THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2014年7月号

第45巻7号(通巻第530号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:吉本隆明の遺言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
お知らせ ヘレン・ケラー記念音楽コンクール出場者募集! ・・・・・・・・・・・・・・・
5
組織の将来像を議論 ―― 第67回日盲連大分大会報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・
6
仏眼協会盲学校へのレクイエム ― 空襲で消えた我が母校
  (6)イザボー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
自分が変わること:赤瀬川さんの文体 その2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
(納涼企画)あるサーフィン人生 ―― 1969年の波乗り事始め ・・・・・・・・・・・・・
24
(特別寄稿)どう生きる、豊かな老後とは?
  ―― 高齢社会の中の視覚障害者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
34
教育における合理的配慮とは ―― 教点連セミナー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
読書人のおしゃべり:女ひとり海外で働いてます! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
リレーエッセイ:留学生の思いに引っ張られて 
  〜善意の支援から組織的な支援へ〜 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
外国語放浪記:水当たり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
大相撲:史上初! 親子で新入幕三賞獲得の快挙 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
フィリピン留学記:点字使用大学生たちの体験(上) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:筑波技大「情報保障学」専攻を開設、チャレンジ賞・サフラン賞決定、
  千葉県内のホームドア設置わずか10駅、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:和波たかよしサマーコンサート、第20回NHKハート展、他 ・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
吉本隆明の遺言

 中高年の方には、有職読みの「吉本りゅうめい」の方が通りがいいかも知れない。若い世代には「小説家よしもとばななや漫画家ハルノ宵子のお父さんだよ」と言ったらピンとくるのだろうか。詩人・評論家で「戦後最大の思想家」と称される同氏が亡くなったのは2012年3月16日であった。享年87。
 「特集ワイド 巨大地震の衝撃・日本よ!」のタイトルで、2011年5月27日付『毎日新聞』(夕刊)に同氏のインタビュー記事が掲載された。その中で、同氏は「技術や頭脳は高度になることはあっても、元に戻ったり、退歩することはあり得ない。原発をやめてしまえば新たな核技術もその成果も何もなくなってしまう。今のところ、事故を防ぐ技術を発達させるしかない」と述べ、東日本大震災と福島の原発事故で激しく動揺していた私は心の平安を取り戻した。
 同氏はさらに「原発をやめる、という選択は考えられない」と『日経新聞』2011年8月5日付(朝刊)のインタビュー記事でも述べている。
 死の直前と言ってもいい時期、『週刊新潮』2012年新年特別号では、「原発を捨て自然エネルギーが取って代わるべきだという議論もありますが、それこそ、文明に逆行する行為」と反原発を厳しく批判して、自民党でさえ脱原発を表明していた時期に、さらに物議を醸し、ゴウゴウたる非難を浴びた。
 「知識や科学技術に退歩はない」という真理は必ずしも同氏の独創ではない。多くの人々が同工異曲にこのことを述べている。荒地派詩人で同氏の先輩筋にあたる鮎川信夫(1920〜1986)も『週刊文春』の連載コラムで、その昔、同様の発言をしていた。
 先月号の本欄「脱原発という妄想を暴く映画」に対して感情的な反発が電話やメールでいくらかあったので、以上のようなことを思い出した。
 『週刊新潮』の記事は、「僕は力の限り、能力の限り、自分の考えはこうだということを書くし、述べるだろう」で終わっている。(福山)

教育における合理的配慮とは
―― 教点連セミナー ――

 6月7日(土)、東京・高田馬場の日本点字図書館で、全国視覚障害児童・生徒用教科書点訳連絡会(教点連)の平成26年度第1回セミナーが開催され、点訳ボランティアら約50名が参加した。今回は、今年1月の障害者権利条約批准を受け、教育現場における「合理的配慮」について講演が行われた。
 まず、東京大学教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター専任講師の星加良司氏が、「合理的配慮とは何か〜自身の体験から」と題して講演を行い、障害者権利条約・障害者差別解消法における合理的配慮に関して解説した。星加氏は昭和50年(1975)愛媛県生まれで、5歳時に失明。小学校は県内の一般校に入学する。これは当時県内では前例のなかった統合(インクルーシブ)教育であり、学校側から点字教材は用意されなかった。最初は母親が点訳していたが、学年が上がるにつれて限界となり、点訳ボランティアグループ連絡会(神戸市)などのボランティアサークルに協力を求めるようになる。周囲の善意の支援がなければ成り立たない「障害者を振り分ける社会」に対して疑問を感じ、東京大学進学後「障害学」「バリアフリー」を研究テーマにし今に至る。
 合理的配慮について星加氏は「障害者側から必要な配慮内容を申し出、提供者側がそれに可能な範囲で個別的に対応する」ことが、提供プロセスの基本となると話す。ただし、配慮内容について障害者側から具体案を示せない場合でも、困っている事情を伝えるだけでもよい。また、そのような場合は提供者側から実施可能な措置を示すなどの対応が望ましい。障害者・提供者双方に個別の事情があることを踏まえた「申し出」と「話し合い」が重要である。
 また、教育現場において合理的配慮を確保することは、当事者参加の社会改革を進める上で大きなポイントとなる。社会を変えてゆくための能力は、アクセシビリティが保障された教育課程を基盤として育まれる。合理的配慮が法的枠組みの中で義務として位置づけられることで、提供者の「善意」に頼らない障害者の「権利性」を主張できると述べた。
 会場からは、文部科学省が合理的配慮として、実際に教科書製作の労力をも負担することはありえるのかという質問が出された。これに対し星加氏は、「現行法では過重負担となるが、仮に教点連で教科書製作を負担できなくなった場合、合理的配慮として行政が製作を負担しなければならない」とし、行政側の負担についても解説した。
 続いて、教点連理事加藤俊和氏が、今年3月に出版された、手引書『教科書点訳の手引』(教点連、2014)について解説した。本書は、文科省著作教科書も含めた教科書点訳について詳述しており、同省ホームページ上で公開されている編集資料では網羅しきれない部分にまで言及している画期的なガイドである。点字版は現在製作中である。本書の構成は、第1部が「基本編」となり、各教科に共通する基本事項(教科書の仕様・触図作成上の注意など)を紹介している。第2部は「教科別要点編」となり、国語、算数・数学、理科、社会、英語の5教科の編集基本方針やレイアウトなどの解説を載せている。
 合理的配慮の一例として、漢文学習時の漢字・書き下し文のレイアウトや、墨字で解答のページ数・行数等が指定された際の点字への換算方法などを詳しく解説している。教科別では、触図を中心に問題点と対処法を紹介。理科では、サーモフォームによる心臓のつくり、全身の骨格図などを取り上げている。
 いずれの教科も、原本のままでは分かりづらい視覚的情報を補うため、図の簡略化や説明の付加など、様々な配慮が行われている。
 しかし、本書に挙げた例をそのまま一般の教科書点訳に使うことは難しいが、「こういう点訳例がある」ということを意識して製作してもらいたいと述べ、点訳時の配慮について理解を求めた。(丸山旅人)

