THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2016年5月号

第47巻5号(通巻第552号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:光回線の勧誘にご用心! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
サピエ図書館の機器リニューアルにご理解を! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
サピエはなぜストップするのか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
「薄氷の勝利」の意味 ― 日盲連正副会長選挙編集長観戦記 ・・・・・・・・・・・・・
13
視覚障害のある准教授が学校法人を提訴 差別解消法下初の裁判 ・・・・・・・・
22
(短期集中連載)ネパール地震と石油危機(3) ― 家が半分に縮んだ ・・・・・・
27
近代盲人業権史 (19)昭和39年あはき法第19条改正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
続・ニカラグアにおける東洋医学教育 (4)あん摩講座 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
自分が変わること (83)中村先生のこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
リレーエッセイ:二つの資本 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
アフターセブン(14)失敗から広がる世界 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (165)居反りの名手が角界に革命を起こす ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
95%にもチャンスを (2)台風被災地の障害者たち その1 ・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:ホドウクンが金賞受賞、教職員向け啓発冊子、
  認知症予防にハンセン病治療薬が効果、iPSから皮膚再生 ・・・・・・・・・・・
63
伝言板:社会貢献者表彰募集、チャレンジ賞・サフラン賞募集、
  読書会、チャリティコンサート ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
光回線の勧誘にご用心!

 このところ光回線サービスの勧誘電話がうるさいほどかかってくるが、なにやらうさんくさい。
 「一方的に信用しろと言われても、契約内容もあいまいなまま電話で契約するなんて言えるはずがないでしょう」と言うと、(そこまで信用しない人は)「気持ち悪いわ!」と捨てぜりふを残して電話は切れた。
 昨年の2月から、NTT東西が光回線を開放して卸売りするサービスを開始し、業者が「光回線と自社のサービスを組み合わせて売る」ことができるようになった。そこで、当方はNTT東日本と契約を結んでいるのだが、その契約を乗り換えさせようと躍起になっての電話勧誘なのである。
 新サービスでは、「転用」という簡単な手続きを行うだけで、IDや電話番号を変更することなく、従来、利用していたものから乗り換えができる。その際は、利用者がNTTから「転用承諾番号」を取得し、卸売りを受けた事業者に伝えれば、簡単に手続きが完了する。
 くだんの業者は、とにかく「今のNTTより安くなる」の一点張りで、何とか「契約する」との言質を取ることに腐心し、契約者名や支払い方法など「転用承諾番号」を取得するための情報を聞きだそうと必死になっていた。
 口頭だけでも契約は成立するので、「安くなる!」という言葉に乗せられないように注意したいものである。電気通信サービスの契約は、内容や仕組みが複雑なので、書面の交付を要求して慎重に対応しないと、「回線使用料は確かに安くなったが、不必要なサービスとセットになっているので負担は、NTTの時より重くなった」となりかねないのだ。そして業者は、「回線使用料は安くなったので、嘘はついていない」と言い張ることができる。そこで解約を申し出ても、クーリングオフの適用外なので、契約解除には7万円とかの費用がかかる場合もあると聞く。
 NTTあるいはソフトバンクやauの代理店を名乗り、それら大手事業者から依頼されて営業しているように装って訪問してくる業者もいるが、契約する際は、書面で内容をよく確認して、本当にトータルで安いのか数字がはっきりしない限り信用してはならない。(福山)

