THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2019年1月号

第50巻1号(通巻第584号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:馬塲敬二
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:善意という名の差別 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(座談会)2020年パラリンピックに向けてその課題と展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
視覚障害者の進路を多面的に考える 〜雇用連学習会より〜 ・・・・・・・・・・・・・・・
21
不思議な国 トンガ王国 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
25
ブラインドあはき師の失地回復を目指して!
  ― クラウドファンディングを使ったユニバーサル鍼灸院の挑戦 ・・・・・・・・・・・
31
しげじいの利尻・礼文ツアー (3)利尻島にて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
盲教育140年 (10)盲唖教育令制定の運動 その1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
自分が変わること (115)心の底からわいてくる ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
リレーエッセイ:盲人マラソン  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50
アフターセブン(46)便利な物を使って広める ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (197)小兵旋風が吹き荒れた十両の土俵 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:視覚障害原因の最多は緑内障、妊婦に薬投与で胎児のアレルギー
  予防、脊髄損傷をiPS細胞移植で改善、1日1時間歩行で認知症予防 ・・・・・
63
伝言板:劇団ふぁんハウス公演、ふれる博物展「宇宙をさわる」、
  日点協「冬の研修会」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
善意という名の差別

 その視覚障害者が勤務する法人は、とある雑居ビルの中にあった。中間管理職の彼は仕事が立て込んできたので、休日に単独で出勤した。するとビルの管理人から「視覚障害者が休日に独りで出勤しているときに、火災や地震が起きたら危ないので、出勤しないでほしい」といわれた。
 誰も好き好んで休日に出勤するわけではない。実際に「ひとりで仕事するのは心細いので嫌!」と休日出勤を断る晴眼者だって普通にいる。障害の有無にかかわらず、休日出勤するにはそれ相応の理由と判断があるのだ。ビルの管理人には出勤するしないを決める権利などないが、善意で言っているので、その越権行為に無自覚なのだ。
 健常者は自分が暗闇では何もできないので、それが一時的であっても恐怖を感じる。一方、一時的に外部の音が聞こえない場合はほとんど痛痒を感じない。これはポータブルオーディオプレーヤーを聞きながら通勤・通学している人たちが大勢いることからも明らかだ。このため一般に視覚障害者は災害に対してリスクが高く、聴覚障害者はリスクが低いと思い込みがちだが、実はその逆の場合が多い。というのは、災害発生などの緊急時に必要とされる情報提供が、サイレン、警報ベル、アナウンスなど総じて音や音声でなされるから、全聾者はリスクが高いのだ。
 目が見えなくなっても様々な訓練を受けてきた視覚障害者と、急にアイマスクをした晴眼者では雲泥の差があるのは当然だが、それに気付かない健常者は多い。
 「ひとりで出勤しないでほしい」という小さな親切は、余計なお世話であるばかりか、「やむを得ないから、休日出勤して仕事を片づけよう」という正当な判断や就業の自由を妨害している。「視覚障害者は火災や地震が起きたら危険」という根拠のない思い込みは、善意に基づいているので、それを覆すのは難しい。だが順序立てて説明すれば聞く耳を持っている人であれば、必ず理解は得られるはずである。(福山博)

