THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2008年2月号

第39巻2号(通巻第453号)
編集人:福山 博、発行人:迫 修一
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替口座:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:tj@thka.jp

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「恵方巻」

 節分の前になると、例年職場のすぐ近くにあるセブン・イレブンから営業がかかる。数年前に、「節分の日にその年の恵方(歳徳神の在する方位)に向かって、目を閉じて願い事をしながら太巻きをまるかじりすると、その年必ず幸運が訪れます。江戸時代末期に大阪・船場の商人による商売繁盛の祈願事として始まりました」とそのいわれを聞いたときは、なんという奇習かと思った。が、今や全国区の勢いで、海苔業界はもちろんローソン、ファミリーマートなども巻き込んだ、一大イベントに急成長。太巻きは七福神にちなみ、かんぴょう、キュウリ、シイタケ、伊達巻、うなぎ、でんぶ等七種類の具を入れて、福を食べるという意味がある。また、節分とは旧暦の大晦日だから、前年の災いを払うための厄落としの意味を持つので、本来は夜食べるものだ。もっともわが職場では、もっぱら昼食として食べているのだが?

目次

(座談会)障害者の権利条約と私たち(上)
  (石野富志三郎、金政玉、指田忠司、山本眞理) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
藤井プランにとっては諸刃の剣か? 
  理療科教員養成に関する理教連方針まとまる
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
リレーエッセイ:失われた心を(椎野孝伸) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
22
鳥の目:シティホテルに格安料金で泊まる ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
26
コラムBB:世間知らずの困った人たち ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30
感染症研究:ここまでわかったカエル・ツボカビ症 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
続ジェームスからの伝言:当惑を乗り越えて、米国からの礼状 ・・・・・・・・・・・・・・・・
38
知られざる偉人:米国初の盲人外交官A.ラビー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
新コラム・三点セット(水谷昌史) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
大相撲:近代大関列伝その3 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
48
ブレーメン:最初驚き、そして切ない麻薬の話 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
スモールトーク:お風呂で死なないために ――
  交通事故死よりも多い入浴中の死亡者数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
54
サリバン賞贈賞式開催 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
今年は「国際衛生年」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
58
時代の風:カエルの箱船、スイカ相互乗り入れ地域拡大、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
伝言板:詠進歌、来年のお題は「生」、マラソンの魅力! ランナー、
  ボランティア大いに語る、CDなどをプレゼント ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64

藤井プランにとっては諸刃の剣か?
―― 理療科教員養成に関する理教連方針まとまる ――

 昨年(2007)の3月28日に筑波技術大学が、「これからの理療科教員養成の在り方を考える」と題したシンポジウムを開催して、同大に理療科教員養成課程を設置することに意欲を示して以来、本誌ではこの問題を重視して、継続的に取り上げてきた。
  この問題は、同シンポジウムで打ち上げられた、筑波技術大学の「理療科教員養成課程設置構想」(いわゆる「藤井プラン」)をたたき台に、昨年をとおしてかなり具体化しつつあるようだ。その実現に向けての天王山と目されているのが、筑波大学と筑波技術大学による統合に向けての協議である。極めて不自然な形であれ、実際に理療科教員養成を行っている筑波大学と、正規の理療科教員養成課程の設置に関する諸条件を備えている筑波技術大学の協力・統合なしには、この問題は今後1歩たりとも進まないだけに、その行方は注目される。
  その協議にも少なからぬ影響を与えると思われる方針を、日本理療科教員連盟は、去る11月24日の臨時総会の議を経て、12月8日の常任理事会で最終確認した。とりようによっては追い風にもなり、足かせにもなる内容を含んでいるため、その意味では藤井プランにとって、諸刃の剣ともいえる方針であるだけに、極めて重要だと考え、以下に全文を掲載することにした。(編集部)

