THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2016年11月号

第47巻11号(通巻第558号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:石原尚樹
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:麻薬撲滅と人権 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(特別インタビュー)努力の鉄人・木村敬一さん
  〜大勢の人のおかげで獲った4個のメダル〜 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
(特別寄稿)夏の旅行と合理的配慮 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
(特別寄稿)ブレーメンでの3週間 私のドイツ研究第一歩 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
27
近代盲人業権史 (25)新職業開拓の議論と実践 その6 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
続・ニカラグアにおける東洋医学教育 (10)ジャパン・フェスティバル ・・・・・・・・・
38
自分が変わること (89)32年ぶりの魔力 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
リレーエッセイ:スルーネットピンポンに出会えた喜び ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
アフターセブン(20)シンガーソングライターへのお誘い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (171)力士生命最大のピンチを切り抜けた最年長関取 ・・・・・・・・・・・・・・・・
56
95%にもチャンスを (8)事業開始に向けて(中) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
時代の風:本間一夫文化賞決定、全日本視覚障害者ボウリング選手権大会結果、
  iPSのがん化を防ぐ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64
伝言板:点図カレンダー、サイトワールド2016、ヘレン・ケラー記念音楽コンクール、
  駅ホームを安全に利用するための学習会、フォーエバー婚活パーティー ・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
麻薬撲滅と人権

 フィリピンの新大統領ロドリゴ・ドゥテルテ氏の容赦ない「麻薬撲滅戦争」は、日に日にエスカレートして、6月末の政権発足から3カ月間で警察と自警団により、麻薬関連の容疑者約3000人が射殺され、身の危険を感じて自首した者は67万4000人、逮捕者は2万人となり、マニラ首都圏の刑務所は受刑者であふれ、治安は目に見えて良くなっている。
 こうなったのは、5月のフィリピン大統領選挙でドゥテルテ氏が強権的な手法で国内の麻薬取引を撲滅するとの選挙公約を掲げて圧勝し、その公約を徹底して進めたためである。
 フィリピンでは従来から違法薬物や汚職が深刻な社会問題となっており、とくに2010年以降に犯罪件数は倍増したが、政府は有効な対策を取ってこなかった。だが新政権は強権的な手法に加え、過去の政権が手を付けなかった麻薬犯罪に関与した地方政治家や裁判官、警察幹部らのリストを公開して逮捕したため国民から喝采を浴びているのだ。
 もちろん、容疑者の殺害ありきという姿勢は常軌を逸したもので、法治を重んじる近代国家の規範からは完全に外れており、国連機関や人権団体が「超法規的な処刑だ」と批判するのは当然だが、それらの批判は大統領の支持率にはまったく影響を及ぼしていない。
 フィリピンは死刑廃止国である。ところが死刑を廃止した国では、警察や軍隊が超法規的に犯罪容疑者を殺害するケースが少なくない。日本のような死刑存置国では極刑になるような犯罪者が、潮時を見てあの手この手で刑務所から出所する姿を見ての対抗手段であり、必要悪とみなす国民も多いのだ。
 われわれはドゥテルテ大統領の手法を賞賛するわけにはいかないが、中国や北朝鮮のような人権蹂躙同様に批判することも考えものだ。人道的干渉は内政干渉にあたらないが、とはいえ独裁国ではないのだから、その処方箋はひとまずフィリピン国民に任せるべきで、安易によそ者が口を挟むべきではない。(福山)

(特別寄稿)夏の旅行と合理的配慮

横浜市/岩屋芳夫

 夏は暑いのがあたりまえとは思いつつも、「今年の夏はちょっと異常ではないか?」とつい愚痴ってしまう。その猛暑の中、行楽や帰省で旅行をされた方も多かったのではないだろうか。かくいう私も、仕事やクラス会で遠方に出かける機会に恵まれた。
 これまでに本誌で、新幹線の喫煙ルームやJR西日本のアナウンスなどについて投稿したことがあるが、今回も新たな体験をしたので寄稿する。「その程度のことで文字にするな」とおしかりの向きもあるかもしれないが、最後までお読みいただければ幸甚である。

