THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2012年12月号

第43巻12号(通巻第511号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:外務省の怠慢(下) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
第6回塙保己一賞「貢献賞」に決定(三浦拓也) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
アジア太平洋障害フォーラム総会に参加して(田中徹二) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
NAWB25周年記念式典に参加して(野崎泰志) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
全視情協大会 石川理事長が退任を表明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
(特別寄稿)日本ライトハウス創業90周年の歩み(下) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
ニカラグアにおける東洋医学教育ボランティア:クリスマス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
自分が変わること:佐藤愛子さんと会う その2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
48㎡の宝箱:マルチン氏計算器 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
リレーエッセイ:「日本庭園」からの招待状(野々村好三) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
外国語放浪記:私は日本人 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
大相撲:個性派技能力士 ―― 妙義龍泰成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
フィリピン留学記:単独外出が許されない不自由さ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
音楽コンクール開催 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
時代の風:緊急地震速報で避難訓練、皮膚に塗るだけのワクチン開発、他 ・・・・・・
61
「スウェーデンにおける盲ろう者福祉の現状と展望」 最初は伝言ゲームだった ・・・
64
伝言板:競い合い、助け合うコンサート2012、だれでも楽しい映画会、他 ・・・・・・・・
68
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
外務省の怠慢(下)

 9月26日(水)に発売された『ニューズウィーク日本版』(通巻1318号)にニーアル・ファーガソン・ハーバード大学歴史学部教授が「アラブの怒りより日中の怒りが怖い理由」と題したコラムで、「尖閣諸島は中国・清王朝の領土だったが、1895年に日本に併合された」と書いている。しかも同コラムはホームページにもアップされていた。
 もちろんこれは日本政府の見解とは異なるし、清朝を含め中国が歴史的に尖閣諸島を領有したことはないので事実とも違う。日本政府が日清戦争末期の1895年1月の閣議で、尖閣諸島を日本の領土に組み入れたため、誤解があるのだ。ちなみに日清戦争は同年3月に終わった。
 この件で9月27日昼前に外務省に電話した。応対したのは中国・モンゴル第1課の女性で、「外務省としては、様々なところで取り上げられ、キリがないので、訂正を求めるつもりはない」と回答した。
 それに対して、私は「『ニューズウィーク』は、国際的に極めて影響力の強い媒体で、しかも執筆者が、ハーバード大学の教授なのだから、黙認するのはよくない。それは外務省の公式見解なのですか?」と食い下がると、今、担当の専門官がいないので回答できないという返事。そこで、「担当の専門官から電話をいただきたい」とお願いして電話を切った。
 すると同日夕刻、外務省国際報道官室の女性から電話があり、「事実を確認して適切な措置をとります」と、官僚的な回答を述べた。
 そこで、私は「適切な措置とは具体的にはどのような内容をいうのですか? 何もしないという選択肢もあるのですか?」と聞くと、「事実を確認して、省議を経ないと回答できません」という。「それでは、後日、適切な措置をとられたところで、当方までご連絡ください」とお願いしたら、「可能な限り対応させていただきます」という返事であったが、それから2カ月経つがいまだに返事はない。
 わが外務省と、ハーバード大学教授のいうことを世界はどちらをより多く信じるであろうか? 外務省にうぬぼれがないことを祈るだけである。(福山)

