THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2017年10月号

第48巻10号(通巻第569号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:馬塲敬二
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:攻撃には強いが、守勢に弱い、法曹資格を持つ女性政治家 ・・・・・
3
一歩の会の創立者・理事長岩野英夫さんにサリバン賞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
読書人のおしゃべり:見えなくても戦国 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
スモールトーク:ソウルから撤退する米軍 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
鳥の目、虫の目:甲子園と軍国主義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
23
20歳の春、忘れられない3週間 in コスタリカ (2)吠え猿の森 ・・・・・・・・・・・・・・
28
近代盲人福祉史 (9)光明寮の設置と失明者対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
ジャガイモ日記 (10)アフリカへ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
自分が変わること (100)男と女の間には その2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
リレーエッセイ:社会の不条理を通して考える今後の人生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
アフターセブン(31)育てて触るおいしい食材 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (182)前代未聞!?東西を間違える珍事で不戦敗 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
95%にもチャンスを (19)みなさんのご協力でアルファベットを ・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:USENナビゲーション開始、採血でアルツハイマー診断、
  体内時計解明で流産予防、パーキンソン病の症状改善 ・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:劇団民藝公演、附属盲音楽科定期演奏会、
  徹底分析駅ホーム、声楽コンサート ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
攻撃には強いが、守勢に弱い、法曹資格を持つ女性政治家

 民進党のジャンヌ・ダルクこと山尾志桜里衆議院議員(43歳)は、9月7日発売の『週刊文春』で不倫疑惑が報じられたことを受けて離党届けを出した。本人は当初、議員辞職の意向を漏らしていたが、執行部が10月22日投票の衆院補選が3から4選挙区に増えることを懸念して説得したといわれる。ということは、その後に議員辞職か? 山尾は議員であるかぎり、針のむしろのはずであるからだ。
 というのは、自民党の宮崎謙介元衆院議員は、「国会議員が先例となって率先して育児に参加したい」を掲げながら妻である金子恵美衆院議員の出産入院中に不倫して、2016年2月16日に議員を辞職している。その直前に放送されたTBSテレビ「あさチャン!サタデー」に出演した山尾は、ブーメランのように1年半後にその声が自分に帰ってくるとも知らずに、彼を舌鋒鋭く切り捨てている。かくして彼女は宮崎の二の舞を見事に演じきったのである。
 山尾は2016年2月19日の衆議院予算委員会で「保育園落ちた 日本死ね」と題した匿名ブログを取り上げ一躍話題の人となる。その余勢をかって育児に殊の外造詣が深い議員としてイクメン議員連盟の呼びかけ人にもなっている。
 山尾はこれまでも他人の失敗や不正を糾弾するときは鋭いが、自身に矛先が向くと、とたんに脆弱さを露見させた。年間230万円分のガソリン代計上などの政治資金問題が表面化した際は8カ月以上も詳細な説明を避け続け、今回の不倫疑惑をめぐっても報道陣から逃げ回っている。
 攻撃は強いが、守勢に回るとメロメロになるという意味では、答弁に詰まったり、べそをかいたりした稲田朋美元防衛大臣とよく似ている。稲田は2005年、自民党の安倍晋三幹事長代理にスカウトされ、山尾は2009年民主党(現・民進党)の小沢一郎代表にスカウトされた、ともに法曹資格を持つ激しい性格の女性である。
 一部敬称略。(福山)

