THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2018年2月号

第49巻2号(通巻第573号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:馬塲敬二
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:カヌーのドーピング問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(特別寄稿)点字ユーザーの触読感覚を大切に ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(インタビュー)パラリンピックだけじゃない! 
  日本発祥の視覚障害者スポーツを楽しもう ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
(特別寄稿)「映画『瞽女』」の制作準備が進む ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
21
(投稿)「今が旬」盲目のピアニスト辻井伸行氏のコンサート ・・・・・・・・・・・・・・・・
26
20歳の春、忘れられない3週間 in コスタリカ 
  (最終回)「途上国」ということ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
近代盲人福祉史 (13)身体障害者福祉法制定推進委員会の
  設置と身障者福祉法制定への加速 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
自分が変わること (104)自己嫌悪からの解放 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
リレーエッセイ:21世紀のあるべき点字図書館を目指して ・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
アフターセブン(35)バレンタインデーに賭ける女性の皆様へ ・・・・・・・・・・・・・・・
50
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (186)前代未聞の1場所“16日間興行” ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
54
95%にもチャンスを (23)引き渡し式直前まで想定外 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
58
時代の風:GPS活用し音声で歩行誘導、障害認定基準を変更、
  体内時計が肝臓病に影響、振動波で乳がん診断、
  カフェインでパーキンソン病診断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
伝言板:川柳コンクール、なごや会セミナー、IT講習会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
カヌーのドーピング問題

 昨年の日本カヌースプリント選手権大会で、ライバル選手の飲み物に禁止薬物を混入させた事件が本年早々明らかになった。同大会で1位となった小松正治選手(25)が競技後のドーピング検査で陽性反応を示して失格となり、暫定的な資格停止処分を受けていたが、禁止薬物を混入した犯人が、良心の呵責に耐えきれず名乗り出たために発覚したものである。
 日本のアスリートはドーピングに関してクリーンだと世界的にも評価されており、それに甘んじて、日本のスポーツ界は、第三者による禁止薬物混入にも本格的な対策をとってこなかったことが、今回の事件の背景にある。
 ドーピングは誤って禁止薬物を飲んでも処罰の対象で、第三者に薬物を混入された場合でさえ、潔白を立証する責任はアスリート側に課される。つまり「疑わしきは罰せず」が刑事裁判の原則だが、「疑わしきは罰する」がドーピングの世界の原則なのだ。したがって、犯人が名乗り出なかったら、小松選手の選手生命は絶たれていたかも知れない。
 アスリートの性善説を信じてこれまで対策をとってこなかった日本のスポーツ競技団体は、今後、競技会に「ドリンク保管所」を設置したり、スポーツファーマシストによる「医薬品相談窓口」を設置するなど抜本的な対策を講じる必要があるだろう。
 日本人アスリートであっても海外では身に覚えのないドーピング違反に問われないため、日常の生活から常に高度な注意義務が求められてきた。警戒すべき相手はライバル選手だけでなく、その支援者や関係者、ファン、自分のアンチファンまで含まれる。
 自分のドリンクボトルから目を離さない、自分が見ていない場所で開封された飲食物は口にしない。ファンからのプレゼントだって食べ物や飲み物は自分では受け取らないなどは海外では常識だが、日本でも常識とすべきである。
 世界は性悪説を原則としており、日本人の性善説信仰は、多くの場合日本人の弱点に繋がることを自覚したいものである。(福山)