「薄氷の勝利」の意味
―― 日盲連正副会長選挙編集長観戦記 ――

 多くの人々の自由な投票行動が、結果的にある集団の統一された意思表示となることがある。今回の日本盲人会連合(日盲連)正副会長選挙は、まさにその典型であるように思われた。
 日盲連の理事会・評議員会が、3月31日東京都新宿区のホテルグランドヒル市ヶ谷で開かれ、平成27年度補正予算、平成28年度事業計画・予算などが審議され、原案通り可決された。その後、事実上の正副会長選挙である「正副会長候補者選挙」が執行された。
 これは定款で正副会長は理事会で決めることになっているので、評議員会で会長1名、副会長3名の候補者を選び、それを理事会が追認して、決定するためこのような形式を取るのである。しかし、事実上の正副会長選挙は、評議員66名による無記名秘密投票によって行われる。
 そして会長選挙は、竹下義樹氏34票、鈴木孝幸氏31票、白票1票の僅差で竹下氏に決まった。
 副会長選挙は、小川幹雄氏(島根県)41票、及川清隆氏(岩手県)36票、伊藤和男氏(千葉県)31票の以上3氏に決まり、次点は宮城正氏(埼玉県)29票で、次いで衛藤良憲氏(大分県)28票、小山尊氏(福井県)20票、白票1票であった。
 選挙では事前に誰に投票するか決めておらず、投票直前に決めるという有権者が一定数必ずいるので、おそらく日盲連評議員66人の中にも2〜3割はいたであろう。そして会長候補二人の立会演説を聞いて、竹下氏に1票を投じた評議員も少なくなかったはずである。仮にそのうちの二人が鈴木氏に投じておれば、結果は逆になった。そういう意味において、つまり「負けても何ら不思議ではない状況で辛うじて勝ち得た勝利」として、今回の日盲連会長選は竹下氏による「薄氷の勝利」ということがいえる。
 明暗を分けたのは、投票直前の立候補者立会演説であった。その前の評議員会で、「しこりが残るので、組織を2分するような選挙はやるべきではない」との強い批判が出た。
 それを引き取って竹下氏は、「12月に鈴木君と話しをして、いずれあなたの番が来るから、今回は立候補しないで欲しい旨を伝えたが聞いてもらえなかった」と述べた。そして、「副会長6年、会長4年間で実績をそれなりに残してきたつもりだがまだ道半ばである。障害者差別解消法等が動き出す中で、今、日盲連が障害者団体の中で置いてきぼりをくらわないよう、これからも尽力したい」と決意を語った。
 同氏は話しに集中してくるとヒートアップして、声は大きく、舌鋒鋭くなる。獅子吼する竹下氏の演説の途中、会場から「怒ったらあかん!」という声がかかった。すると声のトーンも表情も突然ソフトになり、会場には静かな笑いの渦が広がった。竹下氏の豹変ぶりがちょっと微笑ましかったのだ。
 本人にその気はなくとも、聞いている側は何やら威圧感を感じて、怒られているような錯覚に陥っているときに、絶妙なタイミングのヤジで修正され、聞く耳をもっているとの好印象を与えた瞬間であった。
 一方、鈴木氏は、会を2分するリスクをあえて冒してまで立候補したのであるから当然、その根底には竹下氏のやり方に対する根強い批判があったはずだ。ところがそれを封印して、「これからの視覚障害者の運動をもっと具体的に展開して行きたいということで立候補しました」と、腑抜けた当たり障りのない話に終始した。これが選挙結果の明暗を分けた。鈴木氏が、リスクを冒してまで立候補せざるを得なかった、やむにやまれぬ心情を切々と訴えたなら、あるいは結果は変わっていたかも知れない。しかし、反旗を翻したという印象を払拭すべく、土壇場で日和見に転じたのは戦術的な誤りであった。人が好過ぎてそのうえ軽すぎるのだ。超重量級の「竹下氏と足して2で割ればちょうどいいのだが」という、あきらめともため息ともつかない声が聞こえた。
 「日本の文化が他人を傷つけないようにする、遠慮するという願望に取り憑かれているのに対し、ドイツ文化はむき出しの率直さを価値付けます」とフランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド博士は、その著書『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』で、ドイツと日本の社会構造の共通点を述べた後、その違いをこう述べている。
 その伝でいうなら鈴木氏は典型的な日本人で、弁護士の竹下氏はむしろドイツ人に近いキャラクターということになろう。日本の法体系はドイツ法の強い影響を受けているが、竹下氏のむき出しの率直さもその影響だろうか。
 竹下会長の欠点に、公衆の面前で役職員を叱責したり、前任者の業績を貶めたりするということがあると言われている。言われた人は侮辱されたと考え恨みを抱き、同席者にも強い違和感を与える。また、俺が俺がの我が強すぎて、今回の評議員会でも何でも自分で答弁し過ぎるという批判が出た。また、多くの職員は雷が落ちることを警戒して、指示待ちになり業務が停滞するという話も側聞するし、私自身さもありなんという対応に困惑したことがある。このため、本人に自覚はないかも知れないが、暴君と思われている節があるのだ。
 通常、このような選挙では、現職有利というのが通り相場だが、苦戦して首の皮一枚残してつながったのにはこうしたわけがある。「会長としての能力・識見だけを見れば竹下氏が数段上だと思う。だがその強引なやり方には問題があるので、今回は鈴木氏に入れる」という声も聞こえた。再任されたとはいえ、今後の会の運営で、竹下会長も批判票を無視することはできないだろう。
 そこで『点字ジャーナル』は、4月4日(月)、日盲連組織部を通して、4月10日(日)までに竹下会長に5〜10分の面会を求め、それが無理なら電話での短時間のインタビューでも構わないので応じていただきたいと要請した。そして下記のような取材内容の要旨を電子メールで送った。
 「今回の事実上の会長選は僅差でしたが、最後の立会演説で『会長選は人気投票ではないのだ』と訴えられて、能力・識見共に地力に優る竹下先生が34対31票で接戦をものにされました。印象深かったのは先生の演説中『怒ったらあかん!』というヤジが飛び、先生の声も、表情もぐっとソフトになって、会場が和らぎました。結果的に、あれも勝利の要因の一つだと私には思えました。『怒ったらあかん!』というような戒めの言葉なり、アドバイスなりは貴重だと思うのですが、どのように感じられましたか?
 思いの外批判票が多かったと思うのですが、この厳しい結果を今後、先生の日盲連での会務に影響を及ぼしますか? 及ぼすとしたらどのようなことに注意を払うのかお聞かせください。
 以上の点についてコメントいただけたら幸いに存じます」。(福山博)
 これに対して4月5日(火)、日盲連組織部から、「竹下会長からですね、ちょっと今回は受けることができないということで連絡がありましたので、承知いただければと思います」との丁寧だが、残念な返事があった。
 ところで、副会長選では、竹下派、鈴木派共に3人ずつ候補を立てたが、結果は竹下派の1勝2敗という微妙なものであった。いずれも温厚で、調整型の人格者である3氏が副会長に選ばれたのは、「集団の統一された意思表示」とさえ思えた。
 これに対して「竹下候補の推薦人」と胸を張った衛藤氏、「竹下氏を支えます」と述べ旗幟を鮮明にした宮城氏が退けられたのも、集団として無意識に、竹下氏の独走を警戒したためではなかっただろうか。勝ち馬に乗るのとは逆の現象が起きたのだ。虎の威を借る狐や竹下氏のエピゴーネン(模倣者・亜流)はいらないということだろうか。
 ただ、個人的な能力や資質とは別の理由で落選の憂き目にあった宮城氏を犠牲者と見て同情する声も聞こえた。これは関東ブロックは伊藤氏を副会長候補としており、宮城氏の出馬は「横紙破り」と見なされ支持が伸びなかったためである。頼まれてやむを得ず立候補したものの、評議員会では組織を乱す行為だとして、厳しく批判されて立つ瀬はなかった。この捨て駒のような人的配置は人のいい鈴木氏にはできない技で、竹下氏の面目躍如である。そして、宮城氏は敢えて捨て駒となったのだ。
 ところで「薄氷の勝利」とは、いにしえの中国『詩経』小旻<しょうびん>篇にある「戦々兢兢として深淵に臨むが如く薄氷を踏むが如し」からきており、本来の意味は、現在、日本で使われている意味とは大きく異なる。
 兢兢の「兢」の字は二人並んで神に祈る字形とされることから、「おそれ謹んで」祈ることを意味し、治世の乱れたるを憂い、最後に戒めとして「おそれ謹んで世に処していかねばならぬ」と詠われたのだ。つまり本来の意味は、「統率者は、深い淵に臨む冷静さと薄氷を踏む慎重さを持ちなさい」ということで、図らずも今回の選挙では竹下氏はそれを地で行った。もっともこの詩は、志ある臣下が幽王の無道を戒めるために作ったものなので、これもなにやら意味深ではなかろうか。
 日盲連は組織として大きな条件を付けて竹下氏を会長に再選した。したがって、同氏の周辺に必要なのはイエスマンではなく、「怒ったらあかん!」と諫める人だ。強面の竹下氏だが、「それは違う」と論理的に反論するならば、聞く耳を持っていることは先に述べたとおり。
 しかし、周囲が畏怖するあまり、同氏に正確な情報を伝えないならば、いくら明晰な頭脳でも誤った結論に達することもあるのではなかろうか?(福山博)