理療科教員養成課程の在り方に関する理教連方針

 1.筑波技術大学(以下「技大」)に2年制の特別専攻科と特別別科を設置し、4年制大学卒業者は特別専攻科を経て、また盲学校専攻科卒業者は特別別科を経て、理療科教員1種免許状を取得できるよう要望する。
  2.そのため、日本理療科教員連盟は、筑波大学理療科教員養成施設(以下「教員養成施設」)と技大との合併を積極的に支持し、教員養成施設に代えて、特別別科設置を進めることを要望する。
  3.技大と筑波大学の合併協議にあたっては、人事面、施設面等で充分な配慮がなされるべきことについて、要望する。
  4.この要望が実現されれば、法令等の改正を前提に、盲学校専攻科からの4年制大学への編入や大学院設置による専修免許の取得についても関係機関に働きかける。

(付帯事項)
  1.本要望を、文部科学省、全国盲学校長会、筑波大学、技大等、関係機関に早急に提出する。
  2.盲学校専攻科から理療科教員になる道が確保されないか、または将来その道が閉ざされるような事態が生じた場合には強く反対する。

■ 鳥の目、虫の目 ■
シティホテルに格安料金で泊まる

 日本、とりわけ東京の宿泊料は高い、というより安い宿舎が極めて少ない。格安で知られる戸山サンライズ(全国身体障害者総合福祉センター)でさえ、洋室シングルで障害者4,500円、一般6,000円である。しかもトイレはついているが、シャワー・バスは共同である。また、駅とのアクセスがあまり良くないので視覚障害者の場合、JR高田馬場駅前からタクシーを利用することになりかねず、結果的にそう割安でもない。そこで同駅前のビジネスホテル「サンルート」に目を転じると、ここも今やシングルで9,500円もする。しかし、それでもなかなか予約できないのが東京のホテル事情だ。都心でしかも交通アクセスの良い手頃なホテルはないのだろうか?
  インターネットによるホテル予約サービスであるアゴダ(Agoda.jp)で、「12月24日チェックイン、12月25日チェックアウト」というモデルケースで都心のシングルルームを探してみた。すると、192件ヒットしたので予算を8,000円台までにしぼると35件になった。しかし、このうちの5件は所在地が成田なので、これを除外するとそれでも30件あり、最安値は日本橋の5,767円のビジネスホテルであった。
  このように表示価格に端数が出てくるのは、本来の価格が米ドル表示で、それをコンピュータが自動的に円に換算しているためだ。また、東京のホテルで検索したのに成田が出てきたのは、成田国際空港は2004年4月1日に改称するまで、正式名称は「新東京国際空港」であったため、国外では成田が東京の一部と誤解されているためだ。このアゴダのシステムは英語版を日本語に単純に翻訳したものなので、このような誤りに加え、翻訳ミスも目立つ。たとえば、帝国ホテルは、日本語でも「インペリアル・ホテル」と表示されるが、これなどもその好例だろう。

最低価格の保証

 私がアゴダをはじめて使ったのは2006年の夏であった。ベトナムのホーチミン市を訪れるに際し、どうしても「マジェスティック」という老舗ホテルに泊まりたかったが、大手旅行代理店に1泊2万4,000円と言われ、絶句した。こちらの心づもりの倍額だったのだ。が、諦めきれずインターネットで探し出したのが、アゴダのプレシジョン・リザベーションというシステムであった。そして1泊90米ドル(約1万500円)で予約したのであった。これは、すべてをインターネット上で自動予約し、予約が確定した時点でクレジットカードからホテル代が引き落とされる仕組みだ。このシステムの最大の売りは、「最低価格保証」で、同日、同ホテル、同一ランクの部屋で、同社が提供する値段より安値でウェブサイト上で予約できたら、予約から48時間以内であれば、それと同価格あるいは、さらに安い価格にすることを約束している。たったの48時間以内かという声があるかもしれないが、実際に根性入れて探してみても、これ以下の値段は本当にないのである。
  なお、一昨年のこの予約はすべて英語で行ったため、精神衛生上良くなかったが、先に紹介したように、最近同社の日本語版があることがわかったので、昨夏は日本語で予約した。
  ところが、本来アナログ人間である私には日本語での予約もやはり緊張を強いられたが、作業自体はそれほど難しくはなかった。国名・ミャンマー、都市名・ヤンゴンと入力し、ホテルにチェックインする日とチェックアウトする日、それに部屋数と宿泊者数を入力し、検索すると、人気順にヤンゴンのホテルが一覧表示された。2番目に表示されたのが私が予約したサミット・パークビューホテル。同ホテルはヤンゴンで最初にできたインターナショナルホテルで、ガイドブックでは1万2,000円からの宿泊代であったが、同システムではなんと1泊3,205円。気を良くした私は、10月末に予定されていたバンコクのホテル料金も検索してみた。すると旅行代理店が示していた1泊9,900円に対して、4,959円という金額が提示されたのであった。

