THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2010年8月号

第41巻8号(通巻第483号)
―― 毎月25日発行 ――
定価:一部700円
編集人:福山 博、発行人:三浦拓也
発行所:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会点字出版所
(〒169-0072 東京都新宿区大久保3−14−4)
電話:03-3200-1310 E-mail:tj@thka.jp URL:http://www.thka.jp/
振替口座:00190-5-173877

目次

巻頭コラム:ある読者のつぶやきに寄せて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(短期集中連載)H(ホース)クラブ36年の
  栄えある歴史にピリオド(1)(竹村實) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
長寿県沖縄の視覚障害高齢者問題を考える
  地域密着型の養護盲老人ホームを(山田親幸) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
(特別寄稿)見たい聞きたい! 地デジテレビ大研究(福井哲也) ・・・・・・・・・・・・・
19
大学の門はいかに開かれたか(下) 元附属盲教諭尾関育三先生に聞く  ・・・・・・
26
中国の点字識字率は1% 七夕節に北京から賓客 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
協会ホールで開催! サポートグッズフェア2010 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
自分が変わること:信じる人にひかれて その4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
リレーエッセイ:わが家のいくら(下川美香) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
外国語放浪記:ひのき舞台と仮病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
48
よりどりみどり風見鶏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
あなたがいなければ:マラソンと卓球 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
大相撲:相撲協会設立以来の危機 ―― 大相撲の再生はなるのか ・・・・・・・・・・・
61
時代の風:JR初のホームドア設置、法定雇用率の対象拡大、他 ・・・・・・・・・・・・・・
65
伝言板:アクセスの基礎を学ぼう!、視覚障害者教養講座、他 ・・・・・・・・・・・・・・・
69
編集ログ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
72

巻頭コラム
ある読者のつぶやきに寄せて

 「点毎と見誤るから事前にPRを」との読者のご意見を読みつつ、こんなところにも点字離れを感じました。新機種の導入に関しては人一倍深い関心を持ち、5月号が来るのを心待ちにした1人で、初めてA4の「ジャーナル」を受け取りました。艶やかな上質点字用紙が使われており、読みやすいのが嬉しいです。点字印刷のみならず誌面刷新にもこだわってください。
 2、3年前でしたか、「ジャーナル」で盲ろう者を取材してレポートされていましたね。僕も実はその「盲ろう者」なんです。「青森にも作りたい」と思っており、大いに興味が湧きました。
 最近は、電子メールにおされて点字の手紙をいただく機会が激減しました。創刊号当時からの読者を名乗る方の手紙は長文で、それを換骨奪胎したのが上記です。
 2013年には、世界の盲ろう者の祭典である「ヘレン・ケラー世界会議」が日本で開催されます。それを及ばずながら応援しようと今から思っています。(福山)

大学の門はいかに開かれたか(下)
元附属盲教諭尾関育三先生に聞く

 《先月号に引き続き、筑波大学附属盲学校高等部の進路指導部で受験交渉や入試点訳に携わり、退職後も20年間入試点訳の第一線で活躍された尾関育三先生に、附属盲卒業生の大橋由昌氏、指田忠司氏、長岡英司氏、土居由知氏、本誌戸塚辰永が聞いた。》

