THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2009年8月号

第40巻8号(通巻第471号)
編集人:福山 博、発行人:藤元 節
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替口座:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:tj@thka.jp

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「ゲリラ豪雨」

 昨年の夏、ゲリラ豪雨が各地に出現、甚大な被害が発生した。ゲリラ豪雨とは都市で局地的にしかも短時間に降る集中豪雨のことで、マスコミによる造語だ。どこで集中豪雨が発生するのか予測しきれない現象を例えて使用されるようになった。原因の1つにヒートアイランド現象も指摘されている。ゲリラとはもともとスペイン語で、奇襲して敵を混乱させるなどの遊撃戦を行う小部隊あるいはその遊撃戦法を意味する。ゲリラ豪雨は刺激的な言葉だが、正鵠を射ている。なお、集中豪雨は警報基準を超えるような局地的な大雨を指す気象庁の解説用語だが、気象学上明確な定義は無い。
 東京都港区の気象情報会社ウェザーニューズは、「ゲリラ雷雨メール」というサービスを行っている。予報は朗報なのだが、予測される時点でその豪雨はゲリラでなくなってしまう。

目次

(特別インタビュー)成熟した大学を目指して 筑波技術大学村上学長の構想 ・・・
3
なぜ「点展」ではなく「点天展」なのか
  民博のブライユ記念展が拓く点字の宇宙(広瀬浩二郎) ・・・・・・・・・・・・・・・・
13
ホンジュラスの視覚障害者にマッサージを教えます
  ―― 青年海外協力隊員・山地貴子さん
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17
一大飛躍のターニングポイントになるか? 日盲社協宮崎大会にて ・・・・・・・・・・
23
視覚障害学生の多様化するニーズに応えて ―― 技術大が送り出した3つの教材 
26
自分が変わること:ベリーズの激しい雨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
ケララ便り:私の夢、みんなのための移動図書館 その1 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
リレーエッセイ:伴走の達人との出会い(畑千尋) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
外国語放浪記:スーパースターの死 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
あなたがいなければ:私は彼らの先生だ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
感染症研究:ついに発生した新型インフルエンザの脅威(3) ・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
よりどりみどり風見鶏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
大相撲:苦労人2人、それぞれの関取昇進ドラマ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
時代の風:静かすぎるエコカー、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
58
伝言板:ぼくたちのつくったもの2009 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
61
(投稿)一庶民として(多々良友彦) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64

ホンジュラスの視覚障害者にマッサージを教えます
―― 青年海外協力隊員・山地貴子さん

 山地貴子(やまち・たかこ)さんは、28歳の熱意にあふれた晴眼鍼灸マッサージ師だ。彼女は、JICA(国際協力機構)の青年海外協力隊員として本年12月から2年間の予定で中米ホンジュラスの視覚障害者に指圧やマッサージを教える。そのため、6月15〜26日の日程でヘレン・ケラー学院(以下、学院)にて視覚障害者への指導法の研修を受けた。
 6月22日に当出版所にて、ホンジュラス派遣に当たっての抱負を聞いた。(戸塚辰永)

「あはき」で途上国支援を

 高校生の頃、鍼灸マッサージに興味を持った山地さんは、高校卒業後、東京・四ツ谷の呉竹学園東京医療専門学校鍼灸マッサージ科に進んだ。あはきの国家資格を取得した彼女は、卒業後すぐに2カ所の鍼灸マッサージ治療院で働きながら、週に1日母校の施術所で主に鍼の研修を受けて、運動器疾患などの治療技術を身につけた。また、卒後3、4年間は修行期間と決めて、助産院と提携している治療院でも働いた。妊産婦への鍼灸マッサージ治療、とくに産前産後のケアや逆子の鍼治療なども行い、実際に出産にも立ち会ったという。
 「陣痛が始まったときに、痛みを和らげる鍼治療を妊婦さんにしました。そのようなとき、鍼の効果は絶大なんだなと感じながら治療ができました」。「一度海外で働いてみたいと思っていました。けれども、アメリカやオーストラリアといった先進国で働いても刺激がないような気がして、同じ海外で働くのなら、途上国で働く方がやりがいがあると思っていました。あるとき、開発途上国で苦労して働いてみたいと友人に話したところ、『だったらJICAがいいんじゃない』と勧められました。そこで、いろいろと調べた結果、やはりJICAが一番サポートがしっかりしていたのです。もし現地で何かあっても保障がありますから」と青年海外協力隊員に応募した動機を語った。

