THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2007年5月号

第38巻5号(通巻第444号)
編集人:福山 博、発行人:迫 修一
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:tj@thka.jp
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はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「准教授」

 この4月1日に施行された学校教育法の一部を改正する法律により助教授が廃止され、代わりに准教授が置かれた。学校教育法が定める助教授の職務は「教授の職務を助ける」であったが、准教授の職務は「優れた知識、能力及び実績を有する者であって、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する」で、その職階はまったく違う。つまり助教授は、教授の補佐であったが、准教授の職務は教授と同等なのだ。「准」という漢字は、条約を批准するの准、准看護師の准、静岡県立大学教授の石川准先生の准である。いまは亡き、あの芹沢勝助先生(筑波大学名誉教授)が、「僕はいつまでたっても助教授だよ」と、呵呵大笑されていたことを思い出す。(福山博)

目次

(特別寄稿)マラソンはお祭り! ―― 走るよろこびを共有する
 すべての市民のもの(大島幸夫) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
スモールトーク:ペコちゃんの不始末は万死に値するか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
リレーエッセイ:東京マラソンを走る(大口一男) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
12
読書人のおしゃべり
 1. 「市民マラソンの輝き」を読んで(鉾林さゆり)
 2. 視覚障害教育の意義を伝える一冊(青柳まゆみ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
世界盲人連合アジア太平洋地域協議会中期総会(田畑美智子) ・・・・・・・・・・・・・
27
感染症研究:腸内細菌叢とバランス調整のために
 必要な機能性食品とはなにか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
福田案山子の川柳教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
知られざる偉人:パーキンス盲学校初代校長のS.G.ハウ博士 ・・・・・・・・・・・・・・
37
コラム・三点セット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
大相撲:騒動・事件史その2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
ブレーメン:エンドレスの披露宴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
49
筑波技大公開シンポジウム「これからの教員養成の在り方を考える」 ・・・・・・・・・・
52
時代の風:1個の幹細胞から角膜再生、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
伝言板:こうばこの会春季公演、「卒後鍼灸」学術研究会、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・
58
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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■ スモールトーク ■
ペコちゃんの不始末は万死に値するか?

 杜撰な品質管理のため中止していた洋菓子販売を不二家が3月23日、2カ月半ぶりに再開した。この問題の発端は、よく知られているように同社が消費期限切れの牛乳を使ってシュークリームを作ったことにある。これがマスコミに知れたら雪印乳業の二の舞になると考え隠蔽し、今年の1月10日、内部告発によりそれが発覚・報道された。翌日、同社は現場の一作業員の判断が原因と釈明し、洋菓子の製造販売を休止した。ところが、それ以降も続々と杜撰な食品衛生管理が明らかになり、批判と苦情が殺到した。
  不二家がシュークリームを製造・販売した歴史は古く、なんと大正7年(1918)にさかのぼる。まさかそれ以来変わらぬレシピで作っていたわけではないだろうが、同社の衛生管理の杜撰さは、アルバイト学生らにより一昔前から噂になっていた。その当時は他に大手コンビニエンスストアーの弁当や大手メーカーのパンも問題にされたが、これらはそれぞれ時代に即応して改善されたようだ。一方、不二家はある種の時代錯誤からのんびり構えていたのだが、それでもこの事件を雪印事件と同様に断罪するのはいささか酷だろう。
  雪印集団食中毒事件は、脱脂粉乳製造時の停電である種の毒素が発生したことであり、その後の雪印牛肉偽装事件は、BSE対策として国が疑いのある肉を買い上げる制度を悪用したもので、こちらは明らかな犯罪だ。一方、不二家の事件は、消費期限が切れた材料を使っていただけで、農林水産省も「消費期限延長は可食期間内に収まっている」との見解を示し、厳重注意にとどめた。
  この問題が大きくなったのは、「不利益な情報を小出しにする姿勢」が雪印を彷彿とさせ、マスコミから集中砲火を浴びたことによる。雪印の二の舞にならないように用心したつもりが、結果的に雪印の轍を踏んだのは皮肉で哀れである。不二家は約800ある洋菓子店のうち、約90店を閉鎖したというが、直営店は別として、ここに含まれるなんの非もないフランチャイズ店の閉鎖は、ある種の報道被害ではないだろうか。不二家本体にしても、「ペコちゃんは死んで(廃業して)詫びるべき」というのは、いささか乱暴すぎる議論のように思われる。(福山博)

