THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2011年8月号

第42巻8号(通巻第495号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:きょろきょろする内閣総理大臣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(特別寄稿)新しい峠道を歩む(高橋秀治) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
無法地帯と化した被災地の悲しみ 大震災1週間後の真実 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
10
モンゴル大草原の風に乗って フルマラソン完走記(山口和彦) ・・・・・・・・・・・・・・
20
開業された吉川惠士先生に聞く ―― 理療科教員養成の栄光と暗雲(2)  ・・・・・・
24
ブラインドサッカーアジア選手権日本開催決定!
  パラリンピック出場をかけて
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
自分が変わること:よくわからない仙人とお化け その1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
34
48㎡の宝箱:盲目児童凸文字習書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
リレーエッセイ:インドの石鹸(三宮麻由子) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
外国語放浪記:夜行列車 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
48
あなたがいなければ:特別な新婚旅行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
大相撲:魁皇、長持ちの秘訣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
協会ホールで開催! サポートグッズフェア2011 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
61
時代の風:スポーツ基本法が成立、泳ぐカプセル内視鏡開発、
  がん共通の促進たんぱく発見、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
伝言板:失明戦傷病者の企画展、オイルマッサージセミナー、
  ゴスペルチャリティーコンサート、NHKハート展作品募集! ・・・・・・・・・・・・・・
67
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
71

巻頭コラム
きょろきょろする内閣総理大臣

 「きょろきょろ 首相」と入力して、新聞データベースで検索してみた。すると、下記の4件がヒットした。
 2011年1月20日付『毎日新聞』(朝刊)、「5日はテレビ朝日の『報道ステーション』、7日は現役首相として初めてインターネットの『ビデオニュース』にナマ出演・・・『菅さんまじめだし。テレ朝の時、カメラを見たり、司会の古舘伊知郎さんを見たりきょろきょろしていた』」
 2010年5月20日付『日本経済新聞』(朝刊)、「きょろきょろしていると批判を受けるので、国民の方を見るように心がけている(鳩山由紀夫首相が取材の際に『最近、記者の目を見ずにカメラを見ているのは心境の変化か』と聞かれ)」
 1993年8月5日付『読売新聞』(夕刊)、「宮沢首相は、いつも通り午前六時五十分に起床・・・同九時十六分、首相官邸に到着。報道陣に囲まれ、わずかに口元を緩めたが、『最後の閣議ですね』と質問されると、表情を硬くして『・・・』。『ゆっくり眠れましたか』の質問にも、目をきょろきょろさせた後、『いつもと一緒だ』」
 1990年2月28日付『毎日新聞』(朝刊)、「海部首相にもぜひ理想を持ってもらおう。政権延命などというこせこせしたものでなく、堂々とした理想。派閥力学にこだわって、右を見たり左を見たり、きょろきょろしていると自民党は沈没する」
 内田樹(たつる)著、新潮社刊『日本辺境論』という本を読んでいたら「日本人はきょろきょろする」という見出しに出会い、とっさに歴代の首相の顔が思い浮かび、その期待は裏切られなかった。
 本書には、他にもさまざまな示唆に富む指摘がちりばめられているが、その1つに、日本の政治家や評論家は政策論争において、対立者に対して情理を尽くして、自分の政策や政治理念を理解してもらおうとはせず、相手を小馬鹿にしたような態度を取ろうとすると喝破している。就任会見にサングラスで現れ、東日本大震災の被災地で放言した松本龍復興相の振る舞いにも逆説的ながら理由はあったのだ。(福山)

