1月16日、浜松市内の小学校14校の児童905人と教員41人が下痢や嘔吐などの症状を訴える集団食中毒が起きた。原因のノロウイルスは、製パン会社で食パンに異物混入がないか調べるための検品時に付着した可能性が高い。検品は、焦げ目や油かすの付着がないか調べるためのもので、担当者が焼き上がったパンの裏表を1枚ずつ目視確認していた。
日本パン工業会によると、「手で触ると汚染される可能性があるので、基本は手で触らないこと。大量生産のパンの場合、通常は製造から包装まで人の手を介さないシステムになっている」と述べ、スーパーやコンビニに卸すパンの場合、焼き上がったパンを1つずつ検品することはないという。
給食には保護者からいろいろな意見が寄せられることもあり、学校給食用物資を各都道府県内の給食実施校に供給する各都道府県の学校給食会は異物混入に神経質になっている。そこで静岡県ではパン1枚ずつの検品という過剰な対応になったようである。
学校給食の大前提は、絶対集団食中毒を起こさないことである。人の手は1番の汚染源になり得るものだけに、食の安全を考えれば、なるべく人が触らないのが大原則だ。集団食中毒のリスクを負ってまで、健康にまったく影響のない焦げ目や油かすの付着を調べるのは衛生管理の本末転倒ではないか。
昨年9月、岐阜県可児市で給食のパン生地に0.5〜2mmのコバエが付着。それを知らずに焼成したので、黒い異物として残った。可児市学校給食センターは健康上問題がないので児童生徒に対して、「異物を取り除いて食べる」ように指導したが、これが市議会で問題となり、市教委が陳謝する事態になった。
完全な潔癖を求めるこんな集団ヒステリーが、今回のような集団食中毒の遠因となったとは考えられないだろうか? 水清ければ魚棲まずである。(福山)
「48uの宝箱」は、わが国の視覚障害教育にとって“生きたアーカイブス”である。過去を懐かしみ、その輝きを讃えるだけでは、それを活かすことにならない。今日的な素材や技術に基づく教材・教具の中にそれが生きていること、先人の知恵や創意のなかには我々が及ばない高みもあったことなどを知り、指導法や教育条件をいっそう改善・改革するうえでの参考としたい。さまざまな事情から、盲学校現場では伝承が痩せつつある。それを補って余りある価値を宝物の1点1点が内包している。
3年間に亘って宝箱の蓋を開け、明治期の史料を中心に紹介してきた。歴史と現在、さらに未来を研ぐため、広範な閲覧・研究に期待したい。そのためにも、保存環境の整備、文書・写真・音のデジタル化に力を尽くさねばならない。日本盲教育史研究会、世界のアーカイビストとの連携も念頭においていく必要があるだろう。
今回は35年前に作製されたタイムカプセルを取り上げる。それは1979年、盲聾教育100周年記念事業の一環として全国盲学校長会が作り、京都府立盲学校に保存を委託した。“昭和の宝箱”と位置付けてもよいだろう。現在、校長室に保管されている。そこに添えられたメッセージ全文を書き写したい。
「百年後の視覚障害教育担当者へおくるメッセージ」
いまから数えて百年の後に視覚障害教育を担当されている方々に対し心からの親愛をこめて、このメッセージをおくります。
全国盲学校長会が盲教育創始百年を記念して行ったこの「タイムカプセル事業」は、わが国の盲学校教育の現状と実態を多角的に把握し各分野、領域毎に集めた資料を収納して毀損することなく、これを百年の後に伝えようとするものであります。
あなた方が百年の後にこれを開披されて、今日の盲学校教育の姿を、より克明にまた正確に御理解くださることを願ってやみません。さらにこれがあなた方のお仕事の上に少しでも役立つことがあれば望外の喜びであります。
私共は「温故知新」を生活の信条とし、つねに先人の業績をたずねてその中から多くを学びとってきました。このたび盲教育創始百年を記念する事業の選択にあたり、全会員が期せずしてこの「タイムカプセル事業」を志向したのも、こうした考えに基くものであり、また先人の貴重な研究成果の散逸に苦渋を味わってきたからであります。
私共は幾度となく討議を尽くし、各地区毎に分野領域を担当して資料を選択し収納の作業にあたりました。しかし、作業日数及び割当容積の制限もあって自己満足できる仕上がりとはなりませんでしたが、どうぞ意のある所をおくみ取りください。