1日1ドル以下で暮らす人々

 山地さんが派遣されるホンジュラスは中南米でも最貧国のひとつだ。同国の人口は710万人で、そのうち49%が1日1ドル以下で暮らしている。中でも女性は教育を受ける機会もなく、とくに劣悪な状況にあるという。こうした女性の自立を支援するために、日本のJICAをはじめとする国際的な援助が行われている。
 このような貧困の原因は数限りなくある。ホンジュラスはバナナとコーヒーの生産国だが、1998年10月の大型ハリケーン「ミッチ」で国土も人々も大打撃を受けた。国際機関の援助で復興に立ち上がろうとしている矢先の2002年に、コーヒー相場が大暴落し貧困に拍車をかけた。相場下落の一因は、近年コーヒー生産に乗り出した新興国のベトナムが、生産調整を無視してコーヒー豆の大増産に乗り出し、価格破壊が生じたためだという。加えて、ホンジュラスは政情も不安定で、治安も年々悪くなってきている。使命感を抱いての赴任となるが、当然、彼女たちにはそれに見合う安全保障と尊敬が与えられるべきであろう。

合格の鍵はニセコでのアルバイト

 昨年(2008)秋、青年海外協力隊の募集に鍼灸マッサージ師があり、山地さんは応募した。鍼灸マッサージ師の募集は例年1件ほどだが、昨年は運良くホンジュラス、ケニア、ウズベキスタンと3件もあった。
 1次試験は書類選考で、「経絡と経穴について全く知識のない人に説明しなさい」という問題やボランティアについての意識を問う問題など。そして、2次試験は、英語の筆記試験と実技、それに面接で3人が選抜された。
 これといって、特に英語は習ったことがなかったが、冬場に北海道のニセコで働いていたことが幸いした。近年、ニセコのスキーリゾートにはオーストラリアやカナダなどからスキーに訪れ、「お客さんも従業員もみんな外国人ばかりだったので、英語がそれほどできなくても、耳は多少慣れていたのではないかと思います」と彼女は笑う。
 合格発表は、今年2月にあり、ホンジュラスへの派遣を伝える通知が山地さんに届いた。「ケニアにも惹かれたのですが、第1希望とは異なりました」と微笑む。
 「鍼灸マッサージ師の派遣職種には、男女の区別はありませんでしたが、ウズベキスタンは、現地の人々一般を治療するというもので、ケニアは障害者向けでした。ホンジュラスは、視覚障害者にオイルマッサージや、できればリフレクソロジーも指導してほしいという内容で、比較的女性向きだったのかも知れません。ちなみに、合格した他の2人は男性です」。
 ホンジュラス派遣までの本格的な訓練は、10月から65日間JICAの訓練所でスペイン語などの語学、派遣国の国情・習慣等を集中的に学ぶほか、ワクチン接種も受ける。ホンジュラスをはじめ中南米の熱帯地域では、蚊を媒介するマラリアやデング熱、それに狂犬病といった感染症のリスクが高いためだ。
 「今の時点では現地の様子は、JICAからのメールや資料で一般的な状況はある程度わかりますが、視覚障害者の情報はさっぱりで、行ってみないとわからないのが実情です。どなたかご存じの方いませんか?」と苦笑する。