読書人のおしゃべり
女ひとり海外で働いてます!

 2007年に日本テレビ系列で放送された綾瀬はるか主演で大ヒットしたテレビドラマに「ホタルノヒカリ」がある。2010年には続編の「ホタルノヒカリ2」が放送されたり、やはり綾瀬主演で映画化もされているので、ご存じの方も多いかも知れない。
 原作は同名の少女漫画で、作者はひうら・さとるという女性である。彼女がレポーター役で、取材クルーとともにアジア各地で活躍する“なでしこさん”を訪ね歩き、本音あふれる“女子トーク”を展開しながら、彼女たちの素顔にせまるNHKのテレビ番組がある。NHK BS1で放送されているドキュメンタリー番組「アジアで花咲け!なでしこたち」がそれである。2012年にスタートしたシリーズで、第5弾がこの春放送された。
 4人のアジアで働く日本人女性を取り上げたものだが、3月6日(木)午後11時20分から「タイ 本で開け 世界の扉」と題して放送されたのは、タイ北部の小さな町・プラオに単身暮らしながら、読書の機会が少ない子供たちに本を届ける活動を続けている全盲の女性堀内佳美さん(30)のエネルギッシュな活動を紹介したものであった。
 『女ひとり海外で働いてます! ―― ひうらさとるのアジアで花咲け!なでしこたち ――』ひうら・さとる&NHK取材班著、(株)カドカワ(旧・角川書店)刊、税別定価1,000円は、このNHKで放送された番組内で使用した原稿に、大幅な漫画の描き下ろしを加えた単行本である。このため半分は漫画で構成されており、別途写真も多用されているいまどきのコミックエッセイである。
 堀内佳美さんの活動については本誌でも事ある毎に紹介してきたが、他の3人は、カンボジアで湖上生活者の命に寄り添う看護師の前原とよみさん(39)、モンゴルから世界を目指すファッションブランドを経営する鈴木亜衣子さん(36)、マレーシアで子どもの遊び場事業を展開する木村希さん(25)で誰もがイキイキと輝いているのが特長で、これもいまどき風。(福山)

編集ログ

 大勢に逆らうようなことを、大上段に振りかぶることなく、淡々と語ることはとても難しいことです。しかも、それを最期まで徹底してやりぬいて、微動だにしないのは偉大な精神だと思い、今更ながらではありますが、今号の巻頭コラムを書きました。
 いうは易く、とても真似のできることではありません。私達は先月号のように映画評に仮託して、びくびくしながら遠慮がちに訥々と述べるのが精一杯です。
 ドイツは国策として20年も前から、太陽光発電だけでも18兆円という途方もない費用をかけて、再生可能エネルギー導入を進めてきました。その結果、太陽光で賄われているエネルギーは現在全体の5%、風力も7%に過ぎず、実質は破綻しています。それを元首相2人が知らないとしたら無責任なばかりか、いくらなんでもナイーブ過ぎるし、それを知りながら格好良く大勢に迎合して、自然エネルギー推進会議をぶち上げたとしたら悪辣過ぎます。
 今回の「読書人のおしゃべり」は、「コミックエッセイ」という、点字書籍や録音書籍にとてもなりにくい媒体をあえてとりあげました。むろん、その心は堀内佳美さんという、私達が応援している年若い全盲の女性が紹介されているからです。
 すると、本稿の出稿間際に嬉しいニュースが飛び込んできました。タイ国の片田舎で、「アークどこでも本読み隊(ARC)」という移動図書館事業を行う彼女が、視覚障害者支援総合センターの第12回サフラン賞に決定したのです。
 2010年に堀内さんが立ち上げたARCの精力的な活動は、タイ政府も認めるところとなり、今年の2月7日には法人としても認可されたので、まことに時宜を得た受賞となりました。
 第12回チャレンジ賞も当協会とも縁の深いフルート奏者の綱川泰典さんに決まりました。詳しくは、今号の「時代の風」に記した通りです。おめでとうございます。(福山)

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