THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2010年11月号

第41巻11号(通巻第486号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:天を仰いで唾する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
協会創立60周年記念チャリティーコンサート開催のお知らせ ・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
24時間態勢で支援! ―― わが国初、盲ろう者宿泊型
  生活訓練等モデル事業がスタート ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
8
車椅子の地球物理学者イ・サンムク教授講演会
  大きく飛躍する韓国の支援技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
(短期集中連載)H(ホース)クラブ36年の
  栄えある歴史にピリオド(最終回)  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
26
読書人:『ギリシャ危機の真実』を読む ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
附属盲資料室を視覚障害教育博物館に(岩崎洋二) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
自分が変わること:信じる人にひかれて その7 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
リレーエッセイ:人生を楽しむ2つの言葉(久部幸次郎) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
外国語放浪記:福澤杯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
49
あなたがいなければ:結婚問題から逃げていた私 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
53
よりどりみどり風見鶏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
58
大相撲:大関候補へ名乗り!23歳の若武者、栃煌山 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
時代の風:社会貢献者表彰、古本で「ブラサカ」の支援を、
  コーヒーに頭頸部ガン予防効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
66
伝言板:ヘレン・ケラー記念音楽コンクール、日点チャリティコンサート、
  教点連セミナー、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
69
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
72

巻頭コラム
天を仰いで唾する

 今年度のノーベル平和賞は獄中の民主活動家劉暁波(リュウ・ギョウハ)氏に決まったが、同氏に授与しないよう中国政府はノーベル賞委員会に事前に圧力をかけ、どうやらそれがやぶ蛇になった形だ。そこで中国外務省の報道局長は「ノルウェーとの関係に損害を及ぼすだろう」と警告し、対抗措置を示唆した。しかし、この一連の抗議が、逆に中国の人権問題を改めて世界に示すことになり、「天を仰いで唾する」結果になった。
 中国の最高権力者は、国家主席も兼ねる胡錦濤党中央軍事委員会主席だが、隔月刊の米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』(2010年7・8月号)は、世界の独裁者ランキングで、同氏を10位にランク付けしている。なお、堂々の第1位は北朝鮮の金正日国防委員長である。
 外交に関しては、ノルウェーの方が一日の長があるようだが、その中国の風下にいる情けない国もある。
 「外交的な配慮はなかった。粛々と手続きを進めた。そもそも尖閣諸島には領土問題は存在しないというのが日本の立場なので、国内法で対処していく」(9月8日)。
 「那覇地検の判断なので、それを了としたい。それ以上のことを私から言うべきではない。私自身は、粛々と国内法に基づいて手続きを進めた結果、ここに至ったという理解だ」(9月24日)。
 「今回の事件で日本は船を相当傷つけられており、原状回復について協議をしなければならない。ただ、請求の時期に関しては外交ルートで現時点で行うのか、クールダウンしてから行うかは別だ」(9月27日)。
 以上は、尖閣諸島沖の日本領海で中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件に対する、その時々の仙谷官房長官の記者会見での発言である。
 窮余の一策が見え透いた嘘だなんて、「天を仰いで唾する」ようなものである。管改造内閣を首相は「有言実行内閣」と命名したが、この「有言」には「見え透いた嘘」も含まれているようである。(福山)