ところで百年の時の流れのかなたには私共のメンバーは誰一人としてこの世にはいません。またその時に盲学校という教育機関が存置されているものか、盲学校長会の組織が存続されているものか、すべて私共の予測をこえたものです。しかしながら視覚障害者が存在する限りこの人たちへの教育の道が豊かに開かれていることを信じて疑いません。百年の後より崇高な理念のもとに、優れた理論と技術で整備された視覚障害教育の姿を思い描くとき胸のときめきを覚えずにはいられないのです。それだけに創始以来百年の風雪を歩みおえたこの教育を赤裸々にお伝えするのが私共の務めであると考えた次第です。
視覚障害者に限りない愛情をそそぎ、その幸せと自立のために全力を尽くす。これが百年前から今日まで変ることのない盲学校教師の使命であり倫理でありました。百年後もそうであることを信じ、みなさん方の御健闘を願ってやみません。
終りにこの事業のために各盲学校の多くの教職員が献身的に協力したことと、京都府立盲学校の絶大な配慮があったことを申添えておきます。ではあなた方とあなた方の教え子たちの御多幸をお祈りして筆をおきます。
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タイムカプセル
(写真は著者のご要望により、ホームページに限り掲載しています)
2月1日(土)、東京・四ツ谷の幼きイエス会(ニコラ・バレ)で、アイダス協会(会長・長岡英司筑波技術大学教授)は、「情報アクセス支援の今日的あり方を探る」をテーマに会員等70人を集め研修会を開いた。
午前の本音で生討論「読書バリアフリーを改めて考える」では、基調講演に立った読書工房の成松一郎氏が「電子書籍のアクセシビリティに関する最新動向」を紹介。これまで出版社は電子書籍に後ろ向きだったが、米ネットショッピングアマゾンの電子書籍リーダー「キンドル」が普及し、文字の拡大やフォントの選択ができるようになり、ロービジョンの読書環境が改善された。また、タブレットパソコンやアイフォンの読み上げ機能を利用して、音声での読書も可能になった。活字本の出版と同時に電子書籍を購入し、読書ができるようになったことは画期的なこと。ボランティアが活字本のテキストデータ化を行い、「サピエ」にデータをアップしている。今年日本が障害者権利条約を批准したことで、読書権の保障という観点から電子書籍化に消極的な出版社や作家に要望を伝えて行き続けることが大切だと訴えた。
続いて、サピエ図書館のサーバーを管理する日本点字図書館の杉山雅章氏が、サピエ図書館の利用で、最近テキストデイジーの利用者数が倍増している。特に社会科学、自然科学などの専門書のテキストデイジー作成が進んでいる。現在、日本IBM、東京大学、メディアドライブが、ウェブ上の「クラウド」を活用したテキストデイジー化の実験を行っている。これは利用者が購入した本をOCRで読み取ってデータをクラウドにアップし、複数のボランティアが分担して校正して、早ければ2週間ちょっとでテキストデイジーが完成するというもの。また、サピエと国会図書館の連携について、これまで、国会図書館の録音データを利用するには、公共図書館に行き利用登録する必要があった。これをサピエから国会図書館にリクエストを出して、国会図書館で製作した音訳図書であれば、直接利用者に送付できるように改善された。杉山氏は、「国会図書館が持つデータのストリーミングやダウンロードサービスをこの夏前までにスタートさせたい」と述べた。
日本点字技能士協会の中山敬氏は、点字技能士は読書のための点字だけでなく生活の中の点字も考えており、専門性と多様性が求められていると語った。
七沢更生ライトホームで点字、デイジー機器、パソコンなどのコミュニケーション手段を指導している矢部健三氏は、同ホームの利用者の4割近くが60歳以上で、視覚障害に他の障害を持つ人も多いという。3年間に39人が点字を習ったが、1ページを10分以内で読める人は5人のみ。デイジー操作では、利用者の3割が受講し、その内約6割の人がデイジー機器を使い読書をしている。また、パソコン指導では、2割の人がインターネットで検索できるようになった。情報コミュニケーション技術の進歩に伴い、個々のニーズに合わせた指導法も考えていかねばならないと述べた。