ブラインドサッカーアジア選手権日本開催決定!
―― パラリンピック出場をかけて ――

 日本ブラインドサッカー協会は、7月11日、第4回ブラインドサッカーアジア選手権大会の開催地が日本に決定したことを受け、記者発表を行った。同協会釜本美佐子会長をはじめ、ブラインドサッカー日本代表候補の加藤健人(けんと)・落合啓士(ひろし)の両選手が出席。さらに日本代表を務めた元プロサッカー選手で現在は解説者として活躍中の山口素弘(もとひろ)氏と名波浩(ななみ・ひろし)氏も応援に駆けつけ、両選手に熱いエールを送った。
 異例の2大会連続で日本が開催国となったアジア選手権大会は、今年12月21日から25日の5日間開催される予定だ。熱戦の舞台は、東日本大震災の被災地である宮城県仙台市の元気フィールド仙台。未曾有の大津波はこの会場の5km先まで押し寄せたという。釜本会長は被災地での開催にあたり、「仙台には素晴らしいB1チームがある。このアジア選手権大会で被災者を元気づけたい」と語った。
 今大会には、2012年イギリスで開催されるパラリンピックロンドン大会への出場権がかかっている。アジアの出場枠は2だが、すでに中国がその権利を獲得しているため、残り1つの席を争うことになる。対戦相手は、中国のほか、韓国・イラン・マレーシア・タイの5カ国になる見込み。パラリンピック出場のためには優勝か、中国が優勝した場合には準優勝することが必須条件となる。しかし、北京パラリンピックへの進出を阻んだ宿敵韓国や、恵まれた体格を活かし力をつけてきたイランなど強豪揃い。日本代表は今後、悲願であるパラリンピック初出場に向け、月1度の強化合宿を行っていく。
 以前から交流を深めてきた山口・名波両氏からも激励の言葉が寄せられた。山口氏は、「今まで積み重ねてきた努力が実を結ぶ時。後は思い切って100%の力を発揮できるよう頑張ってほしい。そのために100%の応援をしていきたい」とエールを送った。また、名波氏も「本番で緊張しないためにも練習の時から5万人の観客がいるような気持ちで励んでほしい」とアドバイス。これを受け加藤選手は「100%の力が出せるよう練習に励みたい。僕も福島出身。全力でプレーすることで被災者を励ましたい」と話した。落合選手は「優勝を意識しすぎず、まずは目の前の練習を1つ1つこなしたい。それが次につながると思う」と意気込みを新たにした。12月の仙台で選手たちの笑顔に会えることを期待したい。
 日本代表候補は、落合啓士(MF)、加藤健人(FW・MF)、黒田智成(くろだ・ともなり)(MF・FW)、佐々木康裕(ささき・やすひろ)(FW・MF)、田中章仁(たなか・あきひと)(DF・MF)、葭原滋男(よしはら・しげお)(DF)、三原健朗(みはら・けんろう)(FW・MF)、山口修一(やまぐち・しゅういち)(DF・MF)、安部尚哉(あべ・なおや)(GK)、佐藤大介(さとう・だいすけ)(GK)、魚住稿(うおずみ・こう)(コーラー)。引き続き、風祭喜一(かざまつり・きいち)監督が率いる。
 また、東日本大震災で延期していたFIATプレゼンツ・ブラインドサッカークラブ選手権(フィアットカルチョ)が、8月6日・7日、神奈川県の横浜みなとみらいスポーツパークで開催される。いずれの大会も多くの声援が選手たちにとって何よりの励みになる。(小川百合子)

48㎡の宝箱 ―― 京盲史料monoがたり
(5)盲目児童凸文字習書

京都府立盲学校教諭/岸博実

 『明治事物起源』という書に、「盲生用凸文字習書出版の始は明治九年十一月なり。盲目児童凸文字習書(もうもく・じどう・とつもじ・しゅうしょ)いろは四十八文字と数字片仮名五十音等 縦七寸横一尺のものにて二十一葉 伊藤庄平(いとう・しょうへい)により出版せらる」とある。
 京都盲唖院も楽善会訓盲院も存在しない明治9年11月に、凸字のテキストが製造・販売されていた! 伊藤庄平はどのような人物? 製造方法は? 謎の一品だった。
 鈴木力二氏の『図説盲教育史事典』でも、これに関する解明はほとんどなされていない。実物に当たるとされる凸字書を所有する筑波大学附属視覚特別支援学校も京都府立盲学校も、もどかしい思いで135年を過してきたと言える。
 ところが、この度、インターネット時代ならではの、予期せぬ出会いによって、伊藤庄平その人や製造法に関する、これまで知られてこなかった情報に接することができた。興奮を禁じえない。新しい史料の中味を紹介したい。
 『盲目児童凸文字習書』の作者・伊藤庄平が内務省に宛てて提出した申請書と、それを許可したことを示す複数の書類である。次に核心だけを書き写す。
 まず、伊藤による「出版版権御願(しゅっぱん・はんけん・おんねがい)」書である。

