タイの首都バンコク郊外に建設されたスワンナプーム新国際空港が9月28日、全面開業した。スワンナプームとは「黄金の大地」の意で、サンスクリット語から借用した単語なので、アルファベット表記するときは、サンスクリット語から転写される。このため、英語表記をそのまま読み下すと「スヴァルナプーミー」空港となり、タイ語の発音とは異なる。またノーングーハオという地名にあるため、ノーングーハオ空港とも呼ばれ、当然のことながらタイの空の表玄関であるため新バンコク国際空港 (New Bangkok International Airport, NBIA)とも呼ばれる。
成田空港の3倍の敷地に世界最大のターミナルビルが鎮座するこの空港の総工費は1,550億バーツ(約4,650億円)だが、そのうちの約半額は日本の円借款である。
「あ!」と声をあげ、私は目が釘付けになった。白いアオザイに帽子というのは定番としても、「ホンダ」にまたがったその女性は、長手袋にスカーフでマスクをして、フレームが白いサングラスをかけていたのだ。白でトータルコーディネートしているつもりのようであったが、それはまるで往年の月光仮面に生き写しであった。ここまで完璧なのはさすがに珍しいが、排ガスと日焼け防止のために月光仮面もどきの女性はとても多い。アオザイ美人が、身軽に月光仮面に変身するのも、またベトナムならではだろう。ちなみにベトナムではバイクのことを「ホンダ」と呼ぶ。
ベトナムの結婚式は来る者拒まずというので、日光(ニャックワン)盲学校の佐々木憲作先生に誘われて列席した。そのためにいったんホテルに帰り、ネクタイを締め、お祝いを用意した。会場はベトナム陸軍経営の瀟洒なホテルの大宴会場で、参列者はざっと数えて500人。入口ではウェディングドレスの新婦と、タキシード姿の新郎が迎えてくれ、私は「はじめまして、おめでとうございます」という珍妙な挨拶を交わしたが、新婦は日系企業に勤めており、少し日本語がわかる美人であった。
式典がはじまる前に、会場では参列者の増加に合わせて、テーブルのセットに大わらわだ。なにしろ私のような飛び入りもいるのだから、丼勘定のようでいて、最後は見事にみんなを着席させ、ぴったり余分な椅子が残らないようにした。
全員が着席すると照明が落とされ、鳴り物入りの伝統的な群舞があって、新郎新婦の入場。次いで両家の両親が入場して、それぞれの父親が一言挨拶したと思ったら、どでかいクラッカーが炸裂して、壇上の両家の面々は紙テープに埋もれた。ついで、これは日本の影響かも知れないが、ビデオ撮影に合わせてそそくさとケーキ入刀、シャンパンタワーというセレモニーが続いた。ただ、お涙頂戴の場面や来賓祝辞などという無粋なものはなく、あとは新郎新婦が1卓12人のテーブルを順に挨拶してまわった。参列者は、自分たちの円卓に彼らが来たときは大いに盛り上がるが、それ以外は、談笑しながら飲み食いする。ただ、このように大規模な結婚式はベトナムでも珍しいようで、料理は中華なのだが、それが会場にあまねく行き渡るには時間がかかり間が持たない。そこで、ひたすらビールを飲むのだが、500人分のビールなんて冷えているわけもなく、ウエイトレスがかち割り氷をどんどん投下した、いわばビールの水割りを飲まされる。とても飲めたものではないのだが、乾杯が延々とおこなわれ、地の底からとどろくような声で「ヨー(乾杯)!」と声を合わせる。そのたびに新参者の私は、その昔、あるいはGIもこのような鬨の声を、ジャングルの深奥で聞いて震え上がったのかも知れないなどと思った。
その夜、結婚式でまったく酔えなかった私はホテルに帰ると最上階のスカイバーに行き、満艦飾の遊覧船が行き来するサイゴン川を見ながら、「サイゴン・サンセット」というカクテルを注文した。
ベトナムの一人当たりのGDPはパキスタンやインドよりも少ない483米ドルだが、そんな経済で一般庶民が「ホンダ」を持てるはずがない。サイゴンはもともと資本主義体制下で繁栄しており、その当時の秘匿財産と海外に亡命した人々やボートピープルからの送金など統計外に測り知れない闇経済があるという。しかし、それはサイゴンだからであって地方に行けば、まだ絵に描いたような貧困が残っているという。
ホーチミン市は海にこそ面していないが、サイゴン河に3万トン級の船舶が出入りする港湾都市である。しかし、それらの貨物船はすべてサイゴン河の東岸に接岸する。私は片道500ドン(約4円)の料金を払ってフェリーで対岸に渡ったが、まったくひなびた田舎町で、実際に西岸はもはやホーチミン市ではない。西岸には、東岸に向けて電機メーカー、たとえば「サンヨー」などの巨大な看板がある他は、ひなびた漁村と東岸に出勤する労働者の住まい、それに広大なデルタが広がるばかりだ。私はノンという編み笠をかぶったおばさん船頭が操舵するサンパンという屋形船を、1時間20万ドン(約1,500円)でやとって、サイゴン河デルタを縦横に走るクリークに分け入った。そこで見たのは、崩れかけた農家とぎゅう詰めのヤギ小屋、それに果てしなく続くよく伸びた葦原と椰子の木であった。その昔、このあたりは解放区だった。カメラを向けると船頭が気を利かしてエンジンを切ったため、急に恐ろしいほどの静寂に襲われた。サイゴンの観光名所は、どこも戦争に彩られており、観光客は平和な風景の中にも戦争の傷跡をつい捜してしまう。
