THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2015年5月号

第46巻5号(通巻第540号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:司直の常識と非常識 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(特別寄稿)仙台での国連防災世界会議に「障害者」加わる ・・・・・・・・・・・・・
5
熱気にあふれた二日間 〜モンゴルにSTTを紹介〜 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
(特別寄稿)ソロモン紀行 ―― 点字書籍を待つ視覚障害者たち ・・・・・・・・・・
19
(特別寄稿)僕が音声ガイド付電子ピアノを応援する理由 ・・・・・・・・・・・・・・・
27
近代盲人業権史  (7) 療術行為取締規則(1) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
仏眼協会盲学校へのレクイエム ― 空襲で消えた我が母校
  (16)竹町で聞いた玉音放送 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
自分が変わること (71)放射能は「未来の武器」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
リレーエッセイ:食わず嫌い 〜亡き夫へのレクイエムに替えて〜 ・・・・・・・・・・
47
アフターセブン(2)ゴミ御殿が解消されると ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
大相撲、記録の裏側・ホントはどうなの!?
  (153) 逸ノ城に先を越された“怪物”がついに覚醒 ― 照ノ富士 ・・・・・・
56
国境を越えて学ぶ D蜘蛛との共同生活 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
時代の風:視覚障害者用文字読み取りデバイス、親知らず細胞で歯周病治療、
  舌の汚れががんの原因に、さわれる歴史教材 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
65
伝言板:大阪で日中コラボコンサート、オンキヨー点字作文コンクール、
  リサイクル募金「きしゃぽん」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
68
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
司直の常識と非常識

 加害少年の権利は少年法によって手厚く守られる一方、被害者の権利はないがしろにされるような事例を挙げるまでもなく、司直は時として一般庶民の「日常感覚」とはかけ離れた判断をすることがある。それに加え、従来は地裁、高裁、最高裁とステップアップするたびに、その判決はさらに社会常識とかけ離れていった。
 ところが、近年、最高裁が立法府や行政庁に対して毅然とした判断を下したり、市民の共感を得やすい柔軟な解釈を示すことが多くなり、ひと頃とは逆転現象が起きているが、次に述べる4月9日の判決もその好例だろう。
 司直はこれまで、子どもが起こした事件・事故をめぐる訴訟では、ほぼ無条件に親の監督責任を認めてきたが、最高裁は「直接的な監視下にない子の行動について、親は予想できない事故にまで賠償責任はない」との初の判断を示した。
 この事故は2004年2月、愛媛県今治市の小学校の校庭で当時11歳の小学6年の男児がゴールに向けて蹴ったサッカーボールが高さ1.3mの門扉を越えて道路へ転がり、それを避けようとした通行中のバイクに乗った80代の男性が転倒して足を骨折。男性はその後寝たきりとなり約1年半後、誤嚥性肺炎で死亡。遺族が男児と両親を相手取って賠償を求め提訴し、一審の大阪地裁、二審の大阪高裁はともに「蹴り方次第でボールが道路に飛び出すことは予測できた」と男児の過失を認定。親権者である両親に約1,180万円の賠償を命じていた。
 プロの選手が蹴ったボールでも、ゴールを大きく越えて観客席に飛び込むことはよくある。サッカーはゴールに向けてボールを蹴るスポーツであるから、ゴールに向けてボールを蹴ったことが犯罪になるのなら、サッカーは禁止されてしかるべきである。ゴールと道路の位置関係に問題があるとすれば、それは小学校の管理責任を問うべきであり、児童に非があるはずがない。それを最高裁がやっと認めたわけだが、今回の判断は、このような不条理な司法の流れを変える里程標となるのであろうか?(福山)

