THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2013年2月号

第44巻2号(通巻第513号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:日本とネパールの意外な共通点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
祝還暦 ―― 理教連60周年記念式典 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
座談会「理教連の来し方行く末」を語る ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
ブラインドセーリング世界選手権大会 念願の日本開催へ(安達文洋) ・・・・・・・・・
25
小林一弘先生を偲ぶ(川島昭恵) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30
ニカラグアにおける東洋医学教育ボランティア:卒業式 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
自分が変わること:梅原猛と憑依 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
48㎡の宝箱:立体地球儀 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
リレーエッセイ:世界大会こぼれ話(堀内佳美) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
48
外国語放浪記:川を北へ西へ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
大相撲:横綱審議委員会の存在意義を問う ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
フィリピン留学記:初めての通訳体験(中) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
時代の風:ホームドアの新技術開発進む、腰痛の診療ガイドライン作成、
  ジュースの飲み過ぎは脳梗塞のリスク増、
  地球最大の地震はマグニチュード10との予測 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64
伝言板:武久源造プラネタリウム・コンサート、日点春のチャリティ映画会、
  劇団銅鑼公演 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
68
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
日本とネパールの意外な共通点

 「また円安になった」、円安とは日本から持参した円貨が目減りすることだから平静ではいられないが、現状ではわが国にとって悪いことではない。
 12月20日から1月2日の旅程でネパールに出張した。ネパールのインド国境沿いは高度100m前後の平野で、緯度は奄美大島とほとんど同じ亜熱帯地方なので冬でも日差しがあると暖かい。しかし、昨年末は、「もはや2週間も霧に閉ざされており、温度が10〜12℃と低く、死人も出始めている」と大騒ぎになっていた。
 ネパールでは、1日12時間の計画停電が実施されており、1月中旬からはそれが15時間以上になるとのことだった。カトマンズでは水不足も深刻で、水が出ないことを理由に日本レストランが移転していた。
 現地で「日本は先進国の中でも豊かな国だ」と言われ、改めて2011年の一人当たりの名目GDPを調べたらドイツやフランス、英国よりも多かった。最近、中国にGDPで追いつかれたとか、韓国の躍進振りがなにかにつけて強調されるが、一人当たりのGDPでは、まだ韓国の2倍、中国の8.5倍もある。内向きになり、世界への貢献をやめれば、それは開発途上国だけではなく、日本にとっても不利益になるだろう。
 安倍内閣の経済政策をマーケットは好感して、円安、株高が続いている。これはあまり知られていないが、安倍晋三氏は視覚障害者福祉に対する理解がとても深く、地元では、山口県盲人福祉協会(舛尾政美理事長)を強力にバックアップしている。一昨年の5月関係者50人が集まって、日盲社協会館竣工祝賀会が御徒町の宴会場で開催されたときも、気軽に臨席してフレンドリーに挨拶していた。
 一方、ネパールのバブラム・バッタライ首相も視覚障害者福祉に対してことのほか理解が深く、最近、視覚障害生徒の訴えを取り上げて、これまで点訳されてこなかった高校の選択科目の教科書を点訳するよう教育省に指示を出したことが、明るい話題として大きく取り上げられていた。(福山)