第6回塙保己一賞「貢献賞」に決定

東京へレン・ケラー協会理事長/三浦拓也

 埼玉県は11月9日、平成24年度第6回塙保己一賞を発表し、東京へレン・ケラー協会に貢献賞が決まったと発表しました。
 武蔵国児玉郡保木野村(現・埼玉県本庄市)出身の塙保己一(1746〜1821年)は、視覚に障害がありながらも国文学・国史を主とする一大叢書である『群書類従』を編纂・出版しました。
 同賞はこの江戸時代後期の大学者を記念して、埼玉県が平成19年に制定しました。貢献賞は、障害者のためにさまざまな形で貢献をしている個人・団体に贈られ、これまでに毎日新聞社「点字毎日」、国際視覚障害者援護協会他、個人に贈られました。
 今回の受賞は、東京都青梅市の聖明福祉協会理事長本間昭雄先生が、(1)多くの鍼灸マッサージ師を養成し、視覚障害者の自立を支援。(2)点字図書館および点字出版事業は大きな情報源であり、その利用によって視覚障害者の社会参加に多大な貢献をした。(3)へレン・ケラー記念音楽コンクールは視覚障害音楽家の登竜門。(4)ネパールにおける視覚障害児童・生徒への支援などを評価して、推薦していただいたことによるものです。いずれにしても、当協会が、長年地道に視覚障害者への支援に携わってきたことへの評価であり、表彰であるわけです。ありがたくお受けしたいと思います。表彰式は12月15日(土)、本庄市児玉文化会館で行われます。
 へレン・ケラー女史が昭和12年に初めて来日された折、渋谷にある塙保己一の学問を継ぐ研究所である温故学会を訪ね、塙保己一像に触れ、「私は塙先生のことを知ったおかげで、障害を克服することができました。心から尊敬する人です」と感謝の言葉を述べました。
 2人には時代を越えた接点があり、今回の受賞は当協会の名誉総裁であるへレン・ケラー女史にも喜んでいただけることだろうと思っております。

48㎡の宝箱 ―― 京盲史料monoがたり
(21)マルチン氏計算器

京都府立盲学校教諭/岸博実

 前回ご紹介した「さいころ算盤」のサイコロ、それを嵌め込む格子をほどこした木箱とそっくりの、「ガラン式計算器」と名付けられた品が現存する。数字の表し方も「さいころ算盤」と同じようだが、馬蹄形などの符号がある。「さいころ算盤」との関係も分からず、「ガラン」が人名なのか、大きな寺院の建物という意味の「伽藍」と縁のある語なのか、いつごろ使用されたのか、私にはまだ不明であり、消化不良気味である。ご存知の方があれば、ご教示をお願いしたい。
 それとは別に、「マルチン氏計算器」(以下、マルチン式)とシールの貼られた一式がある。「サイコロ」を用いること、格子状の木箱がセットになっている点では「さいころ算盤」と似ているが、はっきりと区別できる特徴を持つ。
 マルチン式について、鈴木力二氏は『図説盲教育史事典』(日本図書センター)で、次のように説明なさっている。
 「東京盲唖学校では明治二十八年頃から使用したが、明治三十五、六年頃テーラーを使用するようになってから姿を消してしまった。滝録松に依頼して二十個作ったことは中村京太郎談」。
 同書147ページには、「マルチン式計算盤」として、「サイコロ」を入れた小箱などの写真も掲載されている。筑波大学附属視覚特別支援学校が所蔵していたもののようだ。形状は京都府立盲学校に保存されているものと変わらないように見える。
 さて、その特色とは何か。要するに、マルチン式は、数字を「数符(数)を略した点字」で表現するのだ。古河のやり方とは明確に異なっている。
 0から9までを表す数字(点字)は、すべて1・2・4・5の4つの点で表される。6点方式の点字の下2つ、すなわち3と6の点を切り取れば、残りの1・2・4・5の4つは正方形の中に納まる。それはサイコロの1つの面の形と一致する。数符を略せば、さいころの真四角な面に点字の数字をすべて凸点として表すことができる。
 サイコロには6面しかないが、都合がよいことに点字では、5(ラ)を90°回転させれば9(オ)になり、同じ操作によって0(ロ)と4(ル)と6(エ)と8(リ)とが1つの面でまかなえる。6面あれば、10種の数字が充足される。
 限られた面を、回転操作によって効率的に活用する発想は、古河の「さいころ算盤」と似通い、縦書き筆算に対応できる機能も共通する。ただし、マルチン式は、その前提に点字が厳然と存在する。点字より先にマルチン式が考案されたとは考え難い。
 フランス製の筆算盤というのがあって、国立特別支援教育総合研究所が平成22年に出した研究成果報告書『視覚障害教育における算数指導の基本とポイント』の21ページに紹介されている。マルチン式に似てはいるが、数符も用いられている点が異なる。
 鈴木氏の記す「明治二十八年頃から」の根拠はつまびらかにされていない。日本の訓盲点字が生まれたのは1890(明治23)年だから、それより5年ほど経ってから使われたという話の順序は通っている。しかし、「マルチン」はおそらく人名であろう。とすれば、日本人ではあるまい。どこの、誰?
 重要な文献を見逃している可能性がないとは言い切れないが、私自身は、次の史料に出会ったとき、「マルチン氏にたどり着いた!」という手ごたえを得た。
 それは、1900(明治33)年にパリで刊行された小冊子『LA TYPOGRAPHIE DES AVEUGLES』(盲人用の活字)である。資料室で発見し、ページを追っていくうちにマルチンに関する説明を含むページを見出した。M.Martinの名前とともに「数符を略した凸点字の数字さいころ」の絵が示されているではないか。
 この冊子には、明治31年から明治37年春まで京都市の助役であった大槻龍治(後、大阪電気軌道社長)から鳥居嘉三郎京都市立盲唖院長に宛てて贈られたものとみられる書き込みがある。マルチン式の実物と本冊子との到来順は判然としないものの、マルチン氏の思い、大槻氏の着眼、鳥居院長の受容などに思いを馳せるには好適の宝物となっている。


