THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2015年7月号

第46巻7号(通巻第542号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:点字教科書の未来 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
アキレス・インターナショナル・ジャパン20周年記念行事を終えて ・・・・・・・・・・・
5
塩崎厚労相も列席 「日本のへそ」岐阜で日盲連大会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
教育は社会参加への第一歩 JICA研究所出版記念セミナーより ・・・・・・・・・・・
17
金4個、銀5個、銅2個と大活躍 
  「IBSAワールドゲームスソウル2015」テンピンボウリング報告
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23
お知らせ ヘレン・ケラー記念音楽コンクール出場者募集 ・・・・・・・・・・・・・・・・
30
近代盲人業権史 (9)マッカーサー旋風(1) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
仏眼協会盲学校へのレクイエム ― 空襲で消えた我が母校
  (18)読売に警官隊 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
自分が変わること (73)何もしない日々 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
リレーエッセイ:時と時計に想いを馳せて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
アフターセブン(4)全盲者の魚料理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (155)新大関照ノ富士の恵まれた稽古環境 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
国境を越えて学ぶ F悪循環 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:チャレンジ賞・サフラン賞受賞者決定、
  全柔連 視覚障害者柔道連盟を傘下に、脳卒中後遺症に貼り薬、
  絆創膏型人工皮膚 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:記念講演会、視覚障害者教養講座、ポランの会音声ガイド付き公演、
  ビッグ・アイ アートプロジェクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
点字教科書の未来

 6月13日(土)午後、日本点字図書館において「ほんとにこれでいいの、デジタル教科書 ―― 視覚障害児童・生徒の使用文字・点字の行く末」と題した教点連セミナーが開催された。
 これまでのマルチメディアデイジーには点字情報を付加することはできなかったが、日本点字図書館や筑波技術大学の研究のお陰で、ようやくその実現が緒に就いた。
 これで普通校にデジタル教科書が導入されるとき、視覚障害児も置いてきぼりを食わなくて済みそうである。しかし、視覚障害児用にピンディスプレイを備えた立派なデジタル教科書端末が配備されたとして、それで視覚障害教育は万全なのだろうか。
 どれだけハードが整っても、学校教育の基本は教師がいかに適切に児童・生徒を教え、指導できるかにかかっていることは論をまたない。
 点字を知らない教員が、視覚障害児に教えている現状がある以上、土台、竹に木を接ぐような話なのである。
 現在の点字教科書には通常のノンブル(ページ番号)とは別に、墨字原本のノンブルも記載されている。教師が「次は○○ページを開いてください」と言ったとき、それは墨字のページ数であるから、視覚障害児がわかるためである。これは統合教育校だけの話ではない。盲学校でも少数の例外を除けば、同様の授業が行われている。
 県立盲学校の普通科教員の中には、「どうせ2、3年しか盲学校には勤務しないのだから点字は覚える必要がない」と開き直っている人もいる。もちろん中には、点字を覚えて熱心に指導している教員もいるが、それは少数派だ。そのような名物教員も、数年たつと人事異動で惜しまれながら盲学校を去る。
 このような制度上の不備が改善されない限り、補助教材扱いのデジタル教科書を点字を知らない教師は便利な機器として使い、点字教科書を無視して、アリバイ的な授業を行うことは火を見るよりも明らかであろう。(福山)

金4個、銀5個、銅2個と大活躍
「IBSAワールドゲームスソウル2015」テンピンボウリング報告

 5月8日(木)〜17日(月)、IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)主催の「IBSAワールドゲームスソウル2015」が韓国・ソウルで行われた。その中で、視覚障害者ボウリング世界選手権を兼ねた「テンピンボウリング競技(注)」が京畿道(けいきどう)安養(アニャン)市の安養虎溪体育館にて正式種目として初めて行われた。

