THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2015年9月号

第46巻9号(通巻第544号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:母語を犠牲に外国語を習得する不幸 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(特別寄稿)第1回アジア太平洋地域盲青年サミット開かれる
  ― 日本の盲青年大活躍 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
盲ろう者の叫び、総合支援法に反映を! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
組織改革案は「審議継続」 ―― 理教連定期総会報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
点字月刊誌『信仰』創刊100周年記念感謝会 阿佐元主筆が歴史を語る ・・・・・
20
視覚障害教師の日韓交流が、さらに大きく前進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
24
杉山和一資料館ついに着工 ―― 建設へ苦渋の決断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
近代盲人業権史 (11)あはき新法制定 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
仏眼協会盲学校へのレクイエム ― 空襲で消えた我が母校
  (20・最終回)友人たちへのレクイエム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
自分が変わること (75)桑原武夫が考えていたこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
リレーエッセイ:私が、「見えないことは神の恵み」と
  言い切るようになるまで(下) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
アフターセブン(6)オリジナリティーの創造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  対照的な相撲哲学を貫いた2人の“レジェンド”が土俵生活に別れ ・・・・・・
55
国境を越えて学ぶ H魔力だけじゃなくてキラキラ輝くこと ・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:移動のサポート情報を集約、色素を使った人工網膜、
  無呼吸時に血圧上昇、禁煙で糖尿病リスク解消へ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:附属盲音楽科定期演奏会、点字技能検定試験、
  チャリティ映画会、劇団民藝公演 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
母語を犠牲に外国語を習得する不幸

 当協会が「ヘレン・ケラー女史の足跡を訪ねて」という米国ツアーを実施したのは1993年9月であった。このとき、女史の母校ラドクリフ女子大学(現・ハーバード大学ラドクリフ・インスティチュート)で、ある日本人の同大大学院生に見学の手配と通訳をお願いした。
 彼女はその2ヶ月前の夏休みに帰省して、当協会でアルバイトをしていた。その際、ちょっとした手紙の和文英訳を頼んだらものの5分でできた。これは凄いと、ついでに英文和訳を頼んだら、「それは無理です」との返事。そこを何とかと無理強いするとチンプンカンプンの日本文ができあがり驚いた。何しろ「プログラム」とカタカナにすれば足りるところを「綱領」と和訳してあったのだ。
 そのような20年以上も前のことを思い出したのは、文部科学省が2020年度以降の学校教育の方向性を決める次期学習指導要領の骨格案を8月5日に発表したからだ。「アジアトップクラスの英語力育成」を目指し、小学5年生から英語を正式な教科として教えるというのだが?
 「日本語会話(日常言語)はそれほど難しくはないが、読み書き(学習言語)はとても難しい」と、ある外国の友人は言う。日本人のアイデンティティは、つまるところ読み書きを含めて日本語を普通以上に使えるかどうかにかかっている。
 日本人で仕事などで日常的に英語を必要としている人々は、多く見積もっても1割以下だろう。一方、そのような人も含めて、日本で働くに当たって日本語を必要とする割合は99%を下回ることはないはずだ。
 母語(日本語)の能力が十分身につかないうちに、それと対極的な言語を教えて、日本語能力を犠牲にするなら取り返しのつかないことになりはしないか。外国語の早期教育は、「学力と関係が深い外国語能力」にも悪影響があるという研究成果さえある。外国語は「早く始めればよい」というのは、日常言語能力についてのみいえることとの研究成果に、われわれはもっと耳を傾けるべきであろう。(福山)