言ってはみるもの

 7月末に仕事で大分市に行った。大分駅で特急列車を降りると、すでに連絡が入っており、ホームでは誘導の駅員さんが待っていて下さり、なぜか階段ではなく、エレベータを使っておりる。「どなたかお出迎えの方がいらっしゃるのですか?」と尋ねられ、「いいえ、これからホテルに向います」と応えると、「どちらのホテルですか?」と駅員さん。
 「グリーンリッチホテルですが、どちらの方になりますか?」と私が聞きかえすと、「あ、そこなら近いですね。ご案内しましょう」と話しはとんとん拍子。
 おととしの日盲連大分大会で当地を訪れて以来二度目の大分市。その時にも利用したホテルだったので駅から近いことはわかっていたが、慣れないところである。業務範囲を越えた過剰サービスだったのかもしれないが、大変助かった。建物の前までかな?と思っていたら、2階にあるフロントまで誘導して下さった。点字ブロックがあったとはいえ、周辺の様子を教えてほしかったなとの思いは口にせず、深々と頭を下げた。
 チェックインをすませると、「では、ご案内しますのでお待ち下さい」と係の方。部屋は6階、エレベータを降りるとすぐ左に私の部屋があった。誘導して下さったスタッフの方に「ありがとう」といいかけると、「ドアを開けますのでお入り下さい」と引き返す様子がない。
 言われるままに部屋に入ると、「キーボックスはこちらになります。部屋に入って右にユニットバスがあります」と簡単に説明して下さった。特にエアコンのスイッチとシャンプー、ボディーソープの別を教えて下さったのはありがたかった。ここでも深々とこうべをたれた。
 実は、ホテルは、ネットで家族に予約してもらったものだが、その時に備考欄があると言われ、「視覚障害があるので部屋はエレベータの近くなどわかりやすい場所がありがたい」と書いておいた。かくしてわかりやすい場所の部屋が手配され、頼まなくても部屋まで誘導し、さらに部屋の中も説明してくれたのである。利用者が障害があり、配慮を要する時、あらかじめ伝えておくと受け手側も心づもりができ、対応しやすいのだろうとあらためて感じた次第であった。

4ケ国語と不思議なアナウンス

 学生時代のクラス会が4年ぶりに鹿児島市で開かれた。九州新幹線で待ち合わせの鹿児島中央駅へ。九州新幹線には初めての乗車だが、車内アナウンスにちょっとビックリ。日本語、英語に続いて、ハングル、中国語と4ケ国語で放送されたのだ。そういえば量販店でハングルや中国語の案内を聞いた覚えがあるなと思い返す。しかし、車内アナウンスでハングルや中国語を聞いたのは始めてだった。九州という地理的特性から韓国や中国、台湾からの観光客が多いのだろうか。
 せっかく鹿児島まで来たのだから、薩摩半島の南端にある指宿市にまで足を伸ばそうということになった。弱視が一人に白杖使用者が5人。鹿児島中央駅から指宿駅までは特急を利用して約50分かかり、指宿駅から砂蒸し温泉まではタクシーで移動した。この移動には、あらかじめお願いしていたヘルパーさんに協力してもらった。砂蒸し温泉に着くと指宿市の観光課や指宿市社会福祉協議会の方々が出迎えてくださった。
 砂蒸し温泉は、海岸に温泉がわいている。裸になって浴衣を着て海岸へ行き、頭にタオルを巻いて横になる。係の人が砂をかける。暖かい砂にうもれ、波の音を聞いていると何とも気分が良い。そのうちにじっとりと全身から汗が出てくる。10分も埋もれていただろうか。浴衣を脱いで浴室で砂を流す。
 この間、私達一人ひとりに誘導がついた。もちろん、女性には女性が。誘導して下さった方は相当暑かったに違いない。我々は気持ち良かったが、何か申し訳なく思ってしまった。見えない我々がどのように移動するか? 気配りをしてくれた友人、協力して下さった指宿市の方々に感謝、感謝である。
 指宿以外にも砂蒸しがあるとも聞くが、鹿児島に行ったら、温泉好きの方はぜひ指宿まで足を向けていただきたい。
 この夏の旅行の間、駅構内や車内アナウンスで何度か障害者割引に関する注意を聞いた。「障害者割引でご利用の方には、障害者手帳の提示を求めることがあります」というのである。障害者割引で利用した場合、求められれば手帳を提示しなければならないのは当然だが、横浜や東京でこのようなアナウンスを聞いたおぼえがない。西日本では、手帳の提示を拒否するなど何かトラブルでもあったのだろうか。