『LA TYPOGRAPHIE DES AVEUGLES』

(写真は著者のご要望により、ホームページに限り掲載しています)

「スウェーデンにおける盲ろう者福祉の現状と展望」
―― 最初は伝言ゲームだった ――

 全国盲ろう者協会(阪田雅裕理事長)は、11月11日(日)午後、東京・新宿のコンベンションルーム「AP西新宿」において、スウェーデン盲ろう者協会(FSDB)海外事業部責任者で、世界盲ろう者連盟財務担当役員でもある、クリスター・ニルソン氏(64歳)を招き、標記をテーマに講演会を開催した。
 当日はあいにくの雨にもかかわらず、盲ろう者25人と通訳・介助者、家族など計170人余が集まった。
 講演会は福島智全国盲ろう者協会理事の司会で進められ、ニルソン氏の話す英語が日本語に同時通訳され、当事者はそれを指点字や触手話などを介して熱心に聞いていた。
 ニルソン氏は35歳まで健常者で、看護師として病院、ホスピス、救急隊等で勤務していた。ところが、突然両眼の視力が低下した。5年間に8回手術を受けたが、視力は左目が目の前で手のひらの動きが分かる「手動弁」、右目は片端がかろうじて見える程度で、暗いところや、明るすぎてもまったく見えなくなる。聴力も衰え、現在は両耳に補聴器をつけ、静かな場所でなんとか話が聞き取れる程度である。
 盲ろうになってから彼は、信者25人の小さな教会の牧師を務めてきたが、昨年引退した。
 FSDBは、1959年に手話のできる人がいた救世軍の支援を受けて設立した。1人の通訳者に伝言ゲームの要領で10人の盲ろう者がついて手話を伝えた当時を振り返り、「最後までちゃんと伝わったのかどうか?」と述べて、参加者の笑いを誘った。
 FSDBの初代会長はスティッグ・オルソン氏という人で、組織強化、手話通訳者拡大、盲導犬育成に力をそそぎFSDBを現在の姿に育て上げ、その後世界盲ろう者連盟初代会長をも務めた人物である。現在、FSDBの会員は950人だが、そのうち当事者は半数で、残りは家族など関係者だ。しかし、同国の人口は924万人おり、推定3,000人の盲ろう者がいることから「まだまだすることはたくさんある」とニルソン氏は組織拡大にも意欲的だった。
 FSDBの理事会は、盲ろう者や家族が抱える問題を吸い上げ、社会啓発を行い、政府に提言している。たとえば、スウェーデン政府は、障害者差別禁止法の制定を約束したが、いまだに実現されていない。毎週木曜日に行われる閣僚会議に参加する大臣に、FSDBは、障害者差別禁止法の実施を求めるビラを2年以上毎週手渡している。
 FSDBの重要な取り組みは、全国盲ろう者情報センターとの協力だ。同センターは、盲ろう者へのガイドの仕方、手話や指文字を紹介する冊子を無料で配布している。また、同センターは、保険やリハビリテーションを担当する各市町村の盲ろう専門チームや行政に、盲ろう者に関する最新情報を提供し、日常生活支援機器やリハビリテーションなどの情報共有を図っている。FSDBの支部は全12州にあり地元で身近な問題に取り組んでおり、各市町村の盲ろう専門チームは、手話通訳講座、通訳者派遣調整などを担当している。こうして盲ろう者は通訳を24時間365日無制限に利用でき、しかも、州が通訳者に報酬を支払うため当事者の費用負担はない。ただし、通訳者が対応できないときは、優先順位により派遣が決められるという。