 一 盲目児童凸文字習書 いろは四十八字 んを并片假名 五十音数字九〃迄
 弐拾壱葉 竪七寸横壱尺  但熟学次第壱枚ツゝ追〃ニ綴込ニ相成申候
  明治九年十二月出版
 御國内ニ於テ盲目字学之儀ハ是迄暗誦ノミ多ク擦リ凸文字習書学業之儀ハ未タ格別開業不相成哉ニ奉存候因テ愚考仕盲目児童習字学ノ為凸文字ニ仕立候書冊ニシテ一切條例ニ背キ候儀無之候間此度出版致度猶版権免許奉願候也
    東京第六大區七小區本所花町拾八番地  伊藤庄平 満五十年
  明治九年十一月六日
  内務卿大久保利通殿

 次は、申請を受け付けた東京府権知事・楠本正隆の進達及び大久保による決裁を記した公文書の写しである。原本では、大久保の書き込みなどは朱色の墨で書かれている。

 第ニ万四千二百六十八号別紙之通到出候ニ付進達仕候也 明治九年十一月十六日 東京府権知事 楠本正隆
 書面願之趣聞届別紙免許状下渡候事 明治九年十一月廿九日 内務卿大久保利通

 伊藤の手に届けられた「免許状」は未確認である。しかし、一連の史料には、教育博物館長・手島精一(凸字や点字に関する知識も持っていた)との関係を示唆する史料も含まれており、信頼できる。
 判明した点がいくつかある。庄平(「荘平」とも記した)は、江戸時代から高品質な煙草入れを製造して評判を博した和紙業者・竹屋の職人であった。揉み紙や革紙など、特殊な和紙の製造に長けていた。明治期に竹屋が廃業した折に「伊藤工場主」が独立し、小石川で営業したとする文献もある。
 彼が、「盲目児童用凸文字習書」に用いたのは、「金唐革紙(きんからかわかみ)」を製造する技術だった。『江戸東京紙漉史考(かみすきしこう)』(関義城(せき・よしくに)著)によれば、それは「模紙の凹面(を)紙片に凸印」する手法だという。革の代用として和紙を使い、凸を生かして装飾した。凸字の裏に凹みはない。
 明治9年といえば、我が国に西欧の凸字が伝えられていたし、この年発足した楽善会の新聞広告も盛んだった。時系列上も矛盾しない。京都盲唖院の創立に先立つ待賢小学校の頃、古河太四郎、半井緑の師弟が実際に用いた公算も大である。(価格は不明である。)
 最近の筆者は、庄平の玄孫にあたる伊藤卓美氏に導かれ凸文字の世界へ旅をしている。金唐革紙に触ることもできた。庄平の素顔に近づくごとに、敬愛の念が深まる。


  

「盲目児童凸文字習書」(左の写真は背表紙、右は中味)

(写真は著者のご要望により、ホームページに限り掲載しています)

編集ログ

 今回の「巻頭コラム」は、『日本辺境論』という書の「きょろきょろして新しいものを外なる世界に求める態度こそが、まさしく日本人のふるまいの基本パターン」ということを下敷きにしています。私はこの本を、日盲社協の大会に参加するために降り立った、JR静岡駅の駅ビルで時間調整のために、きょろきょろしていて見つけたのでした。そして、この大会直後の臨時理事会・評議員会で、高橋秀治大先輩が理事長に選出されました。
 そこですぐさま大先輩にインタビューを申し込んだのですが、「いいよ。いいよ」と迷惑そうに敬遠された末に、「新しい峠道を歩む」を寄稿していただいたのでした。お忙しいところ、誠にありがとうございました。
 すでにご存じかとは思いますが、内閣府が点字図書館等へ配布している音声広報CDに「明日への声」という媒体があります。政府の施策等を、分かりやすい内容にまとめて収録したものです。その最新号に、「三宮麻由子のバードリスニングの世界」という約10分間のプログラムが連載を開始しました。彼女が鳥好きだとは知っておりましたが、口笛で鳥の鳴き声を真似したり、ここまで本格的だとは思いもしませんでした。ウェブ上の「政府広報オンライン」(http://www.gov-online.go.jp/pr/media/cd/index.html)からダウンロードして聞くこともできます。そして、小誌の「リレーエッセイ」では、「インドの石鹸」です。本当に多芸・多才・多趣味な方ですね。
 今月号の「自分が変わること」はちょっと怖い話ですが、「外国語放浪記」には別の意味で震え上がりました。結局、ボローニャから乗った紳士は正規のチケットを持っているにもかかわらず、田畑さんにすごい剣幕で追い返されたわけですね。その後、田畑さんは自分のミスに気づくのですが、反省することなく「信念というのは身を助けることもある」と開き直るところが、私にはとても恐ろしかったのですが。皆さんはいかがだったでしょうか?(福山)

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