読書人のおしゃべり
『ギリシャ危機の真実』を読む

 本誌「自分が変わること」でお馴染みの藤原章生さんは、2008年から何度もギリシャを訪れており、この8月に『ギリシャ危機の真実 ―― 破綻国家を行く』(毎日新聞社刊、税込1,000円)を上梓した。本書は、借金漬けで財政破綻に至ったギリシャの実像と、そんな国でしたたかに生きるギリシャ庶民の暮らしぶりを、インタビューを元にいきいきと描く。本書を一読すれば、ギリシャの近現代史と、今に生きるギリシャ人のメンタリティが一目瞭然。現在、当協会点字図書館が点字版発行に着手し、12月中旬から貸し出し予定。
 ラテンアメリカやアフリカ諸国を新聞記者として取材してきた藤原さんにして、ギリシャには他の国にはない独特な人間関係の親密さがあるという。それは、かつて日本にもあった「のんびりした感じ、互いを助け合うムード、競争や効率などよりも濃密な人間関係、互助を大事にする風潮、悪く言えば適当ででたらめな心地よさ」。
 本書は全7章で構成されているが、私がとくに興味を引かれたのは、第3章「シュールなドラマ」と第4章「事業仕分けを我が国に」である。
 第3章の「シュールなドラマ」では、ギリシャ国家財政の破綻を招いた一因は、ここ数年の急激な公務員の増加だという。ギリシャの人口は1,100万人、その内労働人口は400万人だが、社会主義国でもないのにギリシャには114万人もの公務員がいる。おおざっぱに言えば労働者3人に1人は公務員というわけだ。
 しかし、この数値もギリシャ国家統計局の推計値で、呆れたことに、政府でさえも公務員の実数を掴めていないばかりか、調査したこともないという。
 公務員の実数が分からないのは、ギリシャ独特の縁故採用の慣習があるからだ。政権が交代する度に、官僚が総入れ替えされ、政治家は身内・友人・支援者などを臨時公務員として雇い、その「臨時」がいつの間にか正規雇用される。そして、政権が交代しても彼らは解雇されず、別のポストを与えられるか、「幽霊公務員」として居座る。むろん、「幽霊」にも給与は支給される。
 ドイツのメディアが、ギリシャ政府の統計やOECDの数値を基に、「ギリシャの公務員の給与は高い、年金ももらい過ぎ」と批判するが、根拠とするデータがいい加減なので的外れだ。実際の公務員の月給は、国立病院で20年以上働いた看護師でも1,000〜1,200ユーロ(11万〜13万2,000円)で実際の生活は苦しいという。
 また、ギリシャの失業率は12%と高い。しかし、アテネの街にはせわしなさや閉塞感を感じない。そのわけは、この国のGDPの3〜4割が闇経済だからだ。民間の新聞社で記者をしている財務官僚、コンサルタント会社を経営する建設官僚など、公務員の副業は当たり前。民間会社の社員は給料だけでは食べていけないので、深夜遅くまでウエイトレスや皿洗いのアルバイトに精を出す。闇経済の規模は、1,000億ユーロとも言われ、労働者一人当たりにすると2万5,000ユーロ(275万円)にもなる。ギリシャ人は働かず、文句ばかり言っているとドイツ人は言うが、ヨーロッパで一番働いているのは、実はギリシャ人なのだと藤原さんは鋭く指摘する。
 第4章の冒頭で、「事業仕分けの人にギリシャに来てもらってやって欲しいね」という言葉に思わず、にやりとさせられた。ギリシャには、省庁、自治体、軍、警察などの行政機関とは別に5,000もの公共機関があるという。そして、その多くが名前だけで実態がないが、これらの公共機関の職員にも給与は支払われている。ギリシャ副首相は、複雑に絡んだ5,000もの公共機関を整理し、10万人の公務員を削減する計画を発表した。しかし、この網の目のように絡んだ公共機関の実態を調査するためには、新たな機関が必要だというが、これは、ブラック・ジョーク以外の何ものでもない。
 ギリシャが破綻国家から抜け出すには、無駄な贅肉をそぎ落とす努力が強いられるが、おそらく、数10年先まで国民は負担を負うことになるだろう。けれども、今回の危機など長い歴史の中で見ればたいしたことはない、周囲が騒ぎすぎているだけとギリシャ人は動じない。危機を楽しむ余裕すらあるそんなギリシャ人に、著者は温かい眼差しを向ける。(戸塚辰永)