祝還暦 ―― 理教連60周年記念式典

 昨年(2012年)12月23日(日)12時から筑波大学東京キャンパス文京校舎134教室において、「日本理療科教員連盟(理教連)創立60周年記念式典」が、全国から駆けつけた会員や文科省からの来賓、関係者らを集め盛大に開催された。
 第1部は、まず矢野忠明治国際医療大学教授による記念講演「理療教育とあはき業の将来展望」が行われた。矢野教授はあはきの現状や課題、解決に向けた戦略などを解説し、さらに理療教育の将来像について1つの考えを示した。それは筑波技術大学の上に、理療科教員養成施設と統合した大学院を設置し、ここで教員免許を得られるようにすること。現在の高等部理療科・専攻科は発展的に解消し、短期大学・専門学校さらには大学を設置。これにより大学から大学院へ、短期大学・専門学校からも必要単位を修得することなどで大学院へ進学できる道をつくるというものだ。矢野教授は最後に「理教連の目的は理療科の発展とあはき師の社会的地位の向上であったはず。お叱りの声もあると思うが、あえてこの祝いの場で個人的な意見を述べた。これを1つの材料に議論してほしい」と講演を締めくくった。
 続けてシンポジウム「特別支援教育下における理療教育 ―― その課題と方策」が行われた。理教連教科書委員会喜多嶋毅委員長を座長に、緒方昭広筑波技術大学教授、座間幸男全国盲学校長会長、宮本俊和筑波大学理療科教員養成施設長、米島芳文石川県立盲学校教諭の4人をシンポジストに、それぞれの立場から生徒数の減少と多様化する現状についての報告や課題などが示され、会場からも質問が飛んだ。
 第2部は式典が行われ、まず藤井亮輔会長が「理教連は昭和27年佐賀で発足し、今年で60年を迎えた。結成時の規約にある『和を大切にしつつ理療教育と学術研究を推進し、業を盛り立てる』という理教連の原点に立ち戻ってこれからを考えたい」と理教連の歴史を振り返った。理教連は結成から20年たった頃までは、教育制度や進路環境などインフラの整備を中心に当たった。例えば無資格者対策、教育課程や施設の整備・充実、病院マッサージの待遇改善、産業マッサージ師の職域改革、保健理療科の設置・推進などだ。こうして理療教育の近代化に道筋がつくと、学術研究にも着手し、昭和46年には『理療の科学』を創刊した(この日来場者には創刊号の復刻版が配られた)。昭和63年あん摩師等法の抜本改正で成熟期を迎えるが、インフラの老朽化が目立つようになり、国家試験不合格者問題の表面化、生徒数の減少の加速化なども問題となる。2000年以降は、柔道整復師の急増により進路環境が厳しくなり、また特別支援教育が開始され専門性の維持などの新たな課題が生まれた。藤井会長は不合格者問題、あん摩市場の需給バランス、さらに教員養成をどうデザインするかといった山積する課題を挙げ、「これらの課題に即効薬はない。個々の教員が一つ一つの問題に真摯に向き合い、“和”を真ん中に据えた議論を盛んにすることでしか答えは見出せないだろう。幸い思いを共にする大勢の同志やOBがいる。皆様のお力添えをいただき、先人の遺産を未来に継承するために尽くしたい」と挨拶した。
 来賓祝辞に続き、功労者表彰では5代目会長を務めた西條一止氏、10代目会長の神崎好喜氏、11代目会長の緒方昭広氏ら5名が表彰された。また感謝状贈呈では理療科教科書を発行する点字出版所6施設が表彰され、当協会もその栄誉にあずかった。
 17時半からは会場を茗渓会館に移して記念祝賀会が開かれた。会長の挨拶で幕が開き、来賓祝辞を挟みつつ、会員や関係者らがなごやかに旧交を温めあった。最後は時任基清日本あん摩マッサージ指圧師会会長の音頭による三本締めでお開きとなった。(小川百合子)