(特別寄稿)点字ユーザーの触読感覚を大切に

日本点字図書館理事長/田中徹二

 『点字ジャーナル』昨年の11月号で、「点字は誰のものか?」と題した座談会がありました。私も福山編集長に誘われて参加しました。
 この企画は、日本点字委員会(日点委・木塚泰弘会長)が、2018年度中に『日本点字表記法』改訂版の発行を目指していることから企画されました。そして2017年11月1日には、現時点の改訂版(案)が公表されました。現在の表記法のうち、2〜5章の主な変更点です。
 2018年2月末を締切として、一般から広く意見を求めようとしています。その露払いとして、同誌が問題提起しようと企画したようです。ただ、日点委の改訂案が提示される前でしたので、細かな指摘はできていなかったと記憶しています。
 同座談会に対しては、後日様々な反響があったと福山さんから聞きました。なかには「木塚会長に対して無礼すぎる。功労者にはもっと敬意を払うべきだ」というお叱りの電話もあったそうです。しかし、読者からはおおむね共感と賛同を持って迎えられたようだとも聞きました。
 本誌11月号が発行された直後に、日点委のホームページに『日本点字表記法』改訂版(案)がアップされました。
 その中で、最も注目されるのは、用例として、「くるま□いす」と「くるまいす」の双方が提示されていることです。前述の座談会の中では、車椅子のマスあけに関して、ひとまず「両案併記でいい」、「多様性があってこそ文化」という声と、「当事者としてひと続きでないとおかしい」という声がありました。ここ数年の日点委総会で、目立つ意見として、毎回のように、この「車椅子」は取りあげられています。おおむね視覚障害者の意見は、マスあけするのはおかしいというものです。
 それならば、なぜ、これまでの表記法では、「くるま□いす」と区切っていたのでしょうか? 全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)の『点訳のてびき』、特に『点訳のてびきQ&A』では、たとえ5拍以下の言葉であっても、漢字2字の漢語と和語との組み合わせでは、マスあけをすると規定されています。「くるま」は和語ですが、「いす」は、漢語なので、マスあけするということです。この考え方が、これまでの表記法にも反映されていました。表記法のルールは、すべての点字ルールに優先するものですから、まさか全視情協の規定を取り入れたとは考えられません。当時の表記法編集委員がこうしたルールを考え出したものと思われます。
 しかし、日点委総会やそのほかの議論の中で、特に視覚障害者からマスあけするのは気持ちが悪いという声が多いのは前述した通りです。5拍以下の短い言葉を、漢語と和語でなぜ切らなければならないのかという疑問です。しかも、漢語がどれで、和語がどれかといった分け方は、視覚障害者にはまったくわかりません。まわりの点訳ボランティアに聞いても、辞書を引かないと答えられない人がほとんどだというのです。しかも辞書の中で、漢語と和語が明示されているのは、新潮国語辞典だけです。点訳者はみんな同辞典を買って、調べなければなりません。あまりにもバカバカしいルールだと言えます。しかも点字を読む視覚障害者には評判がよくありません。
 そこで私は、福山編集長に、日点委の総会などで声高に続けるべきだと主張する視覚障害者だけでなく、もっと広い範囲の点字読者にアンケートしてみないかと提案しました。
 まず、改訂版(案)では、どのように両案併記されているか見てみましょう。
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 改訂版(案)の第3章2節3「複合名詞の構成要素の意味のまとまりと切れ続き」
 (1) 複合名詞の構成要素のうち、3拍以上の独立性の強い意味のまとまりが二つ以上あればその境目で区切って書き表し(例1)、2拍以下の意味のまとまりは3拍以上の意味のまとまりの前か後ろに続けて書き表すことを原則とする(例2)。
 [例1]
 サクラ□ナミキ(桜並木) マツタケ□ゴハン(松茸ご飯) ハナヨメ□スガタ(花嫁姿) コハバ□ネサゲ(小幅値下げ) (以下、略)

 [例2]
 マツナミキ(松並木) セミシグレ(蝉時雨)ナツヤスミ(夏休み) カミシバイ(紙芝居) ヒナマツリ(雛祭り) カテイごみ(家庭ごみ) クルマイス(車椅子) (以下、略)

 (2) 複合名詞の構成要素のうち、2拍以下の独立性の強い意味のまとまりは、意味の理解を助ける場合には後ろまたは前の独立性の強い意味のまとまりとの間を区切って書き表してもよい。(ただし、2拍以下の名詞の中には、複合語全体の中で、独立性の強い意味のまとまりとして役割を果たしているのか、独立性の弱い要素などなのかの解釈には幅が見られる例もある。例:「意気、椅子、義理、味噌、柚子、胡麻」など)

 例
 ボシ□ネンキン(母子年金) トシ□コッカ(都市国家) ジコ□ホーコクショ(事故報告書)
 シカ□イシ(歯科医師)・・・ クルマ□イス(車椅子) (以下、略)
    ------------------------------------------------------------
 このように、2拍以下の意味のまとまりは3拍以上の意味のまとまりの前か後ろに続けて書き表すので、クルマイス(車椅子)はマスあけしないとしています。一方、2拍以下の独立性の強い意味のまとまりは、意味の理解を助ける場合には後ろまたは前の独立性の強い意味のまとまりとの間を区切って書き表してもよいので、クルマ□イス(車椅子)とマスあけしてよいと例示されています。しかし、表記法には、『点訳のてびき』のように、漢語と和語の組み合わせという説明は一切ありません。「独立性が強い、弱い」という説明だけです。また、2字漢字の語で、どの語が独立性が強く、どの語が弱いのかという説明もまったくありません。
このように、マスあけするものと、しないものが両案併記されるのは、表記法では初めてのことです。
 もちろん、「くるまいす」のように、漢字2字の漢語と和語の組み合わせはそのほかにたくさんあります。以下に、そのうちのごくわずかの例を示しますが、点字触読者は、これらの語をマスあけした方がよいか、しない方がよいか、どう考えているのかを知りたいと思いました。そこで、『点字ジャーナル』編集部にお願いして、点字触読者にアンケートしてもらいました。語例は以下の通りです。
 てまえみそ、とそきぶん、とちなまり、ごまあぶら、ごろあわせ、ぎりしらず、さぎまがい、かじさわぎ、じきはずれ、しょきあたり
これらの語について、(a) 続けた方がいいか、(b) マスあけした方がいいか、(c) どちらでもいいか、の3点について聞いてもらいました。その結果を以下にあげます。ただ、はっきり数えたわけではありませんが、国語辞典には5拍以下で、漢語と和語の組み合わせは3・400語あると思います。私としては、もう少し多い語でアンケートしてほしかったのですが、編集部の手数を考えると無理は言えませんでした。それでも72人の点字触読者に当たってくれています。
  (1)てまえみそ:(a)57、(b)14、(c)1
  (2)とそきぶん:(a)28、(b)36、(c)8
  (3)とちなまり:(a)47、(b)22、(c)3
  (4)ごまあぶら:(a)60、(b)8、(c)4
  (5)ごろあわせ:(a)60、(b)7、(c)5
  (6)ぎりしらず:(a)38、(b)27、(c)7
  (7)さぎまがい:(a)52、(b)15、(c)5
  (8)かじさわぎ:(a)42、(b)24、(c)6
  (9)じきはずれ:(a)41、(b)24、(c)7
  (10)しょきあたり:(a)58、(b)11、(c)1
 これらの回答を平均してみると、(a)67.3%、(b)26.2%、(c)6.5%となりました。点字触読者のうち3分の2が、5拍以下の短い語はマスあけしない方がいいということになります。表記法の「5拍以下の短かい語は、続けることを原則とする」という規定に賛成しているわけです。
 ただ、「とそきぶん」だけは、マスあけする方が、しないを上回っています。回答者のコメントによると、「とそきぶん」とはあまり言わない。「おとそ□きぶん」が普通の言い方ではないかということでした。しかし、「おとそ□きぶん」は、3拍、3拍の語ですから、マスあけするのは当然です。「とそきぶん」という5拍の語として聞いたのですから、回答者の誤解があったのではないかと思われます。
 ただ、続ける派が3分の2、マスあけする派が4分の1、どちらでもいい派が1割より少ないので、「くるまいす」は続けるという主張が圧倒的というわけではありません。それでも多数決で決めるなら、「くるまいす」は続けることになります。一方、マスあけする派とどちらでもいい派を加えると、3分の1になります。3分の1もあるなら、無視することはできないという意見もうなずけます。
 回答者の中には、点訳ボランティアの指導をしている人もいたそうです。その人たちに言わせると、『点訳のてびき』をテキストにして、長年、5拍以下の語であっても、漢語と和語の組み合わせはマスあけすると指導してきたわけです。今さら変節することはできないと主張したと言います。 その考えがわからないわけではありませんが、もし今の表記法案が、6月の日点委総会で承認されると、例示したような語は、続けても、マスあけしてもいいことになります。当然表記法は『点訳のてびき』より上位のものですので、『点訳のてびき』の決まりが絶対的なものではなくなります。一つの考え方にすぎなくなるのです。発想の転換があってもいいのではないでしょうか。
 表記法の編集委員は、この結果をどう判断するのでしょうか? もし表記法原案のように、「くるまいす」と「くるま□いす」の両者を併記するなら、表記法には、その理由を明記すべきだと、私は考えます。

編集ログ

 財布、スマホ、定期券などを入れる小さなバッグに私はダイヤル式の鍵を1個、デイパックには3個付けています。するとたまに、「どんな大事なものが入っているのですか?」とからかい半分で聞かれることがあります。それに対する返事は、「海外に出かけるとき、これらは必ず持参するものなので、日頃からトレーニングしているんです」と答えると、誰もが納得したような顔になります。
 「日本ではズボンの後ろポケットから財布をはみ出させて歩いている」とか、「深夜の電車の中で爆睡している」とか、日本人の不用心さは海外では有名で、近隣諸国から出稼ぎスリ団を呼び寄せる一因にもなっています。
 世界に冠たる治安の良さは誇っていいものですが、だからといっていつまでも単純化した性善説による不用心でいいものではありません。
 「巻頭コラム」で取り上げた「禁止薬物混入問題」は、スポーツ界の一部に「日本カヌー連盟の不祥事」として矮小化するふしも見られるので少し心配しています。
 日本国内でも、世界を目指すアスリートは世界レベルの警戒心を持って、飲食物の管理に注意を払わないと、国内では無防備で、海外だけで厳重警戒なんて実際にできるのでしょうか? あるいは可能であったとしても妙なストレスにならないのでしょうか?
 私は海外で複数回、開かないダイヤル式ロック付スーツケースを頼まれて解錠したことがあります。自分のものであっても、普段使わないものは、勘違いしたり、ど忘れしたりするものなのです。いざ、使う段になって開かないスーツケースを前に人は動揺を隠せないで、壊してでも開けて欲しいと願うものです。
 ところでデイパックに3個も鍵をつけていると、解錠のときに落としたり、壊したり、いろいろ問題が出てきます。その最たるものは、必要なときに素速く解錠できないことです。でも、慣れるとどんなレアケースの不都合でも慌てなくなるのは訓練の賜物でしょうか。(福山)

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