 講演後、次々とフロアーからスウェーデンの盲ろう者の生活について質問があがった。最後に、高橋信行全国盲ろう者団体連絡協議会会長が謝辞を述べ、「2017年の第5回世界盲ろう者連盟総会はぜひとも日本で開催したい」と力強く語った。
 というのも、本来であれば来年(2013)の第4回世界盲ろう者連盟総会は日本で開催する計画だった。しかし、昨年(2011)の東日本大震災の被災者対応のため、全国盲ろう者協会は日本での開催を断念した。そこで急遽、フィリピンが代役を引き受けることとなり、ニルソン氏と福島氏はフィリピン総会をバックアップする予定でもある。このような経緯から、ニルソン氏は今回も日本の盲ろう者協会関係者と話し合い、講演の翌朝フィリピンへと飛び立った。(戸塚辰永)

編集ログ

 日本福祉大学の野崎教授に「NAWB25周年記念式典に参加して」を寄稿していただきました。本来なら私も同式典に参列しなければならなかったのですが、総選挙が噂されている時期だけに、日本を離れることができませんでした。
 「アジア太平洋障害フォーラム総会に参加して」を寄稿していただいた日本障害者協議会(JD)副代表の田中徹二さんとは、もちろん日本点字図書館理事長と同一人です。その中でも最後に触れられておりましたが、小誌で「外国語放浪記」を連載中の田畑美智子さん(日盲連国際委員、WBU執行委員)が、バンコクで開催されたWBU総会の中で、10月13日に実施されたWBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)の会長選挙に立候補して当選されました。同会長は日本人では指田忠司さんに続いて2人目の快挙です。まことにおめでとうございます。そして、向こう10年間大変だとは思いますが、持ち前の交渉力と語学力でリーダーシップを発揮してください。
 また、同総会では、笹川吉彦日盲連名誉会長に「WBU終身名誉会員」の称号が授与されました。日本人では岩橋明子さん(日本ライトハウス会長)以来、2人目です。いわゆる名誉職ですが、仮に国家代表を外れたとしても執行委員会に出席することができて、しかも投票することもできるという実もあります。笹川先生おめでとうございます。
 本誌2012年9月号(通巻第508号)の「読書人のおしゃべり」で、特総研の大内進先生が「『ルイ・ブライユの生涯 天才の手法』を読んで」と題して紹介してくださったC.マイケル・メラー著、金子昭、田中美織、水野由紀子共訳の同書の点字版が、厚生労働省委託書として、日本点字図書館から11月に発行されました。全4巻で価格は7,200円です。(福山)

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