選手12人・役員7人

 今大会では、全日本視覚障害者ボウリング協会(BBCJ)の青松利明会長がテクニカル・デレゲート(TD・技術代表)として、佐藤紀子事務局長がアシスタント・テクニカル・デレゲートとして試合のマネジメントを行い、大会運営にあたった。
 参加国は、オーストラリア、ブルネイ、中華台北、チェコ、フィンランド、香港、イスラエル、日本、韓国、マレーシア、ポーランド、シンガポールの計12か国・地域であった。
 競技は選手の見え方の程度によって、B1(全盲)からB3の3つのクラスに分かれて行われ、参加選手数はB1が男子16人・女子6人、B2が男子21人・女子5人、B3が男子14人・女子6人の合計68人で、日本選手団は選手12人・役員7人であった。
 選手団一行はブラインドサッカーの日本選手団と共に、5月7日(木)に羽田空港を出発し、金浦国際空港からソウル市内のアロフトホテルに到着。このため翌日から試合会場のあるソウルのベッドタウンである人口62万人の安養市へは、毎日バスで1時間ほどかけて通った。
 5月8・9の両日は、眼科医による視機能検査によるクラス分けが行われたが、B3女子で登録していた岩下由美子選手が、B2クラスとなるハプニングもあったが、本人はすぐに気持ちを切り替えて試合に臨んだ。
 10日(日)は、公式練習とボール検量、それに開会式が行われた。
 11日(月)には公式練習と監督会議が行われた。続いてB1男子個人戦が行われ、森寛樹選手が予選を2位で通過し、準決勝でポーランド選手を、決勝で韓国選手を破り金メダルに輝き、さい先よいスタートを飾った。
 12日(火)はB2男子、B3男子、B1女子、B2女子、B3女子の各個人戦が行われた。B1女子個人戦では、井上智恵美選手が予選を2位で通過し、準決勝でポーランド選手を、決勝でオーストラリア選手を破り金メダルに輝き、さらに日本チームに弾みをつけた。
 B2男子個人戦では森透選手が予選を2位で通過し、準決勝で韓国選手を、決勝でポーランド選手を破って金メダルに輝いた。
 B2女子個人戦では岩下由美子選手が、予選を4位で通過し、準決勝で韓国選手に1ピン差で勝ち、決勝でフィンランド選手を破り金メダルに輝いた。
 B3女子個人戦では森澤亜希子選手が予選を3位で通過し、準決勝で香港選手を破ったが、決勝では惜しくもチェコ選手に1ピン及ばず銀メダルとなった。
 13日(水)は、B1+B2/3ダブルス戦、B2+B2ダブルス戦が行われ、B1+B2/3のカテゴリーで銅メダルを獲った。
 この日、IBSAジャニー・ハマショイ会長(デンマーク・全盲女性)が視察に来られたので、青松TDが手を取ってガイドレール等の説明をした。
 14日(木)の3人チーム戦は惜しくも銀メダルであったが、その決勝トーナメントでは、韓国のテレビ局による中継が行われた。
 15日(金)は4人チーム戦が行われ、井上智恵美選手(B1)、岩下由美子選手(B2)、森透選手(B2)、小林和明選手(B3)が参戦し、圧倒的な強さを誇る韓国相手に粘り強いゲームを展開したが、最終的には一歩及ばず、銀メダルとなった。ただ、日本チームの仲間はもちろんだが、中華台北、香港など、ほかの国も日本チームを応援してくれて盛り上がった。
 以上の成績から導かれるオールエベンツ(個人総合)は、B1女子では井上智恵美選手が銀メダル、B2女子では岩下由美子選手が銅メダル、B3女子では森澤亜希子選手が銀メダルを獲得した。
 16日(土)は他の競技を視察し、17日(日)に閉会式が行われ、18日(月)に現地をたち、午後2時過ぎに羽田空港に到着した。

