THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2008年12月号

第39巻12号(通巻第463号)
編集人:福山 博、発行人:迫 修一
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替口座:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:tj@thka.jp

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「エンパワーメント(empowerment)」

 「外来語」の言い換えを提案している国立国語研究所では、「開発援助や女性運動の分野でよく使われる。能力を引き出す側面に焦点を合わせる場合は『能力開化』、権限を与える側面に焦点を合わせる場合は『権限付与』と言い換えることができる。権限の大きいところから権限の小さいところに、権限を移すことを指して使われることもあり、その場合は『権限委譲』という言い換え語が適切になる」としているので、さしずめ18ページの「国際シンポジウム」に出てくる「エンパワーメント」は、「能力開化」、あるいはもっとくだけて「力をつけること」と言い換えて間違いないだろう。もっとも、この語本来の概念が焦点を合わせているのは、「人間の潜在能力の発揮を可能にする平等で公平な社会を実現するところに価値を見出す」点なので、単に個人や集団の自立を促す概念ではないというのだが?

目次

用具センターからのお知らせ:携帯型デイジープレイヤー
  「プレクストークポケット」先行予約受付中!
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3
(座談会)今年の盲界を振り返って
  (大橋由昌、高橋秀治、藤井亮輔、与那嶺岩夫) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
サイトワールドで国際シンポジウム スペシャルゲストはWBU会長 ・・・・・・・・・・・・
18
(特別寄稿)携帯型DAISYプレイヤー徹底比較(松井進) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
22
リレーエッセイ:映画に恋して(堤由起子) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
外国語放浪記:クリスマス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
あなたがいなければ:盲学校の同級生たち ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
感染症研究:最古のミイラから発見されたマラリアとは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
知られざる偉人:米国の図書館サービスの法制化に尽くした
  ルースS.B.プラット女史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
48
よりどりみどり風見鶏 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
大相撲:目指すは国民的大関貴ノ花 ―― 安馬公平 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
時代の風:随筆随想コンクール入賞者決定、拡大教科書作成まだ3分の1、
  母乳成分がメタボに効く、タンザニアで視覚障害者連続殺人 ・・・・・・・・・・・・・
58
伝言板:競い合い、助け合うコンサート2008、パソコンで年賀状を作ろう!、
  第19回アメディアフェア、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63

用具センターからのお知らせ
携帯型デイジープレイヤー「プレクストークポケット」
先行予約受付中!

 この商品の発売を「まだかまだか」と待っていた方も多いのではないでしょうか。12月16日(火)、シナノケンシから携帯型デイジープレイヤー「プレクストークポケットPTP1」が発売されることが決定しました。
  PTP1は小型軽量・ポケットサイズの録音再生機なので、外出先でデイジー図書を楽しみたい方、会議や授業などを録音したい方には最適です。記録メディアは先行して販売している他社携帯型デイジープレイヤーと同じくSDカードを採用しています。価格は3万9,900円(税込)となっていますので、すでにプレクストークPTR1・PTR2をお持ちの方はセカンドマシンとして、さらにPTR1・PTR2が日常生活用具の給付対象にならなかった障害者手帳3〜6級の方にもお求めやすい価格設定となっています。
  このPTP1の最大の特長は、PTR1・PTR2に挿入されているCDまたはCFカードのデイジー図書をPTP1のSDカードにバックアップする場合、USBケーブルでPTR1・PTR2とPTP1を接続し、PTP1のボタン9を押すだけの操作で、パソコンを使わずにできることです。もちろんパソコンからPTP1にセットされたSDカードにバックアップすることも可能です。
  また、テキストデータを音声で読み上げることもできます。12月16日の発売時点では半角英数で記述されたテキストのみ英語版音声合成で読み上げますが、2009年春頃には日本語版音声合成による読み上げにも対応予定です(シナノケンシのウェブサイトからダウンロードでのみ提供)。
  そのほか、デイジー録音をする場合は追加録音のみ可能で、挿入録音・パンチイン録音は出来ません。また、ページ・レベル設定などの詳細な編集機能はなく、見出し設定・取り消し・セクション削除のみの機能となります。
  主な仕様は、サイズ幅55mm、長さ112mm、厚さ16mm、重さ約110g。本体の色はブラック・ホワイトの2種類。バッテリー駆動時間は連続再生で約10時間(SDカード使用時)。充電時間は約4時間でUSB端子からの急速充電も可能。対応記録メディアはSDカード(最大32GB)、2GBのSDカード1枚が標準装備となります。
  現在、盲人用具センターではPTP1の先行予約を承っております。発売記念キャンペーンとして、ご予約並びにご購入いただいた方にもれなく、2GBのCFカードまたはSDカード1枚、700MBのCD-R10枚の中から、お好きなものを1つプレゼントいたします。是非この機会にご購入を検討してみてはいかがでしょうか。
  問い合わせは、東京ヘレン・ケラー協会盲人用具センター 電話03-3200-1310(平日10時〜18時)へ。

