THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2014年5月号

第45巻5号(通巻第528号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:靖国参拝の代償 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
竹下義樹会長が続投 ― 日盲連定期評議員会 ― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
私の仕事はケンカです 
  閉ざされた国・北朝鮮で聴覚・視覚障害者を支援するロバートさん ・・・・・・
9
仏眼協会盲学校へのレクイエム ― 空襲で消えた我が母校
  (4)新聞社の福祉(慈善)事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
21
ラジオが告げたあの時・あの人
  「盲人の時間」から50年:(最終回)放送人として半世紀 ・・・・・・・・・・・・・・
26
自分が変わること:ある悪意のスケッチ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
「盲人の時間」50周年記念祝賀会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
スモールトーク:心の予防接種 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
カフェパウゼ:クリープとハイデッガー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
リレーエッセイ:経済発展著しいインドネシア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
外国語放浪記:笑顔も観光資源 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
大相撲:新横綱鶴竜 重い命題を背負った遠藤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
フィリピン留学記:フィリピンにおける視覚障害児教育の歩みと課題 ・・・・・・・・
59
時代の風:愛教大が視覚障害教育専門教員養成へ、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
伝言板:第7回シティ・ライツ映画祭、オンキヨー点字作文コンクール、
  身体でみる異文化の世界  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
靖国参拝の代償

 安倍晋三首相は、第1次安倍内閣のときに「(靖国神社に)参拝する、しないは言わない」と言って、小泉前首相の靖国神社参拝問題のために途絶えていた中国、韓国への訪問を行い、冷却化していた日中・日韓関係の改善を行った。
 当時、私は鮮やかなその手腕に脱帽したので、昨年(2013)暮れ、安倍首相が電撃的に靖国神社に参拝したと聞いたときは驚き鼻白んだ。
 中国、韓国が反発したのは織り込み済みだとしても、米国が「失望した」との声明を出したのは、やはり信義にもとると感じたからではないか?
 その後伊藤博文を暗殺した安重根の記念館が中国のハルビン駅に建設され、日中戦争時に強制連行されたとされる中国人被害者や遺族が日本企業に損害賠償を求めた訴状を北京市の裁判所が受理した。また、米『ニューヨーク・タイムズ』は「安倍首相の危険な修正主義」と題した社説を掲げ、米AP通信も「靖国参拝は安倍首相の国家主義的、歴史修正主義的な傾向への懸念をよみがえらせた」と配信した。
 靖国神社問題を蒸し返すよりも日本にとってはもっと重要な外交課題がある。戦時中の慰安婦は、国連により日本軍による性奴隷とされているが、その有力な根拠に河野談話がある。このため米国各地で慰安婦像が建てられ、現地で暮らす日本の子供たちはいじめられている。
 2月に国会で河野談話作成時に事務方トップだった石原信雄元官房副長官が、慰安婦証言の裏付け調査は行わなかったと答弁し、1990年代に韓国で慰安婦の実態調査を行った安秉直(アン・ビョンジク)ソウル大学名誉教授は、『週刊文春』4月10日号で「河野談話はおかしい」と証言している。
 それなのに安倍首相は3月の衆院本会議で、慰安婦問題をめぐる1993年の河野官房長官談話について「見直すことは考えていない」と述べたが、政治的課題の優先順位はこれでいいのだろうか?(福山)

カフェパウゼ
クリープとハイデッガー

 今は絶版だが、以前当協会から『世界の大思想』(全24タイトル・339巻、1993年完成)という点字書シリーズが発行されていた。
 その中にはドイツの哲学者マルティン・ハイデッガー(1889〜1976)著『存在と時間』もあった。それを点字図書館で読んで感銘を受けた知人が、「原書の点字版を入手して欲しい」と言ってきた。
 そこで、ライプツィヒにある1894年開館の世界でも有数の点字図書館であるドイツ中央盲人図書館に電話した。すると「電話による問い合わせは15時半で終了致しました」との留守電が流れ、一方的に切られた。しばし呆然としたが、気を取り直してメールで問い合わせると、担当者から「当館にはありませんが、マールブルクにあるドイツ盲人教育研究所(ブリスタ)の点字図書目録に掲載されています」との返信があった。
 そこでブリスタにメールを打ったが、待てど暮らせどなしのつぶてで、しびれを切らして電話をかけた。するとインターンの学生らしい女性が出た。そこで要件を述べると、キーボードを叩く音がして「『存在と時間』は蔵書目録にも、出版目録にもありません」との返事で、僕は狐につままれた気持ちになった。
 世界的な哲学者の代表作が、本家本元の点字図書館には1冊も存在しないとはどういうことだろうか?
 一計を案じた僕は、「ドイツ語点字変換ソフト」を入手して、ドイツ語のテキストから点訳して、この件は落着した。おそらくドイツの点字使用者も、近年は、哲学書や専門書など読者の少ない著作は、点字図書館に頼らないで、自分でテキストから点訳しているのだろう。その方が精神衛生上もいいし、なにより時間の節約になる。
 だが、昭和の御代に「クリープを入れないコーヒーなんて」というテレビコマーシャルが一世を風靡した。それが僕の脳裏に浮かび、テーマ音楽「ダバダー ダバダー ダー」と共に、「ハイデッガーの無い点字図書館なんて・・・」という言葉が口をついて、ちょっと寂しい気分になった。(戸塚辰永)


編集ログ

 今号の「巻頭コラム」で問題にした慰安婦について、当時のことを調べもしないで論争するのは不誠実な態度だと思われます。戦時中の原資料にあたるには、「アジア歴史資料センター」にアクセスして、インターネットを通じて閲覧するのが手軽で便利です。村山富市首相(当時)が戦後50周年を記念して作った同センターは、国立公文書館が運営する信頼性の高いサイトです。
 ろう者の当事者団体が、「手話は言語である」と強く主張していることは以前から聞いていました。しかし、それは実感が伴わない、半信半疑のぼんやりした知識でしかありませんでした。
 ところが、ろう者のドイツ人青年ロバートが当協会を訪れ、アメリカ手話で語り、日本人の若い難聴の女性がそれを日本語にする過程を目撃していて、なるほど、手話は言語なのだと深く納得した次第です。
 その理由の1つは、ろう者のドイツ人青年が口話がまったくできなかった背景に、4代にわたって彼の家族は手話を言語としてきたということがあり、彼の母語が手話であることがよく理解できたことです。また、日本人の若い難聴の女性は、アメリカ手話は縦横に操るのですが、書いたり、しゃべったりする普通の英語は驚くほど苦手であったことで、英会話とアメリカ手話がまったく別の言語であることがよくわかりました。
 インタビューの日、ロバートと難聴の女性は道に迷って1時間も遅刻しました。聴覚障害者は口話によるコミュニケーションが苦手なため、道を聞くことができないのです。しかし、到着後はエネルギッシュに、北朝鮮の視覚障害者が置かれている状況について語りました。しかも彼は中国語が堪能で、北朝鮮の点字出版所のある地名を「光明(カンミョン)」と達筆な漢字で書いたのでした。希望を表す「光が明るい」と書くこの地名は、点字出版所が出来たことによるのではないかと私は推測したのですが、その確証は得られませんでした。(福山)

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