48㎡の宝箱 ―― 京盲史料monoがたり
(23)立体地球儀

京都府立盲学校教諭/岸博実

 前回紹介したテーラー式計算器について、阿佐博氏から「徳島盲学校で初等部の3年生から算術の計算や応用問題の式をすべてテーラーを用いてやっていました。今でもとても便利な教具だと思っています。五目並べにも応用して楽しめました。なぜ使われなくなったのか不思議に思っています」との旨のメールを頂いた。左近允孝之進や点字新聞『あけぼの』の研究で知られる古賀副武氏も生徒時代に使い方を教えてくれた先生があり、「因数分解までできた」と記憶なさっている。私の記事は消えた教材への挽歌さながらだが、むしろテーラー式を再評価し、現代に活かす研究を提唱すべきではと振り返っている。
 さて、今回からは社会科関係を採り上げてみよう。まず、立体地球儀である。以下、記述に際して、研究雑誌『地理』(2011年2月、古今書院)に掲載された論文「京都盲唖院における地理教育と地図」を参考にする。執筆者の松尾達也氏は京都府立盲学校の元教頭であり、現在は同資料室ボランティアグループの代表者である。
 京都盲唖院開学当初の地理の科目は、「盲唖教授課業表」(教育課程表・明治11〜15年)には、京町名・府県名、管内地理、日本地誌略一・二・三、万国地誌略、地図、地球儀、内国里程、外国里程及び、京町名等暗射(輪郭だけの地図を用いた暗記)がある。
 ここでも、「通常学校に準ずる教育」が意図された。教授用には、墨字本の『日本地誌略一〜三』(師範学校編輯・文部省刊行・明治9年)等を用い、身近な地域から日本全土、さらに世界へと理解を広げて行くことを目指した。他にも当時の参考書が保存されているが、残念ながら、私立金沢盲唖院を明治13年に創立したろう者・松村精一郎翻訳・出版の『万国地誌階梯』が用いられた形跡は確認できない。
 『盲唖教授参考書』(明治15年)には「地球儀及針跡等ヲ以テ海陸ノ区別及万国地形及地理ノ大概ヲ了得セシム」と明記されている。その実物と思われる凸形地球儀が1台残っている。『著書草稿』(明治13年)に、その使用法が記されている。
 「凸形地球儀ハ中段ニ在ル所ノ羅針盤ニ指頭ヲ與ヘ(略)」「コノ羅針盤ハ盲人ノ為メニ設ケルモノニシテ周囲ニ一ノ欠所(欠落)アリ其欠所ニ指頭ヲ与ヘ若シ針尖ノ触感ヲ得サレハ則チ北ニ非ス其欠所北ニ向ヘハ必針尖ノ触感ヲ覚ユルナリ」と。
 しかし、実際の使われ方はよく分からない点がある。筆頭は「羅針盤」にあたる物が見当たらない。また、地軸の傾きが通常の地球儀よりも大きいのだが、そうデザインした理由も判然としない。
 松尾氏による計測と観察では「球の直径20cm、円周63cm、総高61cm、三脚で支えられ木の台座にしつらえられている。日本列島をはじめ大陸の形等は極めて正確に、さらに大山脈が凸状につくられている」とされる。
 京盲文書には「地球ノ臺面中部以上ノ旋轉(回転)ヲ自由ニ製シタレハ指頭ニ針尖ノ觸感ヲ覺ユルマテ之ヲ旋轉シテ以テ方向ヲ定メ 次ニ地球周輪ノ活鐶ヲ輪転シテ緯度ヲ計リ 地球回轉及凹凸ニヨリ海陸ノ區別 六大洲ノ位置及洲國名ノ概略ヲ記得セシムルモノナリ」という説明も見受けられるが、松尾氏は「この記述が現存する凸形地球儀を指しているのかは解し難い」と慎重な判断をなさっている。
 ただ、別の意味で興味深い情報がある。明治12年11月11日付で京都師範学校から京都府盲唖院への書簡に「本校ヨリ凸起山脈地球儀製造之タメ見本トシテ本校所有地球儀勧業課ヘ貸シ渡シ候処該品ハ御校ヘ相廻リ居ル様夙ニ承リ候自然右之様ニ有之テ今般本校転移之際ニ付一応御返却被下度此段及御照会候也」とあるのだ。つまり、盲唖院は師範学校と連絡をとり、教材・教具の開発に努めていたわけだ。盲唖院は、借りた地球儀を返却したのだろうか?


『立体地球儀』

(写真は著者のご要望により、ホームページに限り掲載しています)

編集ログ

 選挙公報(点字版・音声版)の発行を終え、本誌1月号の編集を行い、12月20日深夜0時20分羽田空港発、1月2日午前6時15分成田空港着という強行スケジュールでネパールに出張。体調すこぶる悪く、ボロぞうきんのようになって帰国し、1月2日と3日は1日中こんこんと眠り続け、1月4日から出勤。「座談会『理教連の来し方行く末』を語る」をまとめようとしたのですが、雑用が多くてなかなか進まず、とうとうお尻に火がつく始末。土・日も返上して1月11日に何とかまとめて、3先生に原稿を送って、手を入れてもらって完成したのが成人の日の1月14日、東京は積雪8cmの大雪(?)となり交通機関は大混乱となりました。そして、数々の不義理と引き替えに、本号の悲惨な編集も何とかクライマックスに達しようとしています。
 今号の「リレーエッセイ」の筆者は、2009年5月〜2010年4月号の1年間「ケララ便り」の連載を執筆していただいた堀内佳美さんです。彼女の夢は、「キャラバンの移動図書館バスを走らせながら、世界中に『図書館の種・笑顔の種』をまき、各地に図書や学習環境が根付き、多くの人が社会参加できるようにすること」で、その夢を実現する手始めとして、現在、タイに住み着いて「アークどこでも本読み隊」という移動図書館事業を行っています。皆さんも応援してくださいね。
 本誌先月号では、ICEVIを「国際視覚障害者教育会議」と紹介しましたが、堀内さんは「国際視覚障害者教育協議会」と書いてきました。ICEVIの理事である堀内さんに「名称を変えますね」とは言いにくく、また調整する時間的余裕もなく、1月号とは違う名称になりますが、そのまま掲載することにしました。実は、私もはるか昔にICEVIを堀内さんとまったく同じ名称に翻訳したことがあり、「協議会」の方にちょっぴり思い入れがあるのです。(福山)

投稿をお待ちしています

 日頃お感じになっていること、記事に関するご意見などを点字800字以内にまとめ、本誌編集部宛お送りください。

Copyright 2004 Tokyo Helen Keller Association. All Rights Reserved.

THKA