サイトワールドで国際シンポジウム
―― スペシャルゲストはWBU会長 ――

 11月3日(月・祝)、東京・錦糸町のすみだ産業会館において開催されたサイトワールド2008にて、国際シンポジウム「世界の視覚障害者の動向 ―― WBUとアジア太平洋地域の課題」が開催された。講師はオーストラリアのマリアン・ダイアモンド世界盲人連合(WBU)会長、タイのモンティアン・ブンタンWBU執行委員、マレーシアのアイバン・ホ・タック・チョイWBUアジア太平洋地域協議会(AP)事務局長、コーディネーターは指田忠司WBUAP会長、通訳は田畑美智子WBU執行委員で、約200名の聴衆で会場は満席であった。
  まず、ダイアモンドWBU会長は、「世界盲人連合として皆さんにお話ができることを大変光栄に思います」と述べ、WBUは1億6,100万人の全世界の視覚障害者を代表して、政治的、経済的、社会的に視覚障害者が対等に参加できる社会を作ることをめざす国際組織であるとの紹介があった。そして主な活動は、視覚障害者の能力開発、リーダーシップの育成、点字の識字率向上、女性・若者・マイノリティのエンパワーメント(1ページ「巻頭ミセラニー」参照)、貧困の撲滅、組織作りなどと、これら視覚障害者の重要な課題についての政策提言を行い、国連や国際機関にも諮問している。そのために会長、第1副会長、第2副会長、事務局長、会計、それに前会長の6人によるコアメンバーと世界6地域の会長が、年に2回ほど会議を開いている。また、各地域から3名ずつ選ばれた執行委員を含めた執行委員会を4年の任期中に2回開催するが、このシンポジウムを通訳をしている田畑美智子さんはWBUAPで唯一の女性執行委員であるとの紹介があった。
  その後、8月にスイスのジュネーブで開かれた第7回WBU総会と、それに先だって行われた女性フォーラムの報告がなされた。そして、最後に、日本で2007年に著作権法が改正され、同年7月から視覚障害者向けのネット配信の条件が緩和されたことを高く評価して祝意を述べ、日本での経験を活かして世界中にこの取り組みを広めていきたいと語った。
  続いて、国連障害者の権利条約が2008年の5月3日に効力が発生したことを受けて、当初から権利条約に深く関わってきたタイの上院議員でもあるブンタンWBU執行委員が発表。国連障害者の権利条約は、21世紀で最初に採択された国連の人権条約で、世界初の障害者を特定した画期的な条約。特に、最初から条約作りに市民社会が関与し、草の根からの声をインターネットを介して素案が作られた史上初の条約である。また、世界で初めて、ユニバーサルデザイン、支援技術、合理的配慮が位置づけられ、点字を正式に認めた条約でもある。ただ、この条約が発効されてもモニタリング(監視)をおろそかにするとただの紙切れになるので、日本の皆さんも監視を強めて欲しいと述べた。
  最後にWBUAPのアイバン事務局長が登壇し、「私は事務局長なので、指田忠司会長が決めたことを、忠実に実行する必要があります」と、まず宣言。そして、アジア太平洋地域には21の地域と国に組織があるが、今年のジュネーブ大会でようやくラオスと東ティモールがWBUに加盟した。両国とも非常に貧しい国で、障害者の人権や教育がないがしろにされており、視覚障害を持つリーダーの育成が急務である。しかしWBUAPには資金も資材もなく、できることは「各国で視覚障害者がどのようにやっているか、どのようにやってきたか」などの情報の共有化のみである。また、「ミャンマーでは今夏のサイクロン被害で、視覚障害関係の施設の屋根が吹き飛ばされ、盲学校の寄宿舎は水浸しになりました。『サイトワールドの機会に何かしませんか』という提案が元会計からあり、受付に募金箱を設置しましたので、ご協力をお願いします」と述べ、締めくくった。
  その後、フロアーとの質疑となり、鍼灸マッサージと視覚障害者の職業自立についての質問には、香港のキム・モックWBUAPマッサージ委員会事務局次長が、「5月に最初の理事会があり、日本、韓国、台湾など先進国が経済的に弱い地域の視覚障害者を指導することになり、マッサージ委員会のホームページを立ち上げ、まず情報交換を図っていきたい。また、中国に短期のマッサージ養成コースを作る計画があり、現在中国と日本で話し合いをしている」と答えた。
  フロアーから日盲連の笹川吉彦会長は、「日本でも差別禁止法が検討されているが、タイでできた障害者の差別に関する法律には罰則はあるのか?」と質問し、ブンタン氏が、「差別を受けたことにより生じた損失の最大4倍までの罰金が科せられる」と述べた。また、バイオリニストの和波孝禧氏は、「日本は視覚障害者にとって恵まれた国であることを今日のシンポジウムで改めて認識した。ついてはラオスやミャンマーの視覚障害者の生活はどうでしょう?」と質問。アイバン氏は、「ミャンマーの人口は7,000万人もあるが、盲学校は3、4校しかなく、圧倒的多数は教育を受けられないでいる。しかも、家族は視覚障害児を家から出そうとしないので、失明防止と共に社会の認識を変えることが重要」と述べた。
  これに関連して栃木県立盲学校の南沢創(はじめ)教諭は、「日本の盲学校は生徒数の減少に悩んでいる。日本には69校の盲学校があり、合計3,000人弱の生徒しかいないので、アジア太平洋地域からもっと視覚障害者に勉強に来て欲しい」と訴えた。
  ほかに質疑応答では、WBUの6地域から14〜16歳の視覚障害学生24名がスペインに集った合宿形式のシンポジウムの報告や、改めてユニバーサルデザインの重要性などが強調され、定刻通りきれいに終了した。(編集部)