宿泊日の変更は不可

 ホテルに格安料金で泊まるには、とても便利なシステムなのだが、もちろん問題もある。まず、システム上の理由でクレジットカード以外の決済は不可能であること。次いで問題なのは、予約が確定したら「宿泊日の変更」はできないことだ。これはすでにクレジットカードからホテル代が引き落とされているので、予約した日に泊まることができなかったら、予約をキャンセルするしかないのである。その際は1件につき15米ドルかかる。私はヤンゴンに加え、乗り継ぎの関係でシンガポールにも泊まる計画だったので、都合2件のキャンセル料30米ドル(3,500円)を払うはめになった。
  そして、これが最大の問題かも知れないが、なにかトラブルが発生し、担当者と話し合うには国際電話をかける必要があるのだ。「日本語オンラインエージェントがあり、キャンセルや問い合わせも日本人スタッフとできる」ことになっているが、現時点ではすべて日本語で通すのには少し無理がある。なにより問題なのはAgoda.jpと名乗っているが、この会社は日本にはないのだ。「宿泊日の変更」ができないことを知らなかった私は、日本語でメールを送ったのだが、なかなか返事がこなかった。そこで、一計を案じて、日本語を英語に翻訳して送信したら、すぐに返事がきた。また、日本人スタッフと話をするには、バンコクに電話して、タイなまりの英語のアナウンスに沿ってプッシュホンのボタンを押し、電話交換手に取り次いでもらう必要があった。
  どうもこの会社に日本人が配置されたのはそれほど古いことではないらしく、しかも人数が少ないようだ。とはいえ、私のようなへまをやらなければいいのである。人件費をかけずに、コンピュータ化して経費を節減し、その分安く提供しようというこの種のシステムに手厚いサービスを期待する方がどだい無理なのである。そう割り切ることができたら、このシステムは、重宝するはずである。
  ただし、日本への進出はまだまだこれからで、地方都市の場合は高級ホテルしかヒットせず、格安ホテルについては、まだサポートしていないようだ。また、世界中のどのホテルであっても1泊15米ドル以下のホテルはまずない。(福山博)