(特別寄稿)
僕が音声ガイド付電子ピアノを応援する理由

在ニューヨーク・ピアニスト/加納洋

すでに三十数年ニューヨークに住んでいる僕は、日本への帰省や仕事で海外へ出かける時はもちろん、米国内の移動にも飛行機を利用することが多い。その飛行機の座席に備えつけられている個人用テレビは、画面をタッチしてメニューや映画を選ぶものがほとんどである。目の見える人にとって便利な画面タッチ方式のテレビは、当然、全盲の僕には使えない。
一方、アップル製スマートフォンの「アイフォン」やタブレット型パソコンの「アイパッド」も、同じように画面上をタッチして使う。しかし、こちらはスクリーンリーダーの「ボイスオーバー」を使うことで、全盲でも簡単に使うことができる。
20年以上も前の話だが、僕はニューヨークで電子ピアノを買った。当時の電子ピアノはボタン操作だけであったが、そのボタンも10個ほどで、それでできる機能といえば、楽器の音色を変えることくらいで、今から思うととてもシンプルなものであった。そして、全盲であっても操作になんの支障もなかった。
 ところが、10年ほど前から、仕事で使うシンセサイザーや電子ピアノといった電子楽器なども、画面上をタッチして操作するものが出回るようになった。楽器の場合は、ボタンやダイヤルの操作で音色の変化が確認できるので、画面が見えなくても使うことが可能だ。しかし、画面上の操作だけで、こうした電子楽器を使うことは、視覚障害者にとっては難しい。
そんな時僕は、楽器メーカーのヤマハ株式会社のSさんと知り合う機会があった。彼は「ヤマハの電子ピアノ、クラビノーバには画面タッチで操作するものもあります。これを視覚障害者の方にも使って頂けるようにしたいと考えているんです」と言った。
その話に興味を覚え、僕は何度かお会いして、実際にクラビノーバを試させてもらった。
ヤマハのクラビノーバCVP-609と普及タイプのCVP-605は、88鍵の鍵盤の前面に操作パネルがある。そこには、たくさんのボタンと、中央に画面をタッチして操作するディスプレイがある。この操作パネルを視覚障害者が使いこなすのはなかなか難しいが、ヤマハは音声ガイドによって、この操作パネルを視覚障害者でも使えるようにした。
 音声ガイドを使うには、ヤマハのサイト(「CVP-609のダウンロード」で検索)から無料ファイルをダウンロードし、空き容量2GB以上のUSBメモリスティックにインストールする。そのメモリスティックをクラビノーバ本体にあるUSBコネクタに差し込むと、音声ガイドが使用できるのだ。
こうして操作パネルのボタンを押すと、そのボタン名を音声で教えてくれる。そして、ディスプレイ上を指で触ると、触っている場所のメニューや楽器名を音声で知らせてくれる。
  ディスプレイ左側にある「アサイナブル(割当可能)ボタン4」を押しながら、他のボタンを押したり、画面に触れたりすると、音声ガイドは名前を読み上げるが、機能は実行されない。このときは、左右に内蔵されているステレオスピーカーの中央から音声ガイドが聞こえてくる。
アサイナブルボタン4を離して、ボタンや画面に触れると、右側のスピーカーだけから音声ガイドが聞こえ、機能が実行されるのだ。アサイナブルボタン4を使う代わりに、ピアノの左ペダルを踏むことで同じ操作ができる。両手で操作パネルを使いたい場合には便利である。
ディスプレイ上に表示されている楽器のカテゴリー名、サブカテゴリー名、楽器名(各種ボイス名)など、文字情報を音声ガイドが読み上げてくれる。ディスプレイ上に表示された楽器名やメニューを指でたどっていくとき、慣れないうちは飛ばしてしまったり、知らないうちに行が変わっていたりして、難しそうにも思えるが、ディスプレイ上の文字情報の配列を理解してしまえば、やがて慣れてきて、音声ガイドで画面を読んで行ける。
内蔵ソングを選んだり、メトロノーム機能を使ったり、自分の演奏を録音したりといった機能も、音声ガイドによる画面操作とボタン操作でできる。
僕は1970年代からシンセサイザーを使っているが、当時はアナログで、操作パネルのダイヤルやボタン操作で簡単に使えた。ボタンの凹凸がないシンセサイザーもあったが、点字シールを貼って対応した。
デジタル機器が発売され、あっという間に主流になった。画面表示が見えない我々にとって、デジタルによるディスプレイ表示は大きなバリアになったが、ボタン操作で音色を変える程度の操作は使いこなしてきた。しかし、操作のすべてが画面タッチになると、視覚障害者はお手上げである。
ヤマハの試みは、現段階では、ディスプレイ上のすべての機能を視覚障害者が使えるとはまだ言えない。使いこなす難しさもあるかもしれない。しかし、多くの視覚障害者がシンセサイザーや電子ピアノで音楽を楽しめるようになるための貴重な一歩だと思う。そこで今後も、努力と改良を続けていって欲しいと願い、及ばずながら僕はこれからも応援したいと思っている。
ヤマハクラビノーバCVP-609と同605の音声ガイドについての問い合わせは、ヤマハお客様コミュニケーションセンター(http://jp.yamaha.com/support/musical-instruments/digitalpianos)電話0570-006-808へ。
 なお、CVP-609のメーカー希望小売価格は530,000円(税別)で、CVP-605のメーカー希望小売価格は320,000円(税別)である。

編集ログ

石田由香理さんより

 西村幹子先生と私の岩波ジュニア新書『〈できること〉の見つけ方――全盲女子大生が手に入れた大切なもの』が、厚生労働省の“子供たちに読んでほしい本”「児童福祉文化財 推薦作品」の一つに選ばれました。各都道府県の教育委員会などに通知されるので、各学校の課題図書に選ばれやすくなります。
 この推薦作品に選ばれた本は、幼児向けの絵本なども含めて今年度30冊ほどみたいです。岩波ジュニア新書だけでも年に40冊ほど出版されて、世の中には毎週10タイトルほど新しい本が出るといわれている中で、年間30冊に選んでいただいたのは大変光栄なことで嬉しいです。

編集長から

 厚労省のホームページで公開されている「平成26年度第42回社会保障審議会児童福祉文化財 推薦作品一覧(出版物委員会)」を見ました。正確には29冊でしたね。「対象 中学生・高校生」の中に、たしかに石田さんの本もありました。でかした由香理ちゃん、おめでとう。これでロングセラー間違いなしだね。めざせ! 印税生活(笑い)。
 「自分が変わること」で、藤原さんの「現代人の問いで過去の時代の個人の思いを分析しても、明答は得られない。その時代の精神、空気により近づき、淡々とその人物をつづる必要を感じた」に深く共鳴すると同時に、触発されて思い出したことがあります。昭和30年生まれの私は、米ソの核実験が盛んだった頃小学生で、当時、許容範囲を超えた放射線が降る下で暮らしており、「雨に濡れるとはげる」と母親に脅されていました。一方、10万馬力の超小型原子力エンジンで動く鉄腕アトムに未来を見いだしてもいたのでした。高度経済成長の只中で、私たちは平時の1万倍にも上る放射能を浴びていたらしいのですが、母親の懸念や際立った自覚症状は還暦の今もまだありません。(福山)

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