点訳事業部の誕生

 尾関先生が携わってきた入試点訳は数限りないが、中でも、もっとも印象深いのは、国際基督教大学(ICU)に草山(半田)こずえさん等が昭和52年(1977)に受験したことだという。ICUの入試問題は、すべて選択式で出題数も非常に多い。「点訳者は大学のキャンパスにある立派なゲストハウスに2泊して、ほとんど徹夜で問題をタイプライターで点訳しました。大変でしたねえ」と先生は当時を振り返る。
 大学が門戸を閉ざしてきた理由の1つは、視覚障害学生が入ると大学の責任で教科書の点訳や設備改修などを行わなければならないのではないかという不安だった。
 そこで尾関先生は、「特別な配慮がなくても、視覚障害学生はかなりやっていけます」と受験交渉の際に説明し、学生を受け入れる際に何か用意するものはないかと尋ねられたら、「点訳に必要な道具を置いたり、サポートしてくれる学生が作業できる専用の部屋を小さなものでかまわないから用意してください」とその都度要望した。
 交渉の過程で大学から誓約書を求められたことはなかったと先生は言うが、大学によっては、入学時に特別な配慮を求めない旨の誓約書を学生に提出させたケースもあったのだ。実際、長岡氏は立教大学入学時に誓約書を提出。ただ、誓約書を出したから大学が何もしなかったわけではなく、専用の部屋を用意してくれるなどのサポートはあったという。
 「数十年前までこんなことがあったことを、今では誰も知りませんので、こうした事実を私たちは後世へ伝えていく必要があるでしょう」と長岡氏は言う。
 全国高等学校長協会入試点訳事業部(以下、点訳事業部)が発足したきっかけは、受験シーズンになると盲学校の教員が点訳に借り出され、授業に著しい支障を来すようになったからだ。当初、入試点訳は晴眼の教員が問題を読み上げ、点字使用の教員が点訳した。特に、多数の大学が集中する京都では京都府立盲学校が入試点訳を一手に引き受け、受験シーズンになると授業ができないほどだった。また、附属盲からも「このまま教員だけで点訳をやっていては大変なことになる、ボランティアにも手伝ってもらいたい」との声も挙がって、点訳事業部が尾関先生の附属盲退職間もない平成2年(1990)10月に開設されたのだった。
 点訳事業部ができたことで、入試問題の点訳はすべてボランティアが行うようになり、教員は試験問題の点訳指導や校正を行うという役割分担が確立し、教員の負担は軽減された。点訳者が十分確保できないときは、タイプライターで2枚打ちした入試問題もあったが、今では点字プリンタで作るため、そうしたことはない。
 土居氏が入試点訳の経費について質問すると、「入試点訳の経費は、大学から点訳事業部に支払われるので、点訳事業部の持ち出しは一切ありません」と尾関先生は答えた。そして、「独立行政法人の専務理事とはずいぶん違いますが、点訳事業部の専務理事として年間120万円の報酬が私に支払われていました」と茶目っ気たっぷりに話し、爆笑を誘った。
 点訳事業部は、理事と筑波大学附属視覚特別支援学校教員による事務局、入試問題の点訳と解答の墨訳を行う点訳ボランティアグループからなる。点訳事業部で活動する点訳グループは東京、大阪、名古屋などにあり、各地方で入試点訳を引き受けている。全国各地にネットワークができ、入試点訳は順調に進んでいるようにみえるが、ボランティアの高年齢化が目立ち、中には入試点訳を志す若い点訳者が1人もいないグループもあるという。専門知識と技術を必要とする入試点訳の後継者育成は、喫緊の課題だといえそうだ。
 一方、指田氏は視覚障害学生を取り巻く環境の変化を心配する。「近年、障害学生支援室が大学に設置され、学習環境が整備されてきました。これ自体は大いに評価すべきことですが、一方で点訳サークルがどんどん消滅しています。私も在籍した早稲田大学点字会も昨年解散しました。これは、視覚障害学生が近年早稲田大学に進学しないのも一因でしょうが、それとともに視覚障害学生がインターネットの普及により点字を使わないようになっているせいもあるでしょう」と大学の点訳サークルの衰退と点字離れを嘆いた。
 大橋氏は、「われわれの頃は、大学に入って点訳サークルに所属する。あるいはなければ点訳サークルを作らなければどうしようもなかったからね。今ではそういう煩わしいことをしなくても、大学側で相談に当たる窓口があり、昔とずいぶん様変わりしましたね」と述べた。

ドン・キホーテみたいに挑戦して欲しい

 筆者が附属盲高等部にいた昭和58年(1983)当時、推薦で大学へ進学する生徒はクラスに1人いるかいないかだった。というより受験を拒む大学がほとんどで、盲学校からの推薦入学など例外だったのだ。ところが時代は変わり慶應義塾大学をはじめ、点字受験を頑なに拒んできた大学が門戸を開放し、推薦入学者を募っている。少子化の昨今、これも大学の生き残り戦略なのだろうか?
 推薦で大学へ進学し、「何となくのほほんと入ってこんなはずじゃなかったと。昔はほとんどいませんでしたが、この頃は大学を中退する人も増えています。途中で辞めて悪いこともないし、本当に合わないと思えばそれも選択肢ではありますがね」と先生は最近の学生気質に割り切れなさも感じているようだ。
 点字受験を求め、認めさせたという点では、公務員や教員の採用試験も同様だ。「公務員採用試験や法科大学院の試験が制度化されて行われているにも関わらず、チャレンジする人が近年減っています。これも推薦入学の影響かもしれませんね」と若い世代の挑戦意欲の低下を長岡氏も嘆く。
 大学全入時代の今、センター試験や一般入試で大学を受験しようとする視覚障害者は減少している。こうした傾向について尾関先生は、「やっぱり、難関校に果敢に挑戦してクリアーしてくれるような人が出て欲しですね。ドン・キホーテみたいに笑われるかもしれませんが、医学部を受験する人が現れてもいいのではないでしょうか。理療科から医学部へ進学する人がいても不思議ではありませんね。欠格条項が撤廃されたのだから、注射ができなくても、顕微鏡が覗けなくてもいいから、それでも視覚障害者に医学教育を施していこうという気概のある大学が表れて欲しいものです」と大学受験生にエールを送る。
 入試点訳ということでは大事業を達成したが、尾関先生の夢はそれだけでは完結しない。「就労支援で、点訳者が職場介助者として視覚障害者の支援に従事できるような形を築き上げたかったのです」と言う。これは尾関先生から次の世代に出された課題だといえよう。

