THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2007年8月号

第38巻8号(通巻第447号)
編集人:福山 博、発行人:迫 修一
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替口座:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:tj@thka.jp

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「キヨスク」と「キオスク」

 駅売店には「キヨスク」と「キオスク」の2通りの呼び方がある。駅売店全般を指す場合は「キオスク」、それがJRに限定される固有名詞になると「キヨスク」となる。元々はトルコ語の東屋を指す言葉が由来とされ、駅売店に名付けられたのは1973年のこと。当時は財団法人鉄道弘済会の運営だったが、1987年の国鉄民営化を機に新会社が発足し、「清く」「気安く」のイメージから「キヨスク」と名付けた。しかし、近年事業内容が多様化。昨年度は事業の3本柱の1つ、コンビニエンスストアが、駅売店の売り上げを超えた。そのため、「東日本キヨスク」は7月から社名を「JR東日本リテールネット」に変更、売店の呼び方も「キオスク」とすることにした。ただし、JR東海の子会社「東海キヨスク」、JR北海道の「北海道キヨスク」、JR四国の「四国キヨスク」にはキヨスクの名が残る。

目次

当協会も後援! 塙保己一賞募集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
第21回大連国際マラソンに挑戦(王崢) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
視覚障害とアウトドアスポーツ(小林幸一郎) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
スモールトーク:窓は少しだけ開かれていた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
働く喜び、生きるすばらしさを共に感じ合いたい(福井照久) ・・・・・・・・・・・・・・・・・
21
リレーエッセイ:「目指せ最下位脱出!」
   楽天と私と年間シート(菊地理一郎) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
24
映画レビュー:1.ブラインドサイト ―― 小さな登山者たち
        2.夕凪の街 桜の国 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
点字版とテープ版の「がん診療連携拠点病院の相談窓口」が完成 ・・・・・・・・・・・・
32
理療科の教育制度と教員制度(田中邦夫) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
コラムBB:尺八と過ごした青春の日々 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
感染症研究:なぜ成人の百日咳の集団発生がおきたのか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
水原紫苑の短歌教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
知られざる偉人:通信制盲学校を創始したW.A.ハドレー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
コラム・三点セット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
49
大相撲:騒動・事件史その5 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
ブレーメン:日独親善はうなぎに限る ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
55
時代の風:触って分かる絵が描ける絵筆を試作、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
58
伝言板:ヘレン・ケラー「サポートグッズフェア2007夏」、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
61
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63

