THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2018年4月号

第49巻4号(通巻第575号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:馬塲敬二
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:習近平の時代錯誤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
「ヘレンケラー・サリバン賞」候補者推薦のお願い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(訃報)木塚泰弘先生の死を悼む ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
(特別寄稿)どうなる同行援護 ― 制度施行7年の検証 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
「文月会」有志が同窓会(続報) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
(新連載)しげじい、チョーさんの台湾旅行 (1)台北そして嘉義へ ・・・・・・・・・
32
(新連載)盲教育140年 (1)明治期以前の盲教育 その1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
自分が変わること (106)親からの距離、人からの距離 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
リレーエッセイ:ミャンマーの視覚障害者(上) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50
アフターセブン(37)1分間スピーチ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (188)貴ノ岩だけではない過去の番付特例措置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:ES細胞の網膜移植で光に反応、触ってわかるエアコンスイッチを試作、
  臓器移植用のブタ作製、てんかんの原因発見 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:写真教室、アキレスふれあいマラソン2018、
  「空の会」朗読公演、社会貢献者表彰募集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
習近平の時代錯誤

 昨年(2017)10月の中国共産党第19回党大会で、習近平国家主席が後継者を指名しなかったので、もしかして習氏は2期目の任期が終わる2023年以降も、国家主席を続けるつもりではないかとの憶測が流れた。しかし、国家主席の任期は憲法で二期10年までとなっているので、そのためには2018年、つまり今年の3月に行われる全国人民代表大会で憲法を改正して任期を撤廃する必要があった。
 毛沢東時代には国家主席に任期はなかった。そのために大躍進政策では約5,000万人が餓死したともいわれる。このような独裁者による悲劇をなくすために、導入されたのが国家主席の任期である。どのように権力が個人に集中しても任期が定められていたら独裁者になり得ないからだ。したがって国家主席の任期撤廃はただ事ではない。しかも中華人民共和国憲法の前文には「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」が明記されたが、これなども笑止千万、まさに時代錯誤というべきである。
 あえて書くが、この蛮行には既視感がある。絶対王制から緩やかに議会制民主主義を目指していた兄王に批判的であった弟が、兄王一家を2001年6月1日に虐殺して、自分が同6月4日王位に即いて絶対王制を目指したネパール王国の悲喜劇がそれだ。国民の大反発を受けて、すったもんだの末、2008年5月28日にネパールは共和制へ移行した。それに伴って廃位となり、王制そのものがなくなって彼の国はハッピーエンドとなった。
 習氏が毛沢東流の独裁者になれば、中国人民は果たして彼について行くだろうか。鎖国に近かった毛沢東時代と違い、自由に世界中に飛び回れる時代である。
 西欧では、中国が資本主義への転換で市場経済へと進めば、必然的に法治国家となり、民主主義を受け入れると考えていた。習氏はそんな幻想を葬り去ったわけだから、グローバル社会でのそのツケは決して小さくないだろう。(福山)

(特別寄稿)どうなる同行援護
―― 制度施行7年の検証 ――

特定非営利活動法人TOMO事務局長/山口和彦

はじめに

 視覚障害者を目的地まで安全に誘導し、外出先での代筆・代読を業務とした同行援護制度が施行されたのが平成23年10月である。
 この制度が創設されたときに、従業者(以下、ガイドヘルパーという)として働く要件として、同行援護従業者養成研修一般課程修了者であることが必須となった。
 また、ガイドヘルパーを派遣する事業所には、「サービス提供責任者を利用者数、あるいは利用時間に合わせて適正に配置しなければならない」と規定された。サービス提供責任者の要件として、同行援護従業者養成研修応用課程修了者等であることが明記された。
 ところが、制度発足後、ガイドヘルパーの養成が進まず、厚労省は平成26年9月末までは、同行援護制度施行前に各自治体が行ってきた移動支援などに関する研修修了者を同行援護研修課程を修了したものとみなす経過措置を設けた。しかし、それでもガイドヘルパー不足は解消されず、当該経過措置は平成30年3月末まで延長された。
 現在、全国で視覚障害者は約32万人といわれ、その多くが人生中途で視覚に障害を受けた高齢者だ。文字の読み書きの不便さに加えて、外出が思うようにいかないストレスは想像を絶する。
 この不便さの解決への糸口にと施行された同行援護制度、この4月からの改訂にあたり視覚障害者に十分活用しやすくなったか検証してみたい。