編集ログ

 「現在、御社はNTTの光回線を使っていますよね。電話番号も今のまま、工事をする必要もなく、現在より安くなりますので、契約をきりかえませんか?」。しかも、電話で簡単に契約はできるというのです。そして、当方を訪ねてきたのが1社、電話で連絡してきたのが2社あり、それらを調べた結果は「巻頭コラム」に書いた通りです。さすがに彼らはその道のプロですから勘所をグイグイと攻めてきます。
 しかしだからこそ、私には3社とも悪徳業者に思えました。そして、「安くなる」と言われれば、ついつい聞いてしまう、自分のすけべ根性にも一抹の不安を覚えた今日この頃でした。
 日本点字図書館杉山雅章館長による「サピエ図書館の機器リニューアルにご理解を!」と、同点字図書館田中徹二理事長による「サピエはなぜストップするのか?」は、日盲社協広報委員長として私が編集している『日盲社協通信』Vol.72(平成28年4月号、4月12日発行)に両氏が寄稿された記事と極めて似た内容になっています。
 これは、それでかまわないから『点字ジャーナル』にも寄稿して欲しいと、無理にお願いしたためです。というのは、「サピエがなぜ19日間も停止するのか?」という、非常に重要な内容が含まれているにも関わらず『日盲社協通信』は機関誌ですから、読者は日盲社協加盟施設の役職員に限られるからです。
 サピエを19日間も停止して機器をリニューアルしなければならない事情は、人によっては繰り返しになるかも知れませんが、本誌読者にもぜひ、知っていただきたいことだと思った次第です。
 日盲連正副会長選は、戸塚記者が執筆予定だったのですが、手引きで付いていった私が、出しゃばってつい書いてしまいました。盲界のため、日盲連のためという視点で書いたつもりですが、不快に思われた方がありましたらご容赦ください。抗議等は、編集長まで直接お願いします。(福山)

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