■ スモールトーク ■
窓は少しだけ開かれていた

 当協会の目と鼻の先に、かつて存在した町名を唯一今に残す諏訪町交差点がある。この交差点を中心に、ときたま怪しげな男たちがたむろすことがある。盛夏なのにダークスーツを着て、ノーネクタイなのでワイシャツの襟ははだけており、眼光あくまで鋭いそろって屈強な男たち。しかも、その誰もが片耳にイヤホンを差し込んでいるのが異様だ。彼らに混じって制服の警官もいるので、すぐに察しがつくが、怪しい彼らもまた私服の警官である。ネクタイを締めていないのは、2005年の夏から政府主導で進められたクールビズを警視庁も取り入れているからだ。どうせなら上着も脱いだらよさそうだが、上着の内ポケットにはトランシーバー等の七つ道具が納められているので、そうはいかない。
  天皇陛下が学習院大学在学中から魚類の研究を始められ、ハゼ科魚類の研究をライフワークにされていることは一般に良く知られている。ただ、そのために公務の合間を縫っては標本を顕微鏡でのぞき、ウロコなどの形態の特徴でハゼを分類し、これまでに28本の論文と7種の新種を発表されていること。最近は秋篠宮さまと共同で遺伝子の解析を行い、系統の分類に進まれていること。年に6回新宿区百人町の国立科学博物館分館で開かれる定例の魚類分類研究会に出席されていることはあまり知られていない。
  同分館と当協会は直線距離にして約1km。赤坂御所を出た陛下の車は明治通りを通り、諏訪町交差点から諏訪通りに入ると、信号はすべて青になっているので2分弱で分館に着く。警備上の理由から陛下の車列を止めないよう、くだんの男たちは信号を操作し、交通規制を行ってノンストップで御料車を進めるためだ。
  以前、このような厳重警備に陛下がとても心を痛められ、宮内庁は可能な範囲で信号に従って車列を進めるよう警視庁に要望。1991年3月31日午後、同分館で開かれた「日本魚類学会年会」に出席するためお出かけの途中、陛下の車が史上初めて赤信号で停車した。しかし、それもそう長くは続かなかった。
  2003年7月4日、北海道富良野市の国道で、軽自動車を運転していた男が、暴言を吐きながら天皇の車列に衝突を企てる事件が発生。皇宮警察に阻止され事件は未遂で終わり、誰にもケガは無かったのだが、この事件が決定的となり警備はさらに強化された。
  ある真夏の午後1時半頃、今度は分館方面から諏訪町交差点に向かって、2台の白バイに先導されて、まずは警備車両が現れ、次いでトヨタ・センチュリーロイヤルとおぼしき御料車がかなりの速度、おそらく時速60kmほどで、私たちの目の前を駆け抜けた。後部座席にはあのやんごとなきご尊顔があり、窓がほんの少しだけ開かれていた。(福山博)

■ 映画レビュー ■
1.ブラインドサイト ―― 小さな登山者たち

 標記の映画は、イギリスの監督ルーシー・ウォーカーによるドキュメンタリー作品で、中国チベット自治区の首府ラサにあるBWB(国境なき点字)盲学校の男女生徒6人が全盲の米国人登山家エリック・ヴァイエンマイヤーらとともにヒマラヤのエベレスト北方に聳え立つ7,000m峰ラクパリ(チベット語で嵐の山)の登頂を目指す物語。
  チベットでは、盲人は前世の悪行が原因で悪魔に取り憑かれているという古くからの言い伝えがあり、ひどく差別されてきた。そして盲目の子供たちは、親からも社会からも拒絶されるという悲しい現実に直面していた。そんな子供たちに救いの手を差し伸べたのは、自身も全盲のドイツ人教育者サブリエ・テンバーケン。入国に難色を示していた中国政府当局の反対を押し切って単身チベットに渡った彼女は、1998年首府ラサに初の盲学校を設立する。このときの様子は彼女の著書『わが道はチベットに通ず』(風雲社)に描かれているが、盲学校設立から6年後(2004年)に撮影されたこの映画は、生徒たちの逞しく成長する様子を記録した、同書の続編ともいうべき作品だ。
  2001年5月、盲人としてエベレストの初登頂に成功したエリック・ヴァイエンマイヤーは、その体験を著書にまとめた。その本を読み感動したサブリエは、生徒達に彼の偉業を話して聞かせるとともに、ぜひともラサで登山教室を開いてくれるようエリックにEメールを送る。彼女の行動力と事業に共感した彼は二つ返事で承諾し、気心の知れた登山仲間とともに2004年春ラサに降り立つ。
  エリックはラサ郊外の岩場に生徒たちを連れ出して、フリー・クライミングや登山の基礎を教えると、みるみるうちに彼らは上達する。生徒たちの熱意を感じ取ったエリックはラクパリ登山を提案し、にわかに夢が膨らむ。「僕たちもエリックさんと同じなのだから、彼にできて僕たちにできないことはないはずだ」と1本のロープに身を委ね、手探り、足探りで必死に岩肌に取り付く生徒たち。
  2004年秋、いよいよ一行はラクパリへと向かう。最初はハイキング気分で歌を歌いながらの登山だが、高度が増すに連れてヒマラヤの過酷な自然が生徒たちを襲う。標高6,500mの気温はマイナス20℃以下、酸素濃度も平地の3分の1。高山病に罹れば命の補償はない。生徒たちは限界に挑戦する。そして・・・。
  本年(2007年)のベルリン国際映画祭でもパノラマ観客賞を受賞した感動作。
  現在、「品川プリンスシネマ」(03-5421-1113)を始め、全国各地で上映中。また、映画にはNPO法人「シネマ・アクセス・パートナーズ」による音声ガイドがあり、日本語字幕や状況説明をFMラジオで聴くことができる。ただし、音声ガイド付き上映館は、「品川プリンスシネマ」のみ。上映日、上映時間等については同館へ。映画の配給元のファントム・フィルムでは音声ガイド付き上映館を随時拡大していく予定だという。(戸塚辰永)