大会を終えて

 青松利明BBCJ会長は、世界のレベルが上がってきている中で、日本選手団が金メダル4個、銀メダル5個、銅メダル2個と大活躍したことを喜びながら、それには幾つかの要因があると解説した。
 まず副会長の上野文雄監督のもと、ボウリング競技の専門家である山下知且・政時由尚両コーチによる適切なアドバイスにより、選手の力を最大限に発揮させることができたことがなにより大きかったという。
 両者ともナショナルチームの元キャプテンで、日本ボウリング界では知らぬ人のいない、競技者として輝かしい経歴を持つ指導者なのである。それに加え日本選手団はこの4年間、海外遠征や年3回の強化合宿を続けてきて着実に力をつけてきた。
 また、今回初めて帯同したチームドクターの青島優医師による選手の健康管理が行われたこと。役員である協会スタッフの木原大輔、金惠珍、鮫島千惠子の三氏が、適切に選手をサポートし、チームが一丸となって戦うことができたことも大きい。
 大会の前には、国立障害者リハビリテーションセンター病院の西田朋美眼科医長と林知茂眼科医師によるクラス分けのための診断や講習が行われ、安心して大会に出発できたこと。全日本ボウリング協会の配慮によりナショナルチームと色違い、同一デザインのユニフォームを着用することができ、選手も気持ちを引き締めて試合に臨むことができたことなどをあげて、関係者の方々に深く感謝したいと述べた。(編集部)
 (注)現在、世界中で行われているボウリングは、ピンの数が10本のテンピン・ボウリングである。しかし、東欧では、ピンの数が9本のナインピン・ボウリングが今でも行われており、実はIBSAの正式競技としてはテンピンより先に1997年に認められ、このためIBSAの競技には、ナインピンとテンピンの二つのボウリングがある。テンピン・ボウリングとは日本で普通に行われているボウリングのことで、ナインピン・ボウリング場は日本にはない。ボウリングの歴史は古く、ピンを災いや悪魔に見立てて、それを倒すことで災いなどから逃れるという宗教儀式として古代からあった。しかしピンの数や並べ方は地域によって違ったので、それを中世ドイツの宗教改革者・マルティン・ルター(1483〜1546)がピンを9本にし、並べ方もひし形に統一してナインピン・ボウリングが誕生した。17世紀になると多数の清教徒が移住した米国でもこのスポーツが盛んになったが、小ぶりのボールを鷲づかみして投げてもストライクがほとんど決まらず、面白さに欠けた。そこでピンの数を1本増やし、並べ方もプレイヤーに対して頂点を向けて正三角形にして、指を入れる穴を開けてボールも一回り大きくすることで、ストライクを決まりやすくした現代のテンピン・ボウリングが誕生した。

編集ログ

 附属盲の青松利明先生による「金4個、銀5個、銅2個と大活躍」の記事中、「テンピンボウリング」という聞き慣れない言葉が出てきたので、記事の最後に注釈をつけました。しかし、紙幅が足りず、ちょっと心残りがあります。
 それは、「テンピンボウリング」は、「テンピンズボウリング」と表記すべきところを、『点字ジャーナル』が、日本語風にわかりやすくするために複数の「ズ」を省略したものではなく、これが正式名称であるということです。
 IBSAのホームページでもTenpin Bowling(テンピンボウリング)と記載されており、英英辞書にもそうありました。ただし、米国とカナダでは「tenpins(テンピンズ)」と呼ぶこともあると書いてありましたので、英語が苦手な私も少し心安らいだ次第でした(笑い)。いずれにせよ、全日本視覚障害者ボウリング協会の大活躍おめでとうございます。
 5月13日・14日各報道機関は、「韓国の国家情報院は5月13日、北朝鮮の玄永哲人民武力相(国防相)が、金正恩第1書記の指示に口答えし、軍の行事で居眠りしたため4月末に処刑されたと明らかにした」と一斉に報じたので、驚いた方も多かったのではないでしょうか。そんな中『毎日新聞』だけが、「反逆罪が適用されているなら玄氏がクーデターを企てたと疑われる行動を取った可能性がある」とも報じていました。
 朝鮮半島情勢に詳しい早稲田大学の重村智計教授は、「いくら北朝鮮でも、居眠りと口答え程度で処刑にはしない。軍首脳処刑の理由はクーデター計画しかない」と断定していますが、常識的に考えればおそらくこれが真相でしょう。報道機関は情報を右から左へ垂れ流すだけでなく、ミスリードしないようにもう少し常識を働かせるべきなのかも知れません。他山の石として私たちも肝に銘じたいものです。(福山)

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