(特別寄稿)
携帯型DAISYプレイヤー徹底比較

千葉県立中央図書館/松井進

 私たち視覚障害者にとってデジタル録音図書(以下DAISY図書)は、大変便利な読書ツールだが、今までのDAISY図書再生機器はかさばり、通勤や通学等で持ち歩いて聞くにはやや無理があった。しかし2008年は携帯用DAISYプレイヤー元年ともいえる年で、KGSから「BF-VOICE」(以下BF)が、エクストラからは「VRストリーム」(以下VR)が相次いで発売となり、本年12月16日にはシナノケンシから「プレクストークポケット」(以下PTP1)が発売される予定だ。
  筆者は公共図書館で障害者サービスを担当しており、実際にiPodシャッフルという100円ライターほどの携帯用録音図書プレイヤーの貸し出しを行ったり、携帯用DAISY図書プレイヤーで使用するSDカードという切手ほどの大きさのメディアの貸し出しを行っているが、その反響の大きさからもやはり視覚障害者にとって携帯して利用できるDAISY図書プレイヤーは待ち望まれていたことがわかる。また個人的にもVRを購入し、携帯用DAISYプレイヤーの便利さを日々感じてもいる。
  そこで現在実際に発売されているBFやVRについては実機を使用しながら、まだ発売されていないPTP1については、筆者が触れた試作機と、報道発表資料に基づいて本稿を執筆するので、これは私が試した範囲のレポートであることをここにお断りする。なお、重さ約50gの手のひらサイズの携帯用DAISYプレイヤーとして先行して販売されていたアメディアの「おしゃべりレコーダー」(価格7万9,800円、税込)は、現在モデルチェンジの準備が進められているので、本稿ではあえて紹介しなかった。

