5月9日付『讀賣新聞』を開いて我が目を疑った。「朝日人権委『誤報』放置」のタイトルの下、丸々1面を使って朝日新聞の「報道と人権委員会」(人権委)を激烈に批判しているのだ。
事の起こりは、2012年3月15、16日付『朝日新聞』の朝刊記事で、読売巨人軍(巨人)が、プロ野球12球団で申し合わせた新人契約金の最高標準額を超える契約を6選手と結び、超過額は27億円と報じたことだ。巨人はこの記事で名誉を毀損されたとして、朝日新聞社に5,500万円の賠償などを求めた訴訟を起こした。
この裁判は2016年11月24日の最高裁決定で確定し、巨人が1997〜2004年度に6選手と最高標準額を大幅に上回る契約を結んだとする記事は「真実性の証明がある」。だが他球団が超過契約金を支払い、2007年に日本野球機構(NPB)から厳重注意を受けた問題を挙げて「同じ非難を受けても仕方ない」と論評した記事は、契約条件が異なるため「同じ処分を受ける可能性はなかった」として名誉毀損にあたり、朝日新聞社に330万円の賠償を命じた。
この判決を『朝日新聞』は「巨人が6選手と最高標準額を大幅に上回る契約金を支払う契約を結んでいた、とする記事の根幹部分は真実だと認められた」と報じたので、読売は「朝日新聞が必要な取材もせずに報じた記事により、巨人の名誉が毀損された」と認定した判決が最高裁で確定した。巨人は、記事を真実と誤って認定した朝日新聞の人権委に、見解の見直しを求めたが、門前払いしたので文頭の仰天記事となったものだ。
そもそもの記事が元巨人球団代表で解任された清武英利氏を情報源にしたものであったため、巨人としてもなかなか振り上げた拳を降ろしづらかったのだろう。
しかしながら朝日の記者がNPBを取材しておれば、少なくとも賠償を命じられることはなかったはずで、他山の石としたいものである。(福山)
4月22日(土)午後、東京・高田馬場の新宿NPO協働推進センターで日本点字普及協会(藤野克己理事長)の2017年度通常総会が開催され、2016年度事業・決算報告および2017年度事業計画・予算が原案通り可決された。
総会後には研修会として、国際視覚障害者援護協会(石渡博明理事長)の協力を得て、「留学生が語る、各国の点字事情」と題した公開講座が行われた。司会は点字普及協会の伊藤聡子理事で、参加者はベトナムのグエン・ティ・スイェン(筑波技術大大学院修士課程2年、35歳、女性)、キルギスのヌルディノワ・アクモール(附属盲学校3年、28歳、女性)、ミャンマーのトゥ・コーコー(平塚盲学校1年、26歳、男性)の3氏で、自分の体験を交えてそれぞれの国の教育事情・点字事情を紹介した。また、途中フロアーからラジェシュ・チャパガイン氏(筑波技術大大学院修士課程1年、26歳、男性)も参加してネパールの点字事情を説明した。
興味深かったのは、「キルギス語はアルファベット表記なのでどうしても点訳すると長くなるが、日本点字は短くて便利」というアクモール氏の意見だった。これに対しては他の国の参加者も賛同して、「自国語をつい日本の点字で書きそうになる」と言ってチャパガイン氏は笑っていた。日本語をローマ字で点字表記すると、現行の2倍ほど長くなるので、仮名点字自体がある種の縮語になっているというのは面白い指摘である。ただ、限られた時間内に、4カ国の点字事情やその背景を参加者に充分説明できるはずもなく、明らかな誤解や錯誤もみられた。
例えば統一英語点字(UEB)を導入しているかというフロアーからの質問に対して、ミャンマーは導入した、ネパールは導入していない、ベトナムとキルギスはわからないという回答だった。しかし、チャパガイン氏は日本にいたので知らないだけで、ネパールでは昨年の12月に点字に関する教育省を始めとするステークホルダー(利害関係者)が一堂に会してナショナルセミナーを開きUEBの導入を決めた。また、キルギスの外国語教育は、従来、ロシア語中心であったため、UEBと言われてもアクモール氏はとまどうばかりだったようだ。
