放送法第33条に基づき、総務大臣がNHKに対して、放送の区域や事項などを指定して国際放送の番組内容を編成するよう命令すること。NHK国際放送の経費90億円のうち22億円が国費による「命令放送の交付金」である。命令放送とはいっても、歴代の総務大臣は毎年春、NHKの自主性を尊重し、放送事項を「時事」などと抽象的な表現にとどめて命令を出してきた。ところが菅義偉<すが・よしひで>総務大臣は11月10日、NHK短波ラジオ国際放送で北朝鮮の拉致問題に特に留意して放送するようNHKに命令した。元総務大臣の片山虎之助参議院自民党幹事長は「権力が放送に関与するような印象を与えるのはよくない。命令しない方がいい」と強く批判した。
島根県の企業が元気だ。AMラジオを使った音声案内システムや、簡単に敷設できる屋内用歩行誘導ソフトマットなど独創的な製品を開発している。全国的な普及を目指す2つの歩行支援製品を取材した。
音声案内システムの「てくてくラジオ」は、街づくりコンサルタント会社・計画技術研究所松江事務所(松江市)の製品。先日行われたサイトワールドなどのイベントで体験された方も多いと思うが、これは案内を発信器から電波で流し、AMラジオで受信するシステムだ。発信器は縦6.1cm、横5.6cm、高さ2.8cm、重さ約40gと小型。内臓のICレコーダーに60秒まで録音でき、内容は簡単に変更できる。周波数は1620kHz、約3mの範囲で電波が届く。近づくほど音がクリアになるので、位置はつかみやすい。
製品化は、2000年AMラジオ音声案内装置の開発者と、同事務所代表・田中隆一氏が知り合ったことから始まる。実証と改良を重ねるなか、しまね産業振興財団の支援もあり製品化に至った。現在、施設やイベントなどの他、商店街でも利用されている。葛飾柴又の帝釈天表参道では、名物や特売品の案内を店主自ら紹介。1カ月間の予定だったが、好評で19年3月まで延期された。また東京都世田谷区の商店街でも昨年12月から常設されている。イベントや施設案内など実用的な使い方はもちろんだが、田中氏は、「誰もが楽しめるツールとして、観光地でも展開したい」と語る。
もう一つは、電気工事会社・トーワ(松江市)の開発した、歩行誘導ソフトマット「歩導くん」。特殊なゴム製の平面マットで、凹凸の代わりに音や質感の違いを杖や足の裏で識別する。1枚の長さは60cm、幅44cm、厚さ7mmで、端はスロープ状。場所に応じてつなぎ合わせて両面テープで固定する。毛足の長い絨毯以外ならどこでも敷設でき、取り替えも簡単だ。交差点や部屋の入り口前などは、点状ブロックの代わりに、マットを敷かないことで判別できるようにしている。車いすでも通りやすく、濡れても滑りにくいのが特徴。また弱視者にも分かりやすいようコントラストを強くするため、色は緑と黄色の2色を用意している。
異業種の同社が開発したきっかけは、1999年に代表の杉原司郎氏が病気で失明、「病院へ1人で行きたい」との思いからだった。島根県産業技術センターなどの技術指導を受け、5年前に完成。現在では、県庁や視覚障害者関係施設のほか、最近では出雲空港にも敷設された。同氏は「音声装置を埋め込むなどの開発も視野に、まずは認知度を上げたい」と語る。
“島根発”は他にも、低価格で話題を呼んだ触覚ディスプレー「OUV3000」(ユニプラン・東出雲町<ひがしいずもちょう>)がある。今後も個性ある“島根発”に注目したい。なお、紹介した2製品は当協会でも実証試験を行ったが、大変好評であった。(小川)
11月2日(木)〜4日(土)の3日間、「触れてみよう!日常サポートから最先端テクノロジーまで ―― 視覚障害者のための国際情報・機器&サービス総合展」と銘打った日本盲人福祉委員会主催の「サイトワールド」が、東京・錦糸町のすみだ産業会館「サンライズホール」にて開催された。初日は平日の木曜日であったにもかかわらず、会場に向かうエレベーターの前から人垣が出来て、身動きがとれないほどの大盛況であったという。主催者によると、3日間の総入場者数は7,000人で、視覚障害者関連イベントとしては空前の規模であった。