2.夕凪の街 桜の国

 標題の映画は、原爆投下から13年後と現代を生きる二人の女性の物語。何気ない日常を通して、現在までに至る原爆の影響とその家族を描いている。映画「半落ち」「出口のない海」などを手掛けた監督・佐々部清が、広島出身のマンガ家・こうの史代の同名作品を実写映像化した。
  原作が「夕凪の街」「桜の国(一)(二)」からなるので、映画は2部構成になっている。ひとつめの物語「夕凪の街」は、昭和33年の活気を取り戻しつつある広島市街が舞台だ。中小企業に勤める平野皆実(麻生久美子)は、笑顔の似合う器量よしの気立て良し。原爆で父・姉・妹を亡くし、母・フジミ(藤村志保)と2人、小さな家が軒を連ねる川岸の街で暮らしている。皆実には、ほかに旭という弟がいるが、戦時中に水戸へ疎開し、そのままおば夫婦の養子になっていた。いつかお金を貯めて、母と2人で弟に会いに行くのを楽しみに、倹約しながら暮らす日々だ。そんなある日、同僚の打越(吉沢悠)から突然愛を打ち明けられる。幸せを感じる一方で、被爆した心の傷が再び痛み出す。やがて皆実の体には原爆症の症状が現れ・・・。
  ふたつめの「桜の国」は、平成19年の東京から始まる。今では仕事も定年退職した皆実の弟・旭(堺正章)と暮らす、娘の石川七波(田中麗奈)が主人公。七波は、早くに亡くした母の代わりに父や弟の凪生<ナギオ>(金井勇太)の面倒を見るしっかり者。ただ近頃父が家族に内緒で長電話をしたり、夜中にこっそり出かけるのを心配していた。ある夜自転車で出かける父を見つけた七波は、とうとう尾行を開始する。途中、駅で偶然であった小学校時代の同級生・東子(中越典子)を道連れに、夜行バスに乗り換えた父を追い広島へとたどり着く。広島での父の行動を遠目に見守るうちに、七海は思い出さないようにしてきた過去、そして自分のルーツを見つめ直していく。
  原作は、平成16年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞・第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した感動作。韓国、フランス、アメリカなど十数カ国で出版され、海外でも注目を集めている。
  7月28日(土)より、全国ロードショー。音声ガイド・日本語字幕付き上映は下記の日程で、1日2回上映する(点字パンフレットあり)。
  上映時間など詳しくは各劇場にお問い合わせを。また、声優によるライブ放送の音声ガイドなので、FMラジオをお忘れなく。
  7月29日(日):109シネマズHAT神戸(神戸市中央区)、電話0570-011-109
  8月5日(日):109シネマズMM横浜(横浜市西区)、電話045-664-0109
  8月12日(日):109シネマズ名古屋(名古屋市中村区)、電話052-541-3109
  8月19日(日):シネマスクエアとうきゅう(新宿区歌舞伎町)、電話03-3202-1189