スモールトーク
ソウルから撤退する米軍

 もしも東京・銀座に広大な米軍基地があったなら、われわれ日本人はどのような気分がするだろうか? 韓国の龍山基地はソウル駅の南方1kmにあり、その面積は29万7,000 uで、これは銀座の3倍、皇居の2倍の広さである。
 しかし同基地は遠からず廃止され、在韓米軍の主力はソウルから南へ80km後退した京畿道平沢市<キョンギド・ピョンテクシ>の平沢基地(キャンプ・ハンフリーズ)に今年中に移転する。そのため7月11日、在韓米陸軍を指揮する米第8軍司令部が新庁舎の開館式を行った。朝鮮戦争休戦協定直後の1953年(昭和28年)8月にソウル龍山に駐留地を定めて以来、64年ぶりのことである。
 龍山(日本語読み「リュウザン」)基地は1904年(明治37年)、日露戦争の際に日本軍が土地を買い上げて兵営を築き、日本統治時代は大日本帝国陸軍の駐屯地として、朝鮮軍司令部などが置かれた。
 1945年(昭和20年)の終戦に伴う日本軍の撤退後、米第7師団が兵営を引き継いだが1949年(昭和24年)に米軍は一時撤収し、朝鮮戦争休戦後の1953年(昭和28年)、再び米軍が駐留し、現在の在韓米軍司令部にまで発展したのである。
 平沢基地も同様で、1919年(大正8年)に日本海軍が平沢<ヘイタク>(「ピョンテク」の日本語読み)飛行場を開設し、朝鮮戦争の時に大拡張されたのであった。
 2003年盧武鉉政権は、龍山基地移転を要求したので当時のラムズフェルド米国防長官がヘリコプターで視察して、「もしニューヨークのセントラルパークに外国の軍隊が駐留していたら、アメリカ人はどう思うだろうか」と言って移転を決断したという。ちなみに、同基地はセントラルパークよりほんの少し狭いだけである。
 新庁舎の開館により、盧武鉉政権時の2003年に一歩を踏み出した在韓米軍基地移転事業は最終段階に入った。開館式には、米第8軍のトーマス・バンダル司令官や徐柱錫国防次官など、両国関係者約300人が参加し、新庁舎などを取材陣に公開した。
 バンダル司令官は歓迎の挨拶で、「107億ドル(約1兆1,884億円)の工事費と米韓両国の献身と協力で、キャンプ・ハンフリーズが海外の米陸軍基地の中で最高施設と最大規模の基地に生まれ変わった」とし、「2020年に基地が完工すれば、在韓米軍の戦闘準備態勢と生活の質が大いに向上するだろう」と述べた。
 米第8軍司令部の平沢移転は、米韓合意で進行中の在韓米軍の移転・再配置事業の一部である。安定した駐留環境づくりを目的に韓国各地に散在する米軍基地を「平沢・烏山<オサン>中部圏」と「大邱<テグ>・倭館<ウェグァン>・金泉<キムチョン>南部圏」の2地域に統廃合する計画で、当初は2008年の完了を目標にしたが、予算問題などで大幅に遅れた。米韓両国は、現在も連合司令部の残留地の規模と関連費用について協議中で、米韓連合司令部指揮部は、2014年の米韓合意によって戦時作戦統制権の返還時までは龍山に残留することになる。
 米第8軍司令部の移転は、朝鮮戦争時に初代第8軍司令官を務めたウォルトン・ウォーカー将軍の銅像の移転(4月25日)で始まりこの夏に完了した。
 さらにソウル龍山の在韓米軍司令部が11月に移転するなど主要部隊が年末までに移転を終えた後、議政府<ウィジョンブ>や東豆川<トンドゥチョン>などにある米第2師団部隊も来年末までに平沢基地に移る予定だ。
 2020年に韓国35の米軍部隊と7つの訓練場、513棟の施設が龍山基地の約50倍の面積1,467万7,000uの土地に集まれば、海外米軍基地の中で最大規模になる。
 かくして在韓米軍は縮小されるが、朝鮮半島はもとより北東アジア全域に対する機動性が高まり、在韓米軍の作戦概念は劇的に変わるという。(福山)