USJの配慮

 8月の暑い日、家族4人で大阪市此花区のUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に行った。前々から一度行ってみたいと思いながら、なかなか行くことができなかったが、やっと実現した。新大阪駅からUSJの目の前にあるJRユニバーサルシティ駅までは、2回乗り換えて20分ちょっとだった。
 ハリー・ポッターで人気のアトラクションに乗るべく列にならび、待つこと2時間以上。列が少しずつ移動していく。途中で係が、アトラクションについて説明をする。「急に右や左に曲ったり、上下への移動もあります。心臓に病気はありませんか?」と一般的な注意の後、「移動しながらアトラクションに乗るのですが大丈夫ですか?」との問いかけがあった。詳しく聞いてみるとスキー場のリフトのような感じらしい。少し考えた様子の私に気づいたのか、「もしよろしければ、別の場所でゆっくり乗り降りすることもできます。乗り降りの場所が一般の方と違うだけでコースは同じです。どうしますか?」と教えてくれたので、迷わずそちらを選択。
 係に案内されて私達家族4人は一般の人と別れて指示された所に行くとすでに車椅子利用者の方がいた。「この次になりますのでお待ち下さい」との声で、5分も待っただろうか。「では、こちらにどうぞ」と係の方に案内されゆっくりと座ることができた。どうやら、配慮を要する人達の利用を想定して落ち着いて乗り降りができるよう最初から施設を整えていたようである。施設設備だけでなく、係の方がさりげなく、しかも押しつけるでもなく、説明してくれたのがうれしかった。もちろん、USJのアトラクション全てが配慮されているのかどうかまでは知らない。しかし、障害があることで遊園地の乗り物に乗れなかったという話を聞いたこともあるので、社会が少しずつ変わりつつあるのかなと思った次第である。

終わりに

 8月の下旬に仕事で長野県の松本市に出かけた。この時も予約の際、視覚障害者であることを宿泊先に伝えておいた。大分市の時と同じく、部屋の位置はわかりやすく、もちろん部屋まで誘導して下さった。富山市で泊ったホテルは、部屋の番号が点字で表示されていた。
 この夏には、障害者施設で非惨な事件がおきたり、盲導犬使用者がホームから転落して亡くなるという残念な事故もおきた。解決すべき課題はまだまだあるとは思うが、わずかずつではあるかもしれないが、社会が少しずつ良い方向に変わりつつあると思っているのは私だけだろうか?

編集ログ

 都営三田線「本蓮沼駅」から徒歩1分のところに、主にアジア各地の視覚障害留学生を日本に招いている国際視覚障害者援護協会の拠点である舟橋会館があります。
 そこからさらに9分ほど足を伸ばすと、「(特別インタビュー)努力の鉄人・木村敬一さん」で紹介した味の素ナショナルトレーニングセンターがあります。とても巨大な施設なのでとびっきり目立つのですが、われわれ一般人の立ち入りはできないので、なにやら秘密基地めいたベールに包まれています。今回の木村さんの話しで、その一端をうかがい知ることができて大変興味深く読みました。
 それにしても美味しい料理が食べ放題なのに、一方では食べ盛りで減量を迫られる選手もいるということは身につまされますね。その点、水泳選手は早く泳ぐためには適度な皮下脂肪が必要なので、食に関してはとても恵まれており、ラッキーです。
 今回のパラリンピックは、4年後の東京大会を控えてかつてなく注目されましたが、翌日も試合がある選手を取材で1時間以上も拘束するとは、わが国マスコミ報道のあり方が強く問われているように思えました。とくにスイマーは泳ぎ疲れたら寝るに限るのでなおさらです。今後効果的な対策、ルール作りが行われるのでしょうか?4年後にパラリンピアンの足をマスコミが引っ張らないことを祈るばかりです。
 リオパラリンピック開幕前にIPC(国際パラリンピック委員会)は、往年の名スイマーであった河合純一日本パラリンピアンズ協会会長を日本人としてはじめてパラリンピック殿堂入りに選びました。小誌もなにかとお世話になっている方なのでとりわけ嬉しく感じました。河合さんおめでとうございます。
 「夏の旅行と合理的配慮」の中で岩屋芳夫先生が、「指宿以外にも砂蒸しがあるとも聞くが」と書いておられますのでネットで調べてみました。すると規模はかなり小さくなりますが、大分県の別府ひょうたん温泉の砂湯、同じく別府海浜砂湯も、いわゆる砂蒸し風呂です。

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