点字版と音声テープ版の
「がん診療連携拠点病院の相談窓口」が完成

 「がんかもしれないが、こわくて病院に行けない」。あるいは、「がんと診断されたが、これからどうすればいいのか、不安でいっぱい」。こんなときは、悩みをひとりで抱え込まないで、相談支援センターにご相談ください。
  国立がんセンターのがん対策情報センターは、点字版と音声テープ版の「がん診療連携拠点病院の相談窓口 ―― 相談支援センターにご相談ください」を作成し、全国のがん診療連携拠点病院や都道府県の関係部署のほか、全国の点字図書館、盲学校にお届けしました。
  この冊子では、がん診療連携拠点病院の相談支援センターに相談できることを、例をあげて説明しています。例えば、医師から言われたことが理解できないままでは、せっかくの情報を生かすことができません。相談支援センターでは、そんな情報をわかりやすく解説します。また、「どの病院を受診すればいいの?」「今の治療で大丈夫?」などあなたやご家族が必要としている情報を一緒に探します。がんの医療情報はとても多く、自分の状況に合うものを見つけるのは大変です。書籍やインターネットなどからあなたが求める情報を提供します。
  この冊子やテープについてのご質問は、国立がんセンターがん対策情報センター03-3547-6356、または東京ヘレン・ケラー協会03-3200-1310まで。

■ 編集ログブック ■

 選者の健康上の理由により、10月号からしばらくの間、「水原紫苑の短歌教室」は休載します。
  腱鞘炎は、ペンを持つ作家、楽器の演奏家、リハビリに通う歩行困難者を介助する医師、食事を運ぶウエートレス、家事に追われる主婦、赤ちゃんを抱くママ、最近ではゲームのやり過ぎなどでも起こるようですね。また、書家にとっては職業病のようなものらしいのですが、水原紫苑先生もまた原稿を毛筆で書いておられます。先生の一刻も早いご快癒を祈念致します。
  巻頭の「大連国際マラソンに挑戦」は、漢字仮名交じりの見事な和文で書いていただきました。王崢<オウ・ジョウ>さんは中国初の視覚障害を持つ学生として大学へ進学し、特殊教育を専攻された弱視者です。彼女は24歳のとき、「ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業」で2001年9月から10カ月間日本で研修を受けられました。
  「ノーバリアーUSA」が終わったのが7月2日、このため小林幸一郎さんには帰国後、大急ぎでしかも、胸躍るような原稿を書いていただきました。王さんにしろ、小林さんにしろ、ノーバリアーUSAで紹介されていた登山家にしろ、視覚障害者の世界は広く、まさに多士済々であることが実感されました。
  小誌編集部から世界を目指す戸塚記者は、よもやの参議院選延期で蒼白になり、怒りでワナワナ震えていました。そうです、先月号の「スモールトーク」のリード文で触れた7月20日からドイツに旅立とうとしていたのは彼だったのです。ところが、6月の下旬から政治日程が「奇妙な雲行き」になり、とうとう彼の旅行計画も、見事白紙に帰したのでありました。もっともすぐに気を取り直し、執念でなんとか再計画が成ったのはご同慶の至りで、怒りの一票を投じて旅立っていただきたいものです。
  先月号の本欄で、森雄士先生の箏曲演奏会の話題を書いたところ、同氏より演奏会のチケットが本誌編集部宛送られてきました。私は常々森先生による「水の変態」を、ぜひ聴いてみたいと思っていたのですが、これも参議院選の延長で断念せざるを得ませんでした。そこでチケットは、今月号のコラムBBで、過去の尺八奏者としての栄光を語った筆者に贈呈致しました。
  本誌ではいつも巻末で投稿を呼びかけておりますが、これとは別に「こんな文章を書いてみたんだけど掲載してもらえませんか?」という、持ち込み原稿もあります。また、「○○問題について書いてみたいのだが、どうだろう」というお話もいただき、掲載することもあります。これは、他の雑誌同様です。はっきりしたテーマをお持ちでしたら、事前に電話等で、当編集部宛ご相談いただけたら幸いです。(福山博)

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