品名と価格(税込)、主な機能

 BF-VOICE(ケージーエス)6万9,300円、CD-ROMドライブとのセットは7万7,700円。別売のCD-ROMドライブ1万円、マルチカードドライブ7,140円。
  VRストリーム(エクストラ)5万8,800円。
  PTP1(シナノケンシ)3万9,900円(予定)。
  なお、DAISYプレイヤーは日常生活用具給付該当商品のため、重度の視覚障害者は一部自己負担のみで購入可能。
  次いで主な機能だが、3機種とも基本機能のDAISY図書再生機能、音楽データの再生機能、録音機能は共通している。もちろんICレコーダー的な使い方やMP3プレイヤーとしても使用可能だ。また将来的にはテキストデータの読み上げ機能も追加される予定で、08年11月時点ではVRのみ英語のTTS機能にのみ対応。またPTP1も発売時は英語のTTS機能にのみ対応予定だが、後日のバージョンアップにて日本語のTTS機能にも対応する予定である。サイズは、3機種ともカセットテープケースよりもやや大きめで、スーツのポケットに収まる程度で、BFの外形寸法は幅68×長さ107×厚さ15mm、重さ約110g。VRのサイズは幅66×長さ116×厚さ23mm、重さ170g、PTP1は幅55×長さ112×厚さ16mm、重さ約110gである。本体の形状は、3機種とも携帯電話や電卓の様な形をしており上側にスピーカーが配置されている。
  VRの操作性は、昔の「ビクターリーダー」をそのまま継承しているのでシナノケンシのPTR2等、他のDAISYプレイヤーの使用者はマニュアルをあまり読まずに操作できる。BFは今までのDAISY図書プレイヤーの概念がそのまま使用できないところはあるが、これはこれで覚えてしまえばそれほど問題ないだろう。特にBFはキーヘルプ機能が充実しており、キーヘルプのボタンを押した後、機能を知りたいボタンを押すことで機能を確認でき便利だ。VRにもキーヘルプの機能はあるが、テンキー1の長押し、続けてテンキーの0を長押しという操作のため若干煩わしさを感じる。VRのボタンはかなり凹凸がはっきりしており、形状も正方形や長方形、三角形、菱形、楕円等機能ごとに変えているため判りやすいが、BFやPTP1はやや出っ張りが少ない。ただボタンを押すと、両者ともはっきり押したときの感触があり、音もするため慣れればどちらも問題なさそうだ。ボタンの配置は、3機種ともテンキーがあり、BFはテンキーの上側に再生やボリューム、移動を行うためのボタンが配置され、その下にテンキーがある。VRは上にページとしおりのボタンがあった後、すぐにテンキーが並び、その下に触って判る区切りがあった後、スリープタイマーのボタンや再生ボタン、巻き戻しや先送りのボタンが配置されている。PTP1は、前面の上側の網目部分に内蔵スピーカー、内蔵マイクが組み込まれ網目部分の下右側に電源キー、左側には録音キーが横並びであり、電源ボタンには2つの突起がついている。その下側には中央の部分に丸い再生ボタンがあり、その再生ボタンを上下左右で囲むように十字キーが配備されている。さらに十字キーの右側および左側にはそれぞれ上下に2つのキーがあり、右上のキーは各種設定を行うためのメニューキー、右下のキーは複数あるDAISY図書や音楽アルバムを選ぶ操作のきっかけとなるタイトルキー、左上のキーはページや見出しのダイレクト移動をするための移動キー、左下のキーはしおり移動やしおりをつけるためのしおりキーとなっている。その下には、携帯電話と同じ並び方のテンキーが配備されている。再生時間は3機種とも約10(BF・PTP1)〜15時間(VR)で、充電時間は4時間程度。本体の色はBFは白、VRは黒、PTP1は購入時に白と黒のどちらかを選べるようになっている。使用メディアは、3機種ともSDカードで、BFは2GBまでの対応だが、VRとPTP1は、高速大容量のSDHC形式にも対応しているため2GB〜32GBのカードも使用可能だ。なおBFには最初から本体に1GBのメモリーが入っており、その内プログラムの入っているエリアを除いて860MBのデータエリアがあり、それとは別にSDカードが入るスロットがある。VRやPTP1の本体メモリー内には使用者が使えるエリアはなく、SDのスロットにカードを挿入しないと録音図書を聞くことはできない。なお、BFとVRには1GBのSDカードが、PTP1には2GBのSDカードがそれぞれ購入時から付属している。