これまでの推移

 同行援護の推移を厚労省の統計で見てみよう。各年度における1カ月の利用者数の平均は、平成24年度が1万7,738人、平成25年度が2万537人、平成26年度が2万1,941人、平成27年度が2万3,124人、平成28年度が2万4,256人と微増しているが、まだ身障手帳保持者の一割にも達していない。
 同行援護の総費用額は、平成24年度は99億900万円、平成25年度は117億7,000万円、平成26年度は128億9,400万円、平成27年度は148億7,500万円、平成28年度は161億3,000万円と年ごとに増加している。
 このように、同行援護の平成28年度費用額は約161億円であり、介護給付・訓練等給付費総額の約0.7%にしかならない。
 視覚障害者の外出支援という日常生活のなかでの基本用件であるにも拘わらず脆弱な支援基盤であると言わざるを得ないだろう。

事業所の不足

 一方、ガイドヘルパーを養成し派遣する各月の事業所数の平均は、平成24年度は4,562カ所、平成25年度は5,322カ所、平成26年度は5,653カ所、平成27年度は5,901カ所、平成28年度は6,163カ所となっている。
 事業所の所在地の分布はわからないが、都市部に偏在しているものと推測される。
 というのは地方では、人口減少によりガイドヘルパーの養成も難しく、事業所も採算が見込めない同行援護事業の導入は消極的だと聞くからだ。

今後の課題

 まず第1に、利用者の居住する地域自治体の障害福祉課の窓口、ケア・マネージャー、社会福祉協議会などが同行援護の意義を十分理解していないという面がある。
 とくに、利用者が65才になると、介護保険優先ということで、これまで使っていた障害福祉サービスが使いずらくなってしまう。
 多くのケア・マネージャーが視覚障害に伴う日常生活の不便さを十分に理解せずにケア・プランを立ててしまうことで、外出時間の制約などが出てくる。簡単に言えば、「不必要な外出」は認められなくなるのだ。ところで外出するにあたって、「必要、不必要」の区分はあるのだろうか?
 また、居住する地域によって財政的基盤が異なることから利用時間が大幅に違ってくる。
 例えば、東京都内23区地域と多摩地区など23区以外の視覚障害者に対する同行援護の支給時間数は大幅な違いが見られる。この課題を解消するためには、視覚障害をよく理解した相談支援専門員などと話し合い少しでも日常生活の質(QOL)を高めることが必要である。
 第2に、ガイドヘルパーの不足が挙げられる。現在、ガイドヘルパーは全国で約8万6,000人といわれるが利用者がこの同行援護制度を利用したくても肝心のガイドヘルパーの数が絶対的に不足している。
 しかもガイドヘルパーは主に主婦が多く、昼間の空いた時間帯にガイドを引き受けるという、同行援護の業務は、いわば「すきま産業」の仕事なのだ。従って、土曜日・日曜日、祭日、早朝、夜間などの外出の依頼があっても、この時間帯に合ったガイドヘルパーを見つけるのが極めて難しく、実際には外出ができないということになる。
 また、このガイドヘルパーの仕事は、利用者からの不定期な要望に応えて成立するという性質上、ガイドヘルパーとして安定した収入が見込めない。このため基本的にガイドヘルパーだけの報酬で生計を立てるのは難しいのである。
 こうした背景から、最近では定年退職した人がガイドヘルパーの資格を取得するという傾向があり、ガイドヘルパーの年齢が60才、70才を越える人が多くなってきている。このガイドヘルパーの高齢化現象に合わせて、利用者の安全確保、読み書きサービスの充実を図るために、現認者研修が欠かせないものになってきた。
 第3に事業所の不足が挙げられる。地方においては、まだ事業所がないというところも珍しくない。利用者の居住する近隣地域に事業所がなく、ガイドヘルパーを利用しようと思っても実際に利用できないという現実がある。
 同行援護を利用するにあたって、移動手段として公共交通機関を利用することになっており、ガイドヘルパーの自家用車での移動は基本的には認められていない。交通機関が充実している都市部ではよいが、地方の車社会で生活している人達に、もっと使いやすい方法を考える必要があるのではないだろうか。

