のアンケートに「お父さんにぼう力を受けています・・・先生、どうにかできませんか」などと訴えていた。それを学校は父親に話してしまい、市教委指導課長は弁護士に相談するでもなく、威圧的な態度に恐怖を感じ、同アンケートのコピーを父親に渡してしまったのである。これを入手した父親は、心愛さんを市内の別の学校に転校させたが、彼女が長期欠席しているにも関わらず、学校や市、児相はその後、事件が起きる今年1月まで一度も自宅を訪問していない。
 1月22日、野田市、児相、警察署、教育委員会や民生委員がメンバーとなり、虐待の恐れがある児童について情報共有し、支援の仕方を協議する要保護児童対策地域協議会が開かれたが、リストアップされた対象児童約170人の中に心愛さんの名前はなかった。そして、その2日後、彼女の遺体が発見された。
 市役所、児相、学校、教育委員会が見て見ぬ振りを決め込んだのである。いずれかが、昨年政府が推進した児童虐待への取り組みに自覚的であれば、彼女の死は防げたはずだ。はたしてこの体制で第3の殺人を防げるだろうか。(福山博)

平成医療学園の主張に反論
〜藤井教授調査の根拠示す〜

 1月30日(水)午後、東京都盲人福祉協会において、関係するメディア等を招いた集会で、『鍼灸柔整新聞』第1085号が「藤井調査、統計学的に全面否定」の見出しで「科学的信頼性がない」と報じた記事について、藤井亮輔筑波技術大学教授が反論した。
 これは昨年(2018)10月29日に東京地裁で開かれたあマ指師課程新設非認定処分取消請求事件裁判第11回口頭弁論で原告(平成医療学園グループ)が、国の提出した藤井調査に「統計学の専門家」の鑑定意見を交え全面否定した。そして原告の岸野雅方平成医療学園理事長が編集発行人を務める『鍼灸柔整新聞』紙上に先の記事が掲載された。
 これに対して、先に述べた集会で藤井教授は、調査に科学的な信頼性がないと批判するのであれば、論文で反論するのが学術界の大原則だ。しかし、そうした手続きを踏むことなく、原告代表が編集発行人を務める新聞公器を使って印象操作をし、統計学の専門家の名も伏せているのはアンフェアである。この新聞の記事を放置しておくと、それが独り歩きし、裁判にも影響を与えかねないのでここで反論すると述べた。
 原告の主張は、(1)19条を支持する藤井教授による調査が国の補助金を受けて行われていることで利益相反のバイアスがかかっており信用できない。(2)調査方法が科学的でないという2点である。
 これに対し藤井教授は、(1)について大学の研究は、国の意向や意思とは完全に独立し、自由である。財源は国の科学研究費であるが、これを利益相反と言うならば、学問・研究の自由の侵害と科研費制度の否定にもつながる暴論である。また、調査は第3者性を担保するため、国の調査をしている中央調査社に打ち込みと集計まで委託した。調査結果を分析し論文にまとめただけなので、ごまかしようがない。「原告が必要とあれば、生のデータがあるので、きちんと検証してもらえばいい。いっさい利益相反のバイアスはかかっていない」と反論した。
 (2)については、本来全数調査ができればいいが10数万件になるのでできない。サンプリング調査を行う際の科学性には、標本台帳の無作為性が担保されていること。抽出したサンプルに縮図ができているかである。「抽出した標本は一定の良質性が保たれている」とまったく問題ないことを強調した。
 具体的には、抽出台帳が厚労省の協力により、全国の保健所所管の業者名簿の約9割を集め、これを標本抽出台帳にしたもので、「いっさい私意、作為が働かない究極の無作為性が担保されている」と述べた。また、全数の10万3,000件から2万件を抽出する際、偏りを極力小さくするために、層化法を採用している。そのため、この調査には科学性が担保されていると力説した。
 国勢調査と藤井調査には乖離があるとの原告の主張には、そもそも国勢調査はあマ指師、鍼師、灸師、柔整師の4業種を対象にしており、藤井調査ではあマ指師の収入と患者数を調べているので、比較対象にはならないと一刀両断にした。
 保健所の名簿は、施術所単位の住所、雇用者数しかないので、一人一人に調査することが困難で施術所単位で行うしかない。ただし、あはきの場合は85%が一人経営なので、収入の中央値(視覚障害者128万円、晴眼者350万円)は個人業者の収入とニアイコール(ほぼ等しい)と考えられるため、調査としての合理性を欠くとは思われないと指摘した。
 サンプリング数が少なく回収率が低いという指摘に対し、無作為の郵送調査の回収率は予告ハガキや督促のハガキを出すなどお金をかければ50%を超えるが一般的には20〜25%なので、今回の29%はとても高い。2万件の標本規模といい、4,000件の回答数といい過去最大規模で有り、原告の反論はまったく当たらないと語った。
 視覚障害あマ指師の年収の中央値が、2007年では200万円、2014年では180万円、2016年では128万円と激減している。この状況で、平成医療学園の求める晴眼あマ指師の養成課程の新増設が認められれば、全国各地の晴眼鍼灸学校でも、あマ指師養成課程の新規増設が相次ぐことは火を見るよりも明らかだ。無資格業者が跋扈する中で、晴眼あマ指師業者が乱立するならば、ただでさえ生活が苦しい視覚障害あマ指師は困窮してしまうだろう。
 原告は、昭和39年に比べ、現在の生活環境は良くなってきており、障害基礎年金や生活保護も充実していると述べ、視覚障害者は生活保護で生きればいいともとれる弁論もしており言語道断である。
 『鍼灸柔整新聞』は、「匿名の専門家の鑑定」というあやふやな根拠で一方的に藤井教授の名誉を毀損しておきながら、同紙上での藤井教授の反論を拒否しているという。まさに「社会の公器」としての使命を逸脱した、天に唾する所行というしかない。(戸塚辰永)