ミャンマーでは「古い点字に代わって、新しい点字が登場し、現在は併用されている」とコーコー氏が発表したことを受けて関西からの参加者が質問し、それは「英語点字がUEBに変更されたことを言っていると聞いた」と述べ、それに対する反論がなかったので誤解が広がった。しかし、実際は「ミャンマー語の古い点字と共に、新しい点字も登場して併用されているのである」。だが、それをうまく日本語で説明できないので、コーコー氏は黙ってしまったようなのだ。
1914年にヤンゴンのチミダイン国立盲学校の前身となる盲学校が英国聖公会によって開校する。英国聖公会の全盲の司祭であったS. H. ジャクソン先生は、同校を運営するために1917年に赴任し、翌1918年にビルマ語点字を翻案した。その際、ジャクソン先生は全体的に丸い形が特徴的なビルマ文字を完全に無視し、発音だけを頼りに点字体系を作り上げた。このため、子音を表す基本字母の周囲に母音記号と声調が組み合わさっているビルマ文字の文書を点訳するときにはこの点字には限界があった。
そこで、従来の点字を改良して、忠実に文書を点訳できる新しい点字が近年翻案され、現在、国立盲学校ではその点字が使われている。ところが、その新しい点字で点訳するとマス数が多くなるので、私立盲学校はそれを嫌って従来の点字をいまでも使っている。
このように開発途上国の事情を聞くときは、その背景がよくわからないと、話が錯綜して参加者の理解を妨げることになる。とはいえ、思わぬ角度から日本点字が高く評価され目から鱗が落ちるような刺激を受けた。
なお、上記4カ国のうち日本点字委員会のような点字に関する決定機関を持っている国はミャンマーだけだということであった。(福山)
今月号は常にも増して海外関係の話題が多くて恐縮です。しかし、コンビニやスーパーマーケット、居酒屋等で働く外国人も多くなった現在、文化の違いをいかに克服するかは、以前にも増して重要になってきているように思います。同じ日本語を使っていてもその意味するところは、日本人同士でも微妙に違うことは大いにあり得るわけですから、外国人とならばなおさらです。グローバル化が叫ばれる昨今ですが、問題が英語教育などに矮小化されているように思えてなりません。おそらく、日常的に外国語を話さなければならない日本人は少数派でしょう。しかし、日本語で外国人と日常会話を行う必要性のある日本人は、日増しに増えているのではないでしょうか?
2012年12月第18代韓国大統領に朴槿恵(パク・クネ)氏が51.6%の得票率で選ばれました。そこで安倍首相は大統領就任式の直前に「あなたのお父様の朴正熙(パク・チョンヒ)大統領は私の祖父(岸信介元首相)の親友だった」と親しみを込めて語りました。しかし、親日が犯罪的であるとされる国で、父親がA級戦犯の岸氏と親しい事を暴露され、父親のことで強い負い目を感じていた朴槿恵氏は面目丸つぶれで激怒しました。その後、彼女は折に触れ日本批判を繰り返し、見かねた米国が仲介に乗り出したことはご存じのとおりです。
私の身近なところでは、二昔前、ネパールで上司が日本的腹芸で「善処します」と言ったために、通訳が「イエス」と翻訳したので、話が大混乱したことがありました。そして、その後「イエス、ノーは、はっきり言わなければならない」と学習したくだんの上司は、今度はけんか腰で「ノー」と言って、食事をご馳走して歓迎しようと思っていたカウンター・パートを当惑させたのでした。
今月号を編集しながらそんなことを思い出し、悲しい轍を踏まないためにも異文化理解が必要だと痛感した次第でした。(福山)
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