点字月刊誌『信仰』創刊100周年記念感謝会
 阿佐元主筆が歴史を語る

 8月5日(水)、新宿区の戸山サンライズにおいて、日本盲人キリスト教伝道協議会(盲伝)による点字月刊誌『信仰』創刊100周年記念感謝会が、約100人の参加者を集めて開かれた。
 賛美歌の合唱から始まった感謝会の冒頭で田中文宏盲伝議長は、旧約聖書の「幻のない民は滅びる」という一節に志という言葉を当てはめて、「志のない民は滅びる。今日の感謝会が今一度志を高く掲げるときとなればよい」とし、これからの日本の盲人伝道に尽くしていきたいとの願いを述べた。
 創刊100周年にあたって元主筆の阿佐博先生が以下のように『信仰』の歴史などについて語った。
 物事というものが必要がなければ捨てられ滅びていくなかで、この月刊誌が100周年を迎えたということは、これが100年という長い期間に渡って必要とされてきたということである。雑誌で100年続いているものは活字の世界でも珍しく、把握している中では俳句雑誌である『ホトトギス』と総合誌『中央公論』の2つのみで、しかも途中戦争の影響などにより刊行されていなかった時期がある。しかし、『信仰』は1915年(大正4年)の創刊以来1号も欠けることなく今日まで続いていて、ここに大きな意味があると考えている。1938年(昭和13年)に学校近くの教会に置かれていたものを読んだときから毎月欠かさず読み続けているが、戦時中に他誌が休刊しても発行され続けていたことを記憶している。物資不足であったため、普段は60ほどあったページ数を16まで減らしていたが、それでも毎月発行していた。
 『信仰』の発行に関して色んな人の尽力で成り立っているが、そのなかでも話さなければならない人物は、創刊者の秋元梅吉氏である。14歳のときに盲学校へ入学し、台湾からの留学生の勧めで聖書に出会い、学生のうちに雑司ヶ谷信光会をつくる。会の発足当初は、有志のメンバーで手書き原稿を持ち寄って製本したものを校内で回し読みしていた。しかし、ちょうど点字が普及して読める人が増えてきていたため、卒業生や外部からも読みたいという声が多く寄せられるようになり、雑誌『信光(当時は信じる光)』の発行に踏み切ることとなった。
 雑司ヶ谷信光会は学生によってつくられた会で印刷設備をもっていなかったため、学校の印刷機を借りて印刷していたのだが、教科書や参考書作製などの関係で学校側が忙しくなり、機械を借りることが難しい状況になっていった。そこで、中村京太郎氏による雑誌『あけぼの』の発行を機に、盲学校内にあった会の事務所を移し、発行を続けようということになったのである。その頃から英国の好本督氏が資金援助をしてくれるようになり、雑司ヶ谷信光会を日本盲人基督信仰会と改めた。この会には、「そこに関係している者がみんなで協力して仕事をすればよい」という好本氏の考えの下、会長や理事といった役職が何も置かれなかった。以降、雑誌『信仰』は現在の題字に変更され、日本盲人基督信仰会から発行されることとなる。そして戦後は、ヘレン・ケラー女史が来日したことをきっかけに、彼女が行っているキリスト教系雑誌発行の援助の受け皿として盲伝が組織され、『信仰』はその機関紙となり、今日まで続いているのである。
 『信仰』という雑誌は発行当初から、もちろん会員の原稿もあるが、一般のキリスト教雑誌の中から優れた記事を転載する形をとっていたが、それを1000号を迎えるにあたり、すべて自分たちの原稿で発行することを試みた。今までは著作権などの関係で発行できなかった墨字版も、1000号以降は会員に点字版と墨字版の両方を配布することができるようになって、現在に至っている。
 話の終わりに阿佐先生は、『信仰』創刊100周年を迎えてこうして大勢でお祝いができることを嬉しく思う。必要とされるものは続いていく。この雑誌を100年と言わず、もっと長く続けて日本の盲会のひとつの光にしていきたいとの考えを語られた。
 阿佐先生のお話のあとは、出席した参加者や編集関係者がお祝いの言葉を述べて、感謝会は終了した。(菊池惟菜)