記者は、11月3日午前10時から編集部の同僚と共にイベント会場に向かった。JR錦糸町駅の改札を出ると、案内のボランティアが数名出ていたが、会場は駅前にあるビルの8階と9階でとても分かりやすかった。とかく、障害者一般や高齢者を対象にした福祉機器展は、大規模会場ゆえに視覚障害者にとっては移動が困難で、一度でこりごりと思われた方も多いのではないだろうか。その点、会場のサンライズホールは、我々視覚障害者が移動するにはちょうど頃合いの空間であった。8階の受付にはスタッフが待機しており、視覚障害のある来場者を誘導していたほか、「ヘルプ」と書かれた黄色いカードを視覚障害の来場者に配布していた。いざとなったとき、これを高く掲げるだけでボランティアがすっ飛んでくる寸法だ。また、各ブースには音声案内システム「てくてくラジオ」の発信器が備え付けられており、AMラジオで微弱電波をキャッチしながら、各ブースの展示品の案内を聞くことができ、視覚障害者がストレスなく快適に見学できるよう配慮されていた。
展示会場には噂の新製品がずらり勢揃いしており、それらを手に取ってみることが出来たが、その中で印象に残ったものを三つ紹介する。
第1は、名古屋ライトハウスと(株)INBプランニングなど4法人が共同開発したIGSPという名の歩行誘導システムである。このシステムは直径12cm、高さ1mほどのゴム素材の円筒形で、電子音とLEDライトと音声で信号の青・赤および所在地を知らせる。また、弱視者が道路の反対側の信号を見なくても識別できるように、円筒形の本体にLEDライトが取り付けられている。半球状の本体上部はバイブレータになっており、青信号にあわせて振動する。またてっぺんの蓋の部分には現在地と進行方向を表す地名が点字で表示されている。大多数の音響信号は、近隣住民への配慮で夜間、早朝には作動しないので、周辺環境や使用者にも優しいバイブレータ式が登場したことは嬉しい次第だ。しかも、本体全部がゴム素材であるため、たとえば車や人がぶつかってもフレキシブルによけられる。
第2は、来年4月発売予定のKGS社製16マスのピンディスプレイ「ブレイルメモポケット」。ボディは透明なスケルトン仕様で、なんと葉書サイズで300gと超軽量であるにもかかわらず、バッテリー駆動で8時間も使える優れものだ。
第3は、サイトワールドの前からそのユニークさで巷の評判になっていたのが(株)GLDパブリッシングの「しゃべる経穴人形」だ。情報を記録した電子荷札シールが、等身大の人形のツボに張ってあり、読み取りペンでシールをなぞると、経穴名、取穴法、効能などを音声で知らせる。ところが余りにも多くの見学者が殺到して触ったためだろうか、私が試したときにはなかなかセンサーが反応せず、人形もしゃべり疲れていたようで、ぐったりしていたのは残念であった。
午後2時からは9階会議室で、静岡県立大学石川准教授をコーディネーターに、米国・オレゴン大学ジョン・ガードナー教授をパネリストに招いてのシンポジウム「支援技術のこれから」が開催された。
ガードナー教授は、オレゴン州立大学で物理学教授として教鞭を執っていたが、1988年に失明したことを契機に数学や物理学で用いるグラフや図形を視覚障害者でも理解できるようなソフトウェアの開発に着手。そして同教授は、マイクロソフト社の「ワード」と「エクセル」上で図形、グラフ、地図などを編集し、点字データ化するソフトウェア「タイガーソフトウェアスイート」を開発。このソフトは、「タイガースイートバージョン3.0日本語版」として本年(2006)8月にエクストラ社から発売されている。同教授は、ビュープラス社製点字墨字両用カラープリンタを用いて、色の濃淡によって点の高さが異なるきめ細かな点図イラスト入り点字・墨字文書を、見事に作成して我々に見せてくれた。
続いて石川教授が、支援技術の未来について講演。同教授は、ユニバーサルデザインと支援技術の関係を川の流れにたとえて、ユニバーサルデザインは上流に位置し、支援技術は下流に位置すると説明。従って、上流のユニバーサルデザインが使いやすいものになっていないと支援技術の開発には膨大な労力、時間、コストがかかってしまうと指摘し、特にユニバーサルデザインが進んでいない分野は、出版だと名指しし、その掘り起こしの必要性を強調した。同教授の読書方法はユニークで、購入した本を裁断機で糊付けされた背表紙を切断し、紙の束にする。そして、自動紙送り装置のついたOCRに活字を読み取らせて本の内容をテキストデータ化して読むのである。たしかに、点訳者や音訳者の手を借りなくともOCRという支援技術を用いた読書は可能になったが、OCRの認識能力は完璧なものとはいえず、限界がある。そこで、電子出版などユニバーサルデザインにおける戦略を持ちつつ、同時に支援技術の開発を進めていくことが重要だというのだ。