見直しと改善策

 同行援護制度の施行により、国の福祉サービスになったことで、地域格差が是正されるということだったが、現実には市町村によって、支給内容、時間数などがかなり異なっている。この4月からガイドヘルパーに対する報酬が0.47%引き上げられる計画だが、この程度の改善で、はたしてガイドヘルパーが増えるのか疑問である。むしろ、サービス提供責任者の人件費、事務所経費の上昇などで事業所運営が困難になってきているところもある。都市部においても、事業所を開いてみたものの、運営上やって行けず、事業を閉鎖せざるを得ない事業所も出てきている。
 これは主に、同行援護の実施に当たって、新たなサービス提供責任者の配置が必要になり、その人件費などの工面がうまく行かないというのが理由のひとつだと推測する。
 指定基準では、利用者50人に対して一人の常勤のサービス提供責任者を配置しなければならない。事業所には、最低2名のサービス提供責任者が必要で、その確保が難しいことがある。この事業所の運営の一助に、ガイドヘルパーの報酬改定が計画されている。
 ガイドヘルパーの報酬には、「身体介護なし」と、「身体介護あり」の2つの区分がある。一例を挙げると、国から事業所に支払われる報酬は以下のようになる。
 身体介護を伴わない場合:1時間以上1時間30分未満は2,780円。
 身体介護を伴う場合:1時間以上1時間30分未満は5,890円。
 なお、視覚障害者の場合、多くの人が「身体介護なし」と判定されている。
 上記1時間30分の外出支援を考えると、国からの報酬額が2,780円、ガイドヘルパーへの支払額(事業所により異なるが、平均時給1,000円から1,300円)、私たちが運営するTOMOの場合時給1,200円であるから、1時間30分で1,800円。事業所に残るのが980円で、これで事業所経費を賄うのは大変なことなのである。
 そこで、厚労省は同行援護の報酬体系の見直しとして同行援護は、外出する際に必要な援助を行うことが基本であることから、身体介護を「伴う場合」と「伴わない場合」の対象や支援内容を分けることなく、報酬を一本化する方向だ。
 また盲ろう者等の情報提供が困難な者や、特に身体介護が困難な者等への支援については、加算により評価するという。
 このように、同行援護制度は、まだまだ問題が内在しているが、利用者と実際に同行するガイドヘルパー、及びサービスを提供する事業所の関係が円滑に動いてこそ実質的な効果が上がるものだ。超高齢化社会のなかで、視覚障害の利用者や関係者がこの制度の趣旨を理解し、時間をかけて大切に育てあげてゆくことを期待したい。

編集ログ

 本号の「リレーエッセイ」は、IAVI留学生テイン・チョウ・リンさんの「ミャンマーの視覚障害者」ですが、内容豊富であったため、ダイジェストすると意味が不明瞭になるため逆に背景説明を加えて2回分とし、来月号に続きます。彼が1月19日に当出版所の見学時に話した身の上話が面白かったので、「その話英語でいいから書いてくれない」と言ったところ、「日本語で書きますよ」と言ってくれて、今回の掲載になりました。これから附属盲の鍼灸手技療法科に入学するというのに大したものです。
 これを機会に、ミャンマーの視覚障害者事情にご興味を持たれた方は、国際視覚障害者援護協会(IAVI)から冊子『白い杖の留学生 ―― ミャンマー編』が発行されていますので、送料のみ(テキスト版CD・120円、墨字版1冊140円)の負担でお取り寄せできます。ご希望の方は〒174-0052東京都板橋区蓮沼町20-18(電話03-5392-4002)IAVIへご連絡ください。
 国立特殊教育総合研究所(現・国立特別支援教育総合研究所)にお勤めの時代、木塚泰弘先生には、長い間『点字ジャーナル』の編集委員を務めていただきました。先生は付和雷同の対極にあるような方で、いつも独特の視点から他の委員が思いもつかないことを訥々と述べられていました。二昔以上も前は、パワハラ上司に手を焼いているところを何度も庇っていただいたことがありました。また、高田馬場にある「餃子荘ムロ」でよく一緒になり、定宿のビジネスホテルまで送っていったものでした。先生のご冥福をお祈り致します。
 重田雅敏さんによる新連載「しげじい、チョーさんの台湾旅行」は全7回で、次回から6回目までが5ページ、最終回は4ページで完結の予定です。誰もが台湾に行きたくなるような楽しい連載なのでご期待ください。(福山)

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