データの転送機能

 データの転送は、基本的に3機種ともフォルダーを作って、そこにDAISY図書の入ったフォルダーをまるごとコピーすれば再生可能である。例えばBFではDAISYというフォルダーを作って、そこにDAISY図書の中にある音源データの入ったフォルダーを丸ごと複写しておく仕組みになっている。またVRの場合「$VRDTB」というフォルダーに録音図書の入ったフォルダーを複写しておけば再生可能だ。PTP1には特に規定のフォルダーはなく、録音図書の入ったフォルダーをそのままコピーすれば再生できる仕組みになっている。なお3機種ともただ1タイトルだけをコピーしておけばいい場合には、フォルダー構造に関係なく、DAISYのCDの録音図書の入ったフォルダーをそのままSDカードにコピーしておくだけでも再生可能だ。CDのコピーは3機種ともパソコンを使用して行うのがもっとも簡単だが、BFは別売で専用のCDプレイヤーやカードリーダーが準備されており、パソコンを介さなくても簡単な操作でコピーができる。PTP1の場合には、同社のPTR1やPTR2とUSBケーブルで接続することで、パソコンを使用せずにCDやカードから本体にコピーすることができる。VRは、パソコンとVRをUSBで繋いでコピーするか、あるいはパソコンにマルチカードリーダーを接続してそこからSDカードにコピーする必要がある。また外付けのUSBフラッシュメモリーを用いてデータをパソコンからコピーしたり、USBフラッシュメモリーをVRにそのまま接続して聞くことも可能だ。実際に携帯用DAISYプレイヤーとパソコンを接続してデータを転送する場合には、VRやPTP1はパソコンと通常のUSBケーブルで接続すると外付けのフラッシュメモリーと同じように一つのドライブとして認識されるため、パソコンのマイコンピュータやエクスプローラを使用してCDドライブの中身をそのままコピーすれば使用可能となっている。BFも、付属している専用のケーブルを使用すればパソコンの外付けドライブとして認識させることが可能である。なおBFとPTP1は、USBの2.0規格に対応しているため、比較的高速でのパソコンからのデータ転送が可能である。

再生できるデータ形式と再生方法

 3機種とも対応しているデータ形式は基本的にはMP3形式だが、WAVEも再生可能で、VRのみWMA形式にも対応している。もちろんPCM22.05kHzモノラルで作られた図書にもそのまま対応可能だ。ただし、比較的古いデータ形式だが、今でも多くの録音図書で使用されているADPCM形式については、VRやPTP1では問題なく再生可能だが、BFは対応していない。またプレクストークプロジェクトファイル(シナノケンシのPTR1やPTR2でカードに録音またはバックアップしたデータ)については、BFやVRではそのままでは再生できない。再生速度の改変については、BFは9段階、VRは−3から+10まで可能であり、3機種ともピッチコントロールにも対応しているため、音質も満足できる状態だ。3機種ともヘッドフォンでの再生だけでなく、モノラルだが内蔵スピーカーでの再生にも対応しているが、筆者が使用した感想ではBFについてはボリュームが十分大きくならず、ヘッドフォンを使用しても地下鉄のように外部の雑音が大きいところではやや聞きづらく感じられた。次にDAISY図書の特徴である移動の機能だが、3機種とも従来からの見出し、レベル、ページ、フレーズといったDAISYの階層構造に対応した移動は可能だが、グループについてはVRやBFについては海外製品のため日本で作られている注や写真説明といった細かな単位での移動とは仕様が異なるため、やや注意が必要だ。またBFについては、録音図書の再生中と停止中では動作が異なるため、これも要注意だ。