午後からは、「私のアイフォン活用術」をテーマに、ロービジョンや全盲ユーザーが登壇し、それぞれの活用法を実演した。司会の日本ライトハウスの岡田弥氏は、(1)アイフォンは指でのジェスチャーが複雑で、習熟しないと使いこなせない。(2)製造元のアップル社が、目で直感的にわかりやすいアプリの作成を要求しており、音声読み上げユーザーに使えないアプリも増えている。(3)アイフォンやアイパッドのサポートは、ボランティアに頼ることが多く、アップル社の電話サポートで十分なサポートを受けられるか疑問だと指摘した。
休憩後、国立特別支援教育総合研究所(特総研)の大内進氏の司会で、「最近のホットな話題」として、JTRの新型点字プリンター「ESA600G」とKGSの「ブレイルメモスマート16」の実演が行われた。
大内氏は、これまでの点字プリンターは点のサイズが1つしかなく、作図に難があったが、新点字プリンターは大中小のサイズの点で作図ができる。また、グラフなどの作成に必要な裏打ちも可能になったと評価。さらに、点字作図ソフト「エーデル600G」も無料配布されるという。
「ブレイルメモスマート16」は、点字・漢字かな混じり文作成機能、デイジープレイヤーを搭載している。見合わせていた受注を今年1月20日から再開した。フロアーからは、もっとシンプルな機能で安価なものをとの要望が出された。
最後に、定年退官を機に大内氏は、「手と目でみる教材ライブラリー」を今春4月、高田馬場にオープンすると発表。きっかけは岩手盲元教諭の桜井政太郎氏の手でみる博物館を見学したこと。イタリアのアンテロス美術館(手でみる美術館)の「モナリザ」と「最後の晩餐」のレプリカ、加えて葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖波裏」のレプリカを触って鑑賞するコーナー、視覚障害者用教材・教具、点字指導教材、手でみる絵本などを展示するコーナーを準備している。引き続き特総研に勤務するので、ライブラリーは当分土日のみの開館、ゆっくり鑑賞してもらうため、10人から20人の予約制を予定しているという。(戸塚辰永)
本誌2月号の記事「瞽女の人々」について、興味深く読みました。私は、「越後瞽女」の新潟の生まれで、子供のころ度々瞽女さんが3人で組んで我が家にも「瞽女歌」を歌いながら門付に訪ねて来ていたことを、今でも鮮明に記憶しています。当時は、「瞽女さん」または、「ごぜんぼう」と呼んで親しみ、敬愛の気持ちを込めて接していました。私は最近人間国宝小林ハルさんのDVD(頒布価格 3,000円+送料300円)を手にいれて90歳代の小林ハルさんの渾身の熱唱を聞かせていただいております。
なにぶん越後訛りがなんとも心にしんみりと響き懐かしく、望郷の念にかられることこのうえありません。
地元新潟では「瞽女文化を顕彰する会」が広く国民の理解を得るべき活動を行っており、DVDの頒布も行っています。
以下連絡先です。TEL・FAX:025-276-7554 。(埼玉県小倉勇)
「特別寄稿」の岩屋先生が、まず読まれるという「宝箱」は、残念ながら今回が最終回となりました。岸先生、3年間ありがとうございました。
韓国では4年制大学のことを「大学校」と呼び、学部や2年制大学を「大学」と呼びます。しかし、日本で大学校とは、防衛大学校など、文部科学省所管以外の教育機関や、一部の専修・各種学校が用いる名称です。このため、わが国の報道では、韓国の大学校は日本では「大学」に相当するので、多くの場合、あえて「ソウル大学」などと「校」をはずして表記します。
このような事情を踏まえ、「韓国の視覚障害教師の現状」の中で、指田さんも韓国にある「朝鮮大学校」を「朝鮮大学」と表記されました。
なお、東京にある朝鮮大学校は北朝鮮系列の各種学校であり、文部科学省から大学として認可されていないので「校」をつけて表記しました。(編集部)
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