杉山和一資料館ついに着工
―― 建設へ苦渋の決断 ――

 末広がりでしかも大安吉日の8月8日(土)10時より杉山検校遺徳顕彰会(和久田哲司理事長)は、東京都墨田区の江島杉山神社において、関係者約30人を集めて「杉山和一資料館」の地鎮祭を行った。
 江戸時代に活躍した全盲の鍼医杉山検校和一(1610〜1694)は、2010年(平成22年)に生誕400年を迎えた。そこで、これを記念して杉山和一生誕400年記念事業実行委員会(時任基清委員長)が組織され、(1)杉山検校に関係する400年にわたる古文書や文献、東京都史跡「惣録屋敷(現・江島杉山神社)」の貴重な歴史的資料などの文化財を保存し一般公開する。(2)日本の伝統鍼灸按摩に関する研究と後継者の育成に努め、学術興隆を図る。(3)合わせて地元の「公民館」として福祉の町づくりにも貢献する。
 以上を目的に、三療業界各団体・学術団体、日盲連、都盲協、日盲社協、理教連、墨田区の地元2町内会が発起人となり、神社本殿の左隣に、鉄骨コンクリート2階建延べ床面積60坪の杉山和一資料館建設が計画された。事務所、多目的室、資料展示室からなり、臨床実習や講演・セミナーもできる施設だ。
 ところが募金活動が起動に乗りかかった矢先に、東日本大震災が勃発して、1年半に及ぶ募金活動の自粛を余儀なくされ、建設計画は大幅に遅れた。しかも震災復興事業に加え、国内経済のデフレ脱却を目指す「アベノミクス」が始まって建築費が高騰。さらに2014年4月1日の消費税値上げが追い打ちをかけ、神社本殿の景観を損なわず、耐火・耐震構造にする必要から安普請にはできないので、当初坪単価80万円で計画していたものが100万円となった。
 消費税を別にしても更地にするための解体工事費が285万円、建物工事費が5,550万円、別途、展示ケースや室内設備に初年度だけでも1,000万円かかる。一方、募金は今のところ4,000万円弱で、これに日本宝くじ協会から1,600万円の助成金を受ける予定だが、このままでは初年度1,700万円ほどの赤字となる。
 だが今後、東京オリンピック・パラリンピックによる建設ラッシュ、それに消費税が2017年に10%へ引き上げられる予定なので、建設を先送りすればするほど建設費は高騰する。そこで、見切り発車だが今年度建設という苦渋の決断をした。
 資料館の工事は、8月中旬より基礎工事を始め、10月初旬に棟上げ式、来年2月に完成し、3月に竣工式が行われる予定。
 それにつけても資金難で、和久田理事長は広く募金を呼びかけている。すべての寄付者名を芳名録に記録保存し、10万円以上の寄付者の氏名は銅板に刻印するという。募金先は郵便振替口座00190-5-281484、加入者名杉山和一記念館(資料館)建設募金。詳細は、鹿濱秋信常勤理事(03-3899-2383)へ。

編集ログ

 今号で日本点字図書館田中徹二理事長に、ペナン島での「盲青年サミット」の報告をしていただき、同氏夫人が翻訳した絵本を紹介しました。そして、この8月21日には、岩波書店から岩波新書『不可能を可能に ―― 点字の世界を駆けぬける』のタイトルで、田中徹二氏の著書が出版されました。価格は税込み842円で、絶賛発売中! 本誌編集部でも、読書の秋に向けて買わなくっちゃ。
 「国境を越えて学ぶ」の石田由香理さんの肩書が、今号からこれまでの「英サセックス大大学院(修士)」から「在フィリピン・ICAN職員」に変わりました。
 彼女は外務省インターン制度の選考に合格して、この6月中頃にマニラに渡り、外務省から給与されながら、フィリピンを拠点に活動する日本のNGOである認定NPO法人アイキャン(ICAN)で働きはじめたのです。
 ただ、この8月まではサセックス大学の修士課程に在籍していますから、一方では修士論文を書きながら、いわば二足の草鞋を履いているのです。若いとはいえ超人的な忙しさのはずなので、健康が気遣われます。
 彼女が勤務するアイキャン(ICAN)とは、International Children's Action Networkの略で、1994年に「アジア日本相互交流センター」の名称で発足し、危機的状況にあるフィリピンの子供たちの生活改善を行っているNGOです。
 ところで英国の修士課程は通常1年間ということを知らず、私はてっきり2年間と誤解して、1年前に石田さんに無駄骨を折らせてしまいました。外国に1年以上住むと「非居住者」となり原稿料の源泉徴収税が異なってくるので、あらかじめ税務署に手続きをしておかないと不利になるのです。が、このときばかりは、私のまったくの早とちりでした。(福山)

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