録音機能

 BFとVRを、同時に同じ机の上に乗せて大学の講義を内蔵マイクを使用して録音すると、BFは周囲30cm範囲の音しか入らないという仕様のため、マイクを使用した講師の声は残念ながらあまり綺麗には録音できなかった。一方VRは、講師の声も綺麗に録音できた。ただ両機種とも録音の編集機能は装備されていないため、録音してきた音源の編集は、パソコン等で別に行う必要がある。なお録音したデータはBFではWAVE形式(録音データサイズは約23秒で1MB)、VRは3PG形式(1GBで約150時間)で保存される。ただし、やはり綺麗な録音をするのであれば外付けマイクは必須だと感じたが、両機種とも外付けマイク端子は装備されているものの、その後の実験結果では、BFでは外付けマイクを使用しても音質の変化はあまりなかった。両機種とも録音したデータの削除の機能があり、ファイル名は自動的に連番で付けられるため使用者はあまり意識なくワンタッチで録音が可能である。結論的にはBFの録音機能は自分の手元に置いての音声によるメモ程度、VRであれば複雑なことをしなければ録音機器としても使用できるレベルであり、筆者は普段サンヨーのICレコーダーを生録用に使用しているが、遜色はあまりなかった。一方PTP1については、報道資料によると外付けのマイク端子を搭載しており、DAISY形式(PCM 44.1kHzステレオ、PCM 22.05kHz モノラル、MP3 256kbps ステレオ、MP3 128kbps ステレオ、MP3 64kbps モノラル、MP3 32kbps モノラル)の録音が可能とある。

その他の感想と今後の展望

 VRは電源ボタンを押すとすぐに使用できるが、BFは15秒ぐらい起動に時間がかかる。また、BFはキーロックのキーがあり、上にスライドさせるとロックがかかるが、VRでは、電源を入れてテンキーの*を長押しすることでキーロックがかかる(キーロックの解除はテンキーの1、2、3を順番に押す)。鞄の中での誤操作を防ぐという意味では、BFの方が安心感がある。PTP1は本体にキーロックのスイッチがあり、起動もVR同様に早かった。
  いつでもどこでもDAISY図書を聞くためには、今回紹介した携帯用DAISY図書プレイヤーだけでなく、2008年8月から日本点字図書館と日本ライトハウスが、共同で開発した「びぶりおネットモバイル」のサービスを利用する方法もある。全国の視覚障害者が、携帯電話を利用してデジタル化された録音図書をダウンロードして自由に利用できるのだが、その条件は、NTTドコモの「らくらくホン・プレミアム」または、「らくらくホンV」を所有し、NTTドコモのパケ・ホーダイに加入し、マイクロSDカードを所有していることである。まだ始まったばかりのサービスであり、再生音量が小さい図書があったり、速度の改変等もできない等課題はあるが、特筆すべきサービスであろう。詳しくは日本点字図書館図書情報課(03-3209-2442)、または日本ライトハウス盲人情報文化センター読者サービス係(06-6211-7400)へ。また読書を楽しむための新しいツールとして、視覚障害者用の各種アプリケーションソフトの開発で知られている高知システム開発から「MyBook」が、10月17日に発売された。これを使えば、簡単な操作でパソコンからDAISYやオーディオCDの図書を携帯用プレイヤーに転送できる他、点訳データやテキストデータから合成音声で読み上げたDAISY図書を作成し、携帯用プレイヤーに転送して持ち歩いて聞くことができる。
  この様に2008年は視覚障害者の読書環境を大きく変化させる年となった。また本稿では残念ながら比較できなかったが、2009年2月にはアメディアからFMラジオやICタグリーダーも付属された高機能の「おしゃべりレコーダー」の新モデルの発売が予定されている。今後の課題は、利用できる書籍の充実や携帯端末の普及で、携帯用DAISYプレイヤーの普及には、携帯電話だけでなく、パソコンを使用してもびぶりおネットのデータをSDカード等にダウンロードできる仕組みも必要である。さらには、サポート体制の充実や従来から図書館から貸し出しが行われているCDによる録音図書の提供体制についても、SDカードによる貸し出しシステムの構築等も急務であろう。DAISY図書の利用の簡便さがより多くの人たちに享受できるようになることを、筆者自身の体験を踏まえ切望しているところである。
  なお本稿の執筆に当たっては、筆者も可能な限り間違えがないように心がけたつもりだが、是非読者ご自身も実物を手に取って検証していただきたい。