触ることの大切さを実感

 「ヘレン・ケラー学院に来て初めて視覚障害者と接しました。視覚障害といっても、全盲や弱視、個人によって様々だということが今やっと分かった程度に過ぎませんが、皆さんとても明るいのが印象的です」と言う山地さんは、学院では、教員が教える様子を見学し、「先生がどのように指導し、どのように工夫されているかを中心に見させていただきました。とくに、座学では解剖学や生理学の講義に注目しましたが、先生が要点のみを言葉で説明しているので、すごく分かりやすい」と感想を述べた。
 実技に関しては、専門学校との違いにとくに感心したという。「専門学校は1クラス30人に対して、学院では1クラス5人以下と少人数で、先生が1人ひとりにしっかり個別指導しています。それも、先生が自ら練習台になって、授業のはじめに生徒たち1人ひとりに鍼を打たせたり、按摩の技術をチェックしています。また、視覚障害の先生は生徒に触れて、自分に触れさせて技術を覚えさせていくというのが、私の中ではとても新鮮に感じました。そして、目で見えない分、施術を受けた感覚をくみ取っていき、それらを率直に話し合うのが大切だと思いました」。

指圧、鍼灸は中南米でもブーム!

 ホンジュラスでは、首都のテグシガルパから車で30分ほどのサンタルシアで活動する。サンタルシアには2007年12月から青年海外協力隊員として盲学校に派遣されている前任者の仕事を引き継ぐ予定である。前任者は現在も同地で視覚障害者に按摩を教えているが、英語からスペイン語に訳した按摩の術式の教科書も作ったという。
 山地さんは「前任者に作って頂いた教科書を元に按摩の他に、指圧やオイルマッサージなども教えていきたいと思います。ですが、実際に現地に行ってみないと、どこまでできるのか、どのようなニーズがあるのか分かりません。まず、それらを把握したうえで、必要としているものを教えていくつもりです」という。
 ホンジュラスへの派遣が決まって彼女は中南米での東洋医学の普及状況を調べた。この地域に明るい呉竹学園の教師によると、中南米でも指圧はかなり一般に普及しており、とりわけ、ホンジュラスの隣国であるニカラグアでは、同国政府のバックアップもあって、医療として東洋医学が根付いているようなのだ。首都のマナグアには、日本ニカラグア東洋医学高等研究院が2004年3月に中南米唯一の東洋医学と西洋医学を教える5年制の単科大学として開学し、現在JICAからシニア海外ボランティアとして派遣された講師が教えており、150人の学生が在籍している。また、同研究院付属の東洋医学クリニックには、月2,000人もの患者が治療に訪れ活況を呈しているという。
 「ホンジュラスでもそうした評判が伝わっていれば、上手くすると、ぐぐっと広がっていくかもしれませんね」と彼女は期待している。
 ブラジルには、両親が日本人ペルー移民であった視覚障害者の故鬼木市次郎(おにき・いちじろう)氏が1990年にサンパウロで創設した鬼木東洋医学専門学校があり、鍼灸、マッサージ、指圧は日系人のみならず、今や現地の人々の間にも浸透していると聞く。
 派遣に当たっての抱負を聞くと、「2年でやれることは少ないので、按摩も、指圧も、マッサージも、体の使い方という点では基本はどれも同じなので、それを覚えてもらえればいいと思います。とにかく、健康が1番です。ただ、それだけです。日本と比べて、現地の医療設備はあまり良くありませんから」と語る。
 山地貴子さんの活躍と無事を願うばかりである。

■ 編集ログブック ■

お知らせ

 ついに衆議院の解散総選挙が現実のものとなり、8月30日に投票日を迎えます。それに向けて、点字出版業界は総力を挙げて、「点字選挙公報」の製作を共同で実施します。しかし、この製作期間は、小誌『点字ジャーナル』の編集・発行期間とちょうど重なるため、連載執筆者には早めの出稿をお願いして、編集作業を前倒しします。しかしながら、最優先で行う「点字選挙公報」の製作にはどうしても、公示日にならなければわからない不確定要素があり、その影響は避けられません。このため次号(9月号)の定時発行には最善を尽くしますが、発送が数日遅れる可能性も排除できませんので、その際はお許しいただきたく、あらかじめここにお願い致します。

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