編集ログ

 江戸末期から明治初期にかけて日本を訪れた英米人は、母国の児童虐待と比べて日本のそれを次のように賞賛しています。
 「世界中で日本ほど子供が親切に取り扱われ、そして子供のために深い注意が払われる国はない。ニコニコしているところから判断すると、子供達は朝から晩まで幸福であるらしい」大森貝塚を発見した米国人で東大教授だったエドワード・モース(1838〜1925)。
 「怒鳴られたり、罰を受けたり、くどくど小言を聞かされたりせずとも、好ましい態度を身につけてゆく・・・彼らにそそがれる愛情は、ただただ温かさと平和で彼らを包みこみ、その性格の悪いところを抑え、あらゆる良いところを伸ばすように思われます。日本の子供はけっしておびえから嘘を言ったり、誤ちを隠したりはしません。青天白日のごとく、嬉しいことも悲しいことも隠さず父や母に話し、一緒に喜んだり癒してもらったりするのです」著述家で駐日英国公使夫人だったメアリー・フレイザー(1851〜1922)。
 「私はこれほど自分の子どもに喜びをおぼえる人々を見たことがない。子どもを抱いたり背負ったり、歩くときは手をとり、子どもの遊技を見つめたりそれに加わったり、たえず新しい玩具をくれてやり、野遊びや祭りに連れて行き、子どもがいないとしんから満足することがない」英国の女性探検家、紀行作家のイザベラ・バード(1831〜1904)。
 150年前は子供の天国であった日本がどうなったかは、巻頭コラムの通りです。とはいえ、いまだ欧米ほど児童虐待数は多くないようです。しかしながら、その相談対応件数は毎年増え続けているので、児童虐待が顕在化していないだけなのかも知れません。
 児童虐待防止法によると、虐待かもと思ったら全国共通ダイヤル「189番(いちはやく)」に電話して、児童相談所に通告する義務が私たちにはあります。(福山博)

投稿をお待ちしています

 日頃お感じになっていること、記事に関するご意見などを点字800字以内にまとめ、本誌編集部(tj@thka.jp)宛お送りください。

Copyright 2004 Tokyo Helen Keller Association. All Rights Reserved.

THKA