■ 編集ログブック ■

訃報・サリバン賞の遠藤貞男氏

 元日本銀行職員で、約80回、延べ1万8,000余名の視覚障害者(同伴者を含む)に観劇会を提供してきた遠藤貞男氏が、10月24日老衰のため入居中の老人ホームで逝去されました。享年86。葬儀は26日にカトリック大宮教会で執り行われました。喪主は長女で日本共産党新座市議会議員の工藤かおるさん。
  敬虔なカトリック教徒であった遠藤さんは、視覚障害者のために昭和51年(1976)秋、ヘレン・ケラーの少女時代を描いた、劇団民藝による「奇蹟の人」(演出渡辺浩子、出演奈良岡朋子・南風洋子(みなかぜ・ようこ)・北林谷栄(きたばやし・たにえ))の観劇会を企画。以来継続して企画し、毎回、座席の確保、点字・墨字併せての案内状の送付、当日の受付・案内、また上演後は視覚障害者を舞台に上がらせ、大道具・小道具を直接触らせ、時には主演俳優に引き合わせるなど精力的な活動を行い、当協会より、第7回(1999年)ヘレンケラー・サリバン賞が贈られました。
  ご冥福をお祈り致します。

編集長より

 (座談会)「今年の盲界を振り返って」は、議論が白熱して1時間の予定が2時間半になってしまいました。このため、「年間を通して障害者権利条約の話題が継続的に語られました。画期的な条約なので社会参加の上で合理的配慮という問題が、どこまで詰められるのか注目しています」などといった、格調高い話も出たのですが、残念ながら大幅削除のやむなきに至りました。
  3回目にして、やっとサイトワールドに出かけることができました。1、2回目とも海外にいたのですが、今回は選挙が予定されていたので「禁足の身」。そこで、はからずも初参加することができ、マリアン・ダイアモンドWBU(世界盲人連合)会長にも親しくご挨拶することができました。本誌先月号の「巻頭ミセラニー」のテーマは「総選挙」、そして、「点字で投票しよう!」と笹川日盲連会長にまで煩わせてインタビューしており、すっかり選挙モードに入っていました。しかし、それも「編集ログブック」を書く頃には、かなり懐疑的になっており、ついには11月30日投票はなくなり、やや間抜けなことになってしまいました。
  「伝言板」でもお知らせしましたように、12月23日(火・祝)、東京・浅草橋の東商センター(台東区柳橋2-1-9)で開催される第19回アメディアフェアに当協会も広報委員会(委員長石原尚樹常務理事)が中心になり参加します。柳橋といえば、かつては大江戸一の花街だったところで、さすがに柳橋芸者は途絶えたと思いますが、今でもその面影はあるのでしょうか? 「お暇なら来てよね、アメディアフェアに!」。(福山)

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