筑波技大公開シンポジウム
「これからの教員養成の在り方を考える」

 筑波技術大学主催の標記公開シンポジウムが、3月28日(水)、同大春日キャンパス講堂で開催された。これは、同大が進めてきた理療科教員養成課程構想の準備成果を公開し、それを真に理療教育の発展に寄与できるものとすべく、関係者に広く意見を聞くことを目的としたもの。当日は、学外から全国の理療科教員を中心に50名余りが集まり、同大関係者を含めて約90名で開催された。
  同シンポジウム開催にいたった経緯を、開会の挨拶に立った大沼直紀学長は、次のように述べた。同大の目下最大の課題は、(1)大学院の設置と、(2)理療科教員養成課程の設置を検討し、実現のめどをつけることである。そこで昨春、この2つの課題解決のために2人の特命学長補佐を任命したが、理療科教員養成課程の担当は藤井亮輔准教授である。その過程で、学長補佐に教授以外を任命していいのかという声もあったが、なによりその問題に最も精通している人物が担当すべきだという結論に達した。そのうえで、藤井先生に理療科教員養成課程設立のための道筋「藤井プラン」を作成してもらい、現在それを学内で共有することにこぎ着け、4月には新に設置準備室を置く予定でいる。しかし、学内だけでよかれと思って進めても、国民的、社会的コンセンサスが得られないと実現は難しい。かつて筑波技術短期大学開学にあたっては、視覚障害関係者から大変な反対運動が起き、それが長期間しこりとなって残った。その教訓から関係者こぞって賛成し、応援してもらえるという確信がもてるようになってから理療科教員養成課程の設置は進めたい。
  シンポジウムはまず二人の指定発言から始まった。藤井准教授による理療科教員養成課程設置構想の概要説明と、吉川惠士<ケイシ>筑波大学理療科教員養成施設長による、同施設の現状報告および、障害者職業学・視覚障害者鍼灸手技療法学を踏まえた高等教育機関での教員養成の提言である。次いで、ひな壇に緒方昭広<アキヒロ>日本理療科教員連盟会長、皆川治雄筑波大学附属盲学校長、矢野忠<タダシ>全日本鍼灸学会長、香川邦生<クニオ>健康科学大学教授、笹川吉彦日本盲人会連合会長の5氏が並んで、意見表明と参会者との質疑応答が行われた。
  会場で異口同音に語られたのは、現行の理療科教員養成施設が抱える大きな問題である。その背景を藤井氏は、戦後の学制改革で師範学校等の旧制教員養成機関は、新制の4年生大学教育学部等に改称・発展したが、東京盲学校の師範部は、盲学校からは分離したものの大学の課程に移行できなかったためと述べた。それを受け吉川氏は、筑波大学には理療科教員養成施設のバックになるような学部・学類がないため、その後50年を経過しても特別な変更はなく、将来的にも発展は期待できないと述べた。その上で、理療科教員養成課程を正規ルートにのせ大学の学部・大学院レベルにおいて行う必要があることが参会者の共通認識となった。しかし、その際に問題となるのが、盲学校の専攻科から理療科教員になる道が閉ざされることへの懸念だ。大沼学長のいう社会的コンセンサスを得るためには現在の盲学校専攻科理療科から教員養成課程に進学する道を今後とも保証することが不可欠である。そこで藤井プランでは、筑波技術大学の教員養成課程は保健科学部の上に置く専攻科で開始するが、それに加えて、当分の間2年課程の特別別科を保健科学部に附置し、こちらでも一部養成すると述べ、現行の筑波大学にある理療科教員養成施設を、筑波技術大学に移設することを示唆した。この点について吉川氏は、筑波大学岩崎洋一学長から「現場同士で話し合いを進めていくように」と指示されていると述べ、統合を視野におき密接な連携を模索する姿勢を示した。
  本シンポジウムで明らかになった理療科教員養成施設の将来像は極めて明確だ。大学院の修士課程で養成するのだが、それにいたる道は平坦ではなく、そして道が何本あるかさえまだ判然としない。複数の道に見えて、その実1本の道に収斂するのかも知れないのだ。
  本誌では次号でもこの問題を取り上げ、より深く掘り下げて考えたいと思う。(福山博)

■ 編集ログブック ■

 今号はアキレストラッククラブの皆さんの情熱に敬意を表して、東京マラソンの特集としました。「マラソンはお祭り!」と「東京マラソンを走る」を一読して、ランニングに関する私自身の考え方が旧弊というか、随分オールドファッションであったなと目から鱗が落ち、また心洗われる思いもしました。大島さんには、本誌2002年1〜3月号に「障害者スポーツとアメリカ市民社会」のタイトルで寄稿していただきましたので、ご記憶の読者もおられるかも知れません。今年70歳とは思えぬフットワークの軽さで、携帯電話が通じないと思っていたら、登山をなさっていたようでした。
  「読書人のおしゃべり」で鉾林さんが紹介された、大島さんの著書『市民マラソンの輝き』は、6月初旬に当協会点字図書館(03-3200-0987)より、録音図書としてリリースされる予定になっています。こちらも併せてお読みください。
  「筑波技大公開シンポジウム」が開かれたのは3月末だったので、藤井先生の肩書きはまだ助教授でした。しかし、「巻頭ミセラニー」でお知らせしたような事情があり、発行日を考慮して、本号から「准教授」の肩書きを採用しましたので、ここにおことわり致します。(福山博)

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