附属盲資料室を視覚障害教育博物館に

附属盲教諭/岩崎洋二

 本誌9月号で、附属盲資料室の近況を紹介していただきました。記事の中に少し誤解を受ける表現もありましたので、改めて資料室を担当してきた私の方から報告させていただきます。
附属盲資料室は、京都府盲資料室と並んで、視覚障害教育に関する古い資料をたくさん所蔵しています。現在は4階に展示室、1階には収蔵室2室があり、校長室の陳列棚にも一部陳列されています。
資料は、近世のものでは当道座に関するものが若干あり、明治の鍼灸按摩教育の先達奥村三策の寄贈による検校の衣装と撞木杖(しゅもくづえ)、明治の視聴覚障害教育開始からの視聴覚障害に関する貴重な資料などが、幸い関東大震災や第2次世界大戦の戦火にもあわずに残っています。特に、点字以前の「紙折り文字」「結び文字」「針文字」などの文字資料、楽善会の「凸字教科書」など、東京盲唖学校・東京盲学校時代では「バルビエの点字」などの欧米の線字点字の資料、石川倉次らの日本点字の翻案にかかわるもの、日本最初の点字新聞「あけぼの」、点字総合雑誌「むつぼしのひかり」など初期の点字出版物など貴重なものがたくさんあります。しかし残念なことに、人手と予算がないため、充分整理・保存処理されないままに残っているのが現状です。
資料室の担当は、現在は学校の教員が3人で、校務分掌ということで時間を見つけて担当しています。近年ようやく学校後援会や同窓会、ボランティアの方などの代表を含めて資料室整備対策委員会を発足させ、学校としては、視覚障害教育博物館を目ざすことが話題となっています。全国の盲学校が特別支援学校に再編されようとしている今、視覚障害教育の資料の散逸が懸念されていますので、京都府盲などと連携しつつ、資料の収集、整理を図っていかなければと思っています。
これらの資料は、一部インターネットで写真などが公開され、利用していただいています。目録も完全ではありませんが、電子データ化がなされ、筑波大学の附属11校で整理されて利用できるものになっています。展示室も、昨年はルイ・ブライユ生誕200年・石川倉次生誕150年の「点字の歴史」展、今年は杉山和一検校生誕400年で「視覚障害者の鍼灸教育史」展を行っています。展示室は公開もしていますが、担当の私たちが時間を見てご案内していますのでご連絡いただければと思います。
現在私たちは、資料室の整備に関連して、附属聾と共に「東京盲唖学校発祥の地、日本点字制定の地」の記念碑を東京都中央区築地の公園に建立しようとしています。すでに資金もほぼ集まり、11月1日に除幕式・式典を開催しようとしています。障害児教育の曲がり角にあたり、盲学校・聾学校の意義を改めて見直す契機にしたいと思います。
 また、明治36年に東京盲唖学校同窓会によって創刊され、戦前400号発刊された点字総合雑誌「むつぼしのひかり」を、墨訳出版しようとしています。現在、同窓会、後援会の有志、筑波大学関係の研究者と共に墨訳の作業が進んでいます。この中で、すでに紹介されましたように、青森盲創設者や点字新聞「あけぼの」、エスペラントやエロシェンコに関係した資料などが新たに出てきています。
資料室の今後の運営に関して、9月号の記事では「管理を同窓会に移管する動きも」と見出しがありましたが、誤解を受ける表現でした。このような構想が附属盲にあるわけではありません。資料室は教育博物館として整備して、附属盲が責任を持って管理していこうとしています。ただ、資料室を担当してきた私の感想として、このような資料室にもっと附属盲の同窓生が関心を持ってかかわって欲しいということです。関係の方々に誤解を受けかねない表現でした。しかし、今こそ視覚障害者自身が危機感を持って盲学校の歴史をとらえ返して、視覚障害教育の今後について考えていかなければならない時ではないでしょうか。

編集ログ

 1月23日(日)午後2時から第一生命ホールで行う当協会主催の「ハッピー60thコンサート」は、国際的な演奏家を輩出し続ける「ヘレン・ケラー記念音楽コンクール(第50回までは全日本盲学生音楽コンクール)」出身の一流演奏家4名と韓国からのゲスト計5名の出演者全員が視覚障害者という異色のイベント(詳細は本誌5〜7ページ)。
 豪華な顔ぶれにもかかわらず、協賛をいただいたお陰で、ペア券だと1人当たり2,500円ととてもリーズナブルです。
 一方、11月20日(土)午前10時から東京・虎ノ門のJTホールで開催する「ヘレン・ケラー記念音楽コンクール」(詳細は本誌69ページ)には、和波孝禧先生のお骨折りで、韓国ソウルのハンビット盲学校から中学2年生の女生徒がヴァイオリンで参加し、60回を数える同コンクールに彩りを添えます。
 こちらは、申込み不要、入場料無料の催しです。どうぞお気軽に足をお運びください。(福山)

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