インターネットについては、将来的に急速に普及すると予測されるウェブ2.0へのアクセシビリティについて言及した。これは、インターネットに接続しながら、あたかもコンピュータ単体で使用しているようなグラフィック上の動的操作が可能となるもので、音声や触覚によってインターネットにアクセスしているユーザには新たな障壁になる可能性がある。このため、この問題を今後どう解決していくかが、目下議論の中心というのだ。また、移動支援ではGPS(全地球測位システム)の技術革新が近年目覚ましく、2年前では雨が降ると電波を受信できなかったが、現在では室内でも窓を開けさえすれば人工衛星からの微弱電波を受信できるようになり、なおかつ誤差も縮小している。そのため、GPSは、視覚障害者にとって有用な歩行支援ツールになるだろうと語った。出版分野では著作権の問題が解決できれば、インターネットからデイジーデータをパソコンや携帯電話にダウンロードして読書を楽しむことが可能になる。そしてこれらの支援技術の大部分は、携帯電話で使えるようになるという。また、ユビキタス支援ではICタグがインフラとして整備・普及され、視覚障害者の歩行支援に役立つだろうと近未来のIT事情の見通しを述べた。
石川教授は、自分たちの道具は、自分たちで作る、当事者である自分たちが必要としているのだから一番切実なニーズをもって開発に携わることが出来ると力説。今後様々な用途で進化・発展する支援技術を使いこなすためには、視覚障害者と同様に音声環境のみで操作指導できるプロフェッショナルなトレーナーの育成が日本でも必要だと提言し、当事者ならではのメッセージを込めて講演を締めくくった。(戸塚辰永)
お元気ですか。盲人マッサージセミナーではお世話になりました。また、『点字ジャーナル』を送っていただき、面白く読ませていただきました。セミナーを支えられたお三方の対談は読みごたえがありました。福山さんの文章は、いつもながら良く調べて書いておられ、面白く読ませてもらっています。川を渡られたんですね。川向こうは、喧噪のホーチミン市を思えば別世界ですね。でもホーチミン市の2区ですよ。
アミンとWBUAPのマッサージ委員会の活動はうまく整理しないと、アミンへの期待が高いことと、WBUAPの体力を考えると、当事者組織の原則が外され、日本におんぶにだっこという、これまでのプロジェクトと同じになりかねません。教科書作り・指導者育成・講師派遣・各国をつなぐネットワークをアミンが担当し、各国での講習会・研修会などはWBUAPが担当する。したがって、トレーニングスクールの開設や運営はWBUAPがする。当然お互いに協力し合って活動を進める。アミンは独自の連絡網を作り、留学生や沖縄プロジェクト参加者が活動できるように支援する。各国盲人協会やリハセンター・盲学校などとも連絡ができるようにする。こんなことを考えながら『点字ジャーナル』11月号を読みました。編集部の小川さんから原稿料のことでメールをいただきました。わざわざありがとうございましたとお伝えください。それでは、また。(ベトナム・ホーチミン市佐々木憲作)
本誌11月号の「サイゴン駆足紀行」(下)で、川向こうは「ホーチミン市ではない」と書いたことに対するご指摘でした。風景があまりにも違いすぎるので、完全に思いこみで誤解しておりました。佐々木さんありがとうございました。同氏には近々、視覚障害者の職業として近年急速に成長しつつある「ベトナムにおけるマッサージ事情」(仮題)を本誌に寄稿していただく予定になっています。ご期待ください。
巻頭の日比野教授へのインタビューでも触れましたが、障害者団体は10月31日に日比谷公会堂や野外音楽堂を中心に4会場で、約1万5,000人(主催者発表)が参加して「出直してよ!『障害者自立支援法』」大フォーラムを開催。原則1割の「応益負担」中止などを求めたアピール文を採択して、国会などへデモ行進を行いました。日比野教授の「それぞれの状況や立場に応じて、国に対して、自治体に対して物申す、そういうスタンスの人たちが多くなっていくことが大切」という言葉が重く響きました。(福山)
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