遠くからヤギの鳴き声が、風に乗って届くと、屋形船はエンジンをかけ、Uターンしてもと来た東岸をめざした。そこは高層ビルが林立するまったくの別世界で、サイゴン河西岸は東岸の見事な日陰なのであった。
ベトナム戦争は私が5歳のときの1960年に始まり、20歳の時の1975年にあっけなく終結した。サイゴンにきたら、なにやらトラウマのようにその間に繰り返し報道された写真やテレビ映像が、白黒であるいは鮮明なカラーにより脳裏に蘇り、息苦しいほどであった。
その夜、サイゴンの繁華な通りの海鮮料理屋で岐阜アソシアの高橋秀夫館長のグループとビールを酌み交わした。彼は以前桜雲会に勤めていたが、30年近く前には一時期東京ヘレン・ケラー協会におり、私とはかつて同僚であった。彼は附属盲学校を退職したばかりの木村愛子先生たちのグループと一緒に、やはり盲学校などを視察していた。
何度も彼らはベトナムを訪問しており、裏や表によく通じた聞きようによっては悪口とも誤解されかねない、微妙で複雑ないい方でベトナムの魅力を語った。そして、「ベトナムはいいところだ」、「人々のメンタリティが日本人に似たところがある」と私がいうと、「ベトナムの理解者が増えた」といって喜んだ。彼らベトナムのリピーターも、ベトナムに似て一筋縄ではいかない陰翳に富んだ感性の持ち主なのであろうか。(福山博)
(株)アメディア(東京)は、音声ガイドを搭載の「おしゃべりレコーダー」を10月末に発売する。MP3プレーヤー・ボイスレコーダー・携帯メモリの3役を兼ねており、デイジー対応モデルもある。これ1台で手軽に音楽や読書を楽しんだり、録音メモをとることができる。
MP3・デイジープレーヤー、携帯メモリとして使う際は、付属のUSBケーブルでパソコンと接続して、エクスプローラなどでデータをコピーするだけと簡単。OSは、WindowsMe・2000・XPに対応している。フォルダ分類もでき、フォルダ名は自分の声でも付けられる。デイジーは、見出しやページ単位での移動のほか、しおりなどその特性を活かした再生が可能。また、ボイスレコーダーは、120分間の録音が可能な内部メモリか、SDカードかを選べ、ライン接続で外部からの入力もできる。本体は、縦85mm、横54mm、厚さ14mm、重さ49g。操作ボタンは6つ、触って分かりやすいようガイドがついている。スピーカー、充電式バッテリー搭載。価格は、おしゃべりレコーダー5万9,800円、デイジー対応おしゃべりレコーダー(SDカード1枚付属)7万9,800円。CD版取扱説明書付き。11月2日から4日にすみだ産業会館で行われるサイトワールドで実演販売が予定されている。お問い合わせは、同社(03-5286-7511)へ。
「らくらくリーダー」など視覚障害者向けソフトウェアの開発・販売を手がけるアイネット(株)(福岡県)は、音訳対応・音声データソフトウェア「らくらくボイス」を9月28日に発売した。同ソフトの特徴は、パソコンのテキスト・データ・ファイルや各種点字データ・ファイルをSAPI音声エンジンを用いて音声データに変換し、附属のオーディオ・プレイヤーにて持ち運びできることだ。プレイヤーの再生ボタンを押せば、会議資料やメール、ナイーブ・ネットの点字データ図書なども外出先で手軽に聞ける他、デイジー図書やお好みの音楽もいつでも、どこでも手軽に楽しむことができる。
同ソフトは、国内のスクリーン・リーダーに対応しており、Windows XPがインストールされたパソコンで動作する。同ソフト附属のオーディオ・プレイヤーは、128MBのメモリで、縦89mm、横25mm、厚さ19mm、重さ21gと小型軽量。単4型電池1本で最大10時間再製可能。プレイヤーには音声ガイドは搭載されていないが、3つのボタンで操作できる。なお、付属のプレイヤー以外の機種でも使用条件が合うなら使用可能。
価格は、オーディオ・プレイヤー付き2万9,400円、ソフトウェア単体2万7,300円(同社製品ユーザ優待価格1万9,500円)。詳しくは、同社(092-643-5208、Eメールinfo@ainet-jp.net)または東京らくらくデスク(03-5369-3690)へ。
本年の盲界の2大イベントのうちの一つ「WBUAPマッサージセミナー」は、巻頭の座談会でもおわかりのように、成功裏に幕を閉じました。
次は、すみだ産業会館(JR錦糸町駅南口前)にて、11月2日〜4日の10〜17時(最終日16時)に開催される「サイトワールド」(入場無料)です。出展企業・団体は国内39、海外9(7カ国・地域)の都合48社というかつてない大規模なものです。しかもこのイベントは機器展だけでなく11月2日(木)午後2時からは東京大学伊福部達(イフクベ・トオル)教授による講演会「福祉工学の挑戦」、11月3日(金)午後2時からは静岡県立大学石川准教授をコーディネータにオレゴン大学ジョン・ガードナー教授をパネラーにしたシンポジウム「支援技術のこれから」をはじめ、講演・研究発表・交流会・映画界など多彩な催しも目白押しです。詳しくはホームページ(http://www.sight-world.com/)でご確認のうえお出かけください。(福山)
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