中国の点字識字率は1%
―― 七夕節に北京から賓客 ――

 7月7日午後、中国盲文出版社崔万義(サイ・バンギ)副社長を代表とする一行4人が当協会を訪れた。
 「盲文」とは中国語で「点字」のことなので、日本語に訳せば「中国点字出版社」だ。しかし同社のステイタスは非常に高く、人民出版社、民族出版社、中国藏学出版社と共に公益性を持つ4大出版社として、中国では別格扱いである。それもそのはずで、同社は毛沢東主席が、親族である古参党員の張文秋(チョウ・ブンシュウ)女史に、直接、中国の点字出版事業を創設するように手配し、1953年に創設された由緒ある歴史を持つのだ。
 中国盲文出版社は、全中国の視覚障害者の情報文化センターで、点字編集部、公益文化事業部、情報バリアフリーセンター、盲人文化研究所など17の部門で175人の職員が働き、5つの点字雑誌をはじめ、各種書籍、点字教科書ほか、録音図書、拡大活字書、視覚障害者情報機器、盲人用具などの供給も行っている。
 中国では出版社は政府の許可がなければ設立できないが、近年、その設立は厳しく制限されている。しかし中国盲文出版社は昨年の9月、収益部門を担う子会社として墨字書籍の総合出版社である求真出版社を、特例で中国580番目の出版社として設立し、崔氏はその社長も兼任している。
 同行した同社録音図書事業部穆(ボク)中華課長によると、中国の視覚障害者は公称1,691万人とされているが、実数は1,800万人以上おり、その内訳も弱視者より全盲が多いという。中国の視覚障害者の生業は按摩だが、全盲同士でも激しい競争があり、職業問題はそれだけ深刻だという。しかも特筆すべきは、1,800万人中点字が読めるのはたった20万人以下だというのだ。日本は視覚障害者30万人のうち、点字を読めるのは約5万人と推計されているので、この中国の点字識字率の低さは際だっている。
 これについて穆課長は、中国の視覚障害者の多くは農村部に住んでいるが、110校ある中国の盲学校は、大都市に集中している。就学適齢期の児童・生徒には就学奨励費が一応でるのだが、それは盲学校の寮費には足りない。このため、視覚障害者の就学の実が上がらないのだと嘆いていた。また、経済的な面に加え、目の見えないわが子に、知り合いのいないはるか遠くの大都市で、無理に勉強させるのは不憫だという親心も問題解決を遅らせているようだ。
 中国盲文出版社は、中国政府のはからいで、来年にはさらに交通アクセスの良い北京中心部の広い建物に移転する計画だ。そういう飛躍を前にしてであろうか、一行は当協会の製版、印刷、丁合、製本設備等を、担当者を質問攻めにしながら精力的に見学した。(福山)

編集ログ

 今月の「大相撲」は賭博問題に荒井太郎さんが果敢に斬り込んでいます。この問題が影響しているのか? 「Hクラブ36年・・・」は関係する盲界の大御所の実名が伏せられました。合法なのに残念です。私も駆け出しの頃競馬新聞を読んでいました。毎日新聞社を退職後、当協会で触読校正をしていた愛称石ヤンがHクラブにのめり込んでおり、その片棒を担いでいたのです。中央競馬会のレースを電話投票する仕組みで、石ヤンは保証金として毎年30万円ほど銀行口座に振り込んでいました。勝ったという景気のいい声ばかり聞いていたのですが、年間にならすと確実に負けていたのです。こうして私にとってのHクラブは、反面教師でした。(福山)

Copyright 2004 Tokyo Helen Keller Association. All Rights Reserved.

THKA