視覚障害者の進路を多面的に考える
〜雇用連学習会より〜

 全国視覚障害者雇用促進連絡会(雇用連・伊藤慶昭会長)は、11月25日(日)東京都港区の東京都障害者福祉会館において視覚障害者の進路に関する講演会と学習会を行った。
 第1部では、坂尻正嗣筑波技術大学保健科学部情報システム学科教授が、「筑波技術大学学生の進路から見えてくる視覚障害者の事務的職業の可能性と課題」について講演した。
 同大情報システム学科は、定員が1学年10人で、システムエンジニアと事務職の養成を12人の教員で行っており、とても手厚い指導がなされている。
 就職活動に向けては、大学3年の前期に企業でインターンシップを行い、後期に就職活動に備え、履歴書・自己PR文書の作製を担当教員が学生にマンツーマンで指導したり、企業で人事担当をした人を招いて模擬面接も行っている。
 4年生に向けては、同大学で20数社が集まる企業説明会を開催。そこで、学生がどのようにパソコンを操作し、機材を使用しているのか実際に見てもらっている。
 就職は、システムエンジニアと事務系職種がおおむね半々で、昨年は企業での就職を希望した7人全員が就職できた。これは昨年に限ったことではなく、数年来就職できない学生を出していないと坂尻教授は胸を張った。
 ただし、弱視の学生は放っておいても早々と内定するが、全盲の学生は100社以上にエントリーしても決まらず、教員が手分けして面接先を見つけ出し、卒業間近になってぎりぎりで就職にこぎ着けるのが現状だという。
 就職後の定着支援では、ジョブコーチに入ってもらい、適切な支援・配慮等について助言してもらっている。これがとても有効なので、ジョブコーチのいっそうの拡大を希望していると述べていた。
 公務員試験対策では、同大と日本盲人職能開発センターと連携し、公務員希望者には試験対策講座を開き、卒業生も含め数人の合格者も出ており、全盲学生の就職先として今後広がるのではないかと期待していた。
 第2部の学習会では、高等部普通科と理療科の進路について話し合われた。
 臼井氏(都立七生特別支援学校)は、近年高等部普通科から理療科へ進学する生徒が減少し、大学進学と就職や福祉就労するケースが増えていると現状を分析した。
 課題は、大学へは進学したものの卒業時に就職先がみつからないことである。これは大学側に視覚障害学生の就職についてのノウハウが乏しいことと、全盲学生に対する企業側の理解がないこと、福祉就労支援施設が圧倒的に足りないことなどが原因であると指摘した。
 盲学校の教諭は3年、長くても6年で移動してしまうので、専門性を担保できづらい状況にあるが、そういう中でいかにモチベーションを持って教諭全員、親も含めて、児童・生徒の卒業後の進路を考えるのが大切だと語った。
 安田英俊氏(都立久我山青光学園)は、特別支援学校を志願する教諭が増えているが、いざ盲学校に配属されると、受け持つ児童・生徒がたった一人でがっかりしてしまう例も少なくない。そうした教諭を動機付けることが今後の課題だと言う。
 理療に関しては、ヘルスキーパーの雇用が、以前は正規雇用の場合もあったが、近年では3か月、6か月といった非常に短期の契約雇用が増えていると安田氏は問題提起した。
 また、機能訓練指導員に鍼・灸師が加わったことにより、利用者の送迎等の多面的な仕事ができない視覚障害機能訓練指導員が、今後雇われにくくなるのではないかと述べた。
 明るい展望では、訪問マッサージで、保険点数の増額、訪問の際の往療料が増額されたこと、現在あはき施術所の広告検討会で、価格の表示、治療院の名称、免許保持者であることなどの表示が改定に向っていると話した。
 多岐にわたる学習会は、予定時刻を30分超過して終了した。(戸塚辰永)

編集ログ

 11月23・24の両日、日本ライトハウス主催「ヘレン・ケラー女史没後50年を偲んで ヘレン・ケラーと岩橋武夫」が、1955年に同女史が講演したことでも知られる大阪市中央公会堂において、延べ1200人の来場者を集めて開催された。国指定の重要文化財でもある同公会堂は大正時代のネオ・ ルネッサンス様式の歴史的建築物として有名で、奇しくも11月17日に開館100周年を迎えたばかりだった。
 この2日間は、過去に製作・公開されたヘレン・ケラー女史の生涯を綴った写真パネルと映像資料の公開、それに朗読劇「Helen 〜 ともしびをかかげて」の上演が行われた。
 2日目の24日(土)13〜17時には、記念式典が行われ11名のゲストによる5分間メッセージに続き、岩橋武夫賞の発表が行われ、その後、元厚生労働事務次官の村木厚子氏による「女史来訪の意味」と題した講演と、シンポジウムが開催された。
 今年度の岩橋武夫賞は、1993年から実施している「アジア盲人図書館協力事業」や2004年から実施している「池田輝子ICT奨学金事業」による国際協力が高く評価され、日本点字図書館の田中徹二理事長に贈られた。
 受賞スピーチに立った田中理事長は、「私が国際協力の第一歩を記したのは1985年に東京ヘレン・ケラー協会が組織した第1次ネパール盲人福祉調査団に参加したことだった。当時のネパールの教科書は点字タイプライターにより手作りしたもので、それを生徒が回し読みするのでボロボロだった。それでは教育にならないので、『点字出版所を設立して点字教科書を出版すること』を提言した。そしてその後、東京ヘレン・ケラー協会の支援でネパール盲人福祉協会(NAWB)に立派な点字出版所ができて、点字教科書を無償で供給する体制ができた。これにより、ネパールの視覚障害者教育は飛躍的に発展し、現在は、視覚障害教師が400人を数えるまでに成長した」と感慨深く語った。(福山博)

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