続ジェームスからの伝言
当惑を乗り越えて、米国からの礼状

 昨年(2007)11月号の本誌で、「ジェームスからの伝言」として、米マサチューセッツ州に住む盲ろう者・ジェームス・ライアン氏(以下、ジム)が、日本語の点字聖書を読むために点字英和・和英辞典を格安で求めているという記事を掲載した。
  すると山梨県のある読者から、すかさず英和辞典を無償提供したいとの申し出があった。そして、おそらく梱包作業に大変なご苦労があったと思うのだが、11月30日の午前中に全27巻が入った14箱の小包が、当編集部宛送られてきた。そこで、われわれは全巻そろっているかどうか確認すると共に、海外向け点字郵便は「全面開封」にしなければならないというルールなので、編集部で包み替えて、ジムの米国の住所を記載。そして、11月30日(金)の夕刻、当協会に隣接する新宿北郵便局に無償のエアーメールとして差し出した。
  ところがジムから12月11日付で、感謝の言葉を連ねながらも、当惑を隠しきれない失意のEメールが当方に届いた。そこには、「12月5日に点字英和辞典の25巻分は届いたが、その後首を長くして待っても最後の1箱(21・22巻)が届かない。ついては東京点字出版所に21・22巻だけ注文することはできないだろうか?」、と書かれていた。
  彼からは、点字英和辞典を発送したらすぐにその旨Eメールで教えて欲しいと事前に頼まれていた。なにしろ全27巻の入った14箱の小包が届くのであるから、その日は自宅で待機し、盲ろうであるから、ポストマンが来たことを知るために、なんらかの方策を立てなければならないからである。そこで、私は発送した直後に、「山梨県の読者からのクリスマスプレゼントを贈った」と敬虔なクリスチャンである彼に連絡した。そして、実際に点字郵便であるにもかかわらず、太平洋を越え、アメリカ大陸を横断して、わずか5〜6日間で彼の手元にその大部分は届いたのだ。しかし、それから6日たっても行方不明の最後の1箱は、ついに見つからないというので、彼は失意のEメールを送ったのだった。そのメールには、そうは書かれていなかったが、行間を読むと「最後の1箱が、本当に送られたのだろうか?」と疑念を持っているに違いないと察することができた。彼だけでなくおそらく私だって、彼の立場で郵便局に散々問い合わせをし、待ちくたびれたあげくなら、そう考えただろう。なにしろ、彼は日本にだって、こちらの英会話能力にお構いなしに、ボランティアとおぼしき人々に頼んで、がんがん電話をかけまくるのだから、郵便局にも電話攻勢をかけたはずである。
  私は点字郵便に限らず、海外宛の郵便では、かねてより散々痛い目に遭っていた。そこで、本来なら書留にしたいところであったが、そうもいかないので、次善の策として、発送する前にその小包全体をデジタルカメラで写しておくことにした。その証拠写真は、会議室の机にずらっと並んだ14箱の小包が、ヘレン・ケラー女史の写真を背景に鎮座しており壮観であった。しかも、拡大すると切手を貼る位置にフランス語と英語で「点字用郵便」と書かれ、その下にはジムの住所がはっきり読み取れるほど鮮明であった。
  この写真を添付ファイルにして、同日(12月11日)ジムに送り、「この写真を見てくれ確かに14箱送った。あなたはすぐに最寄りの郵便局に行って、最後の一箱を探さなければならない」、とEメールで返信。すると12月17日付でジムよりEメールが届き、12月14日に行方不明になっていた最後の1箱が届き、これで27巻すべてがそろった。しかも、どれも非常に状態が良く、うれしい。後日、寄贈者にはサンクスカード(礼状)を送るので、翻訳したものを添えて、寄贈者に転送して欲しいと書いてあった。最初の荷物は1週間もかからずに届いて、最後の1箱はちょうど2週間かかったことになる。
  12月26日にジムからサンクスカードが郵便で届いた。そこで、それを辞書の提供者に転送すると共に、英文を翻訳してメールで送り、年末最後の楽しい充実した仕事となった。
  なお、点字和英辞典に関してもその後複数の方からの申し出があり、新春早々ジム宛に送ることができたのも嬉しい仕事であった。実際にお送りいただいた方と共に、無償提供をお申し出いただいた方々にもこの場を借りて御礼を申し上げたい、「ありがとうございました」。何はともあれ、まったく、めでたし、めでたしの春である。(福山博)

■ 編集ログブック ■

 巻頭の座談会は、戸塚記者初の司会でした。このため、障害者権利条約について彼は猛勉強し、それでも当日は随分緊張した模様ですが、まずは上出来のデビューとなりました。取材もそうですが、座談会も参加者がしゃべってくれなければ、お手上げですから、これも参加者ご協力のたまものです。難しい内容がお陰様でとてもわかりやすく、しかも充実したものになりましたので、上・下に分けて次号でも掲載します。ご期待下さい。
  「続ジェームスからの伝言」に関して、その後ジムから連絡がまいりました。当方が1月9日に投函した和英辞典は、1月14日に全22巻が無事にジムの手元に届いたということです。彼は非常に喜んでおり、敬虔なクリスチャンらしく読者の皆様にも「神の祝福を」と述べております。
  当協会海外盲人交流事業事務局は、ネパールにおける事業を紹介したニュースレター『愛の光通信』2007年12月冬号(通巻29号)を発行しました。ホームページ(http://www.thka.jp/kaigai/)上において、テキスト形式、PDF形式、BASE形式で公開していますので、ご高覧ください。(福山博)

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