鳥の目、虫の目
甲子園と軍国主義

 この夏、甲子園球場で開催された全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)は、第99回大会であった。つまり来年は100回ということで、主催者である朝日新聞社と日本高等学校野球連盟(高野連)はいやが上にも力が入ることであろう。
 その輝かしい節目に、夏の甲子園は軍国主義の残滓から脱却して、日本学生野球憲章の第2条第1項に謳われる「学生野球は、教育の一環であり、平和で民主的な人類社会の形成者として必要な資質を備えた人間の育成を目的とする」という本来の姿に立ち返るべきではないだろうか。
 甲子園球児の頭髪を見ると、まるで戦地に赴く兵隊のようだ。髪の毛には温度変化や物理的衝撃から脳を保護する役割もあるから極端に刈り込んだ頭髪は考えもので、教育的配慮が必要である。
 わが国は明治に入ってもしばらくはちょんまげ姿が一般的だったので、丸刈りが流行したのは日清戦争以降のことだ。そして役人や警官、大学生までが丸刈りを強制されたのは、昭和14年に生活刷新案が閣議決定され、ネオン全廃、男の長髪禁止、パーマネント禁止、日の丸弁当がもてはやされ、街には国民服やモンペ姿の男女が増加してからのことだ。
 その背景には日中戦争の拡大に伴って、国民に戦時意識を徹底させ戦争に協力させるために昭和12年9月から行った国民精神総動員運動がある。このように男性の丸刈りにはあきらかな軍国主義の強い影響がある。
 朝日新聞と高野連が共同で行った調査では、1998年には丸刈りの高校野球部は31%しかなかったが、2013年には79%に増えている。頭髪は身体の一部であり、しかも衣服と違って学校内外で変えることはできないので、頭髪をどうするかは憲法13条によって保障される自己決定権のひとつであり、高野連はこの際、丸刈りを強制する野球部則を禁止するべきではないだろうか。
 戦時中野球は、敵性スポーツとして禁止されそうになった歴史がある。そこで生き残りをかけて「敵性色一掃」の掛け声のもと、名称はもちろんルールや用語を根本的に改め、「ストライク」は「よし」に、「アウト」は「だめ」という審判用語の改正も昭和18年に行なわれた。そして戦争遂行に必要な「敢闘精神」につながる面のみが強調され、試合前のアトラクションでは「手榴弾遠投」が行なわれた。
 1944年2月23日付『毎日新聞』第一面には、本土決戦を決意した東條英機首相の「非常時宣言」発令の記事が掲載された。そこで首相は「全国民は一死報国、最後の一人まで竹槍を持って戦う覚悟を固めなくてはなりません」と述べている。その記事と並んで「勝利か滅亡か 戦局はここまで来た」「竹槍では間に合はぬ 飛行機だ、海洋航空機だ」のタイトルで南方における防衛線の窮状を解説して、海軍の航空力を増強すべきだとの記事が掲載された。この記事に激怒した東條首相は、記事を書いた当時37歳の記者を懲罰招集している。世に言う「竹槍事件」である。
 このように竹槍に象徴される精神論は、現在の高校野球にも残っており、監督に絶対服従を誓い、監督の指示通り動き、サインに忠実に従う精神論・根性論のシンボルが丸刈りで、炎天下の攻守交代時の全力疾走も、精神論と軌を一にする愚かな伝統だ。真剣に勝負に徹しているチームは、駆け足で充分と考えそのような無駄な動きはしない。しかし、新聞やテレビが「笑顔と全力疾走、貫いたまっすぐさ」などと美談扱いするので、勘違いが綿々と続いているのである。
 無駄な全力疾走以上にいたたまれないのは、投手の消耗戦である。1試合100球が目安となる現代の野球で、プロでも2ヵ月近くかけて650球を投げるのに、それを2週間で投げてしまう高校野球は異常である。
 世界野球ソフトボール連盟公認の野球の世界一決定戦である「ワールド・ベースボール・クラシック」では、厳格な球数制限が行われているが、高校野球もそれに習うべきである。
 日本人は自己犠牲(滅私奉公)のヒーローが大好きで、新聞なども「鉄腕エース 全5試合に先発して4試合で完投」などと美談仕立てにしたがる。しかし、「志願の連投」を止めるのが教育の役割で、成長期の肩や肘に何回も投球動作を強いるような大会が、はたして教育の一環といえるだろうか。
 高野連は今でこそ坊主を強制していないが、今でも戦前の軍隊のようなきちんと整列して、腕を大きく振り、足をしっかり揃えて行進させる開会式を行っている。
 国民体育大会の開会式もその昔は軍隊調で、足を揃えてナチス式の敬礼を行っていた。だが、国際的な批判を浴びて、現在はオリンピックほどくだけてはいないが、普通の歩き方である。インターハイにしろ、全国高校サッカー選手権大会の開会式にしろごくナチュラルな歩き方で、一糸乱れぬ軍隊調の行進などはしていない。時代錯誤の行進は、諸外国から指摘される前に100回記念大会から見直すべきではないだろうか。(福山)

編集ログ

 「自分が変わること」は、今号で100回となりました。藤原さんありがとうございました。今回のテーマは「肌色ストッキングをはいた女子がモテる」という形而上学的話題でした。「多くの男たちは本当に、そんなに、心からひかれているだろうか、ストッキングに」という藤原さんの結論に、老生は「ごもっとも」と納得するしかありませんでした。
 小誌は基本的に男女間の色恋沙汰に絡むスキャンダルを取り上げることはありません。今号で山尾代議士の問題を特別に取り上げたのは、彼女が幼児を子育て中の母親として、昨年不倫騒動を起こしたイクメン宮崎代議士を口を極めて追い詰めたからです。小誌は彼女の不倫をではなく、政治家としてあるまじき二枚舌を批判しているのです。
 物心ついたときからことあるごとに、「軍靴の音が聞こえる」という表現を見聞きしてきました。軍靴の音とは、「国家が大きな戦争に巻き込まれてゆく過程で聞こえてくる足音である」と教わったので、私は小学校高学年の頃は、「すわ戦争が始まる」とおびえ、身構えたものです。そして、中学に上がると「オオカミ少年」と同じと考え、長じてからは稚拙なレトリックであると見なすようになりました。一部の人々が、安保関連法を「戦争法案」と言い換えて、不安を煽るような手口と同じです。いくら鈍感な人間でも、50年間も多用されたら気付くというものです。また、詰襟学生服やセーラー服、ランドセルなどを軍国主義的と揶揄、あるいは糾弾することも「オオカミ少年」同様、核心から国民の目をそらすものでしかありません。
 そのように述べると、お前は何をもって危険な軍国主義と考えるのかと問われそうなので、今号で「甲子園と軍国主義」を取り上げました。九州の山の中の中学校で、入学前に強制的に丸刈りにされて、運動会では軍隊式の行進を練習させられ、精神論・根性論に